頼もしい中間管理職を育てるには 経営者が取るべき手段を事例で解説
中小企業の経営者が、頼もしい中間管理職を育成するためには何が必要でしょうか。規模が小さいほど、自らがプレーヤーとして引っ張る経営者も少なくありませんが、それでは組織は成長しません。組織コンサルティング会社・識学でシニアコンサルタントを務める山本裕輝さんが、中間管理職を育てて売り上げを伸ばした塗装会社の事例を交えながら、育成のポイントを具体的に解説します。
中小企業の経営者が、頼もしい中間管理職を育成するためには何が必要でしょうか。規模が小さいほど、自らがプレーヤーとして引っ張る経営者も少なくありませんが、それでは組織は成長しません。組織コンサルティング会社・識学でシニアコンサルタントを務める山本裕輝さんが、中間管理職を育てて売り上げを伸ばした塗装会社の事例を交えながら、育成のポイントを具体的に解説します。
経営者の代わりとなって現場のメンバーをマネジメントする中間管理職の育成は、会社の発展を大きく左右する重要な経営課題のはずです。しかし、「中間管理職が育たない」と嘆く中小企業の経営者は少なくありません。こうした経営者には大きく二つの共通点があります。
一つ目は、自分のやり方をまねさせようとすることです。例えば、モチベーションマネジメントが得意な経営者の下で働く中間管理職は、各メンバーの考えを読み取った上で感情を揺さぶる役目が求められます。しかし、そんな芸当を、経営者より経験が浅くカリスマ性も劣る中間管理職がまねできるでしょうか。
「私ができるのにあなたがうまくいかないはずはない。一生懸命やっていないからそうなるんだ」と経営者が叱責しようものなら、中間管理職はどうすればよいか分からなくなり、離職を選んでしまう恐れもあります。
二つ目は、中間管理職のやり方につい口を出したがることです。チームの成績が芳しくない中間管理職の報告を聞くうちに、口出しが止まらなくなる経営者は数知れず、なかには末端のメンバーにまで直接指示を出さなければ気が済まない人もいます。
部下のやり方にもどかしさが募り、「自分がやった方が早いし確実だから手助けしてあげよう」と考えているのでしょうが、自分の力で最初から最後まで仕事をやり遂げない限り、中間管理職は成長しません。部下の代わりに仕事をやってあげる経営者の優しさは、大切な成長機会を奪う無情な行為に他ならないと肝に銘じてください。
中間管理職の役割は、経営者とメンバーの間に立って配下のメンバーを成長させることです。どのような会社であれ、プレーヤーとして優れた成績の社員を中間管理職に登用するはずですから、次のステップは自分と同等以上に優秀なメンバーを育てることになります。それを実現するために、経営者に求められる役割は何でしょうか。
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経営者は中間管理職に対する評価を、管理しているチームの結果だけを見て行うようにしましょう。さらに、中間管理職1人では達成が難しい目標をチームに課すのです。
いくら個人成績が優れていようとチームが目標に届かなければ評価されない状況をつくることで、中間管理職は部下の育成に必死にならざるを得なくなります。
そのとき、経営者は中間管理職のやり方には口を挟まないでください。「社長の言う通りにやってうまくいかなかったのだから、私は悪くありません」という言い訳を取り除きたいからです。
結果が出ない時期がしばらく続いても、我慢して仕事を任せます。痛みを伴わずに対価は得られません。
ただし、定期的な管理は必ずしてください。我々は週1度の進捗会議を推奨しています。毎週経営者がチーム目標の進捗確認を行い、目標への到達度が低ければ軌道修正を促します。どんなに優れたアスリートにもコーチがいるように、中間管理職にも道に迷わぬように導いてくれる経営者が不可欠です。
また、何もかも好き勝手にやらせるわけにはいかないので、最低限守ってほしいルールは明文化しましょう。その上で「後は自分の力でやってみなさい」が原則です。こうすれば、中間管理職は「今いるメンバーで目標を達成するためにはどうすればよいか」知恵を絞ろうとします。
見事に目標を達成したならば、その結果が部下の成長の証しです。次はより高い目標を掲げ、さらなる成長に期待しましょう。
一方、目標未達だったときは、感情的にならず冷静に目標未達の原因と改善策を考えさせます。「私は過去最高の売り上げだったんですけれど、部下の調子が悪くて……」という言い訳が中間管理職から出たとしても、耳を貸してはいけません。
「それを何とかするのが中間管理職の仕事だよ」と、次の対策を考えさせましょう。自分のマネジメント能力にしっかり向き合ってこそ中間管理職は成長できます。
どうしても中間管理職が頼りなく見えるときは、報告させる頻度を増やすといいでしょう。現状分析と改善行動を細かいスパンで行うことで、目標達成の確率が上がります。ただし、あくまで施策を考える主体は中間管理職の側です。
中間管理職から「分からないことがあるので教えてほしい」と相談があったときは、部下に考えさせた上で時間を確保しましょう。「相談したかったが、忙しそうにしていたから話しかけにくかった」と言い訳を出されては困りますから。
ここまで、中間管理職をどうマネジメントすればいいかを見てきました。ただ、経営者がトップ営業として活躍している会社だと、そもそも社員が横一線のままなかなか育たず、中間管理職に引き上げるべき人材がいないというケースもあります。
そんなときは、成績の優れた社員のやり方を言語化し、マニュアルに落とし込みましょう。
私がある塗装会社の社長から、「社員が育たずに困っている」と相談を受けた際の話を紹介します。
社員15人を抱えるその会社の年商は6億円で、競合他社に比べてもかなりいい数字です。しかし、営業スタッフは5人もいたのに社長が売り上げの70%を稼ぎ出している状態でした。
この社長はカリスマであり営業センス抜群ですが、それゆえにアドバイスが感覚的になっていたのです。「こうやったらいいんだ」と社長が説明しても、部下は理解できません。
私は、社長の商談に営業スタッフを同行させ、議事録を取ってもらうことにしました。そして、議事録のなかから成約につなげる上で大事だと思うポイントを営業スタッフにリスト化させ、それを自分の商談で実行してもらったのです。
その結果、受注が急増し、翌決算期の売上高は1億円も増加しました。やったことは実に単純ですが、これだけの効果が出たのです。マニュアルやルールの作成は後回しにされがちですが、実は非常に重要かつ効果的だとお分かりいただけるでしょう。
社員数が多い大企業では、経営者が末端のメンバーの動きを把握できず、中間管理職がいなければ会社が機能しなくなります。優秀な人材も多く、中小企業に比べれば中間管理職が育ちやすいと言えるかもしれません。
これに対し、中小企業だと経営者が全員の一挙手一投足に目を光らせるやり方でもうまくいく可能性があります。人材も限られているため、「中間管理職を育てず現状のままでよいだろう」と考える経営者もいるでしょう。
しかし、本当にそれでいいのでしょうか。現状維持は衰退と同じです。外部環境が変化している以上、会社は本来それに合わせて発展し続けなければならないはずです。そのためにも、中小企業の経営者は中間管理職の育成に力を注いでいくべきでしょう。
識学シニアコンサルタント
近畿大学を卒業後、新卒でアイリスオーヤマ株式会社に入社しルート営業を経験。株式会社リクルートライフスタイル(現株式会社リクルート)に転職後は、ホットペッパーの営業として大手法人の経営コンサルティングやエリア責任者としてマネジメントに従事。自身のマネジメントに悩んでいる中、識学と出会い、自身と同じ悩みを抱いている方々の役に立ちたいと考え識学に転職。
(※構成・平沢元嗣)
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