目次

  1. 短時間労働者労働時間延長支援コースとは
  2. 短時間労働者労働時間延長支援コースの経緯
  3. 短時間労働者労働時間延長支援コースの助成額
  4. 支給の対象となる事業主には7つの要件
  5. 支給の対象となる労働者には5つの要件
  6. 申請手続きのステップ

 厚労省の公式サイトによると、キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者ら、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、正社員転換、処遇改善を実施した事業主に助成する制度です。

 このうち、短時間労働者労働時間延長支援コースは、短時間労働者を新たに社会保険に加入させるとともに、労働時間の延長や賃金増額といった収入増加の取り組みをした事業主を支援するものです。

 厚労省は「労働者にとっては、年収の壁を意識せず働くことができ、社会保険に加入することで、処遇改善につながる」と説明しています。事業主にとっては、人材確保や人手不足の解消に役立つ可能性があります。要件を満たしている場合、従来の「社会保険適用時処遇改善コース」からの切り替え申請ができます(社会保険適用時処遇改善コースは2025年度末で終了予定)。

 短時間労働者労働時間延長支援コースは、当分の間の暫定措置です。その終期について、厚労省は「現時点では決まっておりません」と回答しています。

  年収の壁について、政府は「106 万円の壁」への当面の対応策として、2023年10月から、新たに被用者保険を適用するとともに、賃上げや労働時間の延長等を通じて労働者の収入を増やす取組を行う事業主を、社会保険適用時処遇改善コースで支援しています。

 「130万円の壁」についても、手取りの減少による働き控えの解消を図るため、2025年2月25日の自民・公明・維新は、三党合意で、時限的措置として、キャリアアップ助成金による措置を拡充することを盛り込みました。

 そこで、現行の社会保険適用時処遇改善コースの「労働時間延長メニュー」の要件や助成額を見直し、「短時間労働者労働時間延長支援コース」を新設しました。

 短時間労働者労働時間延長支援コースは、労働者1人につき最大75万円を助成します。助成額は、週所定労働時間の延長と賃金増額の組み合わせによって異なり、企業の規模(小規模企業、中小企業、大企業)によっても変わります。

週所定労働時間
の延長・賃金の増額
小規模企業の一人当たり助成額 中小企業の一人当たり助成額 大企業の一人当たり助成額
5時間以上(増額なし) 50万円 40万円 30万円
4時間以上5時間未満(5%以上増額)
3時間以上4時間未満(10%以上増額)
2時間以上3時間未満(15%以上増額)

 小規模企業とは、常時雇用する労働者の数が30人以下である事業主を指します。複数年かけて週所定労働時間の延長等に取り組み、社会保険に加入する場合も対象です。

 さらに、社会保険加入時点の取り組み内容(1年目)と2年目の取り組み実施後(2年目)で比較した場合に次のような助成もあります。

週所定労働時間
の延長・賃金の増額
小規模企業の一人当たり助成額 中小企業の一人当たり助成額 大企業の一人当たり助成額
労働時間を更に
2時間以上延長
25万円 20万円 15万円
基本給を更に
5%以上増加ま
たは昇給、賞与
もしくは退職金
制度の適用

 助成金の支給対象となる事業主は、7つの要件のいずれも満たす必要があります。

① 新たに社会保険の被 保険者とした対象労働者を、各支給対象期の期間以上継続して雇用し、この労働者に支給対象期分の賃金を支給した事業主

② 新たに社会保険の被保険者とした労働者について、基本給および定額で支給されている諸手当を合理的な理由なく減額していない事業主

③新たに社会保険の被保険者とした労働者について、社会保険の被保険者要件を満たすこととなった日以降のすべての期間、雇用保険および社会保険の被保険者として適用させている事業主

④新たに社会保険の被保険者とした対象労働者について、週所定労働時間および社会保険加入状況を明確にした雇用契約書等を作成および交付している事業主

⑤社会保険適用時処遇改善コースの併用メニュー(3期目)または労働時間延長メニューの対象労働者に限り、短時間労働者労働時間延長支援コースへ切り替えての申請を可能とするが、この切替えを行う場合は、当該対象労働者に係る併用メニュー(3期目)または労働時間延長メニューの支給申請が提出されていない事業主

⑥ 雇用する有期雇用労働者等について、週所定労働時間を5時間以上延長または2時間以上5時間未満延長するとともに基本給を増額した事業主

⑦社会保険の適用拡大、基本給の増額または労働時間の延長等で、対象の労働者が新たに社会保険の被保険者要件を満たし、新たに社会保険の被保険者とする場合に、適用日の1ヵ月前の日から起算して3ヵ月が経過する日の前日までの間に、⑥の措置を講じた事業主または上記⑥の措置を講じ、それによって、新たに社会保険の被保険者としての要件を満たした対象労働者を、被保険者とした事業主

 さらに2年の取り組みをする場合は⑥の取組後、第2期支給対象期の開始日までに、対象労働者に対して、次のいずれかの措置を講じる必要があります。

  • 週所定労働時間を2時間以上延長する
  • 基本給を5%以上増額する
  • 昇給、賞与もしくは退職金制度のいずれかの制度を新たに適用させる

 対象となる労働者は、以下の5つすべての要件を満たす必要があります。

①週所定労働時間を延長等した日または新たに社会保険の被保険者とした日のいずれか早い方の日の前日から起算して6ヵ月前の日から継続して、支給対象事業主に雇用されている有期雇用労働者等。ただし、複数年かけて週所定労働時間の延長等を行う場合は、週所定労働時間の延長等をした最初の日の前日から起算して6ヵ月前の日から継続して、支給対象事業主に雇用されている有期雇用労働者等

②新たに社会保険の適用を受ける日の前日から起算して1か月前の日から3か月が経過するまでの間に、週所定労働時間の5時間以上の延長または2時間以上5時間未満の延長および基本給の増額が講じられ、新たに社会保険の被保険者要件を満たすこととなった労働者。ただし、2年目の取組を行う場合は、第1期支給対象期における週所定労働時間の延長等後から第2期支給対象期の開始日までに、次のいずれかの措置を講じられた労働者
• 2時間以上の週所定労働時間の延長の措置
• 基本給を5%以上増額
• 昇給、賞与もしくは退職金制度のいずれかの制度の新たな適用

③社会保険の適用日の前日から起算して過去6か月間、社会保険の適用要件を満たしていなかった者で、支給対象事業主の事業所において過去2年以内に社会保険に加入していなかった者。

④ 週所定労働時間の延長等を行った事業所の事業主、または取締役の3親等以内の親族以外の者。

⑤ 支給申請日に離職していない者。

 ここでいう社会保険の被保険者要件とは、従業員51人以上の企業等では週所定労働時間が20時間以上かつ所定内賃金が月額8.8万円以上(学生を除く)を指し、従業員50人以下の企業等では週所定労働時間および月の所定労働日数がフルタイム従業員の3/4以上が基本です。

 労使合意により任意に短時間労働者を適用する場合も、週所定労働時間が20時間以上かつ所定内賃金が月額8.8万円以上の方が被保険者となります。

 短時間労働者労働時間延長支援コースの助成金を受けるためには、まず事業主は、コース実施(社会保険加入日)の前日までに、管轄の都道府県労働局へキャリアアップ計画書を提出する必要があります。

 既存の「社会保険適用時処遇改善コース」の計画届を提出している場合は、短時間労働者労働時間延長支援コースの計画届・変更届の提出は不要です。

 支給申請は、支給対象期分の賃金を支給した日の翌日から起算して2ヵ月以内に支給申請書を提出してください。

 申請前に「短時間労働者労働時間延長支援コース 事業主向けQ&A」(PDF)を読んでおくとよいでしょう。