目次

  1. 事業ドメインとは
    1. 事業ドメインの必要性とメリット
    2. 事業ドメインと経営理念の違い
    3. 事業ドメインと市場セグメンテーションの違い
  2. 事業ドメインの成功事例
    1. マクドナルド
    2. セブン-イレブン
    3. タニタ
    4. アップル
  3. 事業ドメインを設定する四つのステップ
    1. 事業の現況を明確化する
    2. 事業ドメインの方向性を検討する
    3. 設定した事業ドメインの検証
    4. 取締役会での提案・承認
  4. 事業ドメインを設定するときに使えるフレームワーク
    1. CTMフレーム分析
    2. SWOT分析
  5. 事業ドメインを設定してリソースの最適化を目指そう

 事業ドメインとは、企業が展開する事業領域やその分野、範囲などを明示したものです。 

 特定の業界、市場、製品、サービス、顧客層など、組織の事業活動が焦点を当てる範囲や領域を指す概念で、「どの顧客に、どのような価値を、どのような方法」で提供するかを定義します。 

 例えば、「30代の女性向けに、環境に優しいオーガニックコスメを提供する」といったものが事業ドメインとなり、商品開発やマーケティング戦略の方向性を示す大切な指針となります。

 中小企業経営において、事業ドメインの明確化は経営の安定と成長に欠かせません。中小企業はリソースが限られており、事業ドメインを明確にすることで、大きく三つのメリットが得られます。

①戦略的な意思決定の基盤になる

 事業ドメインを設定することで、経営者は戦略的な意思決定の基盤を構築できます。 

 新しい投資機会やパートナーシップの提案があった際、自社の事業ドメインと方向性がマッチしているかを素早く判断でき、ビジネスの動きが早い現代において社内共通の判断基準となるでしょう。

 また、事業の多角化戦略はリスク増大の恐れがありますが、事業ドメインを絞ることで、変動する市場状況に対する適切なリスクマネジメントを行いやすくなります。

②経営資源の最適化ができる

 中小企業は、大手企業と比べて経営資源が限られています。事業ドメインを明確化すれば、企業は限られたリソース(人材、資金、時間)を最も効果的に活用する部分に集中でき、結果としてROI(投資利益率)の最大化が期待できます。

 事業ドメインの明確化により、将来の成長戦略やプロジェクトに対する適切な投資判断が行いやすくなるのもメリットです。選択肢の中から事業ドメインに合致するものを選び、資源を効果的に割り当てられます。

 また、特定の事業ドメインへの注力で従業員のスキルや知識が深化し、効率的な業務遂行による生産性の向上にもつながるでしょう。

③組織の一体感を高められる

 事業ドメインの明確化は、組織全体でのビジョンや目標の共通につながります。これにより、従業員は自分たちの仕事がどのように事業に貢献しているかを理解でき、モチベーションが高まります。

 また、社員個々人や部門、チームがどの分野に焦点を当て、どのような価値を提供するかを明確に示す手助けとなり、各従業員が自分の役割と責任を理解できるでしょう。

 結果的に、事業ドメインの明確化は、組織内のコミュニケーションの活性化につながり、効果的なチームワークの促進とビジョン達成に向けての推進力となります。

 事業ドメインとは、企業が参入する市場やセグメント、提供する商品やサービスの範囲を明確にしたものであり、事業の方向性や範囲の明確化に欠かせません。

 経営理念とは、企業の存在意義や目指すべき姿、持続的に追求すべき価値観や信念を表現したもので、経営活動の基盤となる信条を示しています。

 事業ドメインは「何をどこでやるのか」を示し、経営理念は「なぜその事業を行い、その企業が存在するのか」を示すものです。両者は密接に関連しており、経営理念が企業の核心である一方、事業ドメインは具体的な事業活動の指針となります。

 事業ドメインは、企業が活動する市場やビジネス領域を示すもので、「どのような市場で、何の価値を提供するか」という企業の戦略的な範囲を示します。

 一方、市場セグメンテーションは、広い市場を特定の特徴やニーズに基づいて小さなグループに分けることです。例えば、年齢、地域、趣味などの基準で顧客層を細分化することで、製品やサービスを効果的にターゲットに合わせて提供できるようになります。

 事業ドメインは企業が事業活動の大きな枠組みを定めるものであり、市場セグメンテーションは具体的なターゲット顧客を明確化する手法です。二つは異なる概念ですが、事業戦略を立てる上で相互に影響しあう要素となります。

 事業ドメインの明確化によって事業を拡大し、継続的な成長につなげている企業の事例を四つ紹介します。

 マクドナルドは、地方のハンバーガーチェーンとしてスタートし、今日ではグローバルに店舗を拡大するブランド力を確立しています。事業ドメインの成功の鍵は、「Quality, Service, Cleanliness, and Value(QSC&V)」の原則にあります。

 マクドナルドは商品の品質を一定に保ち、迅速なサービス、清潔な店舗環境、リーズナブルな価格でサービスを提供することをビジョンとして掲げました。地域の食文化やニーズに合わせたメニュー展開や、効率的なサプライチェーンの構築など、事業ドメインの明確化がグローバルレベルでの成功につながっています(参照:5分でわかるマクドナルド|McDonald’s Recruiting Site)。

 セブン-イレブンは、単なるコンビニエンスストアから、地域コミュニティーの一部としての役割を担う存在に成長しました。

 セブンイレブンは「近くて便利」という企業理念を軸に事業ドメインを確立し、スマホアプリを活用した顧客との連携、多様なサービス展開(宅配サービス、公共料金の支払いなど)を通じて、地域社会の中心的な役割を果たす存在としてのポジションを築き上げました(参照:企業理念|セブン-イレブン)。

 タニタは、体重計の製造メーカーから、健康と美容のトータルソリューションを提供する企業へと成長しています。

 タニタは、人の健康に関わる事業を軸として、単に体重を計測する機器を超え、体脂肪率や筋肉量などの多様な健康情報を提供する製品を展開し続けました。

 さらに、社員の健康活動を見える化する「タニタ健康プログラム」を推進し、その結果を公開するなど、社内外での健康意識の向上を促進しました。この事業ドメインの拡大と深化が、タニタのブランド価値を高める要因となっています(参照:健康経営への取り組み|TANITA)。

 アップルは、元々はパソコン製造会社としてスタートしましたが、強みである技術力とユーザーエクスペリエンスの追求により、革新的なプロダクトとソリューションを提供し続けています。

 iPodに始まり、iPhoneやiPadへと続く製品群は、それぞれの市場におけるデファクトスタンダード(市場における競合との競争により、業界の標準として認められるようになること)を築き上げました。事業ドメインの確立を通じて、単なるハードウェアメーカーから、生活を変革するイノベーターへと変貌を遂げ、業界をリードするポジションを獲得したのです(参照:Appleでのキャリア|Apple)。

 事業ドメインを設定する際は、大きく四つのステップで進めていきます。

 事業ドメインを設定するためには、「現状の明確化」が欠かせません。自社がどのような市場で、どのような価値(商品・サービス)を提供しているのかを把握することが不可欠です。 

 具体的には、現在のターゲット顧客層、取り扱っている商品・サービス、競合状況などの情報を詳細に調査して整理します。これにより、事業の強みや弱み、市場への参入機会や自社にとっての脅威となる競合などを把握でき、ドメインの方向性決定の材料として使用できます。

 次に、企業が目指すべき方向性を検討します。中核となる事業の状況と将来の市場トレンドなどを踏まえて、どの市場、どの顧客層に注力すべきかを考えましょう。

 収益向上につながる可能性のある新しい市場や、リソースをより集中すべき既存市場を特定します。この段階でのビジョンの明確化が、経営資源の効果的な配分につながります。

 設定した事業ドメインが適切であるかの検証は不可欠です。

 事業ドメインに関連する市場の現状や動向の分析、アンケートなどを通じた顧客の反応、競合他社の動向など、外部環境の変化をチェックしてフィードバックを取り入れることで、事業ドメインの設定が適切か判断します。

 場合によっては小規模な試験展開などを行い、事業ドメインの実現可能性や効果を検証して事業ドメインの微調整を行います。

 最終的に、事業ドメインの設定は経営層の判断で承認される必要があります。経営資源の効果的な運用のためには、全経営層の合意が得られ、組織全体の方向性が一致することが大切です。

 取締役会や経営会議での議論を通じて、事業ドメイン設定の妥当性を共有し、経営資源の配分や方針を取り決めましょう。

 事業ドメインを設定する際は、現状分析と参入する市場の分析が欠かせません。ここでは、現状分析などを行いつつ効果的な事業ドメインを設定するのに役立つフレームワークを2つ紹介します。

 CTMフレーム分析は、「Customer(顧客)」「Technology(技術)」「Market(市場)」の3つの要素を中心に事業の可能性を評価するフレームワークで、特に新しい事業や市場展開を検討する際に用いられます。 

 例えば、新しい健康食品の開発を考えている会社があるとすると、CTM分析では次のようにアプローチします。

Customer(顧客) ターゲットは健康志向の高い中高年層で、具体的なニーズや健康に対する意識を調査する
Technology(技術) 独自の発酵技術を保有しており、特許技術を活かした新商品開発ができる
Market(市場) 健康食品市場は拡大傾向にあり、特に発酵食品への関心が高まっている

 CTM分析の結果から、「発酵技術を活用した中高年向けの新しい健康食品の開発・販売」といった新規事業指針が定められるでしょう。

 SWOT分析は、内部要因である「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」と、外部要因である「Opportunities(機会)」「Threats(脅威)」の4つの要素に着目して分析するフレームワークです。

 自社の戦略的な立ち位置を評価し、外部環境と内部環境の双方からビジネス展開の可能性を洗い出すことができます。

 例えば、アパレル業界での事業展開を考えている会社がSWOT分析を行う際は、以下のように分析します。

Strengths(強み) 独自のデザイン力と製造ノウハウを持つ
Weaknesses(弱み) プロモーションのノウハウがなく、ブランドの知名度が低い
Opportunities(機会) エコフレンドリー(環境や動物に優しい)な素材に対する消費者の関心の高まっている
Threats(脅威) 競合他社の猛烈な価格競争や既存ブランドの独占的な市場支配が顕著

 このSWOT分析の結果を元に、「エコフレンドリーなアパレル商品の展開とブランドの認知度強化を進める」といった指針を定められます。

 事業ドメインとは、参入市場や提供する商品やサービスの提供先、範囲など、事業の方向性を明確化してリソースを最適化させるために必要なものです。

 中小企業は、特に人材面と資金面でのリソースが限られているため多角化戦略が難しい傾向にあります。そのため、事業ドメインを明確にしたうえで、ターゲット層や参入市場の絞り込みによって収益を上げ、将来に向けたノウハウなどの蓄積を行うことが大切です。

 自社の事業と関連の深い企業の成功事例なども参考にしつつ、事業ドメインの設定を行ってみましょう。