目次

  1. 106万円の壁とは 2024年10月から対象拡大
  2. うっかり106万円を超えてしまったら?
  3. 年収の壁 106万円と130万円の違い
  4. 従業員1人最大50万円の助成金はいつから?
    1. キャリアアップ助成金、社会保険適用時処遇改善コースを新設
    2. 社会保険適用促進手当とは 対象者は標準報酬月額が10.4万円以下
    3. 事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
  5. 単身者や自営業者の不公平感どうする?

 最低賃金の引き上げや人手不足のため、パートの時給は年々上がっていますが、配偶者がいて扶養されているパート労働者の年収はほぼ横ばいです。それは、年収が上がって扶養から外れ、税金や社会保険料の支払いが必要になる「働き損」を回避しようと労働時間を調整しているからだとみられます。

 野村総合研究所が配偶者のいるパート・アルバイト女性3000人余りに実施したアンケートでは、6割以上が自身の年収額を一定に抑える「就業調整」を実施していると回答しています。

 その金額を超えると税金や社会保険料の支払いが求められる「年収の壁」はいくつも存在しますが、そのなかでも「106万円の壁」と「130万円の壁」は、社会保険料に関する「壁」です。

「年収の壁」に関する適用関係(イメージ)厚労省の公式サイトから https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_2023_00002.html

 厚生労働省の特設サイトによると、「106万円の壁」とは、以下の要件に当てはまる場合、扶養から外れて社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入しなければならなくなり、結果として手取りが減ってしまう状況を指します(厚労省はその代わりに年金・医療保険が充実すると説明しています)。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 雇用期間が継続して2ヵ月超見込まれる
  • 賃金が月額8万8000円以上(年106万円以上)
  • 学生ではない
  • 従業員が101人以上

 2022年10月以降、社会保険の適用拡大により、パートやアルバイトでも、社会保険の被保険者となりえるため、106万円の壁が意識されやすくなっています。

年金制度改正法の適用拡大スケジュール

 対象となる企業の規模要件は2022年10月から「常時100人超」となっていますが、2024年10月以降は「常時50人超」に変わるので注意が必要です。

 年収106万円を超える働き方をした場合、扶養から外れて社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入しなければならなくなります。

 ただし、ある1ヶ月だけ給料が8.8万円を超すと、すぐに社会保険の加入義務が生じるわけではなく、臨時に支払われる賃金など計算に含めない手当もあるので、近くの年金事務所などで確認しましょう。

 ちなみに、130万円の壁については、繁忙期に収入が一時的に上がっても、事業主が証明すれば、引き続き扶養に入り続けられる仕組みを厚生労働省が2023年10月から始めました。

 これに対し、130万円の壁とは、従業員100人以下の企業でも、配偶者に扶養される人がパートなどで働き、年収が130万円を超えると、扶養から外れて国民年金(月額1万6520円)と国民健康保険(自治体・収入によって異なる)の保険料を払う必要が出て、結果として手取りが減ってしまう状況を指します。

 このほか、人事院が発表している「職種別民間給与実態調査の結果」によると、扶養者が勤めている企業で家族手当(配偶者手当)に制限をかけるのは年収103万円が最多で、その次に多いのが130万円となっています。こうした手当の制限も就業調整の一因となっています。

 岸田首相は2023年9月25日、経済対策の目的と柱を発表しました。

 首相官邸の公式サイトで公表された会見内容によると、その一つが、「年収の壁」への対策です。岸田首相は「社会保険料を国が実質的に軽減し、『壁』を超えても、給与収入の増加に応じて手取り収入が増加するようにしてまいります」と話しました。

 具体的には、厚労省が27日に発表しました。10月から順次取り組みます。

  1. 106 万円の壁への対応として、キャリアアップ助成金のコースの新設、社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
  2. 130 万円の壁への対応として事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
  3. 配偶者手当への対応として企業の配偶者手当の見直し促進

 短時間労働者が被用者保険の適用となる際に、労働者の収入を増加させる取り組みをした事業主に対して、一定期間助成を行うことで、壁を意識せず働くことのできる環境づくりを後押しする「社会保険適用時処遇改善コース」が新設されます。

 キャリアアップ助成金のうち、社会保険適用時処遇改善コースとは、労働者の収入を増加させる取り組みをする事業主を支援する助成金です。主なポイントは以下の通りです。

  • 一事業所当たりの申請人数の上限を撤廃
  • 2025年度末までに労働者に被用者保険の適用を行った事業主が対象
  • 支給申請に当たり、提出書類の簡素化など事務負担を軽減
キャリアアップ助成金:社会保険適用時処遇改善コースの概要(厚労省の公式サイトから https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_2023_00002.html)

 厚労省の公式サイトによると、キャリアアップ助成金(2023~25年度分)の利用見込みが1月末時点で3749社、累計14万4714人に上ると発表しました。

 社会保険適用促進手当とは、短時間労働者への被用者保険の適用を促進するため、非適用の労働者が新たに適用となった場合に、事業主がこの労働者の保険料負担を軽減するために支給することができる手当です。

 社会保険適用促進手当は、給与・賞与とは別に支給するもので、新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として、保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定対象となりません。

 対象者は、標準報酬月額が10.4万円以下の者です。報酬から除外する手当の上限額は、被用者保険適用に伴い新たに発生した本人負担分の保険料相当額となります。最大2年間の措置となる予定です。

社会保険適用促進手当について(厚労省の公式サイトから https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_2023_00002.html)

 被扶養者認定には、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書などの確認が必要です。

 しかし、第3号被保険者などの年収が一時的に130万円以上となる場合は、人手不足による労働時間延⾧などに伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、迅速な被扶養者認定を可能とする予定です。

事業主の証明による被扶養者認定の円滑化(厚労省の公式サイトから https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_2023_00002.html)

 単身者や自営業者による保険料支払いの不公平感について、記者から問われた岸田首相は「この対策の対象になる方以外についても、どのような経済対策を用意するか、これは、まさにこれから与党対象とも議論をしながら、10月中に取りまとめるということであります」と答えています。