目次

  1. WACC(ワック)とは
    1. WACC、3つの関連用語
    2. WACCの業界平均は5~7% 業種で差
    3. WACCとROIC(ロイック)
  2. WACCの計算式 rE × E / (E + D) + rD (1 - T) × D / (E + D)
  3. WACCの求め方と計算手順
    1. ステップ1.株主資本コストを求める
    2. ステップ2.負債コストを求める
    3. ステップ3.株主資本コストと負債コストを加重平均する
  4. WACCとDCF(Discounted Cash Flow)法の計算
  5. WACCは価値評価業務で一般的に用いられる指標

 WACC(ワック)とは、Weighted Average Cost of Capitalの略であり、「加重平均資本コスト」のことです。

WACCの意味と計算式
WACCの意味と計算式(デザイン:吉田咲雪)

 企業が事業を行うためには資金調達が不可欠ですが、資金調達にも費用がかかります。その費用は大きく分けて二つあり、一つは株主(投資家)からの投資時に発生する「株主資本コスト」、もう一つは銀行や債権者からの借入時に発生する「負債コスト」です。

 WACCとは、複数の資金調達方法を採用している企業が、資金調達に結局どのくらいコストをかけているのかを示したものです。算出する場合は、株主資本コストと負債コストを算出したうえで、それぞれの資金調達方法をどれくらいの割合で使用しているかを加味して加重平均処理を行います。

 WACCを理解するうえで知っておきたい用語は、株主資本コスト・負債コスト・加重平均の3つです。上記で触れましたが、より詳しくご説明します。

①株主資本コスト

 株主資本コストとは、投資にかかる調達費用のことを指します。投資家は企業に一定の金額を投資することにより、その会社の株主となります。当然ながら、将来的にその投資が一定の利益をもたらすという「期待」を前提に投資を行っています。この期待利益が、会社にとって資金の調達費用となります。

②負債コスト

 負債コストとは、借入にかかる調達費用のことを指します。債権者など資金の貸付を行う法人や個人は、その対価として利息収入を受けます。これが、資金調達を受ける会社にとって資金の調達費用となります。

 なお、会社は費用計上する分、法人税の減免効果を受けることになるため、負債コストを算定する際はその分の影響も加味しなければなりません。

③加重平均

 加重平均とは、平均値の算定方法の一種で、ただ単純に平均値を算出するのではなく、その前提となる値の重要度を加味して平均値を算定する方法です。

 例えば、負債コストが1.2、株主資本コストが6だったとしましょう。この場合、通常の平均計算だと、会社の資本コストは (1.2 + 6) / 2 = 3.6という結果になります。ただ、この値には、会社がそれぞれの調達方法をどの程度利用しているのか(=重要度)が反映されていないため、資本コストの値としては不正確です。

 仮に、会社が借入と投資を1 : 2の割合で利用していた場合、その利用の程度を数値に反映させることで正しい資本コストを算定できます。この場合の加重平均を求めるための算定式は、1.2 × 1/3 + 6 × 2/3 = 4.4です。加重平均させることで、それぞれの値の重要性を算定結果の値に反映させることができるのです。

 WACCの全業界の平均は、大体5%から7%と言われています。

 そのなかで、需要が安定している業界(電気やガスなど)は、WACCが平均よりも小さい傾向にあります。負債コストと株主資本コストでは相対的に負債コストが低いため、WACCは負債を増やしたほうが小さくなりやすいですが、こうした業界は負債が増えても倒産に至るリスクがそこまで高くならないからです。

 一方で、鉄鋼、機械、鉱業などは事業リスクが高い(トレンドの移り変わりも早い)ため、倒産リスクを避けようとして負債比率を低く維持するケースがよく見られます。そのため、WACCは平均よりも大きい傾向にあります。

 経営状態を示す指標は多様ですが、WACCとあわせて特におさえておきたい指標がROICです。

 ROICとは、Return On Invested Capitalの略称で「ロイック」と読みます。会社が借入や投資によって調達した資金から、どれだけ効率的に利益を上げることができたのかを示す財務指標です。

 算定式は以下の通りとなります。

ROIC = 税引後営業利益 / (有利子負債 + 株主資本)

 ROICは、端的にいえば、会社が事業を行った結果として獲得した利益にかかる指標です。一方でWACCは、会社が事業を行うために調達した資金を維持するための費用にかかる指標です。

 ROICは「お金の入」、WACCは「お金の出」を示しており、ROIC>WACCの関係を維持することが望ましいことになります。

 WACCは、以下の計算式で求めることができます。

WACC = rE × E / (E + D) + rD (1 - T) × D / (E + D)
rE:株主資本コスト
rD:負債コスト(実効税率影響前)
E:株主資本
D:負債
T:実効税率

 上記の式を端的に説明すれば、右辺の「E / (E + D)」の部分が株主資本の重要度、「D / (E + D)」の部分が負債の重要度を示しています。それぞれの重要度の割合ごとに各コストをかけて、合計値を求めることで、実態に即した値を算出できる計算式となっています。

※WACCを下げるには

 WACCは株主資本コストと負債コストから構成されているため、それら二つのうちどちらかを下げるという方法が挙げられます。株主資本コストを下げるには、例えば会社のビジネス構造自体を変えて事業リスクを低減させる、株主に事業リスクが低くなっていることを説明する、といった方法があります。負債コストの場合は、債権者と借入利率の交渉をする、会社に適用する税率を上昇させる、といった方法がありますが、前者が用いられるのが一般的です。

 また、一般的には、株主資本コストより負債コストの方が低いため、負債比率を上昇させるという方法でもWACCを下げることは可能です。

 ここからは、具体的な数字を使いながら、WACCの計算手順について説明します。

 株主資本コストは、株主の期待収益率のことを指しますが、一般的にはCAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産価格モデル)という理論に基づいて算定することがほとんどです。CAPMによる算定式は以下になります。

rE = R1 = RF + β1 (RM - RF) 
R1: ある会社への投資の期待収益率
RF:リスクフリーレート
β1: ベータ値
RM:マーケットリスクプレミアム

 リスクフリーレートとは、リスクがほとんどない状態で株主が求める期待収益率を指し、10年国債の利率0.04%という数字を用いるのが一般的です。

 ベータ値とは、「株式市場(マーケット)全体に投資するリスク」と比較して「ある個別の株式に投資するリスク」がどれくらいあるのかを示す係数であり、期待される収益率の変動の程度を指します。対象株式のリスクが、マーケット全体への投資と同程度の場合、β = 1となります。

 マーケットリスクプレミアムとは、株式市場全体に投資を行う場合に、株主がリスクフリーレートに加えて求める期待収益率のことです。

 仮にβ = 1、マーケットリスクプレミアムを4%とした場合、株主資本コストは、R1 = 0.04 + 1 × (4 - 0.04) = 4(%)となります。

 負債コストは、借入金の利率を用いるのが一般的です。ただし、利息分が費用計上されることによる法人税などの減免効果があるため、その分も加味して算定する必要があります。実効税率をT、借入利率をrDとすると、計算式は以下となります。

r (実効税率影響後の負債コスト) = rD (1 - T)

 借入金の利率2%、実効税率40%とすると、実効税率影響後の負債コストは、r  = 2 (1 - 0.4) = 1.2(%)となります。

 最後にステップ1で算出した株主資本コスト、ステップ2で算出した実効税率影響後の負債コストを加重平均します。

 仮に負債 : 株主資本の利用比率が2 : 1であると想定しましょう。その場合、WACCは、WACC = 4 × 1/3 + 1.2 × 2/3 = 2.133……(%)となります。

 WACCは、企業価値評価(企業全体の価値を数値で表すこと)を行う際に多く用いられています。企業価値評価で一般的に多く用いられている方法はDCF(Discounted Cash Flow)法です。

 この方法では、各年度の将来キャッシュフローをWACCで割り引いて現在価値を求め、その総和を企業価値とします。

 将来のキャッシュフローは、確かに企業価値の源泉です。しかしながら同時に株主の期待に応え、債権者には利息を払い続ける義務もあります。したがって、その義務を「割り引く」という形で反映させ、正確な企業価値が算定できるように取り計らっているのです。

 WACCは、企業価値評価以外にも、ある投資プロジェクトを会社として実施すべきかどうかを判断する際にも用いられることがあります。

 いずれも非常に一般的な話であり、実務的によく使うことも多いので、ぜひ理解し覚えておきましょう。