目次

  1. ケイパビリティとは
    1. ケイパビリティとコアコンピタンスの違い
    2. ダイナミックケイパビリティとオーディナリーケイパビリティ
  2. ケイパビリティ・ベース戦略と四つの基本原則
  3. ケイパビリティを向上させる具体的な取り組み
    1. 人材育成・社員教育の充実
    2. 業務プロセス改革の徹底
    3. 変革機運の醸成
  4. ケイパビリティの分析方法
    1. バリューチェーンで強みを分析する
    2. SWOT分析もおすすめ
  5. ケイパビリティを意識するメリット
    1. 競合優位性を保てる
    2. 持続性がある
  6. ケイパビリティの注意点
  7. 変化の激しい時代を生き抜く組織へ

 ケイパビリティ(capability)とは、直訳すると「能力」「才能」「手腕」「力量」を意味します。ビジネス用語としては「企業全体が持つ組織的な能力」「組織として他社より優位な強み」を指します。

 ケイパビリティが注目される主な背景は、時代の変化が早く、不確実性が高まっている点です。テクノロジーの急激な進展や脱炭素社会への転換など、ビジネスモデルおよびビジネスプロセスを変化せざるを得ない組織も少なくありません。

 VUCA(Volatility〈変動性〉・Uncertainty〈不確実性〉・Complexity〈複雑性〉・Ambiguity〈曖昧性〉)という言葉に代表されるように、社会の変化が激しくなっています。この状況において個人の能力向上だけで対応するのは難しく、組織全体の力として変化に向き合うことが不可欠となります。こうした観点からも、ケイパビリティの重要性がわかるでしょう。

 また「他社より優位な強み」というとコアコンピタンスという単語が思い浮かぶ人もいるはずです。さらにケイパビリティには、ダイナミックケイパビリティとオーディナリーケイパビリティがあります。

 以下でそれぞれの関係性や違いを解説します。

 コアコンピタンスも企業が持つ強みや能力を意味する言葉ですが、ケイパビリティとはどのように異なるのでしょうか。その違いについて表でまとめました。

用語 定義
ケイパビリティ 事業運営全体で一貫して持つ組織力であり、技術力など単体の能力だけを指すものではない。
コアコンピタンス 他社には真似できない「核」となる能力。成功を生み出す能力であり、競争優位の源泉。主に技術力や製造能力を指す。

 ケイパビリティは事業運営全体で持つ総合的な組織力を指しますが、コアコンピタンスは他社に比して優位な個別能力を意味します。新技術によって新たな製品やサービスを創出した場合、その技術こそがコアコンピタンスです。

 一方で、製品やサービスをマーケティングや品質管理で効率的なオペレーションを実現できた場合は、組織全体的な力としてその運営全体がケイパビリティとなります。

 ケイパビリティには、ダイナミックケイパビリティ(企業変革力)とオーディナリーケイパビリティ(通常能力)があります。その違いについて表でまとめましょう。

用語 定義
ダイナミックケイパビリティ 激しく変化する環境のなかで、企業がいかに対応していけるか、その自己変革能力を指す。
オーディナリーケイパビリティ 企業内の資源をより効率的に使用し、利益を最大化しようとする通常能力活用を指す。

 企業運営のプロセスが完成された組織は、オーディナリーケイパビリティ(通常能力)が精緻化されています。すなわち、そこに変革を起こすとなると多大なリソースが必要です。

 とはいえ、目まぐるしいテクノロジーの進展を考えると、企業が既存戦略だけで生き残ることは難しくなります。そのため、多くの企業が既存の経営資源を生かしつつも、ダイナミックケイパビリティに注目するでしょう。

 ケイパビリティを経営戦略として落とし込むために、ケイパビリティ・ベース戦略とその基本原則について解説します。ケイパビリティにより競争優位を確立するための基本原則には、以下の四つがあります。

  1. 企業戦略を構成する要素は、製品や市場ではなくビジネスプロセスである
  2. 競争優位性があるビジネスプロセスを継続的に顧客に提供できること
  3. バリューチェーン全体を最適化するためのインフラに投資する
  4. 組織全体を変革するためCEOの責任で実行する

 経営戦略の有名なものとして、マイケル・ポーターの競争戦略があります。こちらは、競合他社など外部環境と比較して競争優位の源泉を見出すポジショニングアプローチです。コストリーダーシップ戦略や差別化集中戦略、ファイブフォースモデルなどに代表されます。

 一方、ケイパビリティ・ベース戦略は、組織の内的要因の徹底した強化を狙います。環境への変化に組織的な適応力を高め、競争優位を確立しようとするアプローチです。

 ケイパビリティを向上させるためには、ハード(制度・仕組み・ルールなど)とソフト(人材・コミュニケーションなど)の両面から取り組みを実施することが大切です。具体的な取り組みの内容を解説します。

 企業を支えているのは人材です。そのため人材を強化する取り組みは、ケイパビリティの向上において不可欠でしょう。

 知識や技術を向上させる教育のほか、不確実性の高い時代における問題解決力など、幅広い視野を身につける教育や自己啓発の推進が必要です。

 また、多様なスキルを身につけるうえでは、ジョブローテーションなども効果的です。一つの技術や知識に固執するのではなく、さまざまなスキルを磨くことで視野を広げる効果も生まれます。

 ケイパビリティを向上させるためには、現状の業務プロセスの見直しも必要です。例えば、アナログな業務をデジタルに移行するなどの改革によって、より重要度の高い業務に人的リソースを投入できます。こうした取り組みは、組織全体の力を高める際に役立ちます。

 ケイパビリティ向上のためには、現状のプロセスを改革するプロセスイノベーションだけでなく、製品やサービスの直接的なイノベーションも重要です。そのため、変革機運の醸成を狙って、以下の新たな取り組みを実施することも重視されます。

  • 経営理念やビジョンを見直す
  • 人事評価制度を見直す
  • 他部門との交流を増やす

 変化を嫌う人はどうしても一定数存在しますが、変化が激しい時代では組織文化もアップデートしていかなければ企業として生き残れません。これらの取り組みにより、組織文化を変化させ、変革機運を作り出すこともケイパビリティ向上には欠かせないでしょう。

 自社のケイパビリティを確認する分析方法は、バリューチェーンに当てはめて分析する方法とSWOT分析を活用する方法の二つがあります。それぞれの分析方法を解説します。

 ケイパビリティは、組織の総合的な力で打ち勝とうとする戦略です。自社のケイパビリティを把握するためにも、バリューチェーンのフレームワークに当てはめます。つまり、ビジネスの主活動の流れと支援活動の流れを知り、強化しなければいけないポイントを把握することが大切です。

 以下のフレームに自社の取り組みを文章化して当てはめることで「どこで」「何の活動が」利益を生み出しているのかを明確にできます。

バリューチェーンのフレームワーク
バリューチェーンのフレームワーク・著者作成

 ケイパビリティを把握するためには、SWOT分析も有効です。S(強み)とW(弱み)は内部環境を指し、自社でコントロールできます。O(機会)とT(脅威)は外部環境であり、自社でコントロールできません。内部環境と外部環境を押さえることで、自社の強化すべきポイントを整理できます。

SWOT分析
SWOT分析・著者作成

 企業運営においてケイパビリティを意識するメリットは「競合優位性を保てる」「持続性がある」の2点です。それぞれの内容を解説します。

 競合に打ち勝つためには、コアコンピタンスのように核となる差別化要因が必要になります。しかし、あくまでもコアコンピタンスは新たな製品やサービスを創出するための技術(個別の能力)を示した概念です。

 ケイパビリティは、事業プロセス全体における組織力を指します。全体の組織力を向上させる取り組みは、他の企業が簡単に真似できるものではありません。ケイパビリティの確立ができれば、他社に比して強い力を持ち、競合優位性を保てるようになります。

 ケイパビリティは経営基盤や事業プロセスといった組織力にもとづいており、一度高められれば、すぐに下がりにくいというメリットがあります。そのため、効果が持続しやすく、安定的な経営の実現に寄与します。

 また、ダイナミックケイパビリティを向上させれば、自社を取り巻く環境変化への対応力も高まり、企業の持続的な成長も期待できます。

 ケイパビリティはメリットだけでなく、活用する際の注意点も押さえて経営に生かすことが大切です。主な注意点として、確立するうえで時間を要する点が挙げられます。

 ケイパビリティは、企業の土台となる主要活動とそれを支える支援活動を含め、組織全体を再構築することです。そのため、企業のケイパビリティを把握したうえで課題を整理し、さらには施策を実施するだけでも多大な時間を要します。施策にたどり着くまで多くのプロセスを踏む必要があるためです。

 また、ケイパビリティはヒット商品が生まれてすぐに売上が向上するような取り組みとは異なり、組織全体の取り組みでもあります。そのため、効果が発現するまでにも時間がかかります。

 しかし、時間がかかる理由だけでケイパビリティの確立を疎かにし、従前のスタイルに固執するのは望ましくありません。時代の変化に対して柔軟に対応できず、取り残されてしまうリスクもあります。外部環境と内部環境を常に見つめ直し、変化を捉えて対応することも忘れてはいけません。

 ケイパビリティの向上は一朝一夕にはできないため、根気のいる取り組みとなるでしょう。しかし、常に組織をアップデートしていかなければ、この不確実性の高い時代を生き抜くことは難しい時代となっています。したがって、内部環境と外部環境をしっかりと見直す必要があります。

 ケイパビリティを向上できれば、組織力という無形資産を強化し、持続的な成長の実現が可能です。この記事を読み、何らかの取り組みを実施する企業が一社でも多く現れることを祈っています。