KGI・KPIの設定手法を事例で解説 社内に浸透させるためのポイントは
中小企業が継続的に成長するには、KGIやKPIの適切な設定が欠かせません。しかし、経営者が作成手順を理解していなかったり、作成後のプロセスを丸投げしたりしていると、効果は得られません。組織コンサルティング会社・識学の上席コンサルタント・山本裕輝さんが、実際の企業事例などをもとに、事業成長や従業員の行動指針につながるKGI・KPI設定の手順や、それを社内に浸透させるためのポイントを解説します。
中小企業が継続的に成長するには、KGIやKPIの適切な設定が欠かせません。しかし、経営者が作成手順を理解していなかったり、作成後のプロセスを丸投げしたりしていると、効果は得られません。組織コンサルティング会社・識学の上席コンサルタント・山本裕輝さんが、実際の企業事例などをもとに、事業成長や従業員の行動指針につながるKGI・KPI設定の手順や、それを社内に浸透させるためのポイントを解説します。
KGIとは「Key Goal Indicator」の頭文字を取った言葉で、「重要目標達成指標」を意味します。ある一定の期間で達成したい目標、と言い換えられるでしょう。売上高や営業利益、従業員数、拠点数の目標がKGIに該当します。
これに対し、KPIは「Key Performance Indicator」の略で、「重要業績評価指標」と訳されます。簡単に言うと、KGIを達成するための中間目標がKPIです。例えば、売り上げ目標のKGIに対して、その中間目標をはじめ、顧客単価、商談数、リピート率といった項目がKPIになり得ます。
KGIもKPIも、企業が目指すべき道を示すものであり、経営者が明確に設定しなければなりません。しかし、KPIはおろかKGIも決めていない経営者は意外と多いです。
日々、目の前の仕事に向き合っていればよいと考えているのかもしれませんが、それだと自分も社員も手を抜いて仕事をしてしまいがちでしょう。達成が難しく思える高い目標に向かって全員が努力を重ねることで、会社の生産性が最大化します。
また、KGIやKPIがなければ仕事の進捗の把握ができません。目標達成で得られるはずの成長実感が分からず、自らの行動を省み、改善を図ることさえ難しくなります。私は経営者に「1~3年先のKGI・KPIをお決めください」とお伝えしています。それより先のKGIやKPIを掲げてもよいですが、未来は不確定要素が多く、あまり先の数値目標を用意しても意味はありません。
では、中小企業経営者はKGIやKPIをどのように作成すればいいのでしょうか。
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まずはKGIを先に決め、それに基づいてKPIを定めていきます。KGIは経営者が達成したい目標です。斜陽産業でもない限り現状より少し高い数値にしましょう。
あるいは、「従業員の給与を10%引き上げたい」とか「新規事業を始めたい」という動機を出発点に、必要な利益額や売上高を求めるのもいいでしょう。
KGIを決めたら、そこから逆算する形でKPIを決めていきます。この逆算がポイントです。
仮に、商材販売の会社で年間のKGIを「売り上げ10億円」とした場合、それを実現するためにたどるべきプロセスを細かく分解します。
この場合、顧客1社あたりの平均売上高が50万円とすれば、2千社と契約を締結しなければいけません。それに、必要な商談の数、提出すべき見積もりの数、見積もりのために確保すべき商談の数、商談数確保のための架電数、リストに載せるべき企業数を順に計算する流れです。
こうして求めた基準を半年、3カ月、1カ月などに分ければそれがKPIになります。
KPIの設定に関する考え方は、現場の作業でも同じです。
筆者の顧客先の設計部門では、水道管や排水管の取り替えを請け負っています。この部門では「完成図面を作成してお客さまに納品する」をKGIにし、各工程を次のように分解しました。
現場調査▶設計▶検討図の提出▶検討図の返却▶承諾図の提出▶機器製作▶
機器出荷▶現場搬入▶納入検査▶機器据え付け▶試運転▶書類作成▶完了検査
▶完成図書作成
このように分類した後は、各工程をいつまでに終わらせるべきか期日を決めてKPIにします。上記の例では、自社以外が関わる部分もあるため、100%予定通りに進めるのは難しいかもしれません。それでも、KPIを念頭に置けば、相手との交渉や調整も進めやすくなるでしょう。
筆者がコンサルティングしている別の企業の例も紹介します。あるエステサロンでは売上高と出店店舗数をKGI、中間の売り上げ額や営業利益、来店客数、新規顧客獲得数、顧客単価をKPIにしました。
中古自動車の買い取り・販売を手がける企業では、売り上げのほか、買取台数をKGIとした上で、3カ月、1カ月単位で査定依頼件数や来店者数、Webからの査定見積もり件数、既存顧客へのDM送付件数をKPIにしています。
このようにKPIを設定したら、それを達成するために何をすべきかが分かってきます。ただ、なかには追いかけてもあまり意味がない数値もあるため、注意しましょう。
それこそ、1億円の売り上げを出しながら100万円しか利益をあげていない企業が、利益を倍にしたいという理由で倍の売り上げを目指しても無意味です。
販管費がかさんでいるのか、原価率が高止まりしているのか。理由はさまざまでしょうが、最終的に利益にいちばん大きなインパクトを与える項目はどれかを見抜き、優先順位を付けます。
細かくKPIを分類する作業は欠かせませんが、そのKPIがKGIの達成に有効なのかは見極めねばなりません。
時々、売り上げだけを伸ばそうとしたために、経費が膨らみ赤字になってしまうケースがあります。こうした事態を回避するための方法は、大きく分けて二つです。
一つ目は売り上げと利益の両方を目標として課すシンプルなやり方。もう一つはあらかじめ値引きの幅や商品ごとに確保すべき利益率をルール化し、守らせるやり方です。状況に応じてどちらを選んでもいいでしょう。
経営者がKGIとKPIを策定したなら、それを中間管理職へ落とし込む必要があります。例えば、10億円の売り上げをKGIにしたとき、営業部門の中間管理職へ目標を均等に割って与えるイメージです。経営者にとってのKPIの一つが、中間管理職のKGIとなります。
ここでよくありがちな失敗は、KGIだけを示して「後はよろしく」とだけしか言わないというものです。KGIとKPIは必ずセットで与えましょう。
当社では1週間単位でKPIを定め、管理していく方法を推奨しています。各KPIに対する進捗が芳しくないとき、どの段階でつまずいているかがはっきりします。
もし、架電数はしっかりと確保しているのに商談につながっていなければ架電リストを見直すべきですし、商談数は十分なのに成約率が低いなら、商談の仕方に問題があると分かります。
ただし、それが判明しても、経営者が部下に直接アドバイスをしてはいけません。どう改善を図るべきか部下自身に考えさせましょう。そうしないと、部下は「黙っていれば助けてくれる」と思い込み、主体的に動かなくなってしまいます。
中間管理職にKGIとKPIを与えたら、その配下のメンバーにもKGIとKPIを設定してもらわなければなりません。しかし、「自分がしてもらったように部下にKGIとKPIを与えなさい」と伝えたところで、同じような作業を中間管理職がすぐにまねするのは難しいでしょう。
一定期間の教育が必要なので、これまでに紹介したようなKGI・KPIの設定の仕方を伝えましょう。
「部下に直接アドバイスをしてはいけない」と述べましたが、この教育期間は別です。中間管理職がその部下にKGIとKPIを適切に提示できるようになるまで、しっかりと教えてください。
以上、KGIとKPIの設定方法とポイントについて解説しました。経営者だけでなく、末端の社員までKGIやKPIを意識するようになれば、会社は飛躍的に成長していくはずです。本記事がその一助になれば幸いです。
識学上席コンサルタント 営業部
近畿大学経営学部を卒業後、新卒でアイリスオーヤマに入社し、おもにルート営業を経験する。リクルートライフスタイルに転職すると、ホットペッパーの営業担当として大手法人の経営コンサルティングやマネジメントを経験。自身のマネジメントに悩んでいる中、識学と出会い、自身と同じ悩みを抱いている方々の役に立ちたいと考え識学に転職。
(※構成・平沢元嗣)
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