目次

  1. 営業効率化とは 「営業ROI」から見えてくる課題
  2. 営業効率性を阻む7つの課題
    1. 組織全体の調和と協調を志向するがゆえの不明瞭な責任分担
    2. 「お客様第一主義」文化に起因した非効率性
    3. 顧客との取引固定化による新規成長領域へのリソース不足
    4. 営業担当者が直接の顧客対応以外に時間をかけ過ぎている
    5. ITのレガシーシステムによるコスト増
    6. 営業経費削減の負のインセンティブ構造
    7. 子会社・海外拠点へのガバナンス不足による経費削減の遅れ
  3. 営業効率性を高めるための解決アプローチ
    1. 営業プロセスの徹底した見える化と改革
    2. 営業サポートのプロフェッショナル化
    3. 意思決定インフラの整備
    4. 営業のデジタル化
  4. 現場発のアイデアと経営陣の意思決定が大事

 営業効率化とは、簡単にいうと、営業活動にかかる時間や労力を最小限に抑えつつ、売上向上のためにするべき活動を増やすことだと言えます。

 マッキンゼーの資料「日本の営業生産性はなぜ低いのか」(PDF)は、営業の効率化を測る指標の一つに、「営業ROI(Return on Investment)」という考え方を紹介しています。

 これは、営業活動にかかるコスト(人件費、旅費、その他経費など)を「投資」と見なし、営業の結果として得られる粗利(売上高総利益率)を「リターン」と見なした指標です。

 グローバルな法人営業なら、営業コストの4~5倍の粗利を稼ぐのが一般的といいますが、日本企業は営業ROIが低い傾向にあります。営業コストが高い要因のうち、特に「営業1人あたりの売上高」は、日本企業で最も課題となります。

 これは、営業の役割が不明確で1人あたりの顧客数や案件数が少ないこと、受注後の顧客対応に大きく関わる必要が多いこと、そして社内会議や資料作成など非営業活動が多いことなどが主な理由だと指摘しています。

 マッキンゼーは、営業効率化が進まない背景に7つの課題があるとしています。

 部署・機能別の責任・役割を明確に定義・明文化しない結果、業務を複数人で実施したり、部署間の調整に時間がかかったりして効率が悪化しています。

 顧客の都合に合わせる必要から属人的な営業スタイルになりやすく、あるべき営業プロセスがブラックボックス化しています。

 「顧客がこう言っているから仕方ない」という言い訳が通りやすく、過度な顧客要求(詳細な費用明細、顧客フォーマットに合わせた資料作成、顧客ごとの請求書フォーマット対応など)に律儀に応じ、非常に煩雑かつ詳細な業務を行ってしまいます。

 営業部隊の指標が売上や粗利に留まり、「効率性」があまり認識されていないため、これらの業務を顧客と交渉して削減するという発想に至りにくい状況です。受注後の資料作成やクレーム対応などにも営業が深く関わっています。

 日本では、長年の取引関係から、価格が安く利益が出ない、あるいは営業赤字となる顧客でも取引を解消しづらい事情があります。マッキンゼーは、日本企業の粗利率が低い原因の過半は、こうした赤字取引関係の解消困難にあると指摘しています。

 既存関係に依存するだけでは限界があり、成長機会を逃さないためには、既存取引を縮小するリスクを取ってでも、限られた営業リソースを新規成長領域へ抜本的に振り向ける「腹決め」が必要だといいます。

 社内会議、営業日報・週報・月次報告、稟議書作成、その他社内資料作成といった非営業活動が、日本企業では営業時間の2~4割を占めています。海外の先進企業ではこれが1割程度に留まります。

日本のBtoB企業 マッキンゼーの考えるベストプラクティス
顧客への営業活動 10~25% 50~55%
提案準備など 55% 35%
営業活動以外の社内業務 20~35% 10~15%

 既存業務フローに合わせてITシステムを過剰にカスタマイズする傾向が強く、「レガシーシステム」と呼ばれる独自のシステムが多く存在します。これらの維持・保守に莫大なITコストがかかります。

 新しいシステム導入後も、旧システムやExcelとの二重作業が発生したり、データの自動抽出などが活用されず、エクスポートしたデータを基に膨大な資料作成をしたりする本末転倒な事例も見られます。

 経費削減を勘定科目別の一律削減目標で進めることがありますが、これは過去に削減を頑張った部署が不利になる「やった者負け」を生み、経費削減への負のインセンティブが働きます。また、将来の成長エンジンとなる経費まで削減せざるを得ない状況を作る可能性もあります。

 業界ベンチマークを活用し、目指すべき絶対値を目標に設定することが望ましいですが、「日本は特殊」「他社とは環境が違う」などとしてベンチマーク活用を拒む経営陣が一定数存在します。

 本社から離れた子会社や海外拠点では、本社主導の厳しい経費削減ガバナンスが効きにくい傾向があります。特に海外では言語のハードルもあり、全社施策の展開が遅れ、効果を迅速に得られないことが多くあります。

 こうした営業効率化の課題に対し、マッキンゼーは以下の4つの解決アプローチを提案しています。

 根本的な課題解決を伴わないと、かえって売上低下や人材流出を招く可能性があるります。経営陣の覚悟と現場のスキル向上を伴う変革が必要です。

 どのような非効率が生じているかを定量的に把握するため、営業員の時間使い方のバラつきや、無駄な業務(社内会議、資料作成、顧客対応以外の事務作業など)に費やされている時間を特定するための「見える化」を勧めています。

 「あるべき営業プロセス」を定義し、部署・役職別の役割分担を明確化します。必要なスキルを定義し、人事評価や人材スキルマップに組み込むことで、プロセスの定型化にもつながります。

 営業サポートを単なる事務代行ではなく、専門的な技能を持つプロフェッショナル集団と位置づけます。提案書作成、業界・顧客調査、入札業務など、前線営業にはない専門スキルでサポートを強化します。

 マッキンゼーの研究では、営業員の約半数が専門営業サポート担当である場合に、1人あたり粗利額が最大となるといいます。

 営業部員の持つ知識・ノウハウを会社の資産と捉え、属人的ネットワークに頼らない共有の仕組みを導入します。提案書や調査内容のアーカイブ化、検索機能の充実などを図ります。ノウハウ共有会や表彰などで、共有が評価される文化が必要です。

 利益が出ず、労力のかかる顧客の選別や、値上げ判断など、経営陣が主体的にファクトベースで意思決定を行う必要があります。過去のサンクコストや関係性に囚われず、短期的な負の影響があっても段階的に顧客を切り替える判断も必要です。

 意思決定に必要な情報収集で、現場に過度に100%の正確性を求めず、8割程度の正確性で迅速な意思決定を心がけます。

 顧客別利益率など、経営の意思決定に必要なKPIデータを常に取得し、BIツール等でダッシュボード化できるデータワークフローを構築します。CRM/ERPからの自動取得など、システム改修に投資し、現場の報告資料作成の手間を省きます。

 コロナ禍にリモート営業やビデオ会議が進みましたが、さらに進めることもできます。具体的にはビデオ会議によるリモート営業、Web見積ツールなど、顧客とのやり取りをデジタル化する「営業前線のデジタル化」だけでなく、販社や代理店とのシステム連携による受発注、発送、在庫管理のデジタル化など「営業の中間領域のデジタル化」も勧めています。

 さらに、RPAによる業務自動化、CRMと音声認識連携による入力自動化など「営業バックヤードのデジタル化」も提案しています。

 ここまで、マッキンゼーの考察を紹介してきました。明日から自社でも実践しようとするまえに一呼吸置きましょう。

 たとえば、国内屈指の高収益企業として知られるキーエンスは、その驚異的な数字を支える要因の一つに、「人づくり」と称される独自の営業スタイルや仕組みがあるとして、出身者のインタビューなどがたくさん本やWebメディアで紹介されています。

 ポイントを簡単にまとめると以下の3点があります。

現場に何度も足を運び、潜在ニーズ把握したうえでの提案
営業チーム運営の平均値を上げるための組織的な育成とノウハウ共有
スケジュールは1分刻みで徹底した合理性と高い意識

 もちろんキーエンスの営業手法に学ぶべきポイントはたくさんあります。ただし、営業生産性の低さは、それぞれの会社固有の要因に根差しています。そのため、表面的に他社の手法を真似て、営業効率化を目指しても改善は難しいのが現状です。

 まずは、自社の非効率の根本原因を深く掘り下げ、現場発のアイデアと経営陣の強い意思決定を組み合わせて進めることをおすすめします。