「あと5年で倒産」と言い聞かせ Apple製品と出会い文具卸からITへ転換
2025.03.18
(最終更新:2025.03.18 )
株式会社寿商会3代目社長の若林孝さんはClarisの認定パートナーとして、自社だけでなく中小企業から大企業までの業務効率向上に努めています(写真はすべて寿商会提供)
株式会社寿商会(金沢市)は文具卸として1947年に創業し、現在はIT導入コンサルティングやシステム開発、事務機器販売を手がけています。3代目社長の若林孝さん(51)は文具卸の将来に危機感を覚え、システム分野への事業展開を決意。2008年からApple Inc. の子会社 Claris International Inc. の認定パートナーになりました。中小企業を中心とするさまざまな規模や業種の組織向けに、Claris が提供するローコード開発プラットフォーム 「Claris FileMaker」の導入と活用をサポートし、業務の効率化に貢献しています。今では祖業の文具卸を事業譲渡して、FileMakerなどを用いたITコンサルティングを柱に事業を育てています。FileMaker活用法や後継ぎが自らかじを切ってITツールを導入する際の心構えについて、若林さんに伺いました。
文具問屋業界の縮小傾向に危機感
若林さんは大学卒業後、祖父が創業した家業・寿商会の取引先のメーカー勤務を経て、1998年、営業職として同社に入社しました。
現在、ITコンサルティングを軸に、売上高5億1千万円、営業利益1億9千万円、従業員数27人の規模の同社は、入社時は文具卸と事務機器販売が柱で、利益率は今よりずっと低かったそうです。
「このころから全国的に文具問屋がバタバタと撤退しはじめていました」と、若林さんは危機感をつのらせていたといいます。当時、寿商会自体の財務状況は健全で問題はありませんでしたが、若林さんはあえて「このままだとうちもあと5年で倒産する」と自分に言い聞かせ、知恵を絞りました。
寿商会の社屋は2023年、日経ニューオフィス賞の「中部ニューオフィス奨励賞」に輝きました
営業で顧客先を訪問するうち、若林さんは文具や事務機器の販売にとどまらず、顧客の困りごとを聞き、そのサポートをするようにもなります。あるときはコピー機の顧客に、ラベル印刷ができるExcelファイルをマクロで作って提供しました。当時(2000年代)は世の中のIT化が急速に進み始め、パソコン関連の機器や複合機のニーズが高まっていたころでした。
「システムそのものでは売り上げが立たなくても、お客さまへのサポートを手厚くすればコピー機などの新規購入につながります。やった分だけプラスになると、Excelマクロなどを猛勉強しました」
社内でただ1人、顧客へのITサポートを展開するなかで、若林さんはFileMaker と出会い、家業の未来を大きく切り開くことになります。
偶然出会ったFileMakerに、今後の勝機を見出す
若林さんは2004年、大手事務機器メーカーと一緒に金沢市内でのコピー機の新規開拓を目指すキャンペーンに加わりました。そのとき若林さんの目を引いたのが、大手メーカーの営業担当者が使っていたFileMakerで作られた顧客管理ツールでした。
「例えば、蓄積されたデータを元に来月アプローチすべき顧客の優先順位をつけたいとき。それはExcelマクロでも対応可能でしたが、時間がかかっていました。そこでFileMakerで試してみると、自分でも驚くぐらいすぐにできてしまったんです。FileMakerは見たいデータがその日のうちに出せる。コピー機の営業効率が高まり、やればやるほど効率が上がるという感触を得ました」
FileMakerを活用し、タスクのシステム化を進めました
若林さんはまず社内でFileMakerを使い、営業日報、見積もり、契約管理、見込み管理などのタスクを順次システム化していきました。
「そのころ、営業情報を管理して見込み客を仕分けるようなシステムのある中小企業はほとんどありませんでした。寿商会も社内システムが構築されておらず、それをシステム化すれば同業他社にも販売できると考えました」
しかしFileMakerは当時、一般的なソフトウェアとは言い難く、こんな苦労もありました。
「当時、FileMakerについてインターネットや本を探しても、きちんとした解説はほとんど見つかりませんでした。しかし、有効なノウハウが広がっていないからこそ、自分が実践すればビジネスになると感じていました」
また若林さんが一人でシステム化を進めていたとき、他の社員に「外に出て営業してこい」と陰で言われることもあったといいます。
それでも、営業スタッフのリクエストに応えて一覧化した営業日報をFileMakerで作るなど、社員の利便性を高めるツールを作り続けることで社内の理解を広げていきました。
「FileMakerはただインストールしただけでは何も起こりません。そしてライセンス料はかかりますが、その先はどんな機能をつけてもお金はかかりません。そこでどんどん必要なもの・社員の役に立つものを作らないと、という気持ちで、社内の困りごとを聞いてはそれを解決する機能を実装し続けました」
若林さんはFileMakerで社内の困りごとを一つずつ解決していきました
ITコンサルティングに着手
寿商会は2008年、Clarisの認定パートナーとなり、他社にFileMakerの活用を広めるITコンサルティング事業に乗り出します。
最初の売上は順調ではありませんでしたが、若林さんの信念はぶれませんでした。iPadやiPhoneが普及するとともに急速なIT化が進み、家業を取り巻く環境が大きく変化していたからです。
「入社当初から下降傾向だった文具卸業界はさらに落ち込みが続き、いよいよ衰退へのカウントダウンが始まっていました。リーマン・ショックの影響などで人材の流動性も高く、事務機器会社やシステム会社の人材を中途採用して社内基盤を整えました」
FileMakerとiPadで、地元企業の経費を年間400万円減らす
寿商会はClarisの認定パートナーとして、徐々に中小企業へのFileMaker導入を進めていきます。さらに2011年には、ACN(Apple Consultants Network) へ加入し、Apple製品の導入を支援するパートナーとしても動き出します。象徴的なケースとなったのは、同じ金沢市にある仲卸業・丸友青果との取り組みでした。
2012年、寿商会と取引があったオフィス家具メーカーから紹介され、丸友青果の基幹システム入れ替えのタイミングで、FileMakerとiPad を導入したのです。
丸友青果が拠点を構える金沢市中央卸売市場では毎日、数多くの青果が売買されています。それまでの同社の売買管理は、競り落とした野菜や果物の手書き伝票を集約し、事務員がパソコンで基幹システムに入力していたため、時間がかかっていました。
寿商会は丸友青果の基幹システムを補完する形でFileMakerを導入。競りが終わった後、各営業担当者が手書きのメモをiPadにデータ入力する形にしました。
丸友青果は寿商会のサポートを受け、業務が飛躍的に効率化しました
導入をサポートした若林さんは「一番心配していたのは、現場の人の拒否反応でした」と振り返ります。
「リクエストされた機能はFileMakerで実装できる状態でしたが、現場から『こんなのは使いにくい』と言われないよう、いろいろな配慮をしてプロトタイプを触ってもらい、改善を重ねました」
丸友青果では紙の伝票(左)とほぼ同じフォーマットのUI(右)を実装しました
例えば、iPadのUI(ユーザーインターフェース)は、今まで使っていた紙の伝票とほぼ同じフォーマットにしました。
一方で、桁の打ち間違いや売り上げの二重計上といった影響の大きい部分は、制限をかけておかしな数値は入力できないようにするなど、システム化のメリットを生かした仕様にしました。
丸友青果の社内では事務部門の責任者がシステム導入の推進役となったこともあり、スムーズにFileMakerが浸透したそうです。
FileMaker導入後、丸友青果ではペーパーレス化や業務効率化が加速し、印刷代や人件費など年間400万円の経費削減に成功しました。寿商会は今もサポートを続けています。
こうした各社の業務フローや課題に合わせて、UIや仕様を自由に作れるのが、FileMakerの強みです。
「FileMakerならカスタマイズが柔軟で、簡単かつ高速にシステムを変更できます。『導入したのにシステムを使ってくれない』という悩みはよくありますが、FileMakerはユーザーの要望通りに作り替えることができるので、中小企業でも抵抗なくシステム化が浸透すると思います」
新社屋はライブオフィスに
若林さんは2013年に3代目社長に就任し、ITコンサルティング事業の領域の顧客を中小企業から大企業にも拡大。2019年には祖業の文具卸を事業譲渡する決断を下しました。現在、寿商会がFileMakerの導入をサポートしている企業は550社にのぼります。
「unClouded Lab」は訪問客に自社の働き方を見せるショールームの役割も持っています
2022年には新社屋を作り、働き方改革とデジタル変革を実践するライブオフィス「unClouded Lab」を立ち上げました。
「それまでシステム部門と事務機器部門は建物も別々で、ほとんど交流がありませんでした。しかし、今や事務機器販売も、お客さまのIT支援がマストになってきています。場所を一緒にして部署間のコラボレーションを進め、システム部門が進めていたIT化を、事務機器部門に浸透させる目的もありました」
「unClouded Lab」はFileMakerのデモンストレーションの場として活用しています。顧客には実際に、寿商会のペーパーレス化の様子や、FileMakerに入力しているデータも直接見てもらっているといいます。
「働き方改革やDXと一口に言っても、(こちらから顧客に)できる提案の幅や量はさまざまで、お客さまの思い描いているものと一致しないこともあります。しかし、当社に足を運んで実際の働き方の様子を見ていただくと、お客さまからご自身の気づきや課題を話しはじめてくれます。商談の前段階としてとても有効です」
「unClouded Lab」には配信スペースがあり、オンラインセミナーなどを開催しています
「IT投資は伸びしろだらけ」
中小企業にとって、DXやITツール導入はまだまだハードルが高いと思われているのが現実です。しかし、若林さんは「IT投資は伸びしろだらけ」と強調します。
「ITツールは以前と比べて初期投資が抑えられ、サブスクリプションモデルで負担を減らすこともできます。データがクラウドにあれば、アプリケーションごとに連携し、どこでも仕事ができるようになります。いろいろ試してみればノウハウが蓄積され、経営を前に進めることができると思います」
FileMakerの認定パートナーになって17年。寿商会はITコンサルティング部門が柱となり、事務機器部門の粗利額を超えたといいます。若林さんは今後もFileMakerの提供・サポートを軸に、付加価値の高いビジネスを展開する考えです。
「FileMakerによって、寿商会の改革を進めることができました。ノーコード・ローコードツールのトレンドに乗って、FileMakerのユーザーはどんどん増えています。このタイミングでしっかりとシェアを伸ばしていきたいです」
後継ぎ自ら課題を見つけ、FileMakerで解決していく
若林さんは最後に、自身と同じような立場の後継ぎ経営者に、アドバイスとエールを送りました。
「経営者はプレイヤーではなく仕組みづくりが仕事です。DXを進めようと、自分でカスタマイズできないパッケージやクラウドサービスを導入しても、それでは一部の業務の効率化しかできません。自ら課題を見つけて改善策を考えたうえで、自社にカスタマイズしたシステムをつくることができれば、仕組みづくりとDXの両方が進められます」
寿商会の社員のみなさん
そして「次の時代の後継ぎ経営者こそ、FileMakerを使いこなしてほしい」と強調します。
「ノーコードでもローコードでも開発ができるClaris FileMakerは、現場の業務効率化という小さい課題から大規模なシステム構築まで対応でき、改善を繰り返すことで業務遂行や競争力の源泉にもつながります。それをスタッフ任せにするのはナンセンスでしょう。次の時代の経営者が自ら手を動かして改善の先頭に立つ。これこそが、成長企業の後継ぎ経営者の必勝パターンではないでしょうか」
自社にぴったりの業務アプリを作成できる「Claris FileMaker」
業務を効率化し、固有のビジネス課題を解決できる業務アプリを作成。クラウド、オンプレミス、オフラインで利用でき、ビジネスの変化に合わせて柔軟に改良、拡張できます。
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