目次

  1. 配偶者手当とは 家族手当・扶養手当などの名称も
  2. なぜ配偶者手当の見直しが必要?
  3. 政府、配偶者手当の見直し手順示す
    1. 賃金制度・人事制度の見直し検討に着手
    2. 従業員のニーズを踏まえた案の策定
    3. 見直し案の決定
    4. 決定後の新制度の丁寧な説明
  4. 配偶者手当見直しの具体例
  5. 企業の対応と配偶者手当の見直しの留意点
  6. 相談窓口

 厚生労働省が作成した配偶者手当についてのリーフレット(PDF方式)によると、配偶者手当とは、企業が従業員の配偶者に対して支払う手当で、「家族手当」、「扶養手当」とも呼ばれています。

 導入している企業は多く、2022年の職種別民間給与実態調査によると、家族手当制度がある事業所は75.3%、配偶者に家族手当を支給する事業場は55.1%に上ります。

 配偶者手当の歴史は戦中までさかのぼります。厚労省の「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会報告書」によると、配偶者手当の始まりは、1939年にインフレを抑制するために賃金臨時措置令が出されたことがきっかけでした。

 賃金の引上げが凍結され、物価上昇によって家族のいる労働者の生活が厳しさを増したため、翌年、一定収入以下の労働者に対し、扶養家族を対象とした手当の支給が許可され、これが配偶者手当につながったといいます。

 厚労省によると、配偶者のいる女性パートタイム労働者の21.8%は、税制、社会保障制度、配偶者の勤務先で支給される配偶者手当などを意識し、その年収を一定額以下に抑えるために就労時間を調整する「就業調整」をしています。

 最低賃金の引き上げが続くなか、一定の年収以下に抑えようとすると、労働時間が短くなっています。そのため、パート労働者を多く雇用する企業は、繁忙期となる年末の人材確保に苦慮しています。

 そこで、政府は2023年9月、年収の壁に気にせず働けるようにと「年収の壁・支援強化パッケージ」を発表。その一環として、10月20日に「配偶者手当見直しに関する資料」を公表しました。企業が支給している配偶者手当の見直し手順や事例などを紹介しています。

 政府が示した配偶者手当見直し検討のフローチャートによると、配偶者手当の見直し手順は、以下のようになっています。

 まずは、他社の事例も参考に自社の案を検討することを勧めています。見直しが実施された企業事例として、厚労省は「配偶者手当のあり方の検討に向けて 実務資料編」(PDF方式、p.30)を案内しています。

 アンケートや各部門からヒアリングを行い、自社にあった案に絞り込んでいきましょう。

 見直し案は従業員から見て納得感のあるものにしましょう。決定の過程での留意点としてフローチャートでは以下のポイントを挙げています。

  • 労使での丁寧な話し合い
  • 賃金原資総額の維持
  • 必要な経過措置

 見直しの影響をうける従業員に丁寧な説明を行い、新制度を従業員の満足度向上につなげましょう。

 配偶者手当を見直したとき、従業員の納得感のある対応として、フローチャートのなかで以下の具体例を示しています。

  • 配偶者手当の廃止(縮小)+基本給の増額
  • 配偶者手当の廃止(縮小)+子ども手当の増額
  • 配偶者手当の廃止(縮小)+資格手当の創設
  • 配偶者手当の収入制限の撤廃

 「配偶者手当」を含めた賃金制度の円滑な見直しをするためには、メリットやデメリット、実施方法や事例などを把握しつつ、従業員や労働組合と十分な協議を行うことが必要です。

 また、労働契約法、判例などを踏まえて、以下の点にも留意しましょう。

  1. ニーズの把握など従業員の納得性を高める取組
  2. 労使の丁寧な話合い・合意
  3. 賃金原資総額の維持
  4. 必要な経過措置
  5. 決定後の新制度についての丁寧な説明

 就業規則により「配偶者手当」を含めた賃金制度の変更を行う場合は、労働契約法の規定等の関係法令や判例も踏まえた対応も必要です。

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできません。(労働契約法第9条)
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合には、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによることとされています。 (労働契約法第10条)

 「配偶者手当」の円滑な見直しのために、賃金制度設計に関する専門的な相談の窓口を利用することも可能です。取組内容や相談窓口の紹介は、最寄りの都道府県労働局へ。