目次

  1. コアコンピタンスとは
    1. コアコンピタンスに必要な三つの要素
    2. コアコンピタンスとケイパビリティの違い
    3. コアコンピタンスが重要な理由
  2. コアコンピタンスの成功事例
    1. Apple
    2. Amazon
    3. トヨタ自動車
  3. コアコンピタンスを見極める手順
    1. 強みを見極める五つの視点の把握
    2. 強みの洗い出し
    3. 強みの評価
    4. 強みの絞り込み
  4. コアコンピタンスを確立するポイント
    1. 明確なビジョンを定める
    2. 独自技術の開発を促進する
    3. 時代の変化に適応する柔軟な思考を持つ
    4. 学習計画をたてる
    5. 組織力を高めて開発スピードをあげる
  5. コアコンピタンスを見極めて中長期の経営戦略を構築しよう

 コアコンピタンス(Core Competence)は、企業が競争優位性を築くために持つべき特別な能力や資源のことを指します。

 コアコンピタンスは企業のアイデンティティを形成して競合企業に対する優れた価値を提供し、強みを生かしてさまざまな市場で成功するための基盤となります。

 コアコンピタンスを経営に活用するには、三つの要素を満たす必要があります。

①顧客に利益をもたらす

 企業は、自社の特別な能力や強みであるコアコンピタンスを使って、顧客に何らかの価値や利益を提供する必要があります。仮に特別な技術や独自のサービスを提供できたとしても、顧客にとっての利益がなければ、自社の利益にはつながりません。

 企業の強みが顧客に役立つ場合、その企業は他の競合企業と比べて魅力的であり、市場で競争優位性を獲得して成功しやすくなります。

②競合相手に真似できない

 コアコンピタンスは、他社が容易に模倣できないものでなければいけません。競合他社が同じことをすぐに真似できないような独自性や模倣困難性を持つことで、企業は自身の競争優位性を保護できます。

 例えば、以下のようなものが該当します。

  • 特許で保護された技術
  • 企業が長年蓄積してきた独自のノウハウ
  • 強力なブランド力

 このような独自性や模倣困難性は、競合他社が模倣することは難しく、企業は市場で独占的な地位を築ける可能性が高まります。

③複数の市場・製品に応用できる

 コアコンピタンスは、一つの特定の分野に限定されず、異なる市場や製品に適用できる柔軟性を持つことが求められます。端的にいうと「汎用性が高いものである」ということです。

 企業の得意分野や強みが複数の市場や製品にも適用できれば、企業はリスクを分散させながら成長の機会を広げられ、企業は長期的な競争力を維持できます。

 コアコンピタンスは、企業が特定の分野で優れた能力を持っていることを指します。コアコンピタンスの確立は、企業のアイデンティティや強みを形成することにつながります。

 一方、ケイパビリティは、企業全体の能力やリソース、組織の柔軟性など、広い範囲を指す言葉です。コアコンピタンスはケイパビリティの一部であり、コアコンピタンスに必要な三つの要素を満たした「企業の特定の強みを示す特化した能力」といえます。

 ケイパビリティは、コアコンピタンスの成長や変化に対応するために必要なものであり、戦略的な柔軟性を提供する企業全体の総合的な能力と考えられます。

 コアコンピタンスが経営に重要なのは、競争の激化と急激な変化に直面する現代のビジネス環境において、企業の生存と成長に不可欠だからです。

 現代のビジネス環境はグローバル化が進んでおり、競争が激しく、急速に変化しています。企業が市場で生き残りつづけながら成長するためには、自社固有の強みを活用することが不可欠です。

 コアコンピタンスがあれば、企業は市場での確固たるポジションを築き、新しいチャンスにも柔軟に対応できるようになります。また、競合他社との違いを打ち出し、長期的な競争上の優位性を築けます。

 コアコンピタンスの事例では「ソニーの小型化技術」や「シャープの液晶技術」が有名ですが、ここでは別の事例をみていきましょう。

 コアコンピタンスを活用する方法は、世界的な成長を果たした企業の事例が参考になります。特にわかりやすい企業事例を三つ紹介します。

 Appleは、ユーザー体験とデザインの分野でコアコンピタンスを確立しています。この強みを具体的に生かし、iPhoneやiPadなどの製品で独自のデザイン哲学とシンプルなユーザーインターフェースを提供しています。

 また、iTunesやApp Storeなどの自社アプリを構築し、製品間の連携を進めることで、顧客がApple製品を一貫して利用しやすくしているのも強みです。例えば、iPhoneでiTunesを利用して音楽を購入し、他のAppleデバイスで再生できるようにするなど、ユーザーに統一感のあるシステムを提供しています。

 Amazonは、物流とオンラインプラットフォームのコアコンピタンスを確立しています。

 例えば、「Amazon Prime」という効率的な物流サービスです。顧客は商品を迅速に受け取れ、オンラインショッピングの便益を最大限に享受できます。

 また、「Amazon Web Services(AWS)」を通じてクラウドサービスを提供することで、多様な分野に進出し、企業に対するクラウドコンピューティングのニーズに応えているのも強みです。

 このように、Amazonは物流とテクノロジーの統合を通じて、市場での競争力を強化しています。

 トヨタは生産効率と品質管理の分野でコアコンピタンスを発揮しています。具体的には、「トヨタ生産方式」という独自の生産方法により、よい製品を効率よく顧客へ届けることが可能になりました。これにより、「トヨタ車は品質と信頼性が高い」と評価され、世界市場での成功につながっています(参照:トヨタ生産方式|TOYOTA)。

 また、プリウスなどのハイブリッド車をはじめ、水素自動車ミライなど新車開発でもリーダーシップを発揮しています。トヨタは、製品の品質と生産効率を最適化するために継続的に取り組み、自動車業界での競争優位性を確立しています。

 コアコンピタンスを見極める際には、強みの洗い出しや評価、経営戦略に生かすための絞り込みが必要です。ここでは、コアコンピタンスを見極める手順を詳しく紹介します。

 コアコンピタンスにつながる強みを見極める際には、次の五つの視点が活用できます。

  • 模倣可能性
  • 移動可能性
  • 代替可能性
  • 希少性
  • 耐久性

 それぞれ詳しく解説します。

①模倣可能性(Imitability)

 模倣可能性とは、競合企業によって簡単に真似されるかどうかを示す重要な視点です。

 企業が特定の強みを持っている場合、それが他社に容易に模倣できないほど独自であるほど、競争上の優位性を持てます。

 例えば、特許技術を保持している企業は、市場での独自性を確立できます。特許技術は法的に保護されており、他社が同じ技術を使うためにはライセンスを取得しなければならず、簡単にコピーされることはないからです。

 このような場合、模倣可能性は低くなり、競争優位性が維持されます。

②移動可能性(Transferability)

 移動可能性は、企業が特定の強みを他の製品や市場に適用できるかどうかを評価する視点です。

 例えば、自動車メーカーが特定の生産技術を持っている場合、それを異なる車種にも適用できるならば、その技術は移動可能です。これは、企業が新しい製品ラインを開発したり、新しい市場に進出したりする際にも役立ちます。

 移動可能性が高い強みは、企業の成長と多様化に寄与します。

③代替可能性(Substitutability)

 代替可能性は、企業の強みが他の技術やリソースで代替できるかどうかを考慮する視点です。

 例えば、石油企業は石油を抽出・生産する技術を持っています。しかし、天然ガスのような代替燃料技術が進化すれば石油に取って代わられるリスクがあり、石油企業は代替可能性を考慮し、将来の競争状況に備える必要があります。

 代替可能性が低い場合、企業は市場での競争優位性を保ちやすくなります。

④希少性(Scarcity)

 希少性は、企業の強みが市場で希少であるかどうかを評価する視点です。特定の資源や能力が市場で希少性があるならば、競争上の優位性を持てます。

 例えば、レアアースなどの鉱物資源を採掘する企業は、その鉱物資源の供給が制限されているため、市場での優位性を維持できる可能性が高まります。

⑤耐久性(Durability)

 耐久性は、企業の強みが長期間にわたって持続するかどうかを評価する視点です。コアコンピタンスは、一時的な優位性ではなく将来にわたって価値を提供できることが重要です。

 例えば、環境に配慮した製品開発が、SDGsが推進されるなかで将来的にも需要があり続ければ、企業は耐久性のある競争優位性を持っていると判断できます。この点では、市場の変化や顧客の需要の変化に対応できる、戦略的な柔軟性が求められます。

 強みを見極める五つの視点がわかったら、強みを見極めるステップに入ります。

 最初のステップは、企業内部での強みの洗い出しです。具体的には、以下のものをリストアップします。

企業が持っている経営資源 得意な能力
・人材
・技術
・設備
特定のスキルやプロセス

 そのうえで、過去の成功事例や競合他社との比較を通じて、どの資源や能力が市場での成功に貢献し、成功へ導いたかを考えます。また、主観的な評価だけでなく客観的な視点からの情報も非常に有益なため、社内外のスタッフや関係者とコミュニケーションをとり、企業の強みと見なす要素を聞き出すのも有効です。

 強みの洗い出しで使用するフレームワークとしてよく知られているのが、SWOT分析です。SWOT分析は、「企業の強み(Strengths)」がどの程度重要で、同時に「弱点(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」にどのように関連しているかを評価します。

 次に、洗い出した強みを客観的に評価するプロセスに入ります。

 特に、自社の独自性を明確にするために、ほかの競合企業の強みと比較し、自社の強みが市場でどれだけ競争上の優位性を提供できるかの確認が重要です。強みの評価にはさまざまなフレームワークが用いられますが、一般的にはVRIO分析が用いられます。

 VRIO分析は、組織のリソースや能力が競争上の優位性を持つかどうかを評価するためのフレームワークです。「Value(価値)」「Rarity(希少性)」「Imitability(模倣性)」「Organization(組織化)」の四つの要素から成り立っており、これらの要素を評価することで、組織が持つリソースや能力が競争上の優位性を持つかどうか見極めます。

 また、顧客や市場のニーズに関する調査を行って顧客が何を望んでいるかを理解し、自社の強みが市場の要求と一致するかどうかを確認することも大切です。

 最終的に洗い出した強みを絞り込み、戦略的に活用する指針を定めます。

 まずは、抽出した強みが、企業の経営戦略とマッチしているか確認しましょう。強みがどのように企業の目標と一致し、戦略をどういった点で強化できるか評価しながら選別します。

 競争環境が変わっても強みが通用するかどうかの持続性を評価し、将来にわたって発揮し続けられるかを判断することも大切です。長期的な成功に向けた計画を立てるのに役立ちます。

 強みを絞り込む際には、どの強みが価値連鎖全体に最も影響を与え、競争優位性を強化するかを特定するために、バリューチェーン分析などのフレームワークを用いるとよいでしょう。

 最後に、強みを最大限に活用するために必要なリソースや投資を特定し、リソースの配分を考えます。これにより、強みを強化して成果を最大化できます。

 コアコンピタンスを確立して競争力の向上を目指す際には、五つのポイントを押さえることが有益な方向へ進む手助けとなります。

 ビジョンは企業の未来像を言語化し、コアコンピタンスの方向性を定める重要な要素です。明確なビジョンを持つことで、組織全体が共通の目標に向かって協力できます。

 経営者は「どの分野で差別化を図るか」「どの価値を提供するか」を明確にし、それに基づいてコアコンピタンスの方向性を設定することが求められます。

 コアコンピタンスの基盤となるのは、各社が持つ独自の技術やノウハウです。技術開発を促進するためには、継続的な研究開発への投資が欠かせません。人材が不足しているならば、専門家との連携や中途社員の雇用なども必要となります。

 例えば、新しいアイデアにつながる実験は、競合他社との差別化に不可欠です。技術の進化に対応し、時代においていかれないような戦略も立てましょう。

 コアコンピタンスは持続的な競争優位性を提供しますが、市場や外部環境の変化に常に対応する柔軟性も求められます。市場や技術の変化に敏感で変化に適応しやすい組織文化を養い、柔軟性を持ちながらもビジョンやコアコンピタンスに一貫性を持たせることが大切です。

 コアコンピタンスを組織全体で築くために必要な知識やスキルを習得するために、成長を促進するための学習計画を策定しましょう。

 社内の知識やスキルを向上させるトレーニングプログラムや教育プロジェクトを導入し、従業員が最新の情報にアクセスできる環境を整えます。社内ノウハウだけでの学習には限界もあるため、外部のトレーニングや業界のベストプラクティス(最善の事例)を活用することも有益です。

 コアコンピタンスを確立するためには、組織力を高めて開発スピードを向上させる必要があります。リーダーシップの強化やチームワークの向上、プロジェクトマネジメントの効率化など、組織内外の連携を強化し、競合他社よりも優れた開発能力を築くための施策を継続的に実施しましょう。

 コアコンピタンスは、自社ならではの強みを生かした製品やサービスを顧客に対して価値として提供し、競合他社に対する優位性を築くための中核的能力のことです。

 競争が激しく市場や顧客のニーズが急速に変化しやすい現代のビジネス環境では、自社固有の強みを活用することは、長期的な企業の存続と成長には欠かせません。

 コアコンピタンスを活用して成功した企業の事例を参考にしつつ、自社の強みの見つけ方のポイントを活用しながら中核的な能力を見極め、中長期的な目線で経営戦略に組み込んでいきましょう。