確証バイアスとは?ビジネスシーンにおける具体例や対策を簡単に解説
仕事で思い込みによって失敗した経験や、上司が偏った考え方を持っていて一緒に働きにくいと感じたことはないでしょうか。この背景において存在している可能性が高い心理現象が「確証バイアス」です。確証バイアスの具体例や対策法を公認心理士がわかりやすく紹介します。
仕事で思い込みによって失敗した経験や、上司が偏った考え方を持っていて一緒に働きにくいと感じたことはないでしょうか。この背景において存在している可能性が高い心理現象が「確証バイアス」です。確証バイアスの具体例や対策法を公認心理士がわかりやすく紹介します。
目次
確証バイアスとは、自分の思い込みや仮説を正当化するために、都合のよい情報ばかりに目を向けて物事を判断しようとする心理現象を指します。
確証バイアスは、人間がとらわれやすい思考や判断の偏りを示す認知バイアスの一種です。ビジネスシーンでも確証バイアスが判断に影響を与える場面があります。ここでは、その一例を紹介しましょう。
確証バイアスは、人事評価の場面でよくみられます。例えば、特に嫉妬心の強い人が人事評価者となる場合、自分の意見に素直に従う部下を優秀だと評価し、素直に部下の有能さを評価しないことがあります。これは、部下が優秀だと自分よりも優れているのではと嫉妬心を抱きやすいために起こります。
人事評価での確証バイアスを防ぐには、人事評価の基準をできる限り明確にして、評価に個人差を出さないことが大切です。基準がなければ、嫉妬心だけでなく、仲のよさや好み、苦手意識など心理的要素が評価に影響を与えてしまいます。部下との個人的な人間関係がひいきを生まないように注意しましょう。
採用面接で確証バイアスが生じると、面接官の思い込みが判断基準に影響を与えます。例えば、学歴だけを採用の基準にしていると、面接を受けている人の性格的特徴・能力・経験などの情報を正しく評価しないことが起きてしまいます。
採用面接から確証バイアスの影響を排除するには、どのような人材を採用したいかという基準を明確にする必要があります。面接官が複数いる場合は、評価基準を事前に共有しておきましょう。基準の設定には、企業の目的にもとづいて優先して評価する基準を設けておくことも効果的です。
確証バイアスは、企業内での個人の成長にも影響を与えます。自分にとって都合のよい情報だけを受け入れる心理には、さまざまな要因が存在します。
例えば、承認欲求にとらわれる人は、自分以外の人が評価されていると努力を放棄する傾向にあります。「あいつは好かれているから評価されている」と斜に構えた見方をしてしまうためです。他人が自分よりも優れていると考えたくない心理状態が、自己防衛しようと都合のよい解釈を生みます。
本来、仕事のなかで与えられる評価や指導は、素直に受け取って努力を重ねることが自身の成長につながります。しかし、自身の評価に対して確証バイアスを働かせて成長を妨げてしまうことがあります。このような確証バイアスを防ぐには、自分のバイアスを指摘してくれるメンターのような存在を持ち、心の働きを見つめ直しながら仕事と向き合うことが必要です。
確証バイアスのデメリットは、先入観によって事実を偏った状態で把握してしまうことです。先入観により、どのような弊害を生んでしまうのかについて解説します。
仕事における確証バイアスの一つ目のデメリットは、昇進させるべき人物を誤ってしまう点です。例えば、実務の成果だけで社員を管理職に昇進させると、部署全体の成績が低下したり、人が辞めてしまったりする可能性があります。
もちろん、営業での実績が昇進を決める要素の一つになること自体に問題はありません。しかし、その点だけにとらわれると総合的に社員を評価できなくなります。部下への指導力・コミュニケーション能力・人格などの要素を見落とさないようにしましょう。
確証バイアスは採用にも悪影響をおよぼしやすく、特に学歴には確証バイアスがかかりやすいといえます。多くの人材を採用する際には、ある程度学歴でスクリーニングをかけるということはあるでしょう。
しかし、学歴以外にも資質や人格といった重視すべき要素は数多くあります。採用に関する最終的な決断までを、学歴のみで決めるのは望ましくありません。自社の業務をおこなううえで、必要な資質や人格といった学歴以外の要素を持っている人材を逃してしまう恐れがあります。
確証バイアスは、企業内での情報伝達にも弊害を与えます。経営者や管理職に部下が伝える情報は、必ずしもポジティブなものばかりではありません。ネガティブな情報に対して感情的に怒ると、部下は正直に伝えづらくなります。
その結果、上司のもとにはポジティブな情報だけしか入らなくなり、経営に関する適切な判断を下せなくなる恐れがあります。
ビジネスにおいて確証バイアスが起きるのには、いくつかの理由が考えられます。特に生じる要因となりやすいのが、レッテル貼りと自己正当化です。レッテル貼りと自己正当化が、なぜ確証バイアスを生むことにつながるのか説明します。
人は他人や現象に対し、レッテルを貼って認識する傾向があります。レッテル貼りは、心理学用語でラベリングとも呼ばれます。
レッテル貼りが起きる理由の一つは、物事をできる限り早く正確に判断しようとするためです。さまざまなことが起こるビジネスでは、判断スピードを早めたいという場面がたびたび訪れます。その焦りから、ラベリングによって人や事象を評価してしまうことも考えられています。
自己正当化も確証バイアスを引き起こす心理現象の一種です。自己正当化は、自分が正しいと思い込んで心の安定を得ようとする心の働きを指します。しかし、悪い方向に働くとミスを生んだり、「他者の意見を受け入れない頑固な人」と避けられたりすることもあります。
自己正当化もレッテル貼りと同じように素早い判断や物事をやり切る力にもつながるため、必ずしも悪いことではありません。よい方向に働かせるためにも、上手くコントロールすることが求められます。
確証バイアスは、レッテル貼りや自己正当化をはじめとした無意識の心の働きによって生じます。その根底にあると考えられるのは、自己保存の欲求と一貫性の原理です。自己保存の欲求は、自分の立場を守りたいと考える心理状態を指します。一方で、一貫性の原理とは自らの行動や発言、信念を貫こうとする心の働きのことです。
脳の働きの根底に自己保存の欲求や一貫性の原理があり、それがラベリングや自己正当化、さらには確証バイアスなどの心理的な働きに結びつきます。確証バイアスがどのように生じるかを理解すれば、入念に対策した状態で仕事に臨めます。
自分の確証バイアスを自覚することで、確証バイアスの影響を弱められます。例えば、日記をつけて定期的に見返したり、他人と真剣に意見を交わしたりすることが効果的です。
自分の思考や心理状態を客観的に見つめると、自分とは異なる価値観を持つ人がいると実感できます。加えて物事を冷静に把握し、適切な分析をするうえでも役立ちます。
クリティカルシンキングとは、「本当にこれで正しいのか」という視点で判断や結論を見つめ直す思考法です。日本語では、批判的思考と訳されます。
クリティカルシンキングをおこなうことで、バイアスを取り除いた状態で結論を出しやすくなります。確証バイアスで物事を正しくとらえるには、ときに批判的な見方も心がけてみるとよいでしょう。
確証バイアスの対策として、統計的思考法も取り入れてみましょう。これは「データにもとづいた意思決定」を重視し、一つの事象を統計的な視点でみて判断する思考法です。
統計的思考法が身についている人は、仕事で重要な意思決定をするときにあらゆる情報を集めたうえで判断を下せます。さまざまな角度から物事を見つめることで、意思決定に影響を与える確証バイアスを排除できます。
確証バイアスにはデメリットだけでなくメリットも存在しています。主なメリットは、思考に必要な情報が限られているため、思考に必要な労力を押さえられ、意思決定までの過程がスムーズになることです。
確証バイアスのメリットを生かすには、上述したクリティカルシンキングや統計的思考法も交えつつ意思決定しましょう。
ここでは、ビジネスの場で自覚しておきたいそのほかのバイアスを紹介します。
用語 | 意味 |
---|---|
ハロー効果 | ある対象の評価をする際に、特定の特徴だけに意識が向いてしまい評価がゆがめられる現象 |
正常性バイアス | 異常を感じても、正常であると思い込もうとする現象 |
バンドワゴン効果 | 少数派の判断より、多数派の判断の方が正しいと思い込む現象 |
自己奉仕バイアス | 成功は自分のおかげ、失敗は他人のせいだと思い込む現象 |
バイアスを自覚し、客観的な視点で物事を判断できるようにしましょう。それぞれ解説します。
ハロー効果は、商品の宣伝広告などによく利用されているバイアスです。
例えば、テレビCMで好きな女優がシャンプーを宣伝していたとします。自分の髪質に合ったシャンプーを使っていたのにもかかわらず、テレビCMで見た商品の方が優れていると感じたことがある人もいるでしょう。このように特定の要素が、全体の評価にも影響を与えるのがハロー効果です。商品を宣伝する際には、この現象をどう生かすかが求められます。
正常性バイアスとは、異常事態が起こっても大した問題ではないと心を落ち着かせる状態です。正常性バイアスが働くと、日々の生活において感じた違和感を無視してしまいます。
例えば、工場の従業員が「機械からいつも聞こえない音がしている」と上司に報告した際、上司が「点検したばかりだから異常はないはずだ」と判断します。
正常バイアスによる違和感の過小評価は、ときに大きな事故を引き起こしてしまいます。正常性バイアスにとらわれず、違和感に目を逸らさないことが大切です。
少数派よりも多数派が正しいと思い込む効果は、バンドワゴン効果と呼ばれます。このバイアスが働くと、多くの人が支持しているものは信頼できると判断してしまいます。
例えば、SNSでフォロワー数が多い人は、それだけ多くの人から支持を集めているので無条件に信頼できると思い込んでしまいます。
ビジネスでよく用いられているのは、「お客様の満足度ランキング1位」という形で、多くの人から指示されていると思われるような宣伝をして、信頼できるサービスだと認識してもらう手法です。
自己奉仕バイアスは、物事に対して自分に都合よく捉えてしまう現象です。仕事で成果を上げたときに、それは自分の能力が高かったからと思い込み、成果が出ないときは他人や出来事などの外的要因のせいだと思い込むことを指します。
成功時には自信を保ち、失敗時には自分の心を守るために働くバイアスですが、事実を極端に無視してしまうと成長の妨げにつながります。また、繰り返し成果を出すのも難しくなるため注意が必要です。
確証バイアスは、誰もが無意識のうちに影響を受けている心理現象です。もし「自分は学歴が高いから物事を客観的・統計的に見る力があるので何のバイアスの影響も受けていない」と豪語する人がいたら、その考え自体が確証バイアスにとらわれているといえます。
まずは、誰しも偏った考えを持ってしまうと自覚することが大切です。そのうえで、記事で紹介した確証バイアスへの対処法を実践し、仕事のなかでよりよい意思決定に役立ててください。
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