レガシーシステム脱却へ 経産省レポート「中小企業は脱オーダーメイド」

経済産業省は、多くの企業が抱えるレガシーシステムからの脱却に向けた課題と対策をレポート「DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて」にまとめました。レガシーシステムが原因でトラブルが頻発するとされる「2025年の崖」を迎え、経営者がリーダーシップを発揮することを求めつつ「経営資源の制約の大きい中堅・中小企業は、オーダーメイドのスクラッチ開発は避け、パッケージやSaaSを原則とすべき」だと指摘しています。
経済産業省は、多くの企業が抱えるレガシーシステムからの脱却に向けた課題と対策をレポート「DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて」にまとめました。レガシーシステムが原因でトラブルが頻発するとされる「2025年の崖」を迎え、経営者がリーダーシップを発揮することを求めつつ「経営資源の制約の大きい中堅・中小企業は、オーダーメイドのスクラッチ開発は避け、パッケージやSaaSを原則とすべき」だと指摘しています。
目次
2025年の崖とは、2018年に経産省の「DXレポート」で指摘したレガシーシステムが足枷となりDXが進まないことでデジタル競争の敗者となり経済損失が発生するリスクのことを指しています。
最近では、生成AIなどの最新デジタル技術の進化が加速する一方で、既存システムが足枷となり、これらの技術活用や連携がスムーズに進まない問題も生じています。さらに中長期的には、次のような問題も起こる可能性があります。
こうしたなか、経産省は「レガシーシステムモダン化委員会」での議論から、DXおよびレガシーシステムに関する問題と対処の方向性についてレポートにまとめました。
レポートによると、レガシーシステムとは、運用維持保守や機能改良が困難な状態に陥り、経営・事業戦略上の足枷、高コスト構造の原因となっているシステムのことを指しています。
その要因としては、以下の経営・組織文化的な課題が挙げられています。
レガシーシステムと聞くと、中小企業の課題ととらえるかもしれません。しかし、市場動向調査によると、ユーザー企業の61%がレガシーシステムを保有しており、むしろ大企業の方が74%と保有率が高い状況です。
DXは単にレガシーシステムを刷新することに留まりません。DXとは、企業が激しいビジネス環境の変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズにもとづいて製品・サービスやビジネスモデルを変革するとともに、業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することだと指摘しています。
DXの本質は、レガシーな企業文化からの脱却と変革にあります。
レポートは、レガシーシステムの脱却を進める上で重要なポイントを挙げています。ツギノジダイの取材のなかから実践している企業もあわせて紹介します。
レポートは、経営層のトップダウン方針なしにはレガシーシステムの脱却は進まないと指摘しています。「可視化や内製化、標準化や現行踏襲の見直しを進めるには、経営者の覚悟と強力なコミットメントが不可欠である。特にITを知らない経営層、リスクテイクに消極的な経営層は、レガシーシステムのモダン化を経営課題と捉え、覚悟を持って決断するよう意識を変えなければならない」
さらに、組織作りにも言及しています。
経営者のリーダーシップでいうと、トヨタの一次サプライヤー「Tier1」である旭鉄工社長で、IoTとデータを駆使して製造現場のカイゼンに努めている木村哲也さんは、自著データなどを生成AIに学習させた「AIキムテツ」を作成し、経営者の仕事の一部を任せています。
旭鉄工は事業承継をきっかけに、組織文化の変革に着手。常に新しいカイゼンに取り組んでいます。具体的には、PDCAのうち、PLAN(問題確認)とCHECK(効果確認)をIoT化していましたが、「カイゼンの知能化」として、生成AIで構築した「AI製造部長」が200本の製造ラインのIoTデータを自動巡回し、IoTデータを解釈し、「D(カイゼンアドバイス)」も始めています。
地方企業・中小企業は、企業単体ではリソース不足の制約が大きく、レガシーシステムからの脱却が進まないとして「ユーザー企業の垣根を超えた人材の共有と流動、ベンダー企業の開発プロセスの自動化やテンプレート化の推進により開発効率を向上し、モダン化の需要・供給を個社に閉じず、企業間で低減・最適化させていくことが有効と考えられる」と述べています。
中小企業でDXを進めるうえで、課題となるのが人材だといいますが、先行してDXを進めた企業は自社のノウハウを外部に提供しようとしているところも少なくありません。外部の手を借りながら、徐々に自社で人材を育てていくという方法もあるでしょう。
レポートは「大原則として、DXの阻害要因となる現行機能保証や現行踏襲のこだわりは棄て、あるべき業務の姿から検討する」ことを求めています。
現場の仕組みを変えずに、新しいシステムを入れようとするとどうしても自社専用のスクラッチ開発が必要になります。しかし、レポートは、経営資源の制約の大きい中堅・中小企業は、オーダーメイドのスクラッチ開発は避け、パッケージやSaaSを原則とすべきであるとしています。
そのうえで「現状の業務プロセスを見直すことで、投資対効果の許容可能な範囲内で、標準的なパッケージや、クラウドベースのSaaS(Software as a Service)へ移行できるかを最優先で検討する」ことを求めています。
地盤改良工事などを手がけるセリタ建設(佐賀県武雄市)は、後継ぎである芹田章博さんが全業務を把握し、俯瞰した上で抜本的に見直す必要があると考え、まずは自分自身が全業務を深く理解すべく、現場の施工管理業務を4年、その後は営業部門に移るなどして、業務の棚卸しをしていきます。
そのなかで、情報が共有されていないことが、組織の課題の本質ととらえて既存のICTツールをスモールスタートで導入し、徐々に会社全体へと広げていきました。
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