事業承継を機に父が始めたオリーブ農園

 始まりは2年前、創業者である父親を亡くしたことでした。

 真鍋社長は大学を卒業後、10年間地域金融機関のシステム開発部門で働いていました。定年まで働き続けようと考えていた会社ですが、営業店への異動を機に「まったく新たな仕事を始めるなら、地元に戻って社長を継ぎたい」と2009年、香川県三豊市に戻ることを決めます。

 地元へ戻り5年後の2015年、真鍋さんは家業であるガソリンスタンド運営を軸とした会社の社長となりました。創業者である父親は、事業承継をすべて終えると、新規事業として約6000坪の土地を開墾し、700本のオリーブを植え、オリーブ農園を始めました

世界が注目する「瀬戸内」

 荘内半島オリーブ農園がある香川県三豊市は、山と海の景色が美しい風光明媚な場所です。紫雲出山から望む瀬戸内海の写真は、米紙ニューヨーク・タイムズが電子版で発表した「52Places to Go in 2019」において、日本から唯一選出した「瀬戸内の島々」をあらわす写真として使われたこともあります。

ニューヨーク・タイムズが電子版で発表した「52Places to Go in 2019」に使われた紫雲出山から望む瀬戸内海の写真。樹勢を回復させるための大規模な剪定を実施しているので、現在は風景が変わっている(三豊市観光交流局提供)

 また、日本の夕日百選に選ばれている父母ヶ浜は、「南米ボリビアのウユニ塩湖」のような写真が撮れると一時、SNS上で話題となった場所でもあります。

干潮時に現れる潮だまりに空の美しいグラデーションが映る。自然がつくる雄大な景色に飛び込んで、お気に入りの写真を撮影する人たち(朝日新聞デジタルから引用)

 ただ、オリーブ農園を作ったエリアは、元々伝統的に作られていた唐辛子や除虫菊の畑が耕作放棄された場所でした。
 創業者である父は、真鍋社長に既存事業を任せ自身は第二の人生として、この地に「代々続く」事業を作りたいと樹齢平均300年、ものによっては1000年を超えることもあるオリーブを植えることにしたといいます。

 それが植樹から5年後、農園は船頭役の創業社長を亡くしてしまったのです。ちょうど、オリーブの初収穫を迎えた年でした。

宿泊事業もオリーブ農園も手放せない

 地元に戻って新社長に就任する前に、「船頭多くして舟、山に登る」を避け、オリーブ農園の運営には携わらずに”別の舟”で出航していました。

 「長年、別荘が欲しいと思っていたので、地元に戻ってすぐに1棟のコテージを建てました。週末を中心に宿泊施設として1棟貸しを始めたら、常に予約が埋まる盛況ぶりだったので、もう1棟、さらに1棟と増やし、現在は5棟運営しています」
 新たに始めた宿泊施設「Kanran(カンラン)」は、700本のオリーブに囲まれ瀬戸内を見ながらくつろぎの時間を過ごせると口コミで広がり、人気の宿となっています。

宿泊施設「Kanran(カンラン)」。コロナ禍で、客層はインバウンドから国内旅行客中心に変わったものの、1棟貸しというプライベートな空間を確保しつつ旅したいというニーズと、リゾートテレワークの需要の高まりなどで事業は拡大。

 真鍋社長はこれに並行して、2年前から「父親の夢」オリーブ農園事業も背負うことになったのです。

 「ガソリンスタンド運営は、父の代から現場を任せている人がいて問題ないとはいえ、自分が始めた宿泊事業だけでも手一杯の状態でした。とはいえ、立ち上げてようやく初収穫を迎えたオリーブ農園事業を売却しようとは思えない。
 ともに仕事をしているときは、銀行勤めのクセなのか手堅く考える私と、積極的な投資を優先させる父との間にある考え方の違いでぶつかったこともありました。とはいえ、その行動力あふれた剛胆さで父が地元の方々に慕われている姿も見てきました。地元に産業を作りたいという強い思いは自分も同じ。思いを受け継ぎ、私ならではの視点も掛け合わせた形でオリーブ農園事業をやっていきたいと思ったんです」

宿泊業と親和性のある事業とは

 手摘みで収穫される国産オリーブは手間暇をかけた分、値段が高いというイメージがあります。高単価で売れるものの、後発の会社として、先行者が耕した後の販路をイチから探して流通にのせるのは現在のリソースでは難しい。

 そう判断し、コテージに宿泊する客向け商品を開発し、販売することにしました。コテージに宿泊する客は、この地でしか体験できないことを求めて来訪します。この地でできた「オリーブ」を楽しめる環境作りは、宿泊事業も農園事業も拡大することができる戦略だと考えました。

宿泊施設「Kanran(カンラン)」

 オリーブを原材料としたヘアオイルやボディオイル、化粧品を開発するのはどうだろうかと思うものの、いきなり商品化はリスクが大きすぎます。まず、頭の中にある仮説が実際のマーケットに合致しているのかどうかを調査し、商品化に向けた道筋を描き、戦略策定をしなければなりません。

 「元々、人に任せるのが苦手な性分」だと真鍋社長は自覚しています。宿泊施設立ち上げの際は、仮説の実証も戦略策定も企画もすべて自分で行ってきました。ただオリーブ農園はそういうわけにはいきません。

 創業者を亡くした真鍋社長が持っていた課題は、言葉にすると「仕事の”重要度と緊急度”の高低で優先順位を付けると、いつまで経っても着手できない仕事がでてくる」というものでした。たとえば、『7つの習慣』のなかで、著者であるスティーブン・R・コヴィーは、タスクを4つに分けています。

  • 重要度が高く緊急度も高いタスク
  • 重要度が高いが緊急度が低いタスク
  • 緊急度が高いが重要度が低いタスク
  • 重要度も緊急度も低いタスク

 この4つのなかで、オリーブを使った新商品開発は「重要度が高いが緊急度が低いタスク」になります。一方で宿泊施設運営にかかる決断など、現場の仕事は緊急度が高い。

 どうしても既存の仕事を優先することになり、オリーブ農園事業は一向に進まない……。そこでJOINSを通して、即戦力として自分の手足となってくれる「副業人材」を募集することにしたのです。

週1のミーティング、仮説がどんどん刷新

 副業人材として荘内半島オリーブ農園で働くことになったのは、都内在住29歳の広告代理店と外資系コンサルティング企業に勤めた経験がある女性でした。

 募集してきた人のなかには、化粧品業界やオイル業界に詳しい方々もいましたが、「既存のマーケットのあり方にひっぱられず、フラットな状態から、オリーブを使った商品の仮説について検証、ターゲット層にニーズがある商品はどういうものかを考えたい」(真鍋社長)と、あえて業界に詳しくない人を選んだといいます。

オリーブの向こうに広がる瀬戸内海

 副業人材との契約は3カ月間。フルリモートワークで働いてもらうため定期的に状況を知ることが必要だと考え、毎週金曜日11時を定例ミーティングの時間としました。

 トレンド調査、ターゲットの選定、開発商品案の検討、販売戦略の検討、化粧品・トイレタリーの市場規模のうち皮膚用化粧品はどの程度を占めるかなど、週1回のミーティングで副業人材が調べ作成した資料を基に話し合います。

 加えて副業人材とともに、仮説を立て、その仮説が正しいかどうかアンケートを実施。新商品開発に向けた工程表をブラッシュアップしていきました。

「かゆいところに手が届く仕事ぶり」

 コテージの宿泊客をメイン客層は20~30代の女性です。このターゲット層と同じペルソナの副業人材に、ターゲット層の行動、思考、感情を時系列で組み立ててもらい、顧客との接触点の洗い出しをやってもらったことで、真鍋社長の頭の中にあった仮説は、どんどん刷新されていきました。

 「まずはヘアオイルとのセット使用が見込まれるシャンプー、コンディショナーなどヘアケアライン商材の開発を進めています。市場調査やアンケート結果などを合わせて考えると、すでに一定規模の市場があるフェイシャル向け商品ではなく、ヘアケアラインの勝算が高いという結果になりました」

 副業人材に働いてもらうのにかかったコストは3カ月間30万円。調査だけなら、コンサルティング会社に任せることもできますが、費用は副業人材の方がはるかに安く済みました。しかも”自前主義”の真鍋社長は、「かゆいところに手が届く仕事ぶりの人材だからこそ、仕事をアウトソースできた」と振り返ります。

インタビューに答える真鍋社長

 毎週のミーティングで調査結果を見るたびに仮説が上書きされ、細かい方向転換があっても、副業人材は真鍋社長の意向を汲み取り、指示をしなくても先回りしてアンケート項目を変更するなど対応したといいます。加えて、大手広告代理店と外資系コンサルを経験した人ならではのやり方も身近で知ることができたようです。

 「ともに働いた人を、仕事がひととおり終わったから、来月から来なくていいですよ、というのは、断ることが苦手な私にはなかなかできませんが、3カ月のプロジェクトとして募集をかけられたのもよかったように思います」

今春に商品化のメド

 副業人材に任せ作成してもらった工程表をもとに、今春には「ヘア&ボティオイル」として商品化のメドがつきました。また副業人材に任せることでできた時間を、新型コロナ感染症にかかる補助金の申請処理や、オリーブ農園を2500坪ほど拡張するグランドデザインを描くことにあてることができました。

 「オリーブを使った商品開発の工程表作成と同時並行ではできませんでしたね。すべて自分でやらず、任せた方がいい結果になることもある、ということを知りました。今後も”重要度が高く、緊急度が低い仕事”が発生したときは副業人材に任せ、自分が社長としてやるべきこと、自分にしかできないことに集中していきたいと考えています」

 父親の夢を乗せた真鍋社長の船は、順調に帆を広げ進み続けています。