「製造業界のコンビニ」がワクワクを感じる職場へ 3代目の強みは組織作り
タシロ(神奈川県平塚市)は「製造業界のコンビニ」を掲げ、即日見積もり・24時間以内の出荷というスピードが強みでしたが、働き手の確保に苦労していました。そこで、3代目の田城功揮取締役は自分の経験を生かし「ワクワクを感じる職場」を掲げます。外国人が働きやすいよう勉強会を開いたり、社員から自社製品のアイデアを募ったりと工夫を続けるなかで、意欲の高い学生からも応募が来るようになりました。
タシロ(神奈川県平塚市)は「製造業界のコンビニ」を掲げ、即日見積もり・24時間以内の出荷というスピードが強みでしたが、働き手の確保に苦労していました。そこで、3代目の田城功揮取締役は自分の経験を生かし「ワクワクを感じる職場」を掲げます。外国人が働きやすいよう勉強会を開いたり、社員から自社製品のアイデアを募ったりと工夫を続けるなかで、意欲の高い学生からも応募が来るようになりました。
目次
トラック運転手だった田城さんの祖父が、自動車整備工場を1966年に立ち上げたのがタシロの始まりです。次第に自動車部品の製造も手がけるようになっていきます。
父親である裕司さんが2代目になると、切断(複数)、板金、切削、溶接、表面処理などさまざまな加工ができる工作機械を導入します。さらに設計や品質管理までも担うことで、一気通貫でものづくりができる体制を整えます。
象徴的なのは、2019年に導入したアマダ製のファイバーレーザー加工機です。当時世界最大レベルの9kwという出力を誇り、最大35mmの厚板をスピーディーにカットする特徴を持っていました。
この機械により、納期短縮とコスト圧縮を実現します。即日見積もり、24時間以内に出荷といったスピード対応で差別化を図っていきます。
顧客先は広がり、医療、食品、自動車・オートバイ、航空、鉄道など。さまざまな産業界で使用する工作機械や部品を、直接あるいは商社などの依頼により手がけています。
「家業を継ぐ気はまったくありませんでした」
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会社(工場)は実家から徒歩数分の距離にありましたが、田城さんが会社に足を運ぶことはほとんどありませんでした。機械加工に興味がなかったからです。
一方で、祖父、父の姿には憧れていました。将来は自ら事業を興して社長になりたいと、大学で経済や経営を専攻します。
福祉活動にも興味を持っていました。学生時代にはNGOに所属し、海外の古城などを修復するボランティア活動に従事します。その後、発達障害者など、社会的にハンデを背負う人たちの就労を支援したいと、大手人材会社に就職します。
これらの経験を生かし、家業の外国人採用も手伝うようになります。
「父と一緒に中国やベトナムに出かけ、現地の優秀な人材を採用していきました。2006年ごろから年3人ほど技能実習生を受け入れていましたから、従業員の約6割が外国人となっていました」
人材会社では、人事・労務といったHR領域の知識やスキルを身につけるなど、充実した日々を送っていました。人事異動でマネジメント経験が積める仕事に就く予定でしたが、組織変更により白紙になりました。そんなとき、自分の進むべき道、やりたいことを自ら決めることのできる、社長業への魅力が再燃します。
外国人の働く環境をチェックしたり、必要に応じて研修を行ったりするなど、会社と外国人のあいだに入ってサポートする「協同組合FURUSATO」を創業します。同時に、業務を円滑に進めるために家業に籍を置くのがいいと判断し、家業に入ることを決めます。
タシロで外国人採用を進めたのは、日本人の働き手が少ないからでした。あるいは、入社してもすぐに辞めてしまう。田城さんはその理由を「魅力ある会社ではないのでは」と考えます。
そこで、まず、働く環境を見直しました。土日休みの完全週休二日制とし、時短勤務や半休制も導入。休み時間に横になれる休憩室も設けました。資格手当制度なども見直し、表彰制度なども設けます。
教育にも注力していきます。週一の勉強会を実施し、技術的なことはもちろん、名刺交換の方法などビジネスマナーも教えていきました。メンター制度も導入し、目標やキャリアの設定や相談できる体制も整えます。
さらに外国人従業員には、日本語教室への付き添いなどのほか、ミッション・ビジョン・バリューや年度目標、会社の経営方針、就業規則の変更といった重要な資料を翻訳して伝えるようにしました。
また、ベトナム国籍の社員が半数以上になったタイミングで、ベトナム国籍の社員の中でリーダー・副リーダーを任命し、重要なことは2人に説明をしてよく理解をしてもらった後に、他のベトナム国籍のメンバーも集めて伝え、理解できないことがあればその場で解決するようにしました。
「これまで外国籍メンバーと上手くコミュニケーションが取れていなかったことで、製造のNGにつながったり、意思疎通が図れていないことへのストレスが社員同士あったりしたのですが、コミュニケーションの仕組み化により、スムーズな意思疎通が図れるようになったと思います。
また、以前は何となくでしたが、外国人に限らず、それぞれの技術を明確にし、組織図を作成するなどして仕事の責任を明確にしました。その結果、工場長や課長に頼ることなく、現場メンバーが責任を持って仕事に取り組むように変わりました」
自社製品にも取り組みたかったのですが、具体化できない状態が続いていました。そんな折、コロナ禍による製造不況がタシロを襲います。月の売り上げは半分以下に落ち込みました。
田城さんは以前にも増してアンテナを張り巡らすなど、アイデアの捻出に努めます。そうして作られたのが、タッチレスハンドです。銅イオンによる殺菌効果に期待し素材を真鍮としました。
「アイデアの源泉は、似たような製品を見たのがきっかけでした。一方で、当社の金属加工技術を使えばより良い製品が作れるのではないか。すぐに設計担当者に相談しました」
タシロ初となる自社製品を出すのであれば、ヤフーショッピングや簡単にECサイトが開設できるBASEがいいと、EC事業に詳しい仲間に教えてもらいます。
男性にも女性にも喜ばれるデザインを心がけると、タッチレスハンドは月50個ほど売れるヒット商品となり、Yahoo!ショッピングの「ドアオープナーカテゴリ」において、レビュー評価、週間売上ランキング1位を何度か獲得できるなど、売上は順調に伸びていきました。
次に、田城さんは社員からのアイデアも活かしたいと、声をかけます。田城さんの言葉を借りれば“ワクワク”を感じる職場への生まれ変わりです。
すると、勤続20年の猫好き社員が、真夏などの暑い日でもひんやりする、金属板の冷却シートを発案します。工場長も続きます。コロナ対策のアクリル板の土台を発案。その後も、コースター、オブジェなど次々とオリジナル製品が発案され、製品化されていきました。
「売れゆきを社員に報告することで、モチベーションが高まっていきました。その結果、今では多くの社員がアイデアを出そうという雰囲気が広まっています」
田城さんはアンテナを張り続けます。キャンプブームが再来していましたが、ライバルが多いことも明らかでした。
どのような製品であれば売れるのか。田城さんは、キャンプ好きな仲間などに相談するなどして、試行錯誤を続けます。そうして生まれたのが、ピザ窯、燻製器、焚火台と3つの機能を集約した「3WAYピザ窯」です。
ピザ窯と燻製器と焚火台は別々で販売されているのが一般的で、それぞれをキャンプに持っていくと荷物が増えるという声をヒントに、「セットで使用できてコンパクトであればキャンパーは助かるのではないか」と考えたのがきっかけです。
そこで、持ち運びの便利さを考えて組み立て式にし、分解すると小さな板に分かれ、A4サイズのオリジナル収納袋に入るようにしました。
今回はECサイトではなく、クラウドファンディングを利用しました。
「従業員20名弱の町工場でもやればできる!と全国の町工場を勇気づけられる挑戦にしたい」と、製品づくりに対する思いを綴った結果、数万のユーザーに読まれ、目標としていた40万円を大きく上回る、約120万円の支援金を獲得します。
自社製品が増えていくと並行して、技術力の発信が必要だろうと、ホームページやパンフレットも刷新します。
ブログ、Facebook、Twitter、Instagramなどでの情報発信はもちろん、それまではほとんど経験のなかった展示会にも積極的に出展します。
第93回東京インターナショナル・ギフト・ショー春2022では、「LIFE×DESIGNアワード」にてグランプリを獲得。グランプリを獲得したことをネットで周知する。そんな好循環を繰り返していきます。
現社長で父の裕司さんからは「お前の好きなようにやっていい」と言われている一方、一部の社員からは疑問の声があがったそうです。ですが、「売り上げや会社のイメージがアップすれば、結果として従業員の給与をアップすることができる」と伝えると、納得してくれたそうです。
父親とは毎日、朝・昼食の場を共にすることで、情報の共有を欠かしません。その上で、お互いが得意分野で力を発揮することを心がけているそうです。
「父は新しい技術のキャッチアップ、最新機械の導入などが得意です。一方で私は、組織づくりやブランディングが強みだと思っています。言ってみれば、父が築き上げた技術力をいかにビジネスにつなげていくか。バランスが取れていると思います」
自社開発製品の売上比率は、まだわずか。しかし、副次効果が生まれています。展示会やホームページを見た新たな顧客からの問い合わせです。実際、新規客の獲得はこれまでの年数社から、10社以上に増えました。
採用面での効果も大きいといいます。タシロであればオリジナル製品を企画・開発できる。しかも、ギフトショーでグランプリを獲得している。このような環境に興味を持つ学生からの応募が急増しました。
「ハローワークなどに求人を出しても、年間10人の応募があるかどうか。しかも、先生から勧められたからとの理由で入社する学生や、ものづくりにそれほど興味はないが家が近いからという理由で応募する中途入社希望者が多く、離職率も高かったのです。それが今ではものづくりの興味のある学生や中途入社希望者など50人以上からの応募が来るようになりました」
2023年入社予定内定者2人は、大学でプロダクトデザインなどを学んでおり、すでにCADが使えるスキルを持っているそうで、即戦力として期待しています。一方で、「まずは5年働いてもらえれば、いいと思っています」と話します。その理由について、次のように続けました。
「自分のアイデアを商品化する。設計から加工、宣伝といった一連のものづくりビジネスの流れを学んでもらい、一人前のデザイナーなどに成長してもらう。そのキャリアを活かし、独立なり大手企業に移ってもらうのも、構わないと考えています。タシロに行けば、一貫してものづくりの技術ならびに、オリジナル製品の開発もできる環境である。このようなイメージが業界で周知されることが当面の目標です。
その結果、優秀な人材が次から次へと入社し、我々では発想できなった魅力ある自社製品を開発する。このサイクルが繰り返されていくことで、自社製品の売上比率がアップしていく。そのような将来像を描いています」
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