目次

  1. 資金繰りが苦しい状況とは
  2. 資金繰りが苦しいときの対応策
    1. 資金繰りが苦しいときにできること
    2. 外部機関の支援策や資金調達方法
    3. 使える制度や窓口
  3. 資金繰りが苦しいときの注意点
  4. 資金繰りが苦しくなる原因
    1. 売上が少なく収入が不足している
    2. 経費の急増や無駄な支出が多い
    3. 支払いと入金を管理できていない
  5. 長期的に資金繰りを改善する方法
    1. 戦略・事業計画の策定
    2. 実施期間の設定
    3. 事業の進退の判断
  6. 資金繰りを改善した事例
    1. 産業機械修理業
    2. ヘアサロン
    3. 運送業
  7. 資金繰りを正常化させよう

 資金繰りが苦しい状況とは、入金より出金が多い状況が続いていることを指します。出金のタイミングが先行したとき、預金残高が足りず「支払い不能状態」になる恐れがあります。

 そもそも資金繰りとは、企業経営においてお金の出入りを管理し、予測することです。具体的には、一定期間における収入と支出を管理し、健全な経営管理をおこないます。

 資金繰りは、「入金」「出金」「時間」の3つの要素をもとに立案します。これらの要素をチェックできるのが「預金残高」です。筆者はこの4つを「資金繰りの4要素」と呼んでおり、これらの数値を日々チェックすることで資金繰りの改善をおこないます。

 資金繰りが苦しいときにすぐできることや対応策、使える制度などをご紹介します。

 資金繰りが苦しいときにできることは、以下の4つです。

  1. 入金を増やす
  2. 入金を早くする
  3. 出金を減らす
  4. 出金を遅らせる

 順にご紹介します。

①入金を増やす

 入金を増やす主な方法は、「売上を増やす」「融資を利用する」ことになります。基本的には、売上を増やすことが、資金繰りを改善するうえで重要です。

 しかし、売上を増やすには時間がかかるため、資金ショート(資金がなくなり、支払いができない状態)が予測される場合は、各種融資などを利用することになります。

 融資を利用するときの注意点は、借入することで毎月の返済額が増えるため、将来的な出金は増加するということです。

 今の資金繰りは改善できますが、将来的な資金繰りは悪化する傾向にあるため、融資を利用しつつ、売上を増やすことが重要になります。

②入金を早くする

 入金が早くなることで、支払い用の資金を準備できるようになります。具体的には2つの方法があります。

入金を早くする方法 デメリット
取引先に支払いの前倒しをお願いする ・不利な条件を提示される可能がある(金利相当を減算、取引条件の悪化)
・信用不安を与える
入金待ちの売上債権を金融機関や買取業者に売却する(ファクタリング) ・取引先にファクタリングの利用を知られる
・高い手数料を取る買取業者がある

 なお、入金を早くする方法は、将来的な入金が減少するということです。融資の借入と同じく、今の資金繰りは改善しますが、将来的な資金繰りはむしろ悪化する傾向にあります。

③出金を減らす

 出費を見直し、これまでの不要な費用を節約することで出金を減らします。即効性はありますが、効果は限定的です。

 ただし、必要な費用を安易に減らすと、従業員のモチベーションが下がる可能性があります。その結果、売上に悪影響を及ぼすこともあるため、留意する必要があります。

④出金を遅らせる

 出金を遅らせることで、資金ショートを防ぐことが可能です。主に2つの方法があります。

出金を遅らせる方法 必要なことや注意点 注意点
借入金の返済額を減額してもらう(リスケ) 1年程度で売上が増える根拠と見通しの提示 将来的な支払額の増加につながる
支払い先に支払いの猶予をお願いする 誠実に事態を説明 差し押さえなどの法的手段を取られる可能性がある

 外部機関などの支援策や資金調達する方法をご紹介します。

 資金繰りが悪化している経営者は精神的な余裕がないことから、悪化している原因を正確に追求できない傾向があります。そのため、専門家や外部機関などの客観的な目で見てもらうことが重要です。

対応策・調達方法 内容 効果
専門家による資金繰りや計画策定支援 商工会議所などを通し、基本的に無料もしくは低料金で数回専門家の支援を受けられる 資金繰り悪化の原因や対応策など、専門家から支援を受けられる。伴走支援も可能
金融機関から借入 資金ショートなどを防ぐために融資を利用する 今の資金繰りが改善する。ただし将来の資金繰りに注意
借入金返済の猶予(リスケ) 毎月の返済額を減額してもらう 現在の返済金額が大きいほど、資金繰りは良い状態になる

 資金繰りが悪化しているときに使える資金支援制度や、専門家派遣制度をご紹介します。

制度・窓口 内容
・日本政策金融公庫(国民金融)
・経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)
社会的、経済的環境の変化により、売上や利益が減少するなど、業況が悪化している経営者に対しての制度
・各都道府県信用保証協会
・セーフティーネット保証資金
(各都道府県、市町村にて特別な制度もある)
経営の安定に支障を来している中小企業者を支援するための保証制度
・中小企業119
・商工会議所
・商工会
・金融機関など
登録されている全国の専門家に派遣支援を依頼できる。 資金繰りや解決が難しい課題を各分野の専門家が支援する
・エキスパートバンク
・商工会議所
・商工会

 筆者の経験上、資金繰りに行き詰まった経営者は、明日の支払いのことで頭がいっぱいになります。支払いのこと以外考えられない経営者も多く見てきました。

 また、支援先では、コロナの時期に飲食事業を始めに、失敗した経営者もおられます。以下は、資金繰りが苦しいときの注意点です。

資金繰りが苦しいときの注意点 内容
パニックにならない パニックになった状態では、誤った判断をする可能性が高くなるため、冷静な判断が求められる
新規事業への投資を避ける 資金不足の解消を目的に無計画な高額投資をしない。安易な投資は将来の資金繰りを一層悪化させる
安易な借入や過剰な借入をしない 今の資金繰りを改善するために、安易に高利率の融資を借り入れると長期的な負担をまねく。また、事業の見通しを考えずに過剰な借入は、将来の返済負担を増やす可能性がある

 資金繰りが厳しい状況では、焦りやストレスから誤った判断をする可能性があります。そのため、冷静な判断と長期的な視野を持ちながら、新規事業への投資や新たな借入は控えるなど注意が必要です。

 資金繰りが苦しくなる要因はさまざまありますが、主な原因を3つご紹介します。

  1. 売上が少なく収入が不足している
  2. 経費の急増や無駄な支出が多い
  3. 支払いと入金を管理できていない

 これらの原因は資金繰りに大きな影響を与えます。

 売上が少ないことで収入が少なくなり、資金繰りが苦しくなっていると考えられます。

 売上高が増加すると、入金額も増え預金残高が多くなります。預金残高が多くなると新たな設備投資が可能となり、さらなる売上高の増加が見込めるのです。また、その預金を借入金の返済に充てることで、金利の負担や毎月の返済額を減らせるでしょう。

 しかし、売上が少なく収入が不足すると、支出が増えたときに資金繰りの悪化につながります。

 適切に資金管理できていない場合、入金より出金が多くなり、資金繰りが苦しくなる可能性があります。

 出金が多い原因は、経費の急増や無駄な支出が考えられます。また、予測していなかった支出の発生なども原因として挙げられるでしょう。返済能力を超えた過剰な借入がある場合、適切な返済計画がなければ、資金繰りに大きな負担をかけてしまいます。

 支払いと入金のタイミングのずれを認識していない場合、資金繰りが苦しくなります。

 たとえ多額の入金が予定されていても、多額の出金が先行した場合は資金繰りが円滑でなくなります。最悪の場合、資金ショートにつながるでしょう。

 長期的に資金繰りを改善するためには、以下の3ステップで進めます。

  1. 戦略・事業計画の策定
  2. 実施期間の設定
  3. 事業の進退の判断

 資金繰りの改善には、計画の進捗を追跡し、必要に応じて修正する柔軟性が役立ちます。

 現時点の収益や費用、キャッシュフローなどを詳細に把握しましょう。たとえば、毎月の売上や入金、経費、借入金の返済額がいくらあるかの把握から始まります。

 把握した情報をもとに、事業計画を策定しましょう。事業計画はビジネスの方向性を示し、資金繰りを管理する基盤です。その要素として、新規市場や顧客の獲得、既存顧客の関係性強化によるリピートビジネスの強化、経費の最適化などをおこないます。さらに、毎月の返済額の減額を、金融機関に交渉することも検討しましょう。

 外部環境や売上のトレンドを見極め、現実的な目標売上高に適宜変えていくことも必要です。

 計画を立てる際は、実施期間を明確に設定しましょう。実施期間を設定することで、なにをすればよいのか、焦点の絞り込みが可能となり、会社全体で目標に向かって集中しやすくなります。

 また、実施期間が定められていると、その期間内にどれだけ進捗があったかの評価が簡単になります。進捗状況がよくない場合は、事業の進退の判断に関わります。つまり、実施期間が定められていることで、緊張感を持った事業活動を会社全体に促せるのです。

 実施期間が終了すれば、計画の見直しや新たな目標を設定しましょう。

 事業計画の実績を正確にモニタリングし、その結果にもとづいて進退を判断することが必要になります。判断する際は、以下のステップで進めます。

事業の進退を判断する際のステップ
1.実施期間内に途中評価をおこない、計画の修正が必要な場合は対策を講じる
2.実施期間が終了したら、設定した目標をどの程度達成できたかを評価する
3.目標が達成できなかった場合は、改善策の検討や専門家のアドバイスを受ける

 なお、実施中に問題が発生した場合は、対策が遅れないように注意しましょう。実績が目標に近いときや達成したときは、事業計画の継続が妥当かを検討してください。

 筆者が実際に資金繰りの改善を支援した事例です。経営者に丁寧に説明し、納得して改善に取り組んでいただいたことで資金繰りの改善につながりました。

 産業機械修理業の事例です。この会社では、「受注獲得による増収増益」と「毎月の返済額の減額」によって、資金繰りが改善の方向に向かいました。

 S社の経営者は高齢で、体力の低下により業務遂行が難しくなりました。さらに、売上が減少し、コロナに関する融資を受けたものの資金が足りず、事業の継続が困難な状況です。

 筆者は、金融機関には返済猶予を受け入れる柔軟性があること、将来の事業継承や相続に備え、収益力向上と資金の適切な管理に焦点を当てる必要があることを粘り強く説明しました。

 その結果、金融機関への返済猶予が認められ、資金繰りが改善されたことで前向きに受注獲得に取り組めるようになり、増収増益の傾向にあります。

 ヘアサロンの事例です。このヘアサロンでは、売上の増加を達成したことで現預金が増加し、経営者やチームに安心感を与えました。

 このヘアサロンは開業後、毎年の決算で赤字傾向にあり、さらにコロナ禍により経済的に厳しい状況に直面しました。

 経営者は、資金繰りが苦しい焦りのなかで新店舗への移転を計画します。しかし、現状の赤字決算では金融機関の融資を受けられないことを指摘し、まずは決算を黒字化する目標を立てました。

 ヘアサロンが一体となり奮起し、2カ月間で黒字の決算を組むまでに売上増加に成功し、現預金も増加しました。現預金が増加したことで、経営者は自信を取り戻し、「この店舗でどこまで売上を伸ばせるかを試したい」と意気込みを示したのです。

 運送業の事例です。この運送業では、「受注の増加による増収増益」と「資金調達」によって資金繰りを改善しました。

 こちらは、業界全体が厳しい状況で、長らく赤字傾向にありました。税金や社会保険の支払いにも滞納が生じている状況です。

 事業を拡大したいという思いから新規許可証を取得しましたが、多額のコストがかかり資金繰りが急速に悪化したのです。金融機関からの新規融資も断られ手数料が高いファクタリングを使ったことで、毎月の資金繰りがさらに厳しくなりました。

 そこで、支払先に対して正直に誠実にこの事態を説明したと同時に、拡大した事業の受注を増やし、収入を増加させるための措置を講じます。

 しかし、依然として資金繰りは厳しいままでした。そこで、精緻な資金繰り表を作成し、達成可能な売上高と判断できたため、新たな借入をおこない資金繰りの安定を図ります。

 その結果、資金繰りは安定、売上は増加傾向にあり、今では取引先への支払いや税金、社会保険も完納しています。

 資金繰りを正常化させるには、収益や費用、キャッシュフローなどの資金管理を適切におこない、細かな事業計画を策定する必要があります。また、適宜見直しながら事業計画を進め、問題が起きた場合はすぐに対策を立てましょう。

 資金繰りが苦しくなった状態では、ものごとを冷静に考えられずに適切な判断ができないかもしれません。もし、自社だけでは財務を健全化できない場合は、専門家による客観的な支援を利用してみてください。