「年収の壁」に対応する中小企業の3つの事例を紹介 準社員へ昇級も
最低賃金引き上げに対応して時給が上がっているのに、「年収の壁」を感じて就労制限しているパート・アルバイトはなかなか総労働時間を増やせないジレンマに陥っています。中小企業ではどう対応しているのかについて聞きました。
最低賃金引き上げに対応して時給が上がっているのに、「年収の壁」を感じて就労制限しているパート・アルバイトはなかなか総労働時間を増やせないジレンマに陥っています。中小企業ではどう対応しているのかについて聞きました。
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厚生労働省によると、2023年度の地域別最低賃金は、47都道府県で、39円~47円の引き上げとなり、全国平均で1004円となりました。10月から各都道府県で改定額が順次発行されます。
その一方で、配偶者がいて扶養されているパート労働者の年収はほぼ横ばいです。それは、年収が上がって扶養から外れ、税金や社会保険料の支払いが必要になる「働き損」を回避しようと労働時間を調整しているからだとみられます。
一定の年収を超えると、税金や社会保険料の支払いが求められるようになるため「年収の壁」とも呼ばれています。
そのなかでも、年収が103万円を超えると超えた分に対して所得税がかかる「103万円の壁」や、「106万円の壁」と「130万円の壁」は、社会保険料に関する「壁」です。
このほか、扶養者の家族が勤める企業では、家族手当に収入制限を設けている場合もあり、厚労省は2024年春の賃金見直しに向けた労使の話し合いの中で配偶者手当の見直しも議論されるよう対応を進めています。
最低賃金が上がっているのに、年収の壁という「天井」がなかなか取り払われないなか、中小企業は実際にどのように対応しているのでしょうか。
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兵庫県加東市にある「オーエス電機工業所」は、製造請負サービスが主な事業で従業員65人のうち、52人がパート・アルバイトです。そのため、就業調整につながる「年収の壁」は大きな影響があります。
3代目後継ぎ予定の下山宜昭さんは「最低賃金が上がるなかで、年収の壁が残るままだと、年間労働時間が年々下がります。そのため、週5日出勤できていた人が週4~3日にしないといけなくなります。すると、同じ業務量でも、より多くの人手がかかったり、社内での教育・育成コストもかかったり、総じて、コストアップの一因になります」と話します。
下山さんが従業員に話を聞くと、年収103万円を超えると、超えた額に対して所得税がかかるため、「103万円の壁」を強く意識していました。
そこで、パート・アルバイト従業員には、面談で次年度の働き方を相談するなかで年収130万円まで引き上げることができないか相談しているといいます。
「年収を103万から130万にアップすることで引かれる税額の概算を伝え、税金が引かれても、手取りは増えて“働き損”にはならないことを丁寧に説明しています」
ただし、気を遣っているのは、夫など扶養者の会社によっては、130万円まで収入が増えると、家族手当などが減るケースがあることです。
「世帯としての収入が減っては意味がないので、とても気を遣っています。家族手当、住宅手当などが減額にならないか、ご家族のライフステージにあった働き方か。家族と相談したうえで最終判断してくださいとお伝えしています」
パート・アルバイトが就業調整をするにも、年収を計算するのは一苦労です。
そこで、デジタルツールを活用したサービスも展開している伊勢神宮門前の飲食・土産物店「ゑびや」では、従業員に対し、所得制限をクラウド勤怠システムに設定して、あとどれぐらい働けるかを明細などで見えるようにしています。
ゑびやでは、すでに年収の壁を超えて働いているスタッフも少なくないといいますが、小田島春樹代表取締役は「扶養控除よりも扶養者の勤める企業で設定されている家族手当の影響が大きいのではないか」と話しています。
大分県臼杵市の銘菓「臼杵煎餅」を製造する後藤製菓代表の後藤亮馬さんは「年収の壁は悩まされてきました」と話します。
扶養範囲で働く人の多くは年収130万円を意識していますが、一部の方で扶養者の家族手当が103万円までなどの理由から、103万円を意識する人もいるといい10〜11月には就業調整する人もいるといいます。
そんななかで、後藤さんは10月から成長や収入アップを目指すパート社員向けにパートと正社員の間となる「準社員」という制度を作りました。
「これまでパート採用だけだったので、後藤製菓には正社員が少ないのですが、これからは問題解決を実践する正社員の人材確保や育成が必要だと感じています。その中で、向上心のあるパート社員が成長とともに正社員になれる環境を作りたいと思いました」
しかし、現状は正社員が少ないため、正社員に登用することへの過度なプレッシャーを感じている人が多いといいます。
そこで、就業時間は変えず、人事評価で「準社員」に登用できる仕組みを作りました、10月から短時間パート、フルタイムパートから合計4人が準社員となりました。体制は以下の通りです。
準社員はグループの班長としての役割を求められますが、賃金も増え賞与の対象にもなるメリットが生まれました。
「労働時間は週30時間以上で相談して決めます。時間によりますが、扶養を外れて働くメリットが感じられるぐらいの収入になります。ほかのパート社員の方にも子育てが落ち着いたり、収入が必要になったりするタイミングで、準社員やゆくゆくは正社員を目指してほしいと考えています」
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