目次

  1. 価格弾力性とは 需要・供給の価格弾力性の求め方も解説
    1. 価格弾力性の計算式と計算例
    2. 価格弾力性が大きい・小さいの意味
  2. 価格弾力性の活用法
    1. 新商品・新サービスの価格設定をするとき
    2. 既存商品・サービスの売価を再検討するとき
    3. キャンペーンの実施を検討するとき
  3. 価格弾力性から価格設定するときのポイント
    1. 価格弾力性が大きい場合
    2. 価格弾力性が小さい場合
  4. 価格弾力性は自社の利益につながる重要な値

 価格弾力性とは、商品価格が変動した際に需要、あるいは供給がどのくらいの割合で増減するか示した数値です。

価格弾力性の意味とイメージ
価格弾力性の意味とイメージ(デザイン:増渕舞)

 需要の価格弾力性の場合は、ある商品・サービスの需要量の変化率を価格の変化率で割ったもの、供給の価格弾力性の場合は、ある商品・サービスの供給量の変化率を価格の変化率で割ったものとなります。

 ちなみに、需要の価格弾力性については、計算式で使用する数値を別で計算した場合マイナスになるケースがありますが、絶対値(プラス)とするのが基本です。

 価格弾力性の基準値は「1」です。基準値「1」を下回った場合には価格弾力性が小さいと表現され、基準値「1」を上回った場合には価格弾力性が大きいと表現されます。需要の価格弾力性を考えた場合、野菜や米といった食料品をはじめとした生活必需品は価格弾力性が小さく、高価なアクセサリーをはじめとした贅沢品は価格弾力性が大きくなる傾向があります。

 価格弾力性は、次のような計算式で算出できます。

価格弾力性=需要or供給の変化率(%)÷価格の変化率(%)

 上記の式の中にある「需要or供給の変化率」と「価格の変化率」は、次のような計算式で算出できます。

需要or供給の変化率=(価格変更後の売上数-価格変更前の売上数)÷価格変更前の売上数
価格の変化率=(変更後の価格-変更前の価格)÷変更前の価格

 それでは、2つの具体例を使って価格弾力性の数値を求めてみましょう。

【例1】A飲食店で焼き鳥の価格を20%値上げしたら需要が10%減ったケース

 この場合、求められるのは需要の価格弾力性の値です。

需要の価格弾力性=10%(需要の変化率)÷20%(価格の変化率)=0.5

 ここで算出された“0.5”は基準値である「1」より数値が小さいので、「需要の価格弾性値は小さい」と言えます。

【例2】B菓子店において、月に800個売れていたクッキーの詰め合わせ(500円)を400円に値下げしたところ、月に1000個売れるようになったケース

 この場合は、まず「需要の変化率」と「価格の変化率」を求めます。

需要の変化率=(1,000-800)÷800=0.25(25%)
価格の変化率=(400-500)÷500=-0.2(-20%)

 価格の変化率がマイナスになっていますが、「需要の変化率」と「価格の変化率」は絶対値で表すことになっていますので、需要の価格弾力性を求める際に使う価格の変化率の値は-0.2(-20%)ではなく0.2(20%)とします。

需要の価格弾力性=25%(需要の変化率)÷20%(価格の変化率)=1.25

 ここで算出された“1.25”は基準値である「1」より数値が大きいので、「需要の価格弾性値は大きい」と言えます。

 上記計算式と計算例で示したように、算出した数値が基準値である「1」を下回った場合には価格弾力性が小さいと表現し、基準値「1」を上回った場合には価格弾力性が大きいと表現します。この意味は、需要の価格弾力性と供給の価格弾力性によって異なります。

需要の価格弾力性の場合

 需要の価格弾力性は以下の計算式で求められると、先ほども紹介しました。

需要の価格弾力性=需要の変化率(%)÷価格の変化率(%)

 この計算式を見てわかるように、基準値「1」を上回る数字が算出されるのは、価格の変化率に対する需要の変化率が大きいからです(例えば、価格の変化率が100に対して、需要の変化率が200なら2)。

 そのため、需要の価格弾力性が大きいというのは、価格の変化率に対する需要の変化率が大きいということであり、大きく値上げ(あるいは値下げ)したら需要も大きく変化することを意味しています。需要の価格弾力性が大きいとわかれば、その商品の需要を増やすには価格調整が有効と判断できます。

 需要の価格弾力性が大きい代表的な商品は、宝石・不動産・車といった嗜好品や、洗剤や衣類といった競合が非常に多い大衆向け商品・サービスなどがあげられます。

 一方、需要の価格弾力性が小さいことは、大きく値上げ(あるいは値下げ)しても、需要が変化しにくいことを意味しています。

 需要の価格弾力性が小さい代表的な商品は、食料品や医療品といった生活必需品です。ほかに、競合が少ない理由から、特定の業種のみが使う機械などオリジナリティのある商品や付加価値の高い商品などもあげられます。 

供給の価格弾力性の場合

 次に、供給の価格弾力性について見ていきましょう。供給の価格弾力性は以下の計算式で求められると、先ほども紹介しました。

供給の価格弾力性=供給の変化率(%)÷価格の変化率(%)

 この計算式を見てわかるように、基準値「1」を上回る数字が算出されるのは、価格の変化率に対する供給の変化率が大きいからです(例えば、価格の変化率が100に対して、供給の変化率が200なら2)。そのため、価格が大きく変動すると、供給量が大きく変わることを意味しています。

 典型例として挙げられるのが、生産量を簡単に増やしやすい量産品です。例えば、エアコンの場合、市場価格が上昇するとすぐに増産されるようになります。一般的な仕様のパソコンや車も、供給の価格弾力性が大きい商品の例として挙げられます。 

 一方、供給の価格弾力性が小さいというのは、価格の変化率に対する供給の変化率が小さいということであり、価格が急激に変化しても供給量がそれほど大きく変化しないことを意味しています。

 代表的なのは、人気の高い商品や期間限定の商品といった希少価値の高いものです。これらは市場価格が高騰し、利益獲得しやすい環境になったとしても、仕入れや生産上の問題で供給量が大きく増えることがありません。

 ひとことで“ 価格弾力性”と言っても、需要側から見るのと供給側から見るのとでは、違いがあるのです。

 自社商品・サービスを売っていきたいという経営者にとって、特に需要の価格弾力性は無視できない存在です。特に次に説明する3点については、需要の価格弾力性を十分に活用できます。

 新商品・新サービスをリリースする際、商品の値付けは重要です。これを誤ると利益が出ない可能性があるからです。このとき、自社の既存商品・サービスはもちろん、競合他社の商品・サービスの需要の価格弾力性がわかれば、適切な価格設定ができるようになります。

 商品・サービスを売り出してみたものの、利益が薄かったり、値段が高すぎることで売れなかったりすることはあります。このときも、やはり自社および競合他社商品の需要の価格弾力性を分析することで、既存商品・サービスの売価の適切な再設定が可能となります。

 販売数を増やす目的で値下げキャンペーンを実施したいとき、自社の商品・サービスが需要の価格弾力性がわかれば、そもそもキャンペーンを実施すべきかどうかが判断できます。もし、需要の価格弾力性が小さいとわかれば、それはそれで、商品。サービスの本質的な部分、例えば商品内容や価格設定の基準、プロモーション方法などを見直せばよいことがわかります。

 最後に、これから展開したい商品・サービスの需要の価格弾力性が算定でき、それをもとに価格設定を行うときのポイントを、価格弾力性が大きい場合と小さい場合、それぞれに分けてご紹介します。

 需要の価格弾力性が大きいということは、前述したように、値下げをすることで販売増が見込める商品・サービスということになります。具体的には嗜好品・代替品のある大衆向け商品サービスなどです。このような場合には、競合他社よりも低い価格設定とし、定期的に競合他社の価格調査をします。

 ただし、価格設定を低くしたほうがよいとはいえ、商品・サービスひとつを売るにしても原材料費・人件費・広告宣伝費といった必要経費がかかります。これを賄えない価格設定をすると利益が出ず、商売として破綻しかねません。

 また、販売数を稼ぎたいときには値下げキャンペーンも効果的ですが、利益の極端な低下や原価割れが発生しないよう、注意が必要です。

 需要の価格弾力性が小さいということは、前述したように、値下げをしても大幅な販売増にはつながらない商品・サービスということになります。具体的には食料品をはじめとした生活必需品や付加価値のある商品サービス、競合が少ない商品サービスなどです。このような場合には、競合他社よりも高い価格設定にしてもある程度の売上を出せるでしょう。

 売れない場合は商品内容・価格設定の基準・プロモーション方法に問題があるため、商品・サービス内容は消費者ニーズを満たしているものなのか、そもそもの価格設定を間違えていないか、競合他社に埋もれるようなプロモーションをしていないかなどを見直します。競合他社分析も大事ですが、どちらかというと消費者調査に重点を置くとよいでしょう。

 筆者が支援している中小企業や創業者からはさまざまな悩みを聞きますが、特に創業者や新商品を開発している企業からは自社の商品・サービスに対する値付けへの相談が多くあります。どのように値段を決めたか聞くと、「このくらいの金額でいいだろう」「このくらいの利益が出ればOKだからこの金額で売ろう」といったものが多く見受けられます。

 しかし、昨今のエネルギー価格高騰など、仕入価格・原材料価格が高騰するものの、売価に転嫁しにくく、企業の利益圧迫に繋がっている実態があります。このような状況だからこそ、価格弾力性という着眼点を持ち、適切な価格設定につなげることが重要です。

 もちろん、既存商品・サービスの価格再検討時やキャンペーン実施時などにも価格弾力性という観点は役立ちます。

 自社の利益獲得のために、本記事を参考に、価格弾力性への理解を深めていただけたら幸いです。