目次

  1. まいばすけっととは セブン-イレブンが最も警戒する相手とも
  2. まいばすけっとの特徴 高密度な店舗網
  3. 売上高が増加する一方で営業利益が低下
  4. まいばすけっとが進める「3つの改革」と今後の展望
    1. PB「トップバリュ」の積極導入でM・Z世代に訴求
    2. セルフレジを一気に導入 オペレーションを最適化
    3. 単身世帯中心からファミリー世帯の立地へ

 「まいばすけっと」はイオングループの「都市型小型食品スーパー」です。東京、神奈川、埼玉、千葉に1152店舗(2024年6月7日時点)を展開しています(イオン北海道が展開する札幌市の42店舗は経営が別のため除く)。

東京・中野区の「まいばすけっと」。2020年築のマンション1階に入居。駐車場を持たず、住宅地に立地する典型的な店舗(画像は全て筆者撮影)
東京・中野区の「まいばすけっと」。2020年築のマンション1階に入居。駐車場を持たず、住宅地に立地する典型的な店舗(画像はすべて筆者撮影)

 早朝から23時、24時まで営業する店が多く、コンビニ的な使われ方をしています。店舗はコンビニ退店跡地への出店が多く、近年はファミレスやパチンコ店の跡地にもオープンしています。

 高齢化と人口減少、実質賃金の減少など、厳しい環境下の小売業の中で「株式会社まいばすけっと」は着実に店舗を増やしており、既存のスーパーマーケットやコンビニが築いたマーケットを侵食しながら勢力を拡大しています。今、セブン-イレブンが「まいばすけっと」を最も警戒する競合と見ている、といった話しも聞こえてきます。

 この記事では「まいばすけっと」が、もう一段上の成長を加速させるため、新たな導入した主な3つの改革について解説していきます。

 その前に「まいばすけっと」の概要と、過去5年の業績に少し触れておきます。

 「まいばすけっと」の店舗展開は2005年12月に横浜市保土ヶ谷区からスタート、東京23区、川崎市を中心に商勢圏(ドミナント)を築き、2021年10月に千葉県、埼玉県に初出店、22年1月に1000店舗を達成しました。

 コンビニ同様に小商圏ドミナント戦略による高密度な店舗網を展開、運営はコンビニのフランチャイズ方式と違って、すべて直営店方式。

 店長は複数店を掛け持ち、効率の良い運営に注力しています。売場面積はおよそ40坪以上から80坪くらいまで。営業時間は店舗により異なり、7時開店、24時閉店が多いようです。

2024年3月、横浜市にマーケティングを意識した「まいばすけっと仲町台駅南店」をオープン。イオンPBのトップバリュの比率を半分にまで高めた。売場面積は83坪と既存店と比較して広い
2024年3月、横浜市にマーケティングを意識した「まいばすけっと仲町台駅南店」をオープン。イオンPBのトップバリュの比率を半分にまで高めた。売場面積は83坪と既存店と比較して広い(以下の写真はすべて同店)

 品揃えは、おにぎりやサンドイッチ、弁当も扱いますが、コンビニと比較して生鮮品と日配品の品揃えが厚く、酒や飲料、菓子などのナショナルブランド(NB)商品を、食品スーパー同様に低価格で提供する点に強みがあります。同社は非上場企業であり、経営内容に関して多くを開示していません。ここでは決算公告から見ていきます。

青果物の充実がコンビニとの決定的な違い。鮮度管理の体制を確立、購買頻度の高い野菜で、来店頻度の向上を図る
青果物の充実がコンビニとの決定的な違い。鮮度管理の体制を確立、購買頻度の高い野菜で、来店頻度の向上を図る
店舗数(期末) 対前期増減 全店平均日販(推定)
2020年2月期 846 81 585千円
2021年2月期 921 75 618千円
2022年2月期 1000 79 597千円
2023年2月期 1055 55 594千円
2024年2月期 1119 64 648千円

※2019年3月1日から24年2月末まで354店舗増。全店平均日販≒(売上高÷年間日数)÷期中平均店舗数[(前期末店舗数+当期末店舗数)÷2]

 店舗数は、コロナ禍直前の2020年2月期(2019年3月1日~)から2024年2月期までの5年間で354店舗を純増(開店数から閉店数を引いた数)させています。これは直近5年間で、全店舗数(1119店舗)の比率で約32%を増やした計算になります。

 国内セブン-イレブンを同様の計算で求めると、直近5年間で659店舗を純増させ、全店舗数2万1535店舗の約3.1%の増店になります。

 「まいばすけっと」は、セブン-イレブンと母数の桁が違いますが、店舗数の伸び率から見れば約10倍の差があり、確かに警戒して然るべき相手といえます。売上高も直近では前期比15.8%の増加、同時に原価率も抑制されています(図表)。

売上高 対前期比 売上原価 原価率
2020年2月期 1723億8100万円 112.1% 1281億9500万円 74.4%
2021年2月期 1994億3200万円 115.7% 1481億1800万円 74.3%
2022年2月期 2093億4600万円 105.0% 1558億400万円 74.4%
2023年2月期 2226億9800万円 106.4% 1661億3200万円 74.6%
2024年2月期 2578億1900万円 115.8% 1915億3000万円 74.3%

 一方で2023年2月期は厳しい決算となりました。売上、店舗数ともに増加させながら、営業利益率が0.8%まで落ち込みました(図表)。

販管費 売上高対販管費率 営業利益 売上高対営業利益率
2020年2月期 430億8800万円 25.0% 20億400万円 1.2%
2021年2月期 482億8500万円 24.2% 41億7700万円 2.1%
2022年2月期 516億6800万円 24.7% 33億5700万円 1.6%
2023年2月期 564億4100万円 25.3% 18億8800万円 0.8%
2024年2月期 608億5900万円 23.6% 74億8600万円 2.9%

 日本のスーパーマーケットは営業利益率が2~3%あれば優良といわれます。4%を超える超優良企業もありますが、多くは2%を切っている状況です。「まいばすけっと」の0.8%は危険水域です。要因は、全店平均日販の低下、原価率の上昇、販管費率の上昇が営業利益、営業利益率の減少をもたらした要因です。

 ところが翌2024年2月期にはV字回復を達成します。営業利益が4倍以上に拡大、営業利益率も2.9%と優良といわれる領域に入りました。1年間で大きく改善したのです。2024年4月の決算会見で、グループの持ち株会社であるイオン代表執行役社長の吉田昭夫氏は次のような期待を込めます。

 『首都圏については戦略的小型店として「まいばすけっと」が、居住地からの至近性と、継続的に行ってきたオペレーションの最適化、そして(イオンの)プライベートブランド「トップバリュ ベストプライス」の安さ、そういった提供価値により存在感を高めています。2024年2月期の営業利益は前年から約55億円増加して、営業収益、営業利益、営業利益率の全てにおいて過去最高となりました。今後は開発体制をさらに強化して出店を加速、首都圏でのシェアアップを早めていきます』

 その開発体制強化の元となる昨今の改革について、解説していきます。

 第1にイオングループのPBトップバリュを積極的に導入したこと。「まいばすけっと」は、コンビニと比較して「低価格」が支持される大きな要因です。ナショナルブランド(NB)の安さもありますが、近年は価格優位性を持つPBトップバリュの構成比を高めています。

豆乳の品揃えは、写真の4アイテム全てがイオンのPB。PB比率を高めることが、価格競争に陥らず、消費者にお値打ちな商品を提供できるイオングループの基本戦略
豆乳の品揃えは、写真の4アイテム全てがイオンのPB。PB比率を高めることが、価格競争に陥らず、消費者にお値打ちな商品を提供できるイオングループの基本戦略

 PBトップバリュのグループ全体での売上高は24年2月期で前期10.9%増の1兆10億円。スーパーマーケット業界でディスカウント勢力が台頭する中、イオングループとして、顧客にお値打ちな商品を提供し、かつ適正な利益をうるためにはPBの拡充が必須と捉えています。

 「まいばすけっと」も、グループ戦略の一環として、トップバリュ構成比を従来2割程度から、その比率を高めている途上にあります。値入れも良く、品揃えの選択肢も増えているので、売上、利益への貢献度が高いと判断しているのでしょう。

 加えて「まいばすけっと」は、トップバリュが開発を強化するM・Z世代向けの商品を取り込んで若年層の集客を図っています。M世代とは、1980~95年頃の間に生まれた世代を指し、Z世代は、それ以降(96年~)、2010年代序盤までに生まれた世代を意味します。今でいうと40代前半から下の世代のイメージです。

 もともと「まいばすけっと」や、2000年代に急拡大した「SHOP99」(ローソンストア100に吸収)といった都市型小型食品スーパーは、高齢者をメーンターゲットに成長しました。自宅の近隣で、少量の食材を、低価格で購入したいニーズに合致したからです。店舗数が増えるに従い、客層も広がりますが、それでも「まいばすけっと」ではM・Z世代が相当に弱いと考えていました。

 そこで、23年度からM・Z世代に向けた商品を徐々に投入、さらに24年3月、横浜市にマーケティングを意識した「まいばすけっと仲町台駅南店」をリニューアルオープン、トップバリュを品揃えの中心に置き、中でもM・Z世代に向けた商品を前面に押し出して、新しい「まいばすけっと」の姿を示しています。

青果物の充実がコンビニとの決定的な違い。鮮度管理の体制を確立、購買頻度の高い野菜で、来店頻度の向上を図る
青果物の充実がコンビニとの決定的な違い。鮮度管理の体制を確立、購買頻度の高い野菜で、来店頻度の向上を図る

 仲町台駅南店は、トップバリュを既存店舗の2倍以上となる1600SKU(1600単品)を品揃えし、全体3300SKUの5割弱の構成比としました。トップバリュが、どの程度の支持を集められるのか、加えてM・Z世代に向けた品揃えで集客できるのかに、「まいばすけっと」およびイオングループは注視しています。

 まいばすけっと代表取締役社長の岩下欽哉氏は実験店舗の意義を次のように語っています。

 「日本経済がインフレに進んでいます。節約志向がいっそう強まっており、食品を中心にPB商品が注目を集めています。仲町台駅南店はトップバリュ商品を拡大して、売れ筋の生活必需品を中心に品揃えしました。加えて、“トキメクおやつ部”シリーズとか、“Bar-ish(バーリッシュ)”シリーズといった、新たな軸となる商品を品揃えすることで、M・Z世代のお客さまにも来店いただけると期待しています」

店舗入り口すぐに陳列した“トキメクおやつ部”シリーズ。「まいばすけっと」の次の時代を支えるZ世代に訴求する
店舗入り口すぐに陳列した“トキメクおやつ部”シリーズ。「まいばすけっと」の次の時代を支えるZ世代に訴求する

 高齢の客層は「まいばすけっと」にとって、底堅い支持層ですが、現状を維持するだけでは店舗やブランドに未来は見えません。高齢者のニーズを裏切らず、加えてM・Z世代への訴求により、客数をプラスオンしていく戦略をとっています。

 改革の第2はオペレーションの最適化。例えばコンビニでは、レジ精算に業務時間の3割から4割が当てられます。たばこやアルコール販売は20歳以上の確認が必要なので、セルフレジの利用はできませんが、それ以外をセルフ化していく努力は必要です。

 「まいばすけっと」はレジのセルフ化に(是非は置いて)遅れていましたが、ここ数年で急速に導入が図られているようです。人件費の適正化を進めるのであればセルフレジの導入が不可欠であり、「まいばすけっと」は取り組みを進めている最中にあります。

 改革の第3は出店エリア。“改革”という言葉は適切でないかもしれませんが、(関係者の話しによると)出店エリアの拡大が日販向上に寄与しているようです。「まいばすけっと」が2005年の横浜市からスタートしたのは前述の通りですが、同じ「首都圏」の千葉、埼玉に出店を始めたのが意外と遅く2021年からです。

 2021年10月22日、千葉県市川市に「南行徳メトロセンター店」、同日、埼玉県川口市に「川口中青木5丁目店」をオープン、2024年6月7日時点で、千葉県に23店舗、埼玉県に14店舗まで広げています。

 都心と比較すると、あくまで傾向としてですが、千葉、埼玉はファミリーの需要が高くなります。家族分の食材を購入すれば、単身世帯が主力の都心と比較して、客単価はアップします。そこに客数がついてくれば1店あたりの日販は高くなります。店舗はオープンして、2年目、3年目に認知度が上がり、売上も上昇しますから、2021年10月から始まった千葉、埼玉への出店が、2023年度の売上に貢献していると考えます。

 2024年度は、2024年6月7日時点まで36店舗がオープン、内訳は東京23区が18店舗、それ以外の東京が1店舗、千葉県9店舗、神奈川県7店舗、埼玉県1店舗です。東京23区は従前通りとして、特に千葉県への注力が伺えます。

 「まいばすけっと」は自らを「都市型小型食品スーパー」と規定しています。“都市型”とは徒歩か自転車での来店を前提に、駐車場を持たない店舗を意味します。まれに駐車場付きの店舗もありますが、前の物件をそのまま使用しているのでしょう。

 「まいばすけっと」が、仮にですが、業態の位置付けを拡大させて、大手コンビニのように全国展開を志向するのであれば、まだまだ先の話しですが、駐車場付きの車客主体の店舗で、果して成立するのかどうかが一つのカギになります。