目次

  1. 帝国データバンクが集計した書店の倒産動向
  2. 書店が見出す活路 「脱書籍」「滞在型書店」
  3. 客足を取り戻そうとする書店の試行錯誤

 帝国データバンクによると、2025年1~5月の書店の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は1件にとどまり、前年同期の11件を大きく下回りました。

コロナ禍に見られた『鬼滅の刃』のようなビッグタイトルによる特需が見込みづらく、雑誌や漫画本が売り上げの中心を占める書店の経営は引き続き厳しい状況に置かれている一方で、2024年度の業績が判明した書店の損益動向をみると、「増益」となった書店の割合が39.9%に達し、過去10年で2番目に高い水準で推移しています。

 倒産件数が減り、一部で増益となっている背景として、帝国データバンクは不採算店舗の閉鎖や従業員の削減といったスリム化策に加え、書籍の売り上げに頼らないビジネスモデルへの転換、「脱書籍」ビジネスの確立が進んでいるとみています。

 その具体的な戦略として、「滞在型書店」の創出が挙げられます。かつては店内の一角を占める程度だった文具や雑貨の取り扱いが大幅に強化され、雑貨コーナーを大々的に展開するケースが増えています。

 さらに、カフェの併設や、大手雑貨店との共同出店など、書籍の販売で完結するビジネスモデルから脱却し、顧客が居心地良く過ごせる空間を提供することで来店を促す取り組みが広がっています。

 また、書籍販売のスタイルそのものを深化させる経営戦略も見られます。豊富な在庫や書籍の発売情報といった専門知識を生かし、学習塾などと共同で学生向けの販売サービスを展開するなど、従来の書籍販売に新たな付加価値を提供することで業績を回復した事例もあるといいます。

 4月に都内にある有隣堂アトレ恵比寿店を訪れたときも、書店というよりも本が中心のセレクトショップという印象を持ちました。

 正面入り口には、「Even if not many」というテーマで、左利き用のグッズや誰にとっても着やすい服などともに「アート×福祉」プロジェクトの本や「利他」をテーマにした書籍が並んでいました。

有隣堂 アトレ恵比寿店の特集コーナー
有隣堂 アトレ恵比寿店の特集コーナー(店舗の公式Instagramから https://www.instagram.com/yurindo_ebisu/)

 隣のコーナーでは、イギリス発のレジャーブランドのバッグと一緒に旅に持ち運びやすい文庫本、イギリスをテーマにした本があり、雑誌コーナーでも「睡眠」をテーマにして、Newtonの「睡眠のサイエンス」などとともに「疲労回復ウェア」をうたう衣類が本棚で売られていました。

 全国の約28%にあたる493の自治体には書店が存在しない「無書店自治体」となるなか、経済産業省は、政府が取り組む施策を「書店活性化プラン」として公表しました。

 縮小する書籍販売のニーズをどのように吸い上げ、再び書店に客足を増やすか。書籍離れが進む現代に、書店は単なる本の販売所ではなく、多様なニーズに応える「滞在型」の交流拠点へと進化し続けるため、それぞれの経営戦略が、書店の未来を左右する重要な鍵となるでしょう。