目次

  1. 社会保険労務士とは
  2. 第1条の目的規定を「使命規定」へ
  3. 業務に「労務監査」が含まれることの明示
  4. 裁判所への出頭及び陳述に関する規定の整備
  5. 名称の使用制限が「社労士」等にも適用されることの明確化
  6. 連合は懸念表明
  7. 改正社労士法の施行日

 厚生労働省の公式サイトによると、社会保険労務士とは、労働・社会保険の問題の専門家として、以下の業務に携わります。

  • 書類等の作成代行
  • 書類等の提出代行
  • 個別労働関係紛争の解決手続(調停、あっせん等)の代理
  • 労務管理や労働保険・社会保険に関する相談等

 ただし、個別労働関係紛争の解決手続(調停、あっせん等)の代理は、紛争解決手続代理業務試験に合格した「特定社会保険労務士」のみができる業務です。

 社労士になるためには、1年に1回実施される「社会保険労務士試験」に合格し、かつ、一定の実務経験を経た上で、社会保険労務士名簿への登録を受ける必要があります。

 こうした社労士制度を規定する法律が改正されました。主なポイントは以下の通りです。

 今回の法改正で、根本的な変更の一つが、社会保険労務士法の第1条に新たに「社会保険労務士の使命に関する規定」を設けた点です。

 具体的には、「社会保険労務士は、労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施を通じて適切な労務管理の確立及び個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成に寄与することにより、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上並びに社会保障の向上及び増進に資し、もつて豊かな国民生活及び活力ある経済社会の実現に資することを使命とする」と書かれています。

 今回の改正では、社会保険労務士の業務内容に「労務監査」が明確に含められることになりました。具体的には、「事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項に係る法令並びに労働協約、就業規則及び労働契約の遵守の状況を監査すること」と書かれています。

 今回の改正では、裁判所に弁護士とともに出頭することとされている社会保険労務士の地位について、弁護士の「訴訟代理人」を「代理人」に改めることが明記されました。

 社会保険労務士が、専門的な知見から陳述する際の立場がより明確になります。

 社会保険労務士の専門性と社会的な信頼性を確保するため、名称の使用制限に関する規定も強化されました。

 具体的には、社会保険労務士に類似する名称として、「社労士」が含まれることが明記されたほか、社会保険労務士法人に類似する名称に「社労士法人」が、社会保険労務士会又は全国社会保険労務士会連合会に類似する名称に「社労士会」及び「全国社労士会連合会」が含まれることがそれぞれ明記されました。

 一方、日本労働組合総連合会(連合)の公式サイトは、事務局長談話を発表しました。

 「改正法では、労働関係法令や労働協約などの遵守状況を監査すること、すなわち『労務監査』が社労士の業務に含まれることを法律上明らかにするとしている。しかし、社労士試験には労働組合法などの科目がなく、『労務監査』を行いうる知識を十分に有しているかは疑義がある。むしろ一部の社労士の問題行動が『労務監査』として正当化されるおそれがある。
 また、改正法には、社労士が労働審判手続に補佐人として出廷できる旨を明確にすることも含まれている。社労士による団体交渉への不当介入が生じている状況に鑑みれば、労働審判の場でもその介入により実務が混乱することも懸念される」と述べています。

 この法律は、公布の日から施行されます。ただし、名称の使用制限に関する規定は公布の日から起算して10日を経過した日から、裁判所への出頭・陳述に関する規定は2025年10月1日から施行されることになっています。