競争激化のアウトドア市場 新商品は市場ニーズから考えた体験型焚き火台
コロナ禍で注文が激減し、業績が大幅に落ち込んでしまった町工場が、エンドユーザー向けの自社製品を開発し、BtoC事業に進出するケースが増えています。一方で、思ったような成果が出ていないケースも少なくありません。小沢製作所の3代目の小沢達史さんは、新商品の焚き火台に“体験”という付加価値を加えることで、他社との差別化をはかっています。
コロナ禍で注文が激減し、業績が大幅に落ち込んでしまった町工場が、エンドユーザー向けの自社製品を開発し、BtoC事業に進出するケースが増えています。一方で、思ったような成果が出ていないケースも少なくありません。小沢製作所の3代目の小沢達史さんは、新商品の焚き火台に“体験”という付加価値を加えることで、他社との差別化をはかっています。
目次
前半の記事「ギスギスのワンマン制からリーダー制へ 小沢製作所3代目は任せる戦略」で、会社を成長させるためには5年、10年先の未来を描くことが重要であり、小沢さんは実際、企業理念やビジョンを策定しました。ただ、言葉にしただけでは絵に描いた餅でしかありません。
ましてや、小沢さんが考えた企業理念は抽象的でもありました。そこで、ビジョンを事業としてかたちにすることをまずは目指します。ここでもきっかけとなったのは、はちおうじ未来塾でした。
「経営者はもちろん市役所職員など、塾を通じて知り合った方の中に、八王子をアウトドアの聖地にしたいとの夢を語っている人たちがいて、実際にNPO法人を立ち上げるなど、チャレンジしていました。まさにこれこそ私が目指すビジョンだと」
主要メンバー6人を中心に、キャンパー、猟師、木こり、山岳ガイドなどがおり、コミュニティの象徴となるようなアウトドア製品を作りたいと考えていました。
しかもあえて市場にないような、ニッチな製品を作ることで八王子のブランディングにつなげようと考えていました。小沢さんはその思いに共感し、アルミ製の飯盒メスティン専用のストーブ(温め台)を製作します。
すでに簡単な設計図はあったそうで、絵を見た瞬間「うちの技術があれば簡単に作れる」と、小沢さんは思ったそうです。実際、ポンチ絵をCADで製図する程度の手間を加えるだけで、製品は作れました。
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ただ、そこから先の工程が下請け町工場の小沢さんにとっては、未知でした。パッケージ、製品名、販路、ブランディング、PL法対策、顧客とのリレーションシップなど。BtoC事業の経験がないため、わからないことだらけだったからです。
ここでも地域のつながりがいきてきます。地元事業者が集まって結成した、オンガタ銀座商店街というコミュニティでした。
「わからないことや相談ごとを誰かに話すと、どこかに解決してくれる人がいる。そのようなかたちで、人脈もやれることもどんどんと広がっていきました」
実際、パッケージについては素材から形状まで、デザインを専門に手がける仲間にお願いしました。販路に関しても、近しい製品を扱っている仲間から情報を聞き、町工場が共同で参加できる展示会、ギフトショーに出展します。
一方で、何から何までお願いしていては費用もかかりますから、自分でできることはなるべく自分でやる。小沢さんが大切にしていることでもあります。ストーブであればOZOPSというブランド名やロゴは自分で考えました。
ホームページやカタログの作成、使用する写真についても、自身で撮影からPhotoshopやIllustratorなどのソフトウェアで加工まで手がけます。サイトの制作スキルは社会人時代のエンジニア時代に身につけたものでした。
価格はふだんの業務で使っている積算を元に割り出しました。ストーブは組立式でメスティン内に収まる設計のため、一つひとつのパーツが小さく、ふだんの仕事の端材で作ることができます。
そのため価格を抑えることはもちろん、企業理念である無駄をなくすことで社会を豊かにするとの思いに合致する取り組みであり、製品となりました。
メスティン用ストーブに続き、これまた八王子つながりで、ヨコザワテッパンというニッチだけれど、マニアが好むアウトドア製品専用のストーブも製作します。その後もテントやタープのロープや端を止めるペグも手がけます。
ギフトショーにも再び参加し、改めて同じような立場の同業者とのさらなるネットワーク、販促のコツ、具体的にはバイヤーとの関係性構築などのヒントを得ます。しかし、売れ行きは芳しくありませんでした。
アウトドア製品は昨今のブームもあり、元々手がけているメーカーに加え、小沢さんなどの町工場も含め異業種が参入する、レッドオーシャンでもあったからです。
しかし、小沢さんはあきらめませんでした。というより、そもそもニーズの高い市場で挑戦することは正しい選択であるとも言います。
「本業以外の事業で成功している方たちを見ていると、自分が好きな分野やテーマであること。そして最大の差別化だと思いますが、当初は反応が芳しくなくても、継続していることがわかりました。最初、私に声がかかったのもアウトドアが好きで、アウトドア製品を作りたいとあちらこちらで言っていたことがきっかけですからね」
一方で、ただ継続するだけは状況が変わりません。そこで、小沢さんはマーケットニーズに着目すると同時に、自社の技術のかけ合わせを意識します。ただ技術は高ければよいわけではないそうです。
落とし穴、とも言えるでしょう。他社には真似できない特殊技術を使った製品だからこそ、売れるとの誤解です。実際、売れる製品もあるでしょうが、小沢製作所に限ってはそのような戦略は取りませんでした。
「そもそも、うちの技術力はそこまで高くありませんから(笑)」
小沢さんは謙遜も含めてそう言いますが、新製品がまさに小沢さんの戦略を反映しています。子どもや家族が自ら作り、公園などで気軽に焚き火を楽しむことのできる、「小焚火台」です。
焚き火台そのものは、多くのメーカーが作っています。そこで小沢さんはマーケットニーズで高かった、作るという“体験”を加えることで、差別化をはかります。金属板からパーツを外す、バリを取る、曲げる、組み立てる。通常であれば工場の人が行う作業も含めて、製品としたのです。
ただし、このアイデアは、あくまでマーケットニーズを探った成果であり、自分から出たわけではない、と言います。
ヒントは、東京スカイツリー近くの町工場が開催していたワークショップでした。子どもたちが、紙に描かれたスカイツリーのパーツをくり抜き組み立てることに夢中で取り組んでいました。
「自分のアイデアだけだと限界があるので、外から拾ってくる。かつ、アレンジすることが大切だと思っています。特に私は八王子というフィールドからヒントを得るようにしています」
本来であれば、工場で従業員が行う作業もユーザーにやってもらうわけですから、価格を抑えることにもつながります。
そして、工場では、機械で金属板に抜き取りや折れ線加工を施すだけ。高い技術力は必要なく、一晩で200セット作ることも可能です。
ギフトショーに出すと注目され、香港のバイヤーからは「一度の注文(ロット)で1000台を狙える商品」と評価されました。これまでに200台を受注したといいます。
アウトドア製品は別の効果も生んでいます。OEMです。伸びしろのあるマーケットだからこその成果であり、当初から狙っていたと小沢さんは言います。すでに有名インテリアショップ、アウトドアメーカーとの話が進んでいます。
また、どんな製品を作り、どのような人が作っているのかを現場の作業員が知ることで、以前にも増して製品への愛着が増したと言います。
ただ何を作っているかについては、以前からできるだけ社員に伝えることで、より良い製品づくりに反映するよう、意識してきたことでもあります。
ここから先はビジョンどおり、八王子をアウトドアの聖地にすることを目指したものづくりを行っていきたいと、小沢さんは抱負を語ります。
具体的には、作り手と使い手が近い距離にあり、製品はもちろん製品を作る工程や作っている企業、さらにはエリア。つまり八王子全体を愛してくれる。言ってみれば、ブランドのロイヤルカスタマーを生み出すことが目標だと力を込めます。
「うちの製品やブランドのファンというよりも、まずは八王子というエリアのファンになってもらう。その中の一社、一ブランドならびに製品も同じく好きだから使う。それも、同じく八王子で。このような未来が描ければと考えています」
大勢の人が地域に集まるようになれば、小沢製作所のようなメーカーだけでなく、飲食業などさまざまな業種が恩恵を受けることになります。そしてその恩恵が再び自分の企業に戻ってくる。小沢さんが描く、豊かな社会ならびに人々の幸せが実現している未来の姿です。
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