目次

  1. ストコンとは 加盟店の大切な情報源
  2. ストコン、モバイル端末に移行 事務所仕事も売場で
  3. 雑誌返本の業務、行き来を4割削減
  4. クラウドに店舗システム機能を集約
  5. 遠隔地で管理する複数店オーナーにもメリット
  6. 従業員とコミュニケーションが活発化
  7. 世界でも最先端のシステム構築から30年

 ストコンとは、ストアコンピューターの略称で、本部の店舗経営相談員(通称SV)と並んで、ストコンは加盟店オーナーと本部をつなぐ大切な情報元として存在しています。

 筆者がコンビニ店舗に取材で伺うと、オーナーはストコン前に座って、椅子をくるりと回転させて、応対してくれます。ストコンの前を定位置にしているオーナーは多いと思います。

 ところが、セブン-イレブンは2025年春からストコンを順次撤去します。代わってタブレットやモバイル端末に情報を集約します。情報システムを持ち運び、手の中で扱えるようにしていきます。

 セブン-イレブンの本部によると最大の変化は、事務所にいなくても、売場にいながら多くの管理業務が完結できる機動性にあります。ストコンを使わずに、タブレットやモバイル端末からの商品発注やシフト管理を可能として、「事務所」という場所に縛られず、店舗経営に専心できるようにしています。

 ストコンを用いてしかできなかった業務を、タブレットとモバイル端末に移管したことで、売場で従業員と一緒にオペレーションしながら、従来の「事務所仕事」も実行できます。ただ、そうはいっても、これまで通りに事務所で集中したい業務もあるでしょう。売場でも事務所でも、内容に応じて加盟店オーナーに自由に選択できるようにしています。

 ただ、加盟店オーナー、あるいは店舗のマネジメントを任されている店長は、事務所にこもらずに、なるべく売場に立って、お客や従業員と会話したり、動きを見守ったりして、売場に出る時間を大切にすべきと考えるオーナーもいます。

 このあたりの議論は別の機会にしますが、ともあれ物理的には売場と事務所の行き来がほぼ不要となるため、移動距離の削減にもつながり、その結果、生産性の向上も期待できます。

 たとえば、コンビニには「雑誌返本」という業務があります。

 順を追って説明すると、①事務所で返本対象商品リストを印刷、②リストを元に売場で現物確認、③売場から下げた雑誌を事務所のストコンで返本登録、 ④現物を梱包、という流れになっています。

 事務所から雑誌売場、さらに事務所への行き来が必須の業務でしたが、これをモバイル端末による業務に変えることで、①雑誌売場で返本対象商品リストを画面確認しながら現物を確認し、その場で返本登録、②最後に現物を事務所に下げて梱包、というプロセスで済ますことができます。

 これは一例ですが、セブン-イレブンの試算によると、売場と事務所の行き来する回数を4割程度、削減できるといいます。タブレットとモバイル端末は、1店舗につき、それぞれ4、5台を用意して、加盟店オーナーだけでなく、従業員に持たせて業務の効率化を図っていきます。

 こうした業務改革を可能とするのが新しいシステムへの移行です。

 これまで、セブン-イレブンは、基幹システムの集配信サーバを経由して、店舗ごとのストコンに店舗システム機能を構築してきました。それを改めて、今後はクラウドに店舗システム機能とデータを集約して、基幹システムとクラウドの間でデータを送受信します。 (有事の際に備えた部分を除いて)基本的には全てをクラウド化することになります。

 この新しいシステムへの移行により、加盟店オーナーは、いつでも必要な情報にクラウド上でアクセスし、チェーン本部と円滑なコミュニケーションを図ることができます。

 店舗システム機器については、これまでの「専用端末」に代わって「汎用端末」を利用することになります。従業員が普段から使い慣れているデバイス(タブレットとモバイル端末)で業務を行うため、店舗オーナーは教育負荷の削減と、それに伴うコストの軽減を実現でき、従業員の早期戦力化にも期待できるようになります。

 まずは直営店の数店舗で導入し、次に全国の直営店に順次拡大し、加盟店への導入を進めていく計画です。 新しいシステムは、発注などの日々の業務に大きく関わる部分になるため、導入時の課題などを確認し、加盟店に向けた勉強会も実施しながら、使い方をはじめ活用方法を習得できるようにしていく予定です。

 今回の新しい店舗システムにおいては、複数店のデータを同時に見比べることができます。かつて加盟店による複数店経営に対して、セブン-イレブンは他チェーンと比較して、どちらかといえば消極的でした。加盟店オーナーは1店舗の経営に専心すべきとする考え方です。

 しかし、加盟店もチェーン本部も、店舗経営に対する管理能力の向上により、1オーナーにつき1店舗の時代は過去のものとなり、2店舗、3店舗を同時に経営するオーナーも増えてきています。

 そこで、複数店経営をサポートするために、売上・利益、客数、発注数量のような経営数値情報を1つの画面でダッシュボード化(情報をひとまとめにして分かりやすく表現すること)して確認することを可能としました。

 これにより、複数店舗の比較が容易となり、発注数量の適正化にも役立てることもできます。さらにクラウド化により、当該の店舗以外の遠隔地でもオーナー業務を行える環境が整えられたことにより、複数店の管理が物理的にもやりやすくなっています。

 商品発注に関して、既にセブン-イレブンは「AI発注」を取り入れています。対象は加工食品や飲料で、今後は長鮮度商品(チルド温度帯)にも拡大を図っていく計画です。ただし、弁当や惣菜は、加盟店の意思を反映するため、AI発注には現状は含まれていません。

弁当・惣菜類の発注には、加盟店オーナーの意思が強く反映すめためAI発注には、まだ至っていない
弁当・惣菜類の発注には、加盟店オーナーの意思が強く反映すめためAI発注には、まだ至っていない

 また、商品発注の際に、店側の欲しい商品やイベント、例えば雨の日に必要な商品とは何か?といった「商品タグ機能」により、消費シーンでの絞り込みや検証を可能としています。

 精算レジに関しても、新しい店舗システムに対応した、タブレットを用いた小型サイズのものに2026年度から切り替えていく計画です。

2026年度からレジを小型のタブレット化して新たなスペースが生まれることで、カウンターフーズの拡充が図られる
2026年度からレジを小型のタブレット化して新たなスペースが生まれることで、カウンターフーズの拡充が図られる

 小型化によりレジカウンターに30%程度の余裕ができるため、現在カウンターで販売している揚げたてのカレーパンやドーナツ、焼き菓子、あるいはセブンカフェの新シリーズ(スムージー以外にも紅茶やカフェインレスコーヒーも実験中)などに充当させていきます。

 今回のシステムの変更により、加盟店オーナー、従業員には、どのような働き方をチェーン本部は期待しているのでしようか。

 一つ目は新しいシステムを活用した売上向上と生産性向上です。ここまで述べてきた通りですが、とりわけ加盟店利益の向上は、コンビニ業界にとって大きな課題です。

 大手3チェーンは47都道府県に出店しています。地方部の過疎化に伴い、コンビニ店舗がますます社会のインフラ、人々の生命線になるとすれば、売上向上だけでなく、より少ない人員で運営する必要があります。業務効率を少しでも高めるシステム開発と、その運用は急務です。

 二つ目はコミュニケーションの強化。店舗システムのクラウド化により、端末を通じた「出勤時の情報連携」「グループチャット機能」「売場写真の共有」など、スピード感を持った情報の見える化が可能になります。新しい情報システムの導入を機会に、加盟店オーナーと従業員間のコミュニケーションの活性化に期待をしています。

 三つ目は発注精度のさらなる向上と発注業務の効率化です。 前述した「商品タグ機能」の追加により、さまざまな消費シーンにおける商品の絞り込みや検証を可能としています。

 今回の基幹システムの全面的な変更をセブン-イレブンは「次世代店舗システム」と命名しています。前回2015年の変更時は「第7次総合店舗情報システム」(POSレジは17年9月より刷新)の導入と表現しています。今回は“第8次”ではなく、“次世代”にしました。

 チェーン本部によると、これまでのように世代で切り替えるというアプローチを改めて、“常に変化し続けるシステム”という位置付けで「次世代店舗システム」と命名したといいます。

 そこで、セブン-イレブンの情報システムを振り返ってみると、1978年8月の「ターミナル7」の導入からスタートしています。商品発注台帳に刷り込んだ「商品バーコード」と「数量バーコード」を、店舗の発注担当者がペンリーダーでスキャンして、公衆回線を通じて本部へ送信するシステムです。

1978年にスタートした「第一次店舗システム」で導入した発注端末「ターミナル7」(セブン-イレブン・ジャパン提供)
1978年にスタートした「第一次店舗システム」で導入した発注端末「ターミナル7」(セブン-イレブン・ジャパン提供)

 これが「第一次店舗システム」と呼ばれるものです。1974年の創業時、加盟店は70社の製造元(ベンダー)に直接電話をして発注していました。そうした煩雑な作業が一気に軽減されました。

 さらにチェーン本部は、取引先との受注に関するデータを、通信衛星を介して米国に送信、大型コンピューターでデータを処理して、加盟店の前日発注、当日納品を可能としています。

 こうして発注から納品までのリードタイムを短縮して、需要予測をしやすくしました。店舗にとっては、発注数量を直近の在庫状況から判断できるので、欠品の防止と同時に在庫の削減に役立てることができました。

 1982年10月からは「第二次総合店舗情報システム」をスタートさせて、POSシステムの導入を開始、1983年2月に全店に配置しています。このPOSシステムは、事務所に設置したターミナルコントローラー、カウンターのPOSレジスター、ハンディ型の発注端末機から構成されています。

1982年にスタートした「第二次総合店舗情報システム」の際に導入したPOSシステム。これにより仮説や発注、単品管理が飛躍的な進歩を遂げた(セブン-イレブン・ジャパン提供)
1982年にスタートした「第二次総合店舗情報システム」の際に導入したPOSシステム。これにより仮説や発注、単品管理が飛躍的な進歩を遂げた(セブン-イレブン・ジャパン提供)

 このPOSシステムの導入により、単品の販売個数のみならず、売れた時間帯や在庫欠品、廃棄数量、客層の属性(従業員が、客の年齢と性差を判断して登録する)などが、個店ごとに把握できるようになったのです。

 1996年11月には、セブン-イレブンにとって過去最高の総額600億円を投じる「第五次総合店舗情報システム」を開発して、総合情報システムの“全面再構築”を推進させています。

1996年には過去最高の巨費を投じた「第五次総合店舗情報システム」をスタート。ストコンから得られる情報が大きく進化した(セブン-イレブン・ジャパン提供)
1996年には過去最高の巨費を投じた「第五次総合店舗情報システム」をスタート。ストコンから得られる情報が大きく進化した(セブン-イレブン・ジャパン提供)

 このシステムの導入により、店舗、本部、ベンダー、メーカーの連携を強化して、情報の共有化と活用の促進を互いに期待しました。当時の広報資料には「世界でも最先端のシステム構築」と謳われています。

 第五次から約30年、“世界最先端”の情報システム開発当時には想像すらできなかった、クラウドとAIが導入されました。セブン-イレブンは1号店から半世紀を経過しました。今後、加盟店の成長には多くの困難が伴いますが、それには情報システムの進化が常に求められるのです。