目次

  1. クラウドPBXとは?仕組みを解説
  2. クラウドPBXの導入前の課題
    1. 本社の課題感
    2. 工場の課題感
  3. リプレイスかクラウドPBXかの比較検討
    1. 本社のPBXをリプレイスするメリット・デメリット
    2. クラウドPBX導入のメリット・デメリット
  4. クラウドPBXを選んだ2つの理由
  5. スマホの維持管理費用を抑える工夫
  6. クラウドPBX導入の3つの効果
  7. スマホ導入で副次的に得られた5つの効果
  8. クラウドPBXの6つの導入手順
    1. 自社の電話契約はIP電話ですか?
    2. 自社に対応しているクラウドPBX業者を探しましょう
    3. クラウドPBXへ移行する電話番号などを決めましょう
    4. クラウドPBXの各業者の比較表を作りましょう
    5. 候補の業者でデモやトライアルをしましょう
    6. 時間外/休日に通話試験をしましょう
  9. 料金について
    1. イニシャルコスト(初期費用)の内訳の例
    2. ランニングコスト(維持管理費)内訳の例

 固定電話を使った外線の発着信や、社内で内線通話するには、PBX(構内交換機)という装置が必要です。PBXは原則、事務所の拠点ごとに置く必要があります。

従来のPBX(構内交換機)の一例

 一方で、クラウドPBXとは、このPBXの機能をクラウドに持たせ、インターネットを介して利用できるようにするサービスのことを言います。

 クラウドPBXを利用すると、スマートフォンでの代表電話番号の発着信ができるようにもなります。また、PBXをクラウド化しているので、インターネットに接続できる環境であれば、離れた拠点間でも、拠点同士の内線通話が無料になります。

 また、場所を選ばずに電話環境を構築し、設定の変更などもWebブラウザやアプリケーション上で簡単にできます。

 クラウドPBX導入前、コンタクトプローブと呼ばれる電気電子部品などの製造を手がける「サンケイエンジニアリング」(本社・横浜市)には下記のような課題がありました。

  • 社員の増加で固定電話を増設したいが、PBXの接続台数上限に達していた
  • 社用スマートフォン貸与者が少なく、外出時に連絡が取りにくかった
  • オフィスの改装を控えており、オフィス内の配線を極力減らしたかった
  • 工場では無線化してPHSでも受発信できるが、PHSが老朽化していた
  • 端末が足りずPHSを増設したかった
  • 社屋ではPHSの電波状態が悪かった

 課題解決のため、従来のPBXをリプレイスするか、クラウドPBXに置き換えるかを検討し、それぞれのメリット・デメリットを検討しました。

クラウドPBX導入時に固定電話をスマホに置きかえることでデスク周りの省スペースにも役立った

 本社のPBXをリプレイスして接続台数の上限を引き上げ、工場側もPHSの台数を増やし、小型基地局を増設して電波状態の改善することを検討しました。

 まず、メリットは今までと使用感が変わらないこと、そして固定電話機を用いる場合は有線接続のため、スマートフォンよりも通信状態が安定することです。

 一方のデメリットは、電話以外の用途で使用できず、出張時や外出時などといった社外で電話応対ができない、多拠点で使用するときは、これまでと同じようにPBXの設置や配線工事等が必要であることです。

 次に、クラウドPBXを導入して固定電話を全て廃止し、全社員にスマートフォンを貸与する方法を検討しました。

 考えられたメリットは、キャリア回線やWiFiなどによるインターネット通信ができる電波が入る環境であれば、社内外問わず電話応対ができること、そして、在宅勤務にも対応できること、さらにスマホを貸し出し、アプリをインストールすれば様々な機能を活用することができるなど、拡張性が高いことでした。

 一方で、デメリットとして、スマートフォンにキャリアでの回線契約を付与する場合、ランニングコストが増加することや、電波状態によって通信品質が影響を受けることが挙げられました。

 検討した結果、クラウドPBXを選びました。

 理由の1つが、全社員へキャリア契約のスマートフォンを貸与した場合の2年分のランニングコストとPBXをリプレイスする場合のコストがほぼ同じだったためです。

 もう1つが、スマートフォンを導入することによる生産性向上の可能性が大きいこと、中小製造業でありながらも場所にとらわれず働くことができる多様な働き方を実現したリーディングカンパニーとなれる組織を目指したかったためです。

 そこで、2020年1月ごろ、固定電話完全廃止とスマートフォンの導入ならびにクラウドPBXの導入を決めました。

 スマートフォンのランニングコスト(維持管理費用)に関しては、2年契約で端末代金を実質無料にし、2年後にキャリア契約の変更または、キャリア契約せずWiFi接続のみの運用によるコストダウンを視野に入れました。

 クラウドPBX導入により、まず3つの効果を感じました。

  • 配線がなくなり、オフィスのレイアウトの自由度が増した
  • 席に固定されずに仕事ができるようになった
  • 新型コロナの流行時に円滑に在宅勤務へ移行ができた

 さらに同時に導入した全社員のスマホ貸与で次のような効果も得られました。

  • Slackの導入で、製造現場と管理職間の情報共有が円滑になった
  • Bluetoothヘッドセットを導入し、現場の作業員が両手を空けた状態で作業をしながら電話応対できるようになった
  • 勤怠管理アプリで、手元で出退勤打刻や勤務表の確認や出退勤打刻、有給休暇の申請ができるようになった
  • 工数計測アプリを導入し、リードタイムや負荷の把握ができるようになった
  • 私用端末の業務利用廃止によるセキュリティリスクを下げられた
クラウドPBX導入前は、机ごとに固定電話機があるため、作業スペースにも課題があった

 クラウドPBXを導入した経験をもとに、導入までの6つの手順を紹介します。

 クラウドPBX業者では新規発番の電話番号で利用するのか、既存の番号をそのまま利用するのかによって対応の可否や料金が変わってきます。

 新たに起業する場合やSOHO利用などであれば新規発番を選択されるのもいいかと思いますが、既存の電話番号をそのまま利用したいというニーズが多く見受けられますので、今回は既存の電話番号をそのまま維持して利用するという流れで説明していきます。

 クラウドPBXへ移行できるのか確認するため、まずは自社の電話回線契約を把握しましょう。アナログ回線やISDN回線(メタル回線)では、クラウドPBXに対応していません。そのため、音声をパケットに変換してインターネット回線を活用して音声通話をするIP電話(NTTではひかり電話)を使用していることが必須となります。

 電話の利用に大きな影響はありませんが、2024年にアナログ回線の廃止と一部切り替えが予定されており、現在IP電話を導入していない企業でも、これを機にIP電話への移行を検討してみてはいかがでしょうか。

 自社でIP電話を利用していることがわかった場合、次に自社のIP電話契約に対応しているクラウドPBXを探しましょう。大前提として、クラウドPBX業者が自社のIP電話に対応していないと使用することができません。

 クラウドPBXの業者によっては、収容する番号数によって料金プランが変わることもあるため、複数の番号を有している場合は、どの番号をクラウドPBXへ収容するかを決めましょう。それぞれの電話番号の使用目的の洗い出しや、使っていない番号の廃止など最適化をお勧めします。

 クラウドPBXにはどのような機能があるのかを調査把握し、各業者がそれぞれの機能に対応しているかがわかる比較表を作りましょう。Excelやgoogleスプレッドシートを使用して作成することをオススメします。私が使用した比較表と、事前に確認しておきたいポイントをまとめました。

クラウドPBX導入時の業者比較用のチェックリストの一部

 クラウドPBXは音声品質やアプリの使い勝手、通話のラグなどが業者によって大きく異なりますので、必ずデモやトライアルができる業者を選びましょう。

 ただし、ほとんどのクラウドPBX業者では既存の番号をそのまま利用しての外線通話にはインターネット回線へ流すための機器を設置する必要があるため、デモやトライアルでは内線通話しか評価できない場合が多く、外線通話に関しては本番環境で確認しなければならない場合が多いです。

 クラウドPBXを導入する場合、万が一不具合が起きた場合は仕事に影響しますので必ず時間外や休日に導入して通話試験をしましょう。

 比較表で確認している通り、導入後に不具合が起きた場合、すぐに現状復帰できるようリスクヘッジをしておきましょう。

 新規発番の場合と既存の電話番号をそのまま利用する場合で、項目や費用が異なります。最後に、既存の電話番号を利用する場合について料金の内訳を例示します。

  • ゲートウェイ機器購入費(既存の電話番号をそのまま利用する場合、IP電話をインターネット回線へ流すためのゲートウェイ機器が必要となる。新規で発番して利用する場合は不要となる)
  • 固定電話機(固定電話を利用したい場合のみ。固定電話利用に業者が対応しているか、どの機種が対応しているのか、購入はクラウドPBX業者を通してなのか、別途自前で用意する必要があるのかなどは確認)
  • スマートフォン(スマートフォンを電話機として利用したい場合のみ。価格はエントリークラスから最新機種まで様々。一世代前の型落ちエントリー機種を購入する場合、一台あたりの費用を1~2万円台まで抑えることができる場合も。複数年の法人契約で端末料金を実質無料にするのも選択肢)
  • 月額基本料金(利用内線数や利用電話番号数によって変動する)
  • 内線数ユーザーあたりにかかる月額料金(〇〇内線数までなら月額いくら、それ以上は1内線あたりいくらなど)
  • 追加電話番号料金(どれくらいの電話番号をクラウドPBXで収容するのかによって変動)
  • 同時通話チャネル数オプション(同時に通話することができる数)
  • IP電話の回線利用料(既に使用しているIP電話・ひかり電話の利用料)
  • 外線通話の通話料(既存の番号をそのまま利用する場合は、現在利用中のIP電話の通話料と変わらず。クラウドPBX業者にて新規で発番した場合は、クラウドPBX業者ないしIP電話番号発行業者の通話料に準ずる)
  • 内線通話の通話料(ほとんどの業者で無料。インターネット回線を使用した通話になるため、海外からの内線通話でも無料になる場合が多い)