ナンバー2を「パートナー」にしない 頼れる右腕の育て方を解説
あなたが経営する会社に頼れるナンバー2はいますか。会社を大きく成長させたい経営者にとって、「右腕」と呼ぶべきナンバー2は欠かせません。しかし、ナンバー2への接し方やマネジメント方法を間違えると、逆に会社の成長を妨げかねません。組織コンサルティング会社識学の上席コンサルタント・岩澤雅裕さんが、ナンバー2を育成して経営を前に進めるための方法を、注意点や失敗例も交えて解説します。
あなたが経営する会社に頼れるナンバー2はいますか。会社を大きく成長させたい経営者にとって、「右腕」と呼ぶべきナンバー2は欠かせません。しかし、ナンバー2への接し方やマネジメント方法を間違えると、逆に会社の成長を妨げかねません。組織コンサルティング会社識学の上席コンサルタント・岩澤雅裕さんが、ナンバー2を育成して経営を前に進めるための方法を、注意点や失敗例も交えて解説します。
目次
社員数が3~4人程度の会社であれば、経営者自らが社員全員をマネジメントできるかもしれません。しかし、それ以上の規模になると、経営者はどうしてもマネジメントに時間を割けなくなります。会社の方向性や事業戦略をじっくりと練る時間を確保するためには、実働部隊を指揮するナンバー2が不可欠です。
といっても、ナンバー2に特別なスキルは必要ありません。経営者が何を望んでいるかを正しく理解できる力と、それを実現するためのリソースを調達する力があれば十分です。
リソースを調達する力とは何でしょうか。それは、経営者の高い要求に対して即座に「できません」と応じるのではなく、手持ちのリソースで対応できないときは外部の協力を仰ぐなどして実現を目指す力と言い換えられます。このような柔軟性と行動力を備えたナンバー2がいれば、会社は飛躍的に成長していくでしょう。
しかし、ナンバー2の育成に手こずる経営者は少なくありません。例えば、経営者とナンバー2が対等な「パートナー」として会社を興し、その後、互いをライバル視するようになって対立関係が生まれる場合もあります。
他にも、ナンバー2が頼りなく見え、マネジメントを任せられずに経営者が口出ししてしまい、結局、ナンバー2が辞めてしまったといった話は多いでしょう。逆に、専門知識にあふれたナンバー2に辞められたら困るという思いから、正しいマネジメントができずに好き勝手を許してしまう例もあります。
こうした失敗をせずにナンバー2を頼れる右腕にするため、経営者が意識すべきポイントは大きく三つあります。
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一つ目はナンバー2を「パートナー」にしないことです。あくまで経営者が上司で、ナンバー2は部下になります。
経営者はトップとして重要な決断を下す立場で、ナンバー2は経営者の決定を実行する役割を担います。そこには明確に上下関係があることを、ナンバー2に理解してもらうことが大切です。
従って、経営方針を決めるにあたってナンバー2に「これはどう思う?」といった聞き方をしてはいけません。
上下の関係があいまいになると、ナンバー2が対等の発言権を得て経営者の決定を否定できると錯覚します。最悪のケースだと、高額な報酬を要求するようになったり、経営者への不満を周囲に漏らして求心力を得ようとしたりする恐れもあります。
特に、親族がナンバー2を務めるケースでは、甘えやなれ合いが生じやすいので要注意です。仕事と割り切って接するようにしましょう。
家族経営の会社にお勧めなのが、血縁関係のないもう1人のナンバー2を置くことです。他の候補と比べられる環境を置くことで、ナンバー2は緊張感や成長意欲がかき立てられます。
二つ目のポイントは、ナンバー2を無視してその下の階層の社員に指示を出さないことです。この「一個飛ばし」をやってしまう経営者は非常に多く、注意が必要になります。
「一個飛ばし」をしたら、ナンバー2のいる意味がありません。現場の社員が経営者を見ながら仕事をするようになり、ナンバー2がやりにくさを感じるようになります。
加えて「結局社長が決めるから」、「言われた通りにやっただけ」などと自らの言動に責任を持たなくなるでしょう。結果として、ナンバー2が成長しにくくなり、経営者が現場から離れられなくなるという悪循環に陥ってしまいます。
ナンバー2には勇気を持って仕事を任せてください。現場に口出しをせず、静かに見守るのです。
とはいえ、時には経営者自ら現場に赴くのも大事です。ただ、そこで現場の社員から相談されても、「それは直属の上司に伝えてください」と言うようにしましょう。
最後のポイントは、「ナンバー2の顔色をうかがわない」ということです。ある特定の分野で自分より豊富な知識や経験を持っている、現場の信頼が厚いナンバー2もいるでしょう。そんな人材と対立したくないという思いから、好き勝手を許している経営者はいませんか。
経営者はナンバー2の上司、つまり評価者です。評価者である以上、仕事をしっかりと監督する義務があります。その義務から逃げずにマネジメントを行ってください。
そうしないと、いずれナンバー2が経営者に反発するようになり、最悪現場の社員を連れて独立してしまうかもしれません。
ここまでに述べた三つのポイントを意識しながらナンバー2の育成を進めるには、経営者の覚悟が必要です。
ナンバー2をパートナーにして仲良く仕事をしたい、現場に出て従業員の顔を見ながら仕事がしたいーー。その気持ちは分かりますが、それは経営者のエゴです。本気でナンバー2を育成する気ならあきらめてください。経営者は孤独なのです。
今、仲良く仕事をしているナンバー2に対して、いきなり方針転換をすると大きな反発を受けるかもしれません。
そのときは「自社が提供しているサービスや製品をより大勢に届けるために組織化は避けて通れず、その鍵が君(ナンバー2)なのだ」と伝えましょう。
ナンバー2と物理的に距離を取ってみるのもお勧めです。同じ部屋で仕事をするのではなく、執務室を分けてみる、必要なときを除いてコミュニケーションを取らない、などを徹底すると、マネジメントがしやすくなります。
どれだけ育成に力を入れても、成長したナンバー2が独立して別の道に進むことはあり得ます。それは仕方がありません。経営者はいざそうなったときに慌てないよう、引き継ぎのルールや手順書の整備などを徹底し、社内にノウハウを蓄積しておきましょう。
そうすると、結果的に社内体制が強くなり、次のナンバー2候補が育ちやすい環境ができます。
できるだけ早くナンバー2が欲しくなったときには、外部から招くのも選択肢です。ただ、外部から優秀な人を呼び入れる際には、役割と目標を明確にしなければいけません。
「何でも好きなように改革してほしい」というあいまいな要望だけを伝えると、評論家のように批判や注文ばかりするようになり、会社に適応できないまま終わる恐れもあります。
物販ビジネスを手がける会社で、実際にあった話を紹介します。その会社は、同じ業界の大手企業で十分な実績を残した人物の招聘に成功しました。ナンバー2に据え、いざ仕事を任せてみたのですが、全く機能しません。
その人は、ある程度レールが整っている状態で成果を残すのは得意でも、レールを作りながら進む作業は苦手だったようで、まるで実力を発揮できませんでした。
それだけならまだしも、結果が付いてこない現状にいら立ち、それを経営者や従業員のせいだと触れ回るようになったのです。会社の雰囲気は最悪になり、業績は悪化。ほどなくしてナンバー2は社を去っていきました。
もちろん、外部人材の登用が必ずしも悪いのではありません。ただ、こうしたリスクが付きまとうことを念頭に置いてください。
なお、この会社はもう一度外部からナンバー2を採用し、今度はうまく機能しています。
先代から事業を引き継いだ若い経営者が、先代と長年一緒にやってきたナンバー2などの幹部陣との関係に悩む話もよく聞きます。
こういうときは、今のナンバー2に退いてもらうか、もう1人若いナンバー2を配置するようにしましょう。
先代の右腕ということは、年齢もだいぶ上のはずです。新しい時代をともに歩むためには、若い力が必要です。
ここまで、ナンバー2の育成方法について見てきました。ナンバー2が頼もしい右腕に育てば、想像もできないくらいに会社が大きく成長する可能性もあります。
ある飲食チェーンを運営する会社では、もともとはナンバー2がパートナーのような存在でした。しかし、経営者はその状態から上下関係を明確にしつつ、ナンバー2に大きな裁量権を与えて現場を任せたところ、売上高が2倍以上に伸びました。
この例が特別なのではなく、どんな会社でも同じように成長していけるはずです。ぜひナンバー2を育成し、飛躍を遂げてください。本記事がその一助になれば幸いです。
識学上席コンサルタント コンサルティング部
一橋大学経済学部を卒業後、金融機関で法人融資業務などを担当。その後、中堅中小企業向けのコンサルティング会社で役員として従事。資金調達や資金繰り支援、事業計画策定支援などを担当。2018年1月に識学に入社し、これまで61社、200名ほどのトレーニングに携わる。
(※構成・平沢元嗣)
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