目次

  1. イラン・イスラエルの緊張高めた軍事衝突
  2. 停戦後の不透明な中東情勢
  3. 中東情勢、日本企業への影響とリスク
  4. 日本企業に求められるリスク管理

 イランとイスラエルの間の緊張が2025年6月、急速に高まりました。発端は、イスラエルがイランの核関連施設などへの攻撃を実施したことでした。

 イスラエルは、イランの核開発が自国の安全保障に対する脅威であると長年主張し、繰り返し軍事行動を正当化してきました。しかし、首都テヘラン近郊のレーダー施設やミサイル貯蔵拠点、軍事インフラなども標的となり、これまでにイラン国内では600人以上が犠牲とになったと言われ、多くの民間人も犠牲になっています。

 イランも報復として、イスラエル最大の商業都市テルアビブやハイファ、エルサレムに向けて弾道ミサイルやドローンなどを発射しました。

アメリカが空爆したイランの核拠点3ヵ所

 一方、トランプ大統領は6月21日、イランへの初の空爆に踏み切り、フォルド、ナタンズ、イスファハンにある核施設を空爆しました。その後、トランプ大統領が突然停戦を発表し、現時点ではイスラエルとイランによる軍事的応酬は収まっていますが、以前として不穏な空気が流れています。

 停戦の発表により、戦闘の即時的な拡大は回避されました。しかし、根本的な問題は解決していません。イランは欧米からの制裁や圧力にもかかわらず、核開発計画を放棄する意思は示していません。イランの指導部は、核開発が自国の安全保障と交渉力の強化に不可欠だと考えています。

 一方、イスラエルのネタニヤフ政権は、イランの核開発を絶対に容認しないとの強硬な姿勢を崩していません。ネタニヤフ首相は、停戦後も必要であれば即座に空爆を実施するとの姿勢に徹しており、両国間で緊張が再燃する可能性は高いと見ておくべきでしょう。

 さらに、トランプ大統領も状況次第では再びイランへの空爆に踏み切るシナリオが考えられ、日本企業としては今回の停戦は表面的なものとして捉えておくべきでしょう。

 言うまでもなく、中東は日本にとって重要なエネルギー供給地域であり、サウジアラビアやUAEなどからの原油の輸入は日本経済にとって不可欠です。

 しかし、現在の中東情勢は依然として不穏な空気を醸し出しています。仮に、当事国間で軍事衝突が再燃した場合、ホルムズ海峡などの中東の重要航路が封鎖されるリスクは依然として排除できません。

ホルムズ海峡の周辺地図
ホルムズ海峡の周辺地図

 無論、封鎖と言ったも完全な封鎖はイラン経済にも打撃となるので現実的な選択肢とは言えず、機雷の設置、高速艇やドローンなどによる妨害などが考えられますが、それだけでもサプライチェーンの不安定化は避けられないでしょう。

 また、中東で事業を展開する日本企業は、現地の安全保障リスクにも直面しています。建設、インフラ、エネルギー関連の企業は、現地でのプロジェクト遂行において、従業員の安全確保や事業継続の計画を見直す必要があります。

 たとえば、イランがイスラエルへミサイルやドローンなどを発射した際、イスラエルと国境を接するヨルダンではイスラエル軍が撃墜したミサイルやドローンの破片が上空から落下したこともあり、他の中東諸国においても駐在員の安全を十分に確保する必要があります。

 日本企業としては、イランが核開発を継続する限り、イスラエルや米国との緊張が解消する可能性は低いという前提に立つ必要があります。そして、今後のリスクを見極める上で重要なのは、イスラエルのネタニヤフ政権がどういった行動に出るかでしょう。

 これまでの状況から、イランから先制的にイスラエルへ攻撃を仕掛ける可能性は極めて低いと考えられます。しかし、壊滅的な状況にありますが、ガザ地区やレバノンなどイスラエル周辺にはイランが支援してきた武装勢力が存在し(他にもイエメンやイラクなどに存在する)、そういった親イラン武装勢力がイスラエルへの攻撃を成功させれば、イスラエルがそれを口実に再びイランへの攻撃に踏み切る可能性もあるでしょう。

 日本企業としては、中東で紛争が再現するというシナリオを前提に、駐在員の安全やサプライチェーンの安定を考え、リスク回避策を改めて考える必要があるでしょう。