目次

  1. 客単価とは?
    1. 客単価とは
    2. 客単価が重要な理由
  2. 客単価の具体的な計算方法
  3. 客単価が下がる原因
    1. 戦略や計画を立てずに値下げ
    2. キャンペーンや割引の過度な提供
    3. 商品やサービスの品質が低下
  4. 客単価を上げる方法4選
    1. 商品やサービスの単価を見直す
    2. バンドル販売によるまとめ買いを促す
    3. 3つの価格設定を用意する
    4. アップセル・クロスセルを狙う
  5. 【事例】客単価を上げる取り組み
    1. 事例① 洋菓子店の例
    2. 事例② 蕎麦店の例
  6. 客単価の向上に取り組みましょう

 客単価は、小売業が売上を上げていくために、もっとも重要視すべき指標の1つとなります。ビジネスの企画段階だけでなく、実際の事業活動に入ってからも常に管理・計測していくことが大切です。

 客単価とは、顧客が一度の買い物で支払う平均金額のことです。客単価は、「特定の期間の総売上」÷「その期間の総顧客数」で計算します。総売上100万円、総顧客数が200人の場合、客単価は5,000円です。

 なお、客単価は、「特定の期間」の長さによって捉え方が変わることがあります。アイスクリーム店など、季節によって売上が変動する事業を例に考えましょう。

 夏季や冬季など「特定の期間」における売上変動の要因が多い場合、その要因が顧客数なのか、客単価なのかを正確に把握し、分析することが重要です。例えば、特定期間に冬季を入れているため、客単価が下がっているかもしれません。単純に客単価が下がっていることも考えられます。

 客単価を理解し、分析することは、経営管理をおこなううえで極めて重要であるといえます。客単価が重要な理由は以下のとおりです。

重要な理由 詳細
収益性の指標 ・ビジネスの収益性を知るための基本的な指標である
・将来の売上や利益を予測する際の基盤指標となる
製品戦略の見直し ・収益性の高い商品や客単価を下げる要因が特定できる
・商品ラインナップの見直しや新製品の開発に取り組める
競合分析に利用 ・どちらが高い価値を提供しているのかを分析できる
・競合との品揃えやサービスの違い、販売戦略の差などを分析できる
・新たな機会や改善点を見つけられる

 客単価の具体的な計算方法は以下のとおりです。

「客単価」 = 「特定の期間の総売上」 ÷ 「その期間の総顧客数」

 具体例を使い、計算してみましょう。 

【例①】
 飲食店の、ひと月の売上高が100万円、その月の総顧客数が500人だった場合、客単価は2,000円/人になります。計算方法は以下のとおりです。

1,000,000円 ÷ 500人 = 2,000円/人

 また、客単価を計算する際には「期間」が大切な概念となります。もうひとつ具体的な例を用いて説明します。

【例②】
 営業時間が10時から21時のアパレルショップ(決算期12月)があったとします。1月から3月の第1四半期、10時から13時までの客単価を求める場合は、まず営業時間ごとの売上高と来客数を整理します。仮に以下のような結果だったとしましょう。

売上推移 営業時間 売上高(円) 来客数(人)
1月 10時〜13時 312,500 125
13時〜17時 650,000 250
17時〜21時 400,000 200
2月 10時〜13時 260,000 100
13時〜17時 480,000 200
17時〜21時 637,500 250
3月 10時〜13時 344,500 130
13時〜17時 630,000 260
17時〜21時 562,500 225

 この場合、第1四半期の10時から13時までの客単価は、2,583円/人になります。計算方法は以下のとおりです。

(312,500円+260,000円+344,500円)÷ (125人+100人+130人)= 2583.09円/人

 事業を運営していると、今期の客単価が前期よりも下がっている……といったケースがしばしばあります。とあるラーメン店では、多くの人が替え玉を頼むため、替え玉1つ無料キャンペーンをおこないました。しかし、思ったように客数が伸びなかったため、キャンペーン前より客単価が落ちてしまいました。

 このように客単価が下がる原因はさまざまありますが、代表的なものとして以下の3つが挙げられます。

  1. 戦略や計画を立てずに値下げ
  2. キャンペーンや割引の過度な提供
  3. 商品やサービスの品質が低下

 無計画な値下げは、客単価を下げることにつながります。

 値下げをすることで販売量が増え、一時的に売上が上がるように見えるでしょう。しかし、一度値下げをおこなった場合、さらなる値下げを期待する顧客が少なからず出てきます。

 その結果、単価を戻したときの買い控えを誘発するなど、客単価の低下につながることがあります。

 また、顧客によっては、値下げされたことで商品やサービスの価値が低いのかと感じることがあるでしょう。例えば、高額な商品は多くの人が高品質であるという認識を持っています。しかし、価格を下げたことで品質が低いという認識に変わり、購買意欲が低下する可能性があります。

 特に、価格弾力性の高い商品の値下げは注意が必要です。

(※)価格弾力性の高い商品とは
価格弾力性とは、商品価格が変動した際の、需要と供給の変化の割合を示す値。
価格弾力性の高い商品とは、値下げをすると販売量が増えやすく、値上げをすると販売量が減りやすい商品のこと。

 価格弾力性の高い商品の代表例は、①貴金属・不動産・車・高級腕時計といった嗜好品や、②シャンプーや洗剤といった日用消耗品などです。競合が多い、大衆消費者向け商品などが該当します。

 価格弾力性の高い商品を値下げすると、一時的に販売量が増加し売上が上がる可能性もあります。しかし、値下げ後の単価の恒常化や、単価を戻したときの販売量低下など反動も大きくなるでしょう。

 キャンペーンや割引を過度に提供することは、中長期的に客単価の低下を招く恐れがあります。これにはいくつかの理由があります。

理由 詳細
期待価格の形成 顧客は値引きされた価格が通常価格だと感じるようになる。その結果、通常価格では購入が控えられる可能性が高まる
価値の認識の低下 低品質なため価格が下げられていると誤解され、価値を下げる可能性がある。客単価だけでなく、客数が低下する可能性がある
競合店への価格波及 競合店も価格を下げることで、競争価格帯そのものが下がる可能性がある

 商品やサービスの品質が低下したと感じたことがある顧客は、そのブランドや店舗への信頼を失いやすくなります。具体的には、購入したA商品の品質が低下したと感じた顧客は、今後A商品を購入することはないでしょう。

 さらに、そのブランドに対する信頼を失い、B商品などほかの商品も購入しなくなる可能性があります。

 一度品質が低下したと感じた顧客は、リピート購入の確率や購入頻度が減少するため、客単価の低下を引き起こす可能性があります。

 では、客単価を上げるためにはどのような方法が考えられるでしょうか。以下に4つの方法をご紹介します。

  1. 商品やサービスの単価を見直す
  2. バンドル販売によるまとめ買いを促す
  3. 3つの価格設定を用意する
  4. アップセル・クロスセルを狙う

 商品やサービスの単価を見直し、値上げをおこないます。シンプルな方法ですが、客単価を上げるには効果的です。

 なお、値上げをおこなう際は、値上げに対する顧客の納得感を得ることが重要です。値上げの要因や、新しい価値を丁寧に説明しましょう。

商品やサービスの単価を見直すときのポイント

顧客の「納得感」を得ることが重要。例えば……

・原材料価格や人件費の高騰による場合→コスト構造と売上原価の変化を説明
・より素材にこだわった商品開発をおこなった場合→品質向上を説明
・新しい機能追加で従来より性能が向上した場合→機能や性能の向上を説明

 バンドル販売により、一度の来店でより多くの商品を購入することを促すのも客単価を上げる有効な方法です。

 バンドル販売とは、同一の商品や関連する商品をセットで販売する方法をいいます。

 顧客の利便性を高めるとともに、単品で購入するより割安にすることで購買意欲を刺激し、客単価の向上を図る手法です。

バンドル販売によるまとめ買いを促すときのポイント

顧客の利便性を高めつつ、単品購入より割安なセットを作ることで購買意欲を刺激する。

【同じ商品をまとめて提供する例】
・肌着を3着購入したら、1着分は無料
・お惣菜、どれでも3つで〇〇円(1つ400円のお惣菜を3つ買えば1,000円など)
・ソフトウェア、5ライセンスパックで購入すると◯万円お得(1ライセンス10,000円、5ライセンスパックなら10,000円お得など)

【関連商品をまとめて提供する例】
・ヘアケアセット:シャンプー+コンディショナー+ヘアオイル
・ワイン&チーズセット:ワイン+ワインに合うチーズ
・贈答用の花束&お菓子セット:ブリザードフラワー+お菓子セット
・ボディ&フットケアセット:ボディケア+フットケア

 「松・竹・梅」や「並・上・特上」のように、3つの価格設定を用意しましょう。複数の価格設定を用意することを「段階的価格設定」と呼びます。

 人は松・竹・梅のように、3つの価格設定が与えられると、真ん中の価格を選びやすくなります。これは行動経済学で「極端回避性」と呼ばれる現象です。

3つの価格設定を用意するときのポイント

・中央の価格に、もっとも販売したい商品を設定する
・客単価が上がるように、3つの商品バランスを変更する

【例】これまで500円のお菓子を4個入り、8個入り、16個入りで販売していたセットを6個入り、12個入り、18個入りに変更する。真ん中の12個入りを中心に販売促進をおこない、客単価2,000円アップを狙う

 アップセルとは、顧客が購入しようとしている商品やサービスよりも上位価格のものを紹介し、客単価を上げる手法のひとつです。機能面やサービス面の違いをしっかりと説明し、顧客の理解と納得感を得ていくことが大切になります。

 クロスセルとは、購入した商品に加えて関連商品を販売し、客単価を向上させる手法になります。

 顧客が購入するかどうか、具体的な検討をおこなう際にアップセルやクロスセルを上手に組み込むことが客単価向上につながります。

アップセル・クロスセルを狙うときのポイント

顧客が購入を具体的に検討している際におこなうのがポイント。例えば……

【アップセルの場合】
・家電量販店で、検討している電子機器よりも上位の性能を持つ商品をおすすめする
・サブスクサービスで、より高機能なメニューへのアップグレードをおすすめする
・アパレルで、顧客が検討している服やバッグより質が高いものをおすすめする

【クロスセルの場合】
・レストランで、メインコースに合わせたワインを提案する
・水着を購入する際、サングラスやビーチサンダルを提案する
・ピザを注文する際、さまざまなトッピングを提案する

 実際の顧客事例をもとに、客単価を上げる取り組みをご紹介します。

 洋菓子の製造小売業の例です。この洋菓子店では、「新商品の開発」と「クロスセル」の2つの施策に取り組み、客単価を上げることに成功しました。

 このお店では、近隣の洋菓子店やコンビニスイーツなどが競合商品となり、客数が大きく伸ばせない状況でした。

 1つ目におこなった施策は、京抹茶や和栗を練り込んだ新しいケーキの開発です。洋菓子に和のテイストを取り込むだけでなく、抹茶や和栗の産地にこだわったことで、ケーキ1つあたり単価を20〜50%ほどアップさせました。

 2つ目の施策は和菓子店と協力し、どら焼きの皮にクリームを挟んだ独自の新商品を開発しました。この商品は、消費期限が短い洋菓子とは異なり冷凍保存できます。

 これにより、すぐに食べたい洋菓子と数日後に食べたい新商品をセットにするクロスセルの機会を生み出しました。結果、客単価を上げることに成功しています。

 蕎麦店の例です。こちらのお店では、営業形態を改善したことで客単価を向上させました。具体的には昼のみの営業に加え、夜は蕎麦居酒屋を営業する業態に転換を図りました。

 こちらのお店はこだわりの蕎麦が地元でも評判で、一定の固定客を獲得している状況です。しかし、近隣の飲食店との競争も激しいうえに、光熱費や原材料費の高騰もあり、客単価の向上に迫られていました。ただ、蕎麦は一度の来店で何杯も食べられません。

 そこで、蕎麦以外のお酒やおつまみのメニューを充実させ、クロスセルを図ります。

 さらに、夜の蕎麦居酒屋の営業を始めたことで、最低1杯のドリンクの注文とお通しの注文が確実に取れるようになりました。この蕎麦店ではこれらの施策により、客単価を上げることに成功しました。

 客単価を上げるためには、顧客が提供される製品やサービスに満足していることが不可欠です。逆に、満足している顧客は、より高い価格の商品やサービスを購入する可能性も高くなるでしょう。

 顧客のニーズに深く対応した施策を実行し、客単価を上げることは、経営の安定化に直結します。また、客単価の向上は新規顧客獲得よりコストが抑えられるという特徴があります。

 この記事では、客単価アップのための施策や、アップセルやクロスセルの機会を提供する方法を紹介しています。これらを実行することで、新規の顧客を獲得するより、相対的に低いコストで売上向上を達成していくことが可能です。

 自社でも適用可能な方法はないか、検討してみてはいかがでしょうか。