フィージビリティスタディとは?進め方や意識すべきポイントを解説
プロジェクトを正式にスタートさせる前におこなう調査がフィージビリティスタディ(実現可能性検討)です。フィージビリティスタディをうまく活用することでプロジェクトの効率が圧倒的に上がります。この記事では、フィージビリティスタディの概要や進め方について、事例を交えてわかりやすく解説します。
プロジェクトを正式にスタートさせる前におこなう調査がフィージビリティスタディ(実現可能性検討)です。フィージビリティスタディをうまく活用することでプロジェクトの効率が圧倒的に上がります。この記事では、フィージビリティスタディの概要や進め方について、事例を交えてわかりやすく解説します。
目次
フィージビリティスタディ(Feasibility Study)とは、新規事業や新商品開発、そのほかさまざまなプロジェクトにおける「実現可能性検討」のことです。「可能性」という意味の英語では「Possibility」の方がなじみ深いですが、「Feasibility」は「(実現する・実行できる)可能性」という意味合いが強いことから、「実現可能性」と訳されます。よって、ビジネスにおける検討は、このフィージビリティを用いて「フィージビリティスタディ(Feasibility Study)」が使われています。
新規事業や商品開発において、どのステップをフィージビリティスタディと呼ぶかについてはいくつか定義が存在しますが、一般的には企画を正式に進める前におこなう可能性検討を指します。
例えば、新規事業を検討する際に、可能性がありそうな事業分野の候補に対して、ある程度実現が見込めるところまで調査したり、新商品開発の際に新しいアイデアに対して実現可能かを見極めるためのテストをしたりすることをフィージビリティスタディといいます。
ただし、新しいことを始める際は厳密な定義は気にせず、あらゆる段階における実現可能性検討をフィージビリティスタディとしてどんどん進めてみるとよいでしょう。新しいことを検討し始める際は、何らかの可能性検討をおこなっているはずです。それがフィージビリティスタディととらえて構いません。
フィージビリティスタディとよく似た用語に「PoC(Proof of Concept)」があります。PoCとは「コンセプト検証」「仮説検証」を意味する言葉です。通常、PoCではプロトタイプ・イラスト・イメージモックなどのコンセプトが明確になるものを用いて実際のユーザーにデモやヒアリングをおこない、実現性を検証します。
一方、フィージビリティスタディはPoCの前に実施する検証です。つまり、フィージビリティスタディによって事業や商品の実現可能性が高いと判断されたら、PoCをおこないます。ユーザーヒアリングや現場観察においても、フィージビリティスタディとPoCでは、目的や内容が異なります。
ただし、どの段階までがフィージビリティスタディで、どこからがPoCなのかについて厳密な定義はありません。そのため、企業やプロジェクトによってステップや用語を定義していくとよいでしょう。
フィージビリティスタディでは、「市場」「技術」「財務」「運用」の四つの面から調査し、検証していくのが一般的です。ただし、フィージビリティスタディはアイデアを次のステップに移行することを目的としています。そのため、調査する内容については以下で紹介する四つを参考に、自社で定義してみてください。またフィージビリティスタディでは完璧な調査は不要です。よって、どのレベルまで調査するかを検討することも重要になります。
業界の動向や競合の存在の有無などを確かめ、勝てるビジネスかどうかを検討します。この際、現在だけでなく将来の動向についても予測しておくことが重要です。 さらに新規事業の場合は、商品やサービスをどのように市場に届けるか(Route to Market)も踏まえて、自社にとって可能性があるかを確認します。
技術面から、アイデアやプロジェクトの実現可能性を調査します。自社だけで実現できない場合は、外部委託やパートナーとの共同開発なども視野に入れます。また、その分野の技術が将来どのように進化するかを予測し、自社の戦略を立案することも大切です。
アイデアやプロジェクトの実現によって見込まれる短期および中期の売り上げの規模感を試算します。また、初期投資費用やランニングコストも見積もり、ROI(Return of Investment:投資対効果)を確認します。期待する規模に満たない場合は、軌道修正したり、追加の策を検討したりしていきましょう。
プロジェクトを成功に導くための体制や方法について考えます。ここでは、コアメンバーの体制・企業での承認者および責任者・関係部署などを含めた大まかな体制図案を作成します。外部の協力やパートナーが必要な場合には、どのようにアプローチするかも重要な検討の要素です。
フィージビリティスタディという用語を使っているかどうかは別として、多くのプロジェクトで何らかの可能性検討がおこなわれているはずです。 そこにあえてフィージビリティスタディのステップを設けることで、プロジェクトをさらに有効に推進できます。ここでは、フィージビリティスタディのメリットについて、使用例と一緒に紹介します。
フィージビリティスタディのステップを設けていない場合、プロジェクトを正式にスタートする前段階が不明確になってしまいます。可能性検討の段階は、プロジェクトにとって重要なステップです。このステップをフィージビリティスタディとして定義することで、プロジェクトのアイデアや方向性の案が出た後の活動が明確になり、業務の効率も上がります。
メンバー「この分野は他社もまだやっていないし、可能性ありそうに思います」 マネージャー「たしかに可能性があるかもしれないね。ではフィージビリティスタディを進めてみて」 |
このように、フィージビリティスタディという次のステップに移ることで、メンバーがポジティブに進めることができます。
メンバー「次の企画にこのアイデアどうだろう?」 同僚「いけるかもしれないね! まずはフィージビリティスタディからスタートしてみよう」 |
アイデアに可能性が有りそうなら、フィージビリティスタディとして可能性調査をスタートさせます。
新規事業や新商品の開発は、成功するかわからない状態から始まることがほとんどです。それにもかかわらず、周りからは結論や成功への確信を求められることが往々にして起こります。そのようなときに、フィージビリティスタディの段階であることを伝えれば、現況に対する理解が得られ、検討に協力してもらえるようになります。
上司「そのアイデア、本当に大丈夫なの?」 企画担当「今まさにフィージビリティスタディの段階です」「これからフィージビリティスタディに入ります」 |
会議でアイデアの良し悪しが議論になることがよくあります。会議で検討が進むのであればよいですが、そうでない場合はフィージビリティスタディとして検討している、またはこれから検討していく旨を伝えることで、余計な議論を無くせます。
プロジェクトを推進していくなかで、実行可能かどうかを確認していくことは、初期段階だけでなく、プロジェクト推進のなかで生まれるさまざまなタスクへの対応にも有効です。
例えば、関係部署の協力を得たい場合は、フィージビリティスタディを実施することで、お互いにステップを明確にしながら事業を進められます。また、内部・外部のパートナー開拓や、協業の検討にもフィージビリティスタディを取り入れると、段階を踏んだ関係の構築が可能になります。
自部署「ぜひこのプロジェクトに技術協力をお願いします」 関係部署「依頼は理解したけど、われわれの技術が使えるかはまだわからないですよ」 自部署「はい、まずはフィージビリティスタディとして確認させてください」 |
検討が必要な場合にフィージビリティスタディとして進めるとお互いにステップを明確にして進められます。
自社「この新規事業を一緒に進めていただけるパートナーを探しています」 パートナー候補「興味はありますが、協業となるとすぐには回答できない状況です」 自社「もちろんです。まずはお互いフィージビリティスタディからいかがでしょうか?」 パートナー候補「そうですね。それでしたら大丈夫です」 自社「ありがとうございます。では、次回のミーティングはいつがよいでしょうか?」 |
このように、フィージビリティスタディはパートナー候補や見込み顧客とつながりを作っておきたい場合にも便利です。
フィージビリティスタディは、以下で紹介する六つのステップで進めていくとよいでしょう。ただし、フィージビリティスタディの目的は、プロジェクトを正式にスタートさせるかどうかを判断することです。そのため、以下の方法のみにとらわれず、目的に必要な項目を進めていくようにしてください。
プロジェクトを正式にスタートさせる際は、よくキックオフ会議がおこなわれます。通常、フィージビリティスタディはキックオフ会議の前段階になります。なんらかの検討が始まったタイミングや方向性・アイデアが見つかった段階をフィージビリティスタディのステップとするのが一般的です。
ただし、可能性検討に多くの関係者を巻き込みたい場合などは、フィージビリティスタディの開始をキックオフ会議として設定することも間違いではありません。プロジェクトが確実に進むように工夫し、最適なタイミングで実施してください。
新規事業などの開発では、会社やプロジェクトオーナーがそのプロジェクトに対して、何をどのレベルまで期待しているのか、またどのような条件を提示しているのかを確認しておきます。フィージビリティスタディが進んだ後で会社の期待や条件と異なっていることが判明すると手戻りとなってしまいます。
また、関係者やステークホルダーの期待や条件をあわせて確認していくことも大切です。与えられた条件や期待がない場合やあいまいな場合は、チーム全体で条件などを明確にし、共有するようにしましょう。
何のためにプロジェクトがあるのか(目的)、どうなったらプロジェクト成功といえるのか(ゴール)を明確にします。カーナビゲーションと同じように、はじめに目的地を設定することはどのようなプロジェクトにおいても大切です。また、ゴールに関しては、大成功した場合の理想目標と最低限達成したい必達目標の二つを設定しておくとよいでしょう。
さらに、プロジェクトのミッション(使命)やビジョン(つくりたい世界・ありたい姿)を定義しておくのもおすすめです。これらを明確にすることで、プロジェクトメンバーのベクトル(目指す方向性)が同じになり、社内外の関係者から協力や応援をしてもらえるプロジェクトになります。
前項の「フィージビリティスタディで検証すべき四つの要素」で挙げた市場・技術・財務・運用のポイントをそれぞれ調査していきます。可能性の検討とともに、致命的な欠点や懸念点がないかも洗い出していきます。これらが見つかった場合は打開策および対策案を挙げておきましょう。
フィージビリティスタディの段階では完璧な調査はほぼ不可能であり、完璧な調査を成し遂げるために時間をかけることは得策ではありません。あくまで、プロジェクトを正式にスタートさせるために必要な内容だとレベルを定義しておき、それらを目指して調査・検証していきます。
プロジェクトのゴールまでの大まかなイベントや大きなタスクを整理し、目標スケジュールを作成しておきます。また、人・モノ・金を中心に、どのようなリソースがどれくらい必要なのかも検討し、調達方法を考えることも重要です。
プロジェクトによって、検証が必要な項目は紹介した四つの要素以外にもさまざまあるはずです。それらを洗い出し、正式スタートまでに検討が必要なのか、あるいは正式スタート後の検討でもよいのかを定義しておきます。フィージビリティスタディの段階でプロジェクト全体の骨組み(スケルトン)をいかにつくれるかが、後々のプロジェクト推進に大きく影響します。よって、検証が必要な項目はしっかり洗い出しておきましょう。
フィージビリティスタディを効率よく確実に進めるためのポイントを挙げておきます。
フィージビリティスタディを実施する際は、何が確認できたらプロジェクトを正式にスタートさせられるのかといったクライテリア(判断基準)を明確にしておきます。クライテリアは、フィージビリティスタディのゴール(中間ゴール)となります。
ここが不明確な場合、いつまでもフィージビリティスタディを続けることにもなりかねません。クライテリア、すなわち中間ゴールを明確にしながらフィージビリティスタディを進めましょう。
フィージビリティスタディをおこなった結果、「可能性がある」となることが当然好ましいのですが、仮に「可能性がない」と判断された場合でも、プロジェクトにおいては大きな進歩になります。 つまり、とにかくアイデアを出し、積極的にフィージビリティスタディを進めることが大切です。数あるアイデアのなかから可能性があるものを見極め、育ててください。
新規事業や新商品開発などはスピードが命です。特に競合が存在する場合は、競合も必死で検討を進めています。ソフトバンクの孫正義氏は、投資への判断として以下のように述べています。
「5割の確率でやるのは愚か。9割の成功率が見込めるようなものはもう手遅れだ。7割の成功率が予見できれば投資すべきだ」(参照:孫正義の投資判断「成功確率9割」はもう手遅れ|PRESIDENT Online)
次のステップへのゴールを明確にしつつ、フィージビリティスタディをスピーディーに進めましょう。
フィージビリティスタディについて、どのように使うかおわかりいただけましたでしょうか。フィージビリティスタディのステップをうまく使うことで、プロジェクトを効率よく、そしてより確実に進められます。ただし、プロジェクトによって要求やゴールはさまざまです。プロジェクトに合わせて、ご自身のフィージビリティスタディを定義し、活用してください。
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