経営者保証を解除できたタック電子2代目「必要な情報はすべて開示した」
「電機・電子製品にかかわる何でも屋さん」を掲げるタック電子(名古屋市)の2代目代表取締役の髙田政季さんは会社勤めを辞めて、借入金などを数千万円抱えていた父の会社を事業承継しました。「会社が終われば、人生も終わる」という状態を変えたいと、経営者保証をどうすれば解除できるかを考えます。試行錯誤するなかで決め手となったのは、金融機関や信用調査会社ときちんとコミュニケーションを取って信用力を高める姿勢でした。
「電機・電子製品にかかわる何でも屋さん」を掲げるタック電子(名古屋市)の2代目代表取締役の髙田政季さんは会社勤めを辞めて、借入金などを数千万円抱えていた父の会社を事業承継しました。「会社が終われば、人生も終わる」という状態を変えたいと、経営者保証をどうすれば解除できるかを考えます。試行錯誤するなかで決め手となったのは、金融機関や信用調査会社ときちんとコミュニケーションを取って信用力を高める姿勢でした。
タック電子は、電子回路の設計やプリント基板の組み立てなどODM(Original Design Manufacturer)を主な事業とする社員9人の名古屋にある会社です。自社製品として、ビジネスホテルでルームキーを差し込むと照明がつく機器も開発しています。
家業を離れて半導体商社に勤めていた髙田さんのもとに2017年末、実家から電話がかかってきました。タック電子の創業者である父の様子がおかしいという家族からの相談でした。病院での診断は「認知症」でした。
会社の番頭役から「代表に就いてくれないか」と相談されたとき、心のなかでは迷っていました。ただ、タック電子を継ぎたいという手を挙げる人はおらず、「最後は長男の責任感で決断しました」。
神奈川県で購入していたマンションを手放し、名古屋市へ。タック電子に入社したものの、父は認知症により感情をコントロールしづらくなっていました。何度も「クビだ」と怒られながらも、入社から1年半後に事業承継をしました。
2019年6月、代表取締役に就任した髙田さんを待ち受けていたのが、事業者が金融機関から融資を受けるときに、経営者個人が連帯保証人となる「経営者保証」の引き継ぎでした。
借入金数百万に加え、当座貸越は限度額近くまで借りており、運転資金が足りなくなると、父が会社に個人貸付をしていたことがわかりました。
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2年前まで会社員だった髙田さんに、会社の負債を背負い込むだけの資産はありません。会社が終われば、家族も含めた人生が終わってしまう、というイメージが頭から離れません。
「借金に縮こまってしまって、積極的な経営ができない状況を何とかしなければ、と考えました」
そこで、髙田さんが会社の財務体質の改善と同時に取り組んだことは「銀行マンと仲良くしよう」でした。
取引のある複数の金融機関の担当者に対し「会社の数字を良くしたいと思っているんです。教えてください。銀行は取引先企業の財務諸表のどの部分を気を付けて見ているんですか?」と正直に打ち明けます。
すると、ある担当者からは、借入金の返済余力がきちんとあるかを見極めるために財務諸表のうち、貸借対照表(B/S)の繰越余剰金や自己資本比率、損益計算書(P/L)の経常利益などをチェックしていることを教えてもらいます。
財務諸表だけでなく、情報公開の姿勢も重視していると聞くと、髙田さんは、会社の公式サイトを作成し、会社の理念や中期経営計画、年度予算も整えて、四半期ごとにきちんと金融機関に報告するようにしました。
すると金融機関からは「同じ規模の事業者でここまで丁寧にやっている企業はほとんどない」と驚かれました。四半期ごとの売上予測も誤差10%以内に収める分析手法も評価が高かったといいます。
さらに、信用調査会社の調査も与信に大きく影響していることを知ると、つぎは信用調査会社にもストレートに打ち明けます。
「比較的優良と判断される評価にまで上げたいんです。必要な情報は開示しますので、評価する基準を教えてください」
すると、財務状況の配分が高いのはもちろんですが、調査員の面談に応じて決算書を開示して説明したりすることも加点要素になると教えてもらいます。
会社の現状を丁寧に説明するなかで、経営者の経営経験・人物像などを評価する「経営者」という項目で高得点を取得。無事、比較的優良と判断される評価を得ることができました。
経営者保証をめぐっては、中小企業庁が「円滑な事業承継を妨げる要因となっているという指摘もある」と言及しています。こうした状況を改善しようと、全国銀行協会と日本商工会議所が2013年に「経営者保証に関するガイドライン」を公表しました。
あくまで中小企業、経営者、金融機関共通の自主的なルールという位置ですが、以下の3要件のすべて、もしくは一部を満たせば、経営者保証を見直すことができる可能性があると定められています。
髙田さんは、コロナ融資の返済がスタートする前の2023年3月、金融機関に思い切って借換時の経営者保証の解除を相談しました。
すると、これまでの関係性も影響したのか、スムーズに認められました。さらに信用力が高まったことで借入利率も半分程度まで下げることができたといいます。
この信用力には、代表就任からの4年間で、財務状況を改善し、繰越利益剰余金をマイナスからプラスに転換できていたことも影響しているそうです。
4年間の取り組みを振り返って、髙田さんは「経営者保証の解除とは、決して責任の放棄ではありません。私の場合は、会社の終わり=家族を含めた人生の終わりというイメージだったのが、今では家族や従業員、取引先を豊かにするために会社を経営しようという前向きなマインドを持てるようになりました」と話しています。
資金繰りに使う時間も減り、その分、営業活動や新規事業開拓、営業方針の策定、市場調査に割く時間を作ることができるようになりました。
「何よりお金を借りることへのイメージが変わりました。お金がないから借りるではなく、事業を伸ばすために融資を受けようというマインドに変わったのです」
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