父の自死を機に財務コンサルタントへ 「資金繰り改善、まず経費分析から」
2001年に起きた狂牛病(BSE)問題で、経営していた焼肉店が経営難に陥って自死した父のような思いをしてほしくないと、狩野直哉さんは財務コンサルタントになる道を選びました。経営状況を改善するために熱心に努力しているのになかなか成果が出ない経営者から相談を受けることが多いといい「まずは、売上や経費を詳細に分析する必要があります」と助言しています。ほかの企業でも実践できる分析方法について聞きました。
2001年に起きた狂牛病(BSE)問題で、経営していた焼肉店が経営難に陥って自死した父のような思いをしてほしくないと、狩野直哉さんは財務コンサルタントになる道を選びました。経営状況を改善するために熱心に努力しているのになかなか成果が出ない経営者から相談を受けることが多いといい「まずは、売上や経費を詳細に分析する必要があります」と助言しています。ほかの企業でも実践できる分析方法について聞きました。
狩野さんの父は焼肉屋を経営していましたが、2001年に起きた狂牛病(BSE)問題によって経営難が続き、破産。父は狩野さんが23歳の時に自宅で自ら命を絶ってしまいました。
「悲しさよりも、誰がこんな死に方をさせたんだという怒りや悔しさが気持ちを占めていました」と、狩野さんは語ります。
破産の直接的な原因は狂牛病による売上の低下でしたが、常態的に利益や経費をあまり意識できておらず、顧問税理士も経営状況に関するアドバイスをしていなかったことが経営に悪影響を与えていました。
狩野さんは、父の死を無駄にしたくない、父のような中小企業経営者を救う人材になると決意。大学院を卒業して、税理士事務所に就職した後、財務コンサルタントとして独立しました。
「頑張っているのに経営がうまくいっていない会社に共通した特徴として、会社の数字について分析していないことがあります」と、狩野さんは指摘します。
多くの経営者は、経営状況を改善するために熱心に努力していますが、目の前の売上を増やすことに焦点を当てすぎて、無理な値下げを行ってしまうことがしばしばあります。この結果、利益が出なくなり、さらに売上を増やす必要が生じ、値引きのスパイラルにはまってしまうことも多くあります。
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「過剰な税金対策も問題です。納税額を減らすために無駄な出費を決算前に行ってしまうと、納税額は減りますが、手元の現金はそれ以上に減少してしまいます。すると、資金繰りが悪化して銀行から借金をしなければならなくなります。同じことを繰り返して銀行からの借金が増え、ついには借入が限界に達してしまうことがあります」
こういったカラまわり経営にならないために、会社の数字を分析し、中長期的な経営計画を立てる必要があります。
狩野さんは、経営計画を立てる手順について、経費計画、売上計画、借入計画の順番に作ることを勧めています。
「最初に年間にかかる経費の計画を立てます。これが分からないと、年間にいくら売上を上げればいいのかが決まりません。その際に、経費を勘定科目ごとに分析して、削減効果が高く、事業への影響が小さいものから優先して削減していきます」
狩野さんが支援した会社に、年商4億円の小売業の企業がありました。その会社では、まずは役員報酬を削減し、次に接待交際費、使われなくなったFAXやPCなどのリース費用、社長が加入している過剰な生命保険の掛け金や経営者の会合の会費などを優先的に削減した結果、初年度に1500万円のコストカット、翌年にはさらに500万円のコストカットに成功し、黒字化を果たしました。
「他の例として、年商2億円の製造業の会社がありました。同社はA工場とB工場の2つの工場を運営していましたが、赤字でした。原因を分析してみると、A工場は高い利益率を示していた一方で、B工場は非常に低い利益率であることが判明しました」
そこで狩野さんは、B工場の費用構成をさらに分析し、ムダな経費を削減していきました。帳簿や会計データをもとに、Excelで月別の経費の状況が分かる分析用の表を作り、それを社長と一緒に見ながら「この経費は本当に必要ですか?」と一つひとつ確認し、不要なものをカットしていきます。経営者は無駄な経費はないと思っていることが多いですが、個別の経費を可視化すると、社長が把握していない経費が多く見つかります。
そういった経費をカットした結果、B工場の利益率は大きく改善し、会社も黒字化して利益を出すことができました。
「経費計画を立てれば、黒字化に必要な最低限の売上が見えてきますので、その上で売上計画を作ります。売上計画を作るには、商品ごとの利益率を分析すること、仕入や外注費の見直しで利益率を改善することが重要です」と狩野さんは語ります。
狩野さんが過去にサポートした企業で、年商1.6億の製造業の会社がありました。狩野さんは、数十種類の商品についてそれぞれの粗利益率を計算して、利益率の低い商品を撤退させ、利益率の高い商品に注力するようアドバイスしました。また、仕入や外注費の改善も同時に行い、商品の利益率を向上させました。その結果、初年度は経常利益がマイナス680万円だったものが、翌年には633万円の黒字に転換し、更に翌年には2206万円の黒字になりました。
「先述の製造業にも共通して言えますが、慢性的な赤字であるにもかかわらず赤字額が小さい場合は要注意です。大きな赤字であれば、自然と原因を分析する意識が生まれますが、赤字額が低いと、原因を解明しようと思わず、構造的な問題に対処することなく経営を続けてしまうことがあります」と、狩野さんは補足します。
「黒字化に必要な年商と利益目標が確定したところで、最後に借入計画を策定します。経営計画を実行するために、資金繰りはどのようにするか、追加で必要な資金はいくらなのか、などをあらかじめ計算し、金融機関と交渉します」
金融機関との交渉には、追加融資以外にも選択肢があります。借り換えによって複数の融資をまとめることや、返済期間の延長、緊急時には返済の一時停止もあります。
「例えば5年で合計1000万円借りる場合、200万円を5件に分けて借りるより、1件で1000万円の借入にしてしまい、それを7年返済にしたり利率を下げることができれば、月々の支払いは少なくすみ、資金繰りが改善されます。こういった借り換えの交渉も有効です」
また、返済の一時停止の例として、狩野さんが支援した会社で、年商3億円の製造業の会社がありました。その会社は借入の返済ができず、資金ショートが避けられない状況に陥っていました。もちろん金融機関の追加融資も受けられません。
半年後には会社が無くなっているだろうと言われたなか、狩野さんは精緻な経営計画書を策定し、金融機関と交渉して返済を1年間ストップさせることに成功しました。
「会社が潰れれば貸したお金が返ってこず、金融機関も困ります。そこで、今後5年間の経営計画を策定し、金融機関を説得しました。5年間の計画といっても、1年単位の大まかなものではなく、1ヶ月ごとの計画を60ヶ月分作りました。特に人員の整理や収益構造の改善、地道なコストカットなどは効果の予測が立てやすいため、細かく、根拠だてて資料を作り込みました」
売上計画については予測が難しいため、大風呂敷を広げるような計画は立てず、堅実に達成可能な計画を提出しました。情熱や思いではなく、あくまで客観的な事実にもとづいて、金融機関が意思決定できる材料をまとめて提出しました。結果、1年の返済猶予を得ることができました。
「返済の猶予がある間に、計画に沿って、大規模な経費削減や地道な利益率の改善に取り組みました。その結果、1年後には無事に返済を再開することができました。こういった交渉をする上でも、経営計画書の策定は重要です」と狩野さんは強調します。
「借り換えのケースも同様ですが、金融機関との交渉では、会社が潰れることの金融機関のデメリットを説明し、確度の高い計画を提示する事が重要です。とはいえ、この計画を作るには財務や税務の知識が必要になりますし、金融機関との交渉にも財務や税務の知識が必要になってきますので、交渉にあたっては専門家の協力をおすすめします。中途半端な提案をすると経営状況が悪いことを印象づけて終わる可能性が高いです」
安定的な経営をしていても、急激な市場の変化や政治・経済状況など、外的要因によって経営環境が一変してしまうこともあります。
「例えばコロナ禍のように、自身ではどうにもできない理由で経営状況が悪化してしまうこともあります。そういった時に決してやってはいけないことは、今まで積み重ねてきた事業と全く関係のない事業を、バクチ的に始めてしまうことです」と、狩野さんは説きます。
「例えば飲食店であれば顧客が最も愛顧しているものはその店の料理であり、味です。そんな飲食店がコロナ禍だからといってアパレルを始めたとしても、付け焼刃にしかなりません。今まで積み重ねてきた力を信じて、今までやってきたことの延長線上で何ができるかを考える必要があります」
また、狩野さんは、外的要因への対応として、顧客や取引先との関係構築が重要であると述べます。
「もし外的要因で経営環境が変わっても、顧客や取引先と関係性がしっかり構築できていれば、必ず助けてもらえます。今まで自分が大切にしてきた人が、今度は自分を助けてくれるものです。非常時ほど、それまでに積み上げてきた信用がものを言いますので外的要因による危機が訪れる前に、信用を積み重ねておくことが重要です」
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