熊本大の浪平(なみひら)隆男准教授と水産加工会社ジャパンシーフーズ(本社・福岡市)の共同研究チームは、魚の切り身にいて食中毒を引き起こす寄生虫アニサキスの新たな殺虫方法を開発した。加熱や冷凍といった従来の方法と異なり、瞬間的に発生させる大電力「パルスパワー」を利用し、生食用の切り身の品質や味を落とさず退治できるという。

 アニサキスは糸状の寄生虫。長さ2~3センチの幼虫は魚介類の内臓にいて、宿主の魚が死んで時間が経つと筋肉に移動。人が刺し身などを食べた後、胃壁や腸壁にかみつき、激しい腹痛や吐き気などを引き起こす。治療薬はなく、内視鏡による摘出などで処置される。飲食店や魚介類販売店でアニサキス食中毒が発生した場合、食品衛生法に基づき事業者に営業停止の行政処分がとられることがある。

 厚生労働省はアニサキス中毒の予防策として、70度以上の加熱またはマイナス20度で24時間以上の冷凍を推奨している。しかし、冷凍した切り身は変色したり弾力がなくなったりして商品価値が6~7割ほどになる。ピンセットなどを使って目視でアニサキスを除去する方法もあるが、深く身に潜り込むと見逃すことがあり、手作業のため大量生産にも向かない。

 研究チームはパルスパワーに着目。電気エネルギーをためてまばたきの約千分の1の早さで繰り返し発生させる巨大電力で、がんの細胞膜だけを破ったり、植物の光合成が活性化されたりするなどの作用が確認されていた。

 実験では、三枚おろしにしたアジの切り身にアニサキスを仕込み、容器に入れてパルスパワーを発生させたところ、瞬間的な大電流で死滅した。約3キロの切り身に仕込んだアニサキスを約6分で処理できた。電流による温度上昇は5度程度にとどまり、味や食感などの官能評価や弾性の試験では、処理後も刺し身にする上で適切な品質を保っていた。

 アニサキスが死滅する仕組みなどはまだ明らかになっていない。研究チームによると、パルスパワーを殺虫に応用した例は初めてという。今後は商業ベースでの大量処理も見据え、ベルトコンベヤーを使った装置の研究を進める予定。サバやブリ、イカなど生食ニーズの高い他の魚種でも有効性を確認するという。研究チームは「この技術を広く普及させたい」と話す。(大木理恵子)=朝日新聞デジタル掲載2021.08.26