山梨県甲州市のワイナリー「中央葡萄酒(ぶどうしゅ)」が、ブドウ畑で自然に発酵させた「土着酵母」を使った新たな甲州ワインを発表した。世界的な評価を受けた看板ワインの醸造をやめて挑んだ1本。産地の特性、甲州種の可能性を追求するワインに仕上がったという。

 中央葡萄酒は、「グレイス」の商品名で知られるワイナリー。垣根栽培で凝縮された甲州ブドウで仕込んだ白ワイン「キュヴェ三澤 明野甲州2013」は2014年、世界最大級のワインコンクール「デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード」で日本ワイン初の金賞を獲得した。

 その後もワイナリーとして連続して金賞を獲得。甲州ワインを世界に広めてきたが、栽培醸造責任者の三澤彩奈さん(41)は、満足できなかった。「海外では『甲州』のライバル産地が頑張っている。『2013』の呪縛を超え、甲州の魅力をもっと引き出したいと思うようになった」

 取り組んだのが、マロラクティック発酵と呼ばれる乳酸菌で自然に起こる発酵を経た仕込みだ。ワインに複雑な味わいをもたらすものの、甲州種の特徴を損なう可能性もある。あまり試みられてこなかったが、17年から試行を重ねた。

 昨年は、初めてブドウ畑の「土着酵母」で仕込んだ。農場でブドウをつぶして瓶に入れ、自然に発酵させることで、果皮につく酵母のほか、飛んでくる花粉や土壌の酵母が取り込まれる。「産地の特性をさらに表現できる」と感じた。

 タンクや樽(たる)に8カ月貯蔵。できあがったワインは、香りや味わいが今までになく複雑で、厚みや深い余韻があった。父親からは、看板だった「キュヴェ三澤 明野甲州」の醸造も続けるよう提案されたが、キュヴェをやめ、甲州の可能性を追求する決断をした。

 「海外の人に飽きずに飲んでもらうには、味わいに幅の広さが必要になる。『これは甲州ではない』『前の方がよかった』と言う人がいるかもしれませんが、甲州の伸びしろを信じて挑戦をしたい」

 「覚悟」の1本は、北杜市明野町にある自社農場の名前を冠し、「三澤甲州」と名付けた。飲み頃は数年後。「甲州ワインのポテンシャルを感じてもらえるはずです」

     ◇

 「三澤甲州」は約4500本の限定醸造。先月27日からオープン価格で販売を始めた。5日午後2時からは、三澤さんと染色作家の古屋絵菜さんのトークショーがワイナリーで開かれる。定員20人で無料。問い合わせは中央葡萄酒(0553・44・1230)へ。(永沼仁)=朝日新聞デジタル掲載2021.12.05