ヒューリスティック分析とは? 目的やメリット、実施の手順を解説
Webサイトやアプリの改善点を把握していないと、見当違いの改善策を実施してしまうリスクがあります。リスクを回避するためには、UI・UXのプロが経験則により評価する「ヒューリスティック分析」が効果的です。この記事では、ヒューリスティック分析の実施手順やポイントなどを解説します。
Webサイトやアプリの改善点を把握していないと、見当違いの改善策を実施してしまうリスクがあります。リスクを回避するためには、UI・UXのプロが経験則により評価する「ヒューリスティック分析」が効果的です。この記事では、ヒューリスティック分析の実施手順やポイントなどを解説します。
目次
ヒューリスティック分析とは、Webサイトやアプリなどの使いやすさを、UI(ユーザーインターフェイス)・UX(ユーザーエクスペリエンス)の専門家が評価する手法です。
ヒューリスティックは心理学用語で「発見的手法」とも呼ばれ、「先入観や経験にもとづき、ある程度正しそうな答えを見つける思考法」を指します。「綿密に計算や分析をおこなわない」「簡略化した思考で結論を出す」といった特徴があります。
ヒューリスティック分析は、Webサイトやアプリの最適化に効果的です。ヒューリスティック分析をおこなえば、Webサイトやアプリにアクセスしやすいか、操作方法がわかりやすいかなどの観点でユーザーの目的達成の障害となっている課題を発見できます。
ヒューリスティック分析の特徴として、被験者を必要とせず、分析者の経験や知識だけで完結する点が挙げられます。これにより、短時間で高効率の評価が可能となり、即時に改善策の提案や実施ができます。
ヒューリスティック分析の目的は、Webサイトやアプリにおいて「売り上げ」「PV(ページビュー)数上昇」などの具体的な成果を得ることです。
ユーザビリティの課題を特定・解決し、Webサイトやアプリを使いやすくすることで、結果的にユーザーに長く滞在してもらったり、より頻繁に利用してもらったりすることが狙いです。例えば、ECサイトがヒューリスティック分析を実施し、分析結果をもとに購入ボタンの位置や色を変更すれば、購入率が増加するかもしれません。
このように、ヒューリスティック分析はWebサイトやアプリの目標達成に直結する分析手法であり、効果的な改善のために必要だといえます。
ヒューリスティック分析とアクセス解析・ユーザビリティテストとの違いについて見ていきましょう。
手法 | 概要 |
---|---|
ヒューリスティック分析 | UI・UXの専門家が経験知によってWebサイトやアプリを評価する |
アクセス解析 | Webサイトやアプリの訪問者の行動を追跡し分析する |
ユーザビリティテスト | ユーザーにWebサイトやアプリを使用してもらい、反応などを観察する |
ヒューリスティック分析とアクセス解析との違いは「調査項目」です。ヒューリスティック分析では、データだけでは分析しづらい「使いやすさ」などの定性的な項目を使用します。一方、アクセス解析は「PV数」「ページ滞在時間」などの数値データを用いた定量的な項目を使用して分析する手法です。
ヒューリスティック分析とユーザビリティテストとの違いは「実施者」です。ヒューリスティック分析では専門家が経験知によってWebサイトやアプリを評価しますが、ユーザビリティテストは実施者がユーザーとなります。
上記のように三つの手法はそれぞれ異なる特徴を持ちます。しかし、ヒューリスティック分析で発見できなかった課題がユーザビリティテストで見つかるケースも想定できます。よって、各手法を併用していくことが重要といえるでしょう。
ヒューリスティック分析にはあらゆるメリットがあります。有効性を理解したうえで、自社WebサイトやLP(ランディングページ)の改善にヒューリスティック分析を活用してみましょう。
一つ目のメリットは、低コストでの実施が可能な点です。ヒューリスティック分析は専門家の知識や経験をもとに評価をおこなうため、被験者の用意やテスト環境の設置といったリソースを必要としません。
そのため、ヒューリスティック分析は低コストかつ効果的な評価方法として、多くのプロジェクトで利用されています。
二つ目のメリットは、定量調査ではわからない課題が見つかる点です。アクセス解析で得られるデータでは「デザインの統一性」「使いやすさ」などの分析は難しいとされています。
しかし、ヒューリスティック分析を実施する専門家なら、データではわからない点や、一般のユーザーが気付きにくい細かな部分の不具合や使いづらさを発見できます。
ヒューリスティック分析を導入することで、従来の定量調査では検出できなかったユーザビリティの課題を効果的に特定し、Webサービスの質の向上が期待できます。
三つ目のメリットは、競合他社と比較が可能な点です。例えば、自社がWebサイトリニューアル時に、ヒューリスティック分析を実施して、ユーザビリティの問題や改善点を特定したとします。そして、その分析結果をもとに、競合他社のWebサイトと比較すれば、どの部分が他社よりも優れているのか、逆に劣っているのかを確認できます。つまり、自社Webサイトの強みや弱みを明確に認識できるのです。
このように、ヒューリスティック分析を利用して競合他社と比較することで、市場での自社の位置をより正確に理解でき、ビジネスの成功へとつなげられます。
ヒューリスティック分析は手軽に実施できる手法ですが、事前の準備は必要です。しっかり手順を踏むことで、ヒューリスティック分析の効果をより高められます。ここでは、ヒューリスティック分析を実施する際の3STEPを紹介します。
ヒューリスティック分析を開始する前には、明確な目的の設定が重要です。目的を設定することで「Webサイトやアプリのなかでどのようなポイントを評価すべきか?」という項目の整理が容易になります。
一般的な目的としては、商品購入完了率やフォーム入力完了率の向上・ECサイトの売り上げアップ・ニュースアプリの会員登録数アップなどがあります。
続いて、ヒューリスティック分析で使用する評価項目を設定します。評価項目を設定しておくことで、Webサイト上でユーザーがストレスなく行動できるかを確認しやすくなります。
チェック項目は、UIの設計において、ユーザーの利便性と効率性を向上させるための基本的なガイドライン「ヤコブ・ニールセンのユーザビリティ10原則」をもとにして作成するのが主流です。
「ヤコブ・ニールセンのユーザビリティ10原則」の概要は下記の通りです(参照:Jakob’s Ten Usability Heuristics|Nielsen Norman Group)。
評価項目 | 概要 | 対策例 |
---|---|---|
システムステータスの可視性 | システムは何をしているのかを常にユーザーに知らせる | 進行中のダウンロードには進行バーを表示する |
システムと現実世界との一致 | システムはユーザーが知っている言葉や概念を使用して情報を提示する | ゴミ箱やフォルダといった一般的なアイコンを使用する |
ユーザーの制御と自由 | ユーザーが誤って操作をおこなった場合、容易に「戻る」や「取り消す」ができるようにする | 「戻る」ボタンを提供する |
一貫性と標準化 | 同じ言葉やアクションは常に同じ結果をもたらす | すべてのページでのナビゲーションメニューを配置する |
エラーの予防 | ユーザーが誤りを犯す可能性を減少させるデザインを採用する | 入力フォームでデータを検証する |
記憶より認識の優先 | ユーザーが情報を覚える必要がないように、オブジェクト・アクション・オプションを可視化する | ドロップダウンメニューを使用する |
柔軟性と効率性の最適化 | 上級ユーザーと初心者の両方をサポートするためのカスタマイズオプションを提供する | ショートカットキーや高度な検索機能を提供する |
美的で最小限の設計 | 不必要な情報を排除し、必要な情報だけを表示することでユーザーの認知的負荷を軽減する | 不要な広告やポップアップを避け、クリーンなインターフェースを提供する |
エラーに対するサポート | ユーザーがエラーを起こした場合、そのエラーに関する明確で簡潔な説明を提供し、解決のための具体的な手順を示す | パスワード入力エラーの際に、パスワードの要件やヒントを提示する |
ヘルプとドキュメンテーション | 必要な情報や手順を簡潔かつアクセスしやすい形で提供する | オンラインヘルプセクションやFAQページを提供する |
STEP②で作成した評価項目をもとに分析を実施します。調査時は項目をチェックリスト化しておくことで、スムーズな分析が可能となります。自社サイトだけではなく、競合サイトとの比較も含めて分析し、課題を抽出しましょう。その後、抽出した課題の改善を検討します。
なお、ヒューリスティック分析はUI・UXデザインに知見のある専門家が実施するため、外部に分析を依頼するのが一般的です。
ヒューリスティック分析にはメリットが多い反面、注意しなければならない点もあります。より効果を高めるために下記ポイントを意識して分析を実施しましょう。
ヒューリスティック分析を実施するときは、外部への分析依頼がベストです。なぜなら、自社の人材での評価には主観的な偏見が入りやすいためです。
自社の人材で評価すると、自社のWebサイト・アプリのデザインや機能に対する愛情などから、良い面を過度に評価する傾向が生じやすくなります。例えば、自社のデザインチームが数カ月をかけて作成した新しいインターフェースには、チームメンバー自身が感じる魅力や利点があるかもしれません。しかし、新規のユーザーや第三者から見ると、使いにくい点や改善の余地が見られることも考えられます。
したがって、客観的かつ公正な評価を得るためには、外部の専門家や組織に分析を依頼することが効果的であるといえるでしょう。
複数の分析者を用意することで、分析の精度が向上する可能性が高まります。
ヒューリスティック分析はその性質上、分析者の主観に左右されやすいものです。1人の分析者だけが分析をおこなうと、その分析者の視点・経験・知識によって分析結果に偏りが出る可能性が高まります。
一方、複数の分析者が存在する場合、同じデータに対して異なる解釈や意見を持つことが考えられます。複数の分析者の意見や解釈を総合的に判断すれば、より広い視野からの分析結果を得られます。
最終的には評価者のなかで最も経験豊富な専門家が、複数の分析結果をもとにした資料をまとめることが望ましいでしょう。
ヒューリスティック分析とユーザビリティテストの併用も重要なポイントです。この組み合わせは、WebサイトやアプリのUXを向上させるための強力な手法となります。
ヒューリスティック分析は専門家があらかじめ定められた基準にもとづいて評価をおこなうのに対し、ユーザビリティテストは実際のユーザーがサービスを利用するプロセスを観察するものです。それぞれ異なる視点からの情報を提供するため、一方で見落とされる課題をもう一方で補足できる可能性が高まります。
例えば、ヒューリスティック分析では設計が最善の方法でおこなわれているかの確認が可能です。
一方、ユーザビリティテストでは、実際のユーザーがどのような問題に直面しているかを理解できます。ヒューリスティック分析とユーザビリティテストを組み合わせることで、設計チームはUXの改善点を正確に特定し、効果的な修正を実行できます。
ヒューリスティック分析を実施する際によく疑問に挙がるのが「タイミング」と「費用」です。ここでは、上記2点に関する内容を詳しく解説します。
ヒューリスティック分析を実施するタイミングは、サービスの開発時および改良時が最適です。サービスの開発時にヒューリスティック分析を実施することで、完成後の潜在的な問題点を予測し、改善するための対策を打てます。
例えば、新しい機能の追加やUIの変更をおこなう前に、ユーザビリティの問題や不具合のリスクを評価することで、その結果にもとづいた開発の方向性の調整が可能です。
一方、サービスの改良時には、現状のサービスに存在する問題点を特定し、それらを改善するための手法を導入することが求められます。そのため、ヒューリスティック分析の実施が効果的なのです。
これらのアプローチにより、サービスの品質を向上させ、ユーザーの満足度を高められるでしょう。
ヒューリスティック分析の費用は、10万〜50万円程度です。
単にヒューリスティック分析だけでなく、戦略策定なども含む一連のサービスを提供している企業も多いため、費用は依頼内容によって変動します。例えば、アクセスログ解析・ヒューリスティック分析・戦略策定などの一式を依頼した場合、費用はおおよそ50万円と考えられます。
ヒューリスティック分析には「低コストでの実施が可能」「定量調査ではわからない課題が見つかる」などのメリットがあります。なお、分析を実施するときは、自社人材での評価を実施するのではなく、外部の専門業者を利用しましょう。
サービスの開発時および改良時には、ヒューリスティック分析を実施してユーザビリティの課題を特定することをおすすめします。
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