経常利益率20%まで上げた建設DX セリタ建設はマーケティングにも活用
これまでは紙や人力で行っていた各種業務を、デジタル自動化することで効率化し、業績を改善する、いわゆるDXに取り組む企業が増えました。地盤改良工事などを手がけるセリタ建設(佐賀県武雄市)もそんな一社でしたが、2代目の芹田章博さんはデジタルマーケティングにまで活用することで、営業効率を上げ、新規顧客の獲得にも成功。10年前と比べ売上高260%アップ、経常利益率20%との成果を出しています。
これまでは紙や人力で行っていた各種業務を、デジタル自動化することで効率化し、業績を改善する、いわゆるDXに取り組む企業が増えました。地盤改良工事などを手がけるセリタ建設(佐賀県武雄市)もそんな一社でしたが、2代目の芹田章博さんはデジタルマーケティングにまで活用することで、営業効率を上げ、新規顧客の獲得にも成功。10年前と比べ売上高260%アップ、経常利益率20%との成果を出しています。
目次
セリタ建設は芹田さんの父親であり土木工事の技術者であった芹田正登志さんが、1969年に創業しました。地場の土壌が軟弱地盤であることに着目し、特許も取得している掘削装置ならびに工法「マッドミキサー」を独自開発。
地盤を掘削すると同時に地中で土壌を撹拌、さらにはセメント系の固化材を導入することで地盤の強度を高める地盤改良工事に特化した企業として、頭角を表していきます。
事業は順調に拡大し売上高数億円、従業員30人ほどまでに成長します。一方で根っからの技術者だったという父は、経営に関してはほぼノータッチだったそうで、営業も親族の従業員に任せていました。
ところがあるとき、その親族が半数以上の従業員とともに新会社を設立します。すると、会社の業績は一気に傾きます。そんなとき、父はいずれ家業を継ごうと首都圏のゼネコンで土木施工管理技士として経験を積んでいた芹田さんに声をかけます。
芹田さんは30歳。土木施工管理技士1級の資格を取得したころでした。
「前の会社では100人ほどのメンバーを束ねるプロジェクトを任されていましたので、30人程度の家業の工事内容はやや異なりますがまったく問題なくできるだろう。最初はそのように軽く考えていました」
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ところがいざ入ってみると、現場作業員も含め自社の従業員で行っており、メンバーをまとめる人材が不足しており、皆が好き勝手に動いている状態でした。
現場担当者により業務フローもバラバラで、統一されたフォーマットもありません。施工管理や現場の工事部門だけでなく、営業部門も同じでした。
「皆が目の前、目先のことしか見ないで動いているように感じました。全員がボールを追いかけて全員がシュートを打ちたがる。まるで、小さい子がサッカーをやっているような状態でした」
効率の悪さは業績にも反映されていました。売上高は数億円ありましたが、手元に残る利益は数百万円程度。数億円の借金がありましたが、返せる状況ではありませんでした。芹田さんは以前勤めていた会社の業務フローやICTツールの活用などを参考に、改革を進めていきます。
ただし、前の会社を踏襲したわけではありません。
「当時DXという言葉ではありませんでしたが、このような改革は組織の根幹に触れ、組織の構造や文化を変革するセンシティブかつ、重要な取り組みです。そのため単にICTツールなどの技術を導入するだけでは、小手先で終わってしまう。ビジネスモデルや従業員のマインドまで改革する必要がありました」
実際、営業部門ではITツールは導入していました。しかし、成果は出ていませんでした。
根本から改革するためには改めて全業務を把握し、俯瞰した上で抜本的に見直す必要があると芹田さん。「業務の棚卸し」との言葉で表現するとともに、まずは自分自身が全業務を深く理解すべく、現場の施工管理業務を4年、その後は営業部門に移るなどして、業務の棚卸しをしていきます。
その結果、情報が共有されていないことが、組織の課題の本質ととらえました。原価や進捗管理で営業・工事部門が連携していないため、営業が受注していない工事も現場は実施しているような状態でした。
現場部門に予算の情報が共有されていないため、予算には合わない材料を使ってしまうこともありました。
そこで、芹田さんは、同じような課題を改善した企業を参考にすることにしました。DXセミナーなどに参加し成功事例を聞いたり、ITCツールを開発しているベンダー主催のイベントなどにも積極的に参加したりします。
東京にも何度も足を運び、実際にツールの開発者や利用者とコミュニケーションし、どのような点がよいのか。どの機能が優れているのか。費用対効果など、詳しく聞いていきます。
積極的に動く、他者の成功事例を参考にする姿勢は、芹田さんが経営者として心がけていることでもあります。たとえば工事の技術開発において、参考にした専門書の著者に連絡を取り、詳しい内容を聞くようなアクションを起こしてきました。
その結果、当時、日本ではサービスがスタートしたばかりのSalesforceの導入を決めます。
国内の類似ツールと比べると値段は張りましたが、既定のプラットフォームが充実している一方で、カスタマイズ機能を搭載していること。各部署、各人がバラバラに管理していた情報やデータを一元管理ならびに、誰でも簡便に閲覧できること。マーケティングにも使えるといった点が、決め手でした。
費用はIT補助金など補助金をしらみつぶしに探し、応募することで捻出しました。
改革は全体を把握することから始めましたが、実際に推進する際は成果が出やすい、分かりやすいところから小さくはじめるのがポイントだと言います。
まずは営業部の若手メンバーに、これまで紙やExcelなどで行っていた顧客・進捗管理が圧倒的に楽になることを伝えるとともに、実際にSalesforceを使ってもらい、成果を感じてもらいました。
「実際に使用して効果が分かれば、あとは自然と他のメンバーにも広めていってくれるからです。そうしたら次は新しいツールを導入する。そのように少しずつスモールスタート、スモールステップでDXを浸透させていきました」
営業部門での評判が高まったのを見計らい、工事部門や経理部門にも浸透させていきます。Salesforceでは工事状況を記載すれば自動でレポートが作成・配信されるため、以前のようにアナログの日報などを、報告・提出するフローがなくなりました。
営業部門や経理部門と情報を共有しているため、契約内容と異なる工事や発注を依頼された場合には、確認した上で進めるような体制にも変わりました。
Salesforceを導入してから10年、経常利益率は約20%にまで高まりました。
地場産業的な要素が強い建設工事では、営業を多くそろえ御用聞きのような体制で顧客企業をまわり、案件を獲得するとスタイルが一般的でした。しかし、会社の知名度や規模が優先されることも多かったと、芹田さんは悔しがります。
そこでWebを活用したマーケティングをすることで、従来の営業スタイルからの脱却を目指します。冒頭で説明したような独自技術や実績、ノウハウを積極的に発信する営業スタイルを目指したのです。
具体的には、これまでのノウハウなどをコーポレートサイトにとまとめて、分かりやすく発信、ホワイトペーパーや資料としてダウンロードできるようにもしました。並行して、Facebook、note、You TubeといったSNSやセミナーなどを活用し、内容の拡散にも努めました。
コンテンツの作成は、クラウドワーカーと呼ばれる外部の人材を活用することで、従業員に新たな負荷を課すことなく、進めました。そしてコロナ禍になると、リアルな営業が難しくなったことで、デジタルマーケティングの効果が急速に高まります。
問い合わせや受注先は九州全体を飛び越え全国にまで広がり、ゼネコン、コンサルティング会社、行政と領域も多様に広がりました。売上高は10年前と比べ260%アップの約8億円、その内15~20%がWeb経由だといいます。
一方で、従業員のマインド変化を促すため、業務効率化で得た利益を実績賞与として支給しました。
さらには賞与アップだけでなく、基本給のベースアップも実施。有給休暇が取得しやすい環境や、業務効率化により労働時間は減っていることで、従業員のモチベーションアップはもちろん、採用における差別化要素にもなっています。
2022年には同規模の建築会社を買収。グループの売上高は一気に倍近く、15億円にまでなりました。自社で整備した土地に建築するとのシナジーを考えてはもちろんですが、社内で推進してきたDXを買収した会社にも適用していきたいと、芹田さんは言います。
今後は買収だけでなく自社が取り組んできたDXをコンサルティングサービスとして、他の企業に提供していく考えもあるそうです。
「自社で進めてきたノウハウを横展開することで、業務改善で苦労している企業が元気になる。特に弊社のような地方の中小企業であっても、利益を生み出す体制に変わることができる。全国のお客様を相手にビジネスができるようにもなる。そのような企業を増やすことで地方を元気にするのが私の目標です」
この記事は、グロービス経営大学院とツギノジダイが芹田さんを招いて開催した事業承継に関するオンラインセミナーをもとに、再取材しました。
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