目次

  1. 自動車整備の事業規制見直し、7つのポイント
    1. 整備技術の変化に対応する設備要件の見直し
    2. 指定工場(大型)の最低工員数の緩和
    3. 自動運転車の検査員要件の強化
    4. 自動車整備士資格の実務経験年数の短縮
    5. 「電子」点検整備記録簿の解禁
    6. オンライン研修・講習の解禁
    7. スキャンツール等による点検可能範囲の拡大

 国交省によると、自動車整備の事業規制の法改正・制度改正のポイントは以下の通りです。

  1. 認証工場の機器要件の見直し
  2. 指定工場(大型)の最低工員数の緩和
  3. 自動運転車の検査員要件の強化
  4. 自動車整備士資格の実務経験年数の短縮
  5. 「電子」点検整備記録簿の解禁
  6. オンライン研修・講習の解禁
  7. スキャンツール等による点検可能範囲の拡大

 それぞれについて詳しく解説します。

 自動車技術の変化を踏まえ、認証工場の機器要件を見直しました。「道路運送車両法施行規則」に定める自動車特定整備事業場が備えるべき作業機械等について、2025年7月8日に公布・施行しました。

 ただし、以下の整備用スキャンツールの義務付けは、認証の新規取得時又は事業場移転時から適用されます。

認証工場の機器要件の見直し
認証工場の機器要件の見直し

 具体的には、これまで必須とされてきた機器の中には、タイヤの傾きを測定する「トーインゲージ」「キャンバー・キャスタ・ゲージ」「ターニング・ラジアス・ゲージ」の3種類が設置不要となります。これは、現在ではアライメントテスタでの測定や外部委託が一般的になっているためです。

 原動機、動力伝達装置、操縦装置、制動装置及び緩衝装置の分解整備をする事業場について、整備用スキャンツールを追加します。ただし、大型特殊自動車または二輪の小型自動車を対象とする事業場を除きます。

 ホイール・プーラ、ベアリング・レース・プーラ、グリースガン、シャシ・ルブリケータについて、普通自動車(大型)、普通自動車(中型)または大型特殊自動車を対象とする事業場に限って備えることとします。

 さらに、エンジンやバッテリーの機能確認のための「比重計」「エンジンタコテスタ」「タイミングライト」の3種類についても、整備用スキャンツールやバッテリーテスタがあれば設置不要とされます。これは、これらの機器の機能がスキャンツール等で代替可能となったためです。

 自動車整備業界が直面する大きな課題の一つが、人手不足です。この課題に対処するため、指定工場(いわゆる民間車検場)の最低工員数が見直されます。

指定工場(大型)の最低工員数の緩和
指定工場(大型)の最低工員数の緩和

 これまで通達で定められていた指定工場が最低限配置すべき工員数は、点検整備・検査における分業体制を考慮したものでした。

 しかし、近年は省力化のための設備・機器が普及しているにもかかわらず、人手不足を理由に指定を返上せざるを得ない事業者も生じており、地域の整備能力不足が懸念されていました。

 そこで以下の改正が2025年7月8日に公布・施行しました。

 以下の4つの要件を満たす指定工場(大型)について、最低工員数が従来の5人から4人に緩和されます。

  • 省力化設備・機器が導入されていること
  • 合理的な管理体制が適切に確保されていること
  • 工員の処遇が確保されていること
  • 工員の質が適切に確保されていること

 ただし、安指定工場(中型・小型・二輪)の最低工員数(4人)については、引き続き調査・検討します。

 自動運転技術の進展は、自動車の検査体制にも影響を与えます。指定工場における検査は、原則として自動車検査員が行うこととされていますが、自動運転車(レベル3・4の自動運行装置を搭載した車両)の検査を行う自動車検査員には、新たに「1級自動車整備士」資格の保有が義務付けられます。

自動運転車の検査員要件の強化
自動運転車の検査員要件の強化

 2025年7月8日に公布され、この要件は2029年4月1日から施行される予定です。ただし、施行日時点で自動運転車の検査を行っている指定事業者は、4年の間、2級の自動車検査員にも自動運転車の検査を行わせることができると定めています。

 自動運転車は電子制御装置の塊であり、その検査には電子制御に関する高い専門性が必要とされています。この改正は、高度な知識と能力を持つ1級自動車整備士に検査を限定することで、自動運転車の安全性を確保することを目的としています。

 同時に、これは1級自動車整備士の価値向上にも資すると考えられていますが、自動運転車の普及に対して十分な数の1級自動車整備士が存在する必要があるという課題も指摘されています。

 自動車整備士のなり手不足も深刻な問題です。特に、高校卒業後に3級自動車整備士資格を取得してから2級取得までに3年を要する実務経験期間は、若者が整備士を諦める要因の一つとされていました。

自動車整備士資格の実務経験年数の短縮
自動車整備士資格の実務経験年数の短縮

 そこで、「自動車整備士技能検定規則」に定める技能検定の受験資格の改正を2025年7月8日に公布・施行しました。

 具体的には、2級、3級、特殊の自動車整備士資格を取得するために必要な実務経験期間が短縮されます。

  • 2級自動車整備士:3年 → 2年
  • 3級自動車整備士:1年 → 6ヵ月
  • 特殊自動車整備士:2年 → 1年4ヵ月

 また、整備業務のデジタル化も促進します。これまで紙での備え付けが義務付けられていた「点検整備記録簿」について、携帯電話等への「電子的方法」による保存が認められます。

「電子」点検整備記録簿の解禁
「電子」点検整備記録簿の解禁

 「国土交通省の所管する法令に係る民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則」の改正を2025年7月8日に公布・施行しました。

 整備工場は記録簿を電子的に発行できるようになりますが、求められた場合に速やかに、かつ明確な状態で提示できることが条件となります。(紙による保存も引き続き可)

 電子的な保存方法として、以下のような例があります。

  • スマートフォン等の保存ファイル
  • SDカード等の外部メディアの保存ファイル
  • 紙の点検整備記録簿のスキャンファイル

 2025年7月8日から「整備主任者研修(法令)」「自動車検査員研修」「養成施設における学科講習」といった、これまで対面が原則であった研修・講習についても、オンライン方式を解禁します。

オンライン研修・講習の解禁
オンライン研修・講習の解禁

 ライブ配信、サテライト配信、動画配信といった形式が許容され、講師と受講者双方にとって柔軟な対応が可能となり、人材の効率的な活用につながる可能性があります。

 ただし、実技講習は、引き続き、対面で実施する必要があるので注意しましょう。

 最後に、目視による確認が中心であった各装置の点検において、スキャンツール等による確認でも代替可能な範囲が拡大されます。2025年7月8日に公布され、10月8日に施行します。

スキャンツール等による点検可能範囲の拡大
スキャンツール等による点検可能範囲の拡大

 例えば、日常点検の「ブレーキ・ペダルの踏みしろ、ブレーキのきき」や、定期点検の「ブレーキ・ペダルを踏み込んだときの床板とのすき間」「倍力装置(ブレーキ・ブースター)の機能」「二次空気供給装置の機能」「排気ガス再循環装置の機能」などがその対象となります。これにより、点検整備に要する作業時間の短縮が図られると見込まれています。