減りゆく街の書店 「書店活性化プラン」が示す課題5つと補助金などの支援

私たちの街から書店が姿を消していく——。この現実は、地域の文化や教育、そして社会の知的基盤そのものに深刻な影響を及ぼしかねません。経済産業省は「関係者から指摘された書店活性化のための課題」を踏まえ、政府が取り組む施策を「書店活性化プラン」として公表しました。5つの主な課題と補助金の活用幅を広げるといった支援策について整理しています。
私たちの街から書店が姿を消していく——。この現実は、地域の文化や教育、そして社会の知的基盤そのものに深刻な影響を及ぼしかねません。経済産業省は「関係者から指摘された書店活性化のための課題」を踏まえ、政府が取り組む施策を「書店活性化プラン」として公表しました。5つの主な課題と補助金の活用幅を広げるといった支援策について整理しています。
目次
経産省がまとめた書店活性化プランは、現状の書店をめぐる現状の整理から始めています。
一般社団法人出版インフラセンターのデータによると、全国の書店総店舗数は2014年の1万4658店から2024年には1万417店まで減少しており、新規開店も減少傾向にあります。
さらに、一般財団法人出版文化産業振興財団の2024年11月時点の調査では、全国の約28%にあたる493の自治体には書店が存在しない「無書店自治体」となっています。
この背景には、紙の書籍販売の不振が挙げられます。特に書店の経営を支えてきた雑誌の販売額は、1996年のピーク時と比較して2024年には約4分の1にまで落ち込んでいます。加えて、これらの無書店自治体では図書館も不足していることが多く、高齢者や幼児にとって、読書環境は極めて厳しい状況にあります。
全国的な読書離れも深刻です。全国学校図書館協議会の調査では、高校生の約2人に1人が1ヵ月に1冊も本を読まないとされ、文化庁の調査でも約60%が「1ヵ月に1冊も本を読まない」と回答しています。
経産省がまとめた、「書店活性化プラン」は、書店の課題を5つに整理し、政府が単独または民間と協力して取り組む施策を整理しています。
公益社団法人全国出版協会出版科学研究所によると出版産業の販売金額は1996年をピークに減少傾向にあり、特に紙の雑誌・書籍の販売金額は、2022年にはピーク時のおよそ40%程度にまで減少している。また、公立・私立文学館や作家・文学者の記念館においても来館者が減少している。また、大手取次会社の日本出版販売株式会社の「2023年度決算」によると、コロナ禍以降、客単価には大きな変動はないものの、客数は大幅に減少していることが示されている。
この課題は、出版産業の販売金額が減少傾向にあり、文学館などの来館者も減っている中で、いかに読書文化や活字文化を活性化し、来店動機を作り出すかに焦点を当てています。
書店が地域住民に必要な商材や機能を揃え、その書店にしかない特色を出すこと、「絵本専門士」、「認定絵本士」、「朗読指導者」や「読書アドバイザー」といった読書推進人材と連携して、書店ならではの体験を提供することが求められているとしています。
具体的な支援策のなかからいくつかを紹介します。
来客数増加に向けた取り組みや新分野展開への挑戦に対し、「小規模事業者持続化補助金」や「中小企業新事業進出補助金」が活用できます。
地域における文字・活字文化の発信拠点である書店や出版社、文学館などが連携し、読書会、展示会、地域観光資源を活用したイベントなど、特色ある取り組みを「文字・活字文化資源活用推進事業」で支援します。
2025年度当初予算「活字文化のグローバル展開推進事業」翻訳者の発掘・育成、海外ライセンスアウト時の翻訳費用支援、海外図書館への導入促進調査などを「活字文化のグローバル展開推進事業」で実施し、国内外の需要喚起と評価向上を目指します。
国土交通省は、地域の書店が、当該地域の価値向上に資する新事業開拓に取り組むために、建物等施設のリノベーションを行うにあたり、地域金融機関や地方公共団体等と民間都市開発推進機構が連携して、一定のエリアにおける連鎖的な民間まちづくり事業等を支援するために組成する「まちづくりファンド」を通じて、その整備費を出資等により支援しています。
地域に根ざした読書環境を醸成するためには、書店と図書館の連携が不可欠とされています。文部科学省の「図書館・書店等連携実践事例集」のように連携事例は生まれているものの、図書館の複本購入や新刊貸出が書店の売上に与える影響、納入のあり方については連携が不足しているという指摘があります。
そこで、文科省は、自治体、教育委員会、図書館、学校図書館、書店、NPOなどが参画する「協議会」を設置し、読書環境整備・改善に向けた連携協働モデルを構築・普及させることで、読者へのアクセス確保、読書を通じた地域の活性化、読書を支える人材育成を図ります。
文科省は、2025年度に図書館の複本購入や新刊貸出の状況、地域書店からの図書購入状況について実態調査を行います。また、図書館と書店などの関係機関が連携していく上での課題を含め、図書館・学校図書館の運営充実について検討します。
著作物の再販売価格維持制度(定価販売)や委託配本制度(返品可能)といった業界慣行は、多種多様な本の出版を可能にするメリットがある一方で、販売不振や様々な費用上昇の中でデメリットも指摘されています。特に、高止まりする返品率はサプライチェーン全体のコスト増加を招いており、適正配本の必要性が高まっています。
書籍で約33%、雑誌で約44%にも上る返品を削減するため、経産省は2025年度に業界関係者を集めた研究会を開催し、施策を検討します。返品削減による利益の配分見直しが書店の活性化につながる事例にも留意します。
公正取引委員会は、再販売価格維持契約を締結して定価販売を行うかどうかは、当事者間で判断されるものであり、当該契約の締結が制度として義務付けられているものではないと説明。
今後刊行される書籍や雑誌について、再販売価格維持契約が締結される場合、書店が店舗運営コストの上昇に対応できるようにするためには、契約において価格決定権を有する出版社が書店経営の実情を踏まえ価格決定をするか、書店側のマージン比率を高めることが考えられるとして、出版社や書店の業界団体に説明していく予定です。
公正取引委員会は、情報鮮度や需要が変動した書籍・雑誌について書店が自主的に値引きを行う「時限再販」や、出版社が当初から非再販商品として発行する「部分再販」の取り組みを、引き続き出版・書店業界に働きかけていく予定です。
出版業界は年間約7万点、1日約200点が刊行される多品種少量生産で商品管理が煩雑な産業です。POSレジの普及が進んでいない書店では、棚卸作業の負担が大きく在庫管理に課題が残ります。また、付録付き雑誌のセット組み作業など、店舗オペレーションの課題も多いとされています。
経産省や中小企業庁は、本の流通におけるデータ基盤の不足を解消するため、RFID(無線ICタグ)の導入を促進します。これにより、棚卸業務の効率化、万引き防止、適時の配本などを実現します。
特に、小規模書店における導入効果については、2024年度補正予算「クリエイター事業者支援事業」において検証し、将来的なDX化、データ管理の推進を支援します。
書店店頭で必要となる機器の導入補助は「中小企業省力化投資補助金」による支援の対象とすべく調整しています。
中小企業庁は、POSシステムや受発注システム、自動精算機などの導入を「IT導入補助金」や「中小企業省力化投資補助金」を活用できるようにします。
付録付き雑誌のセット組み作業負担について、書店が出版社や取次会社に取扱手数料やマージン比率の増加を求める際の独占禁止法上の留意点について、公正取引委員会が適切に相談対応に乗り出します。
街の書店を残していくためには、今ある書店を飲食等の新規事業と結びつける等、新しい付加価値を提供していくことに加え、新規出店が増加することも望ましい。従来、新刊を扱う書店を出店するためには、多額の保証金を取次会社に支払う必要があり、それが新規出店のハードルとなっていたが、最近では株式会社トーハンの「HONYAL(ホンヤル)」や楽天ブックスネットワーク株式会社の「Foyer(ホワイエ)」等、少額仕入に対応できるようにする事例も出てきている。こうした取組により、「独立系書店」と呼ばれる個性的な個人経営の小規模書店が増加しているとも言われており、本屋を開業したいというニーズは依然として存在していると考えられる。他方で、既存の書店では後継者不足に悩まされている現状もあり、後継者に悩む既存書店から書店をやりたい人材への事業承継が進むことが期待される。
関係者からのヒアリングでは、書店に限らず小売業全般の課題としてキャッシュレス決済比率の増加による手数料負担の増加や、入金サイクルによる資金繰りが課題として挙げられた。
経済産業省、中小企業庁は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」や信用保証協会の「創業関連保証」の活用を促すとともに、ショッピングセンターや駅ビルなどに対し、書店の入店を働きかけます。
中小企業庁は、経営者の高齢化が進む中で、書店の事業承継・M&Aを「事業承継・M&A補助金」などで支援し、地域における役割を維持できるよう後押しします。
書店の経営管理が通常の小売業と異なる点を踏まえ、書店向けの事業分野別指針を整備し、中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の活用を促進します。
キャッシュレス決済の手数料が、特に小規模書店の経営の重荷になっています。2022年に経済産業省、公正取引委員会の要請に基づき、国際ブランド(VISA、MasterCard等)が手数料の原価の約70%を占めるインターチェンジフィー公開しました。
その結果、インターチェンジフィーを昨今では1%台後半~2%台半ばの手数料率が複数事業者から提示されているものの、引き下げられた手数料率の認知が充分でなく、多くの書店で未だ手数料率が引き下げられていないことから、小規模書店に1%台後半~2%台半ばの手数料率が広がるよう、引き続き業界団体等を通じて低い手数料率の周知に努めていくとしています。
キャッシュレス決済増加により資金繰りに困難を抱える中小企業に対し、日本政策金融公庫の低利融資制度による支援を促進します。また、翌日入金や月に複数回の入金が可能な決済手段の活用を含め、書店の資金繰りを支援する制度の周知を図ります。
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