京都市南区にある印刷会社「サンエムカラー」の会長兼社長の松井勝美さん(83)は、他社にない超高精細な印刷技術を高画質テレビにたとえ、「印刷の8K」と呼んで胸を張る。今年7月に出版された前衛芸術家の草間彌生さんの作品集や、写真家の浅田政志さんの写真集「浅田家」など多くの芸術系の書籍を8Kで印刷している。

 仕組みはこうだ。新聞やチラシ、ポスターなどを刷る「オフセット印刷」では、インキの小さな点の組み合わせで様々な色を表現するが、8Kはその点をごく小さくした。同じ面積なら、通常のオフセット印刷の約33倍もの点を刷り込むことができる。点同士の重なりも少ないため、濃淡や色合いがくっきりする。インキの点が小さいため、和紙でもにじみにくい。

 8Kを開発するきっかけは、古文書の複製の依頼だった。スキャンして印刷したところ、学芸員から毛筆で書いた字のはねやはらいの「かすれ」が再現できていないと指摘された。通常の印刷では、点が粗く、かすれの部分が途切れてしまうのだ。

■古文書や古美術などの複製にも力

 もともと精細な印刷を得意にしていたが、古文書に限らず、巻物や掛け軸などの原本に忠実な複製を作るには、刷り方をより精密にするしかない。印刷機器や半導体製造装置を手がけるSCREENホールディングス(京都市)の子会社などと組んで8Kの印刷技術を開発した。2016年から使い始めた。

 松井さんは中学を卒業後、印刷会社で働き、46歳でサンエムカラーを創業。培った技術で品質を売りにした。初めは下請けで社名が出ない仕事が多かったが、次第に大手の印刷会社や出版社、作家から直接引き受けるようになった。

 古文書や古美術などの複製にも力を入れる。びょうぶ絵やふすま絵といった大型の作品を読み取るために、京都大の研究者と大型のスキャナーを共同開発した。貴重な作品は所蔵している場所から動かせない場合もあり、現地で組み立てて使えるようにした。

 石山寺(大津市)が所蔵する紫式部の肖像画や仁和寺(京都市)の観音堂の壁画などを読み取り、複製を作っている。松井さんは「京都には文化遺産がたくさんあり、火事や災害などで失われる前に画像データを残し、複製を作っておきたい」と話す。江戸から明治にかけての浮世絵約3万点を持つ「浅井コレクション」の複製にも乗り出した。

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 サンエムカラー 松井勝美会長兼社長が1984年に創業。写真集や作品集、美術展の図録といった芸術作品の印刷を得意とし、絵画や写真、古文書、古美術などの複製にも力を入れている。ポスターやパンフレットなど一般の印刷も手がける。従業員120人。(諏訪和仁)=朝日新聞デジタル掲載2021.12.04