目次

  1. 洞察力とは? 観察力との違いも紹介
  2. 経営者に洞察力が求められる理由
    1. 本質的な課題を見抜くため
    2. 相手の意図を理解するため
    3. 未来を見通すため
  3. 洞察力がある人の特徴
    1. 洞察力がある人の強み
    2. 洞察力がある人の弱み
  4. 洞察力を高める方法
    1. 今ある知識や能力を活かす思考技術を学ぶ
    2. 考える基盤となる知識を増やす
    3. 人間に対する理解を深める心理学を学ぶ
    4. 議論の型を学び、さまざまな立場で考える訓練をする
    5. 先人に学ぶ(事例を増やす)
  5. 洞察力を身に付けて、ビジネスインパクトのある人材に

 洞察力とは、物事や状況を注意深く観察したうえで、「問題の本質や発言の裏にある意図を見抜く力」のことです。よく似た言葉に「観察力」がありますが、観察力は「表面的な部分を注意深く見る力」です。洞察力は、表面的な部分にとどまらず、見えていない部分までを対象にして推察することを意味します。

 経営者には、思い描く自社の未来の実現に向けて、関係者とコミュニケーションをとりながら、率先垂範することが求められます。そのためには、自社および自社を取り巻く環境に対するアンテナを高くし、目に見えていることだけでなく、見えていないことにも気付く「洞察力」が必要です。

 自社で何か問題が発生したときに課題の本質を見抜き、根本的な解決を目指すためには、洞察力が欠かせません。

 例えば「新年度になってから、お客さま対応部署の一部担当者の残業時間が増えている」ことに気付いたとします。ヒアリングをしてみると、4月から販売した新商品に関する問い合わせの増加が原因だとわかりました。

 つまり、業務量とマンパワーが見合っていなかったのです。そこで、他部署からの応援を含めて人員を増やし、残業時間の削減を実現しました。

 問題点は取り除かれたように見えますが、いつまでも他部署からの応援に頼っているわけにはいかず、根本的な解決には至っていません。本質的には、多くの顧客の問い合わせに共通点があるのであれば、顧客が問い合わせをせずともわかる工夫に取り組む必要があるのです。

 ビジネスにおいて交渉は避けて通れません。双方が満足するように交渉を重ねても、なかなか条件的に折り合わず、話がまとまらないことも多々あります。

 商談をまとめるためには、個別の商談の条件交渉だけでなく、相手の会社や担当者の状況や、大切にしている価値観なども考慮に入れて、相手が納得・満足する交渉をおこなうことが重要です。

 目に見える条件のみを注視した表面的な交渉にとどまらず、価値観など目に見えない本質的な部分まで踏み込み、相手の意図を理解するために洞察力が求められます。

 経営者の仕事は、自社の未来を決めること・現在起きている問題を解決すること・関係者とコミュニケーションをとること・相手と交渉することなどさまざまです。これらの仕事を円滑にこなすには、世の中の変化(世界のトレンドや自社を取り巻く環境の変化)を調べたり、自分なりの見解を持ったりすることが大切です。

 また、状況や相手の考え・思いなどは、こちらからの働きかけによっても変化します。これらすべての変化を時系列で捉えるのと同様に、今後どのように移り変わっていくかを考えるためには洞察力が必要です。

 洞察力がある人には観察力があります。また、表面的な理解にとどまらず、その背景に隠れていることを理解しようとする好奇心や探求心を持ち合わせているのも特徴の一つです。そのうち、探求心を持つことは、因果関係について論理的に考えたり、自由な発想を膨らませたりすることにつながっています。さらに、多様な考え方・立場に対する理解力・受容力もあります。

 以下、洞察力がある人の特徴について、強みと弱みの観点から説明します。

 ここでは、洞察力がある人の強みを次の四つにまとめました。

①微妙な違和感に気付き、その原因についてゼロベースで考えられる

 洞察力がある人には観察力があります。例えば、特徴的な事柄や動作、前回との些細な変化などに気付くというのは、観察力が高い証拠です。一方、洞察力が高い人は、変化だけでなく違和感に気付きます。本来あるべきものがなかったり、一般的に想定される行動をしなかったりする場合、その理由や原因を推察できるのが洞察力のある人の強みです。

 例として、定番商品パッケージをよりスタイリッシュな形や色にリニューアルしたのに、逆に売り上げが落ちてしまうということは時々起こりうることです。

 洞察力が高い人であれば「消費者は、自社の商品に対しどんなイメージを求めているのか」という事前のマーケティング調査だけにとらわれず、スタイリッシュな商品パッケージではなくても人気のロングセラー商品が多数あることに気付き「そもそも消費者は、自社と他社の商品をどこで見分けているのだろう」と、考えることができるかもしれません。

 商品パッケージを変えるとなると、変えることありきの思考パターンに陥りがちですが、このように、ゼロベースで(現在持っている知識や思い込みを手放して)考えられることも洞察力のある人の特徴であり、強みの一つです。

②具体と抽象で考え、原理原則に照らして判断できる

 洞察力がある人は、物事や状況を注意深く観察したうえで、問題の本質や発言の裏にある意図を見抜こうとします。なぜなら、問題解決の事例を多数知っていたり、物事の状況を注意深く観察・分析・整理・理解できたりするためです。

 しかし、それだけでは物事の本質を見抜くことはできません。単に多くの事例をストックしているのではなく、それらを抽象化し、共通する原理原則として理解したうえでストックしているため、深い洞察が可能になり、本質を見抜けるようになるのです。

③相手の立場や価値観を尊重した提案ができる

 ビジネスパートナーと長く良好な関係を築くことは重要です。しかし、このようなパートナー関係を得ることは簡単ではありません。ビジネスにおける交渉では、双方が満足いく関係を目指したとしても、条件の擦り合わせに終わってしまうことも多いでしょう。

 あらゆる立場や価値観の人がいるなかで、洞察力がある人は相手の発言の裏にある価値観や意図をくみ取り、相手の立場を理解して交渉できます。すると、交渉が合意に至ったり、良好なパートナー関係を得られたりするのです。

④これから起こる変化を予測し、備えられる

 身の回りに起こっていることを取り扱う場合、今後その状況がどのように変化していくかの検討が重要です。洞察力があれば、今起きていることの因果関係を理解し、今後起こる事やこちらのアクションに対するリアクションなどを予測することで、常に変化に備えられます。

 これから起こる変化のなかには、外圧によるビジネス環境の変化・新技術の台頭・規制やルールの変更などがあるでしょう。これらは、自らのアクションにより、変化を阻止したり緩和させたりすることが困難です。しかしそのような場合でも、洞察力をもって予測していれば、変化に備えられるようになります。

 ここでは、洞察力があるために生じる弱みと、弱みを顕在化させないために気を付けたいポイントについて解説します。

①行動力がないように見えてしまう

 洞察力がある人は、本質的な課題や隠れている意図や狙いに気付づけたり、これから起こることを予測できたりします。そのために、表面的な解決策に取り組まないことや、状況が落ち着いてからリカバリーアクションを起こすことがあります。周りの人からすると、素早い対応を避けているようにも見えてしまうおそれがあります。

 無駄な行動は不要ですが、先回りしてアクションを起こすことを心掛けて、行動力がないと見られないように立ち回るのが賢明です。

②周囲から浮いてしまう

 洞察力の高い人は、表面的な出来事に一喜一憂し、振り回されることが少ないため、周囲と話が嚙み合わない場合もあります。すると、コミュニケーションが少なくなり、場合によっては議論することに価値を感じなくなってしまい、周りから浮いてしまうことがあります。

 得意なことや興味があることは人それぞれ異なります。互いに良好な関係を築くためには、それらを題材にしてコミュニケーションを取るなどの努力が必要です。

 ここでは、洞察力を高める方法について解説します。ただし、洞察力は決して特別なスキルではなく、いくつかの知識やスキルの集合体に過ぎません。洞察力を身に付けることは容易ではありませんが、以下で示す五つのステップに沿って習得を目指していきましょう。

  • ステップ1:今ある知識や能力を活かす思考技術を学ぶ
  • ステップ2:考える基盤となる知識を増やす
  • ステップ3:人間に対する理解を深めるために心理学を学ぶ
  • ステップ4:議論の型を学びさまざまな立場で考える訓練をする
  • ステップ5:先人に学ぶ(事例を増やす)

 洞察力を磨くには、最初に思考技術を学ぶことが重要です。思考技術を身に付けることで、表面的な理解にとどまらず、その背景にある本質的な課題に気付けるようになります。

 代表的な思考技術は、以下の四つです。

代表的な思考技術 概要
ロジカルシンキング 物事の因果関係を把握したり、考えを論理的に組み立てたりするための思考技術
ゼロベース思考 現在持っている前提の知識や思い込みを手放して、ゼロから考える思考技術
システムシンキング さまざまな事象のつながり・背景・影響・関係を考慮して、因果関係を整理する思考技術
水平思考 柔軟な発想で独創的なアイデアを出す思考技術・発想法

 前述した洞察力がある人の強み「②具体と抽象で考え、原理原則に照らして判断できる」を発揮するには、ロジカルシンキングのなかの「帰納法(複数の事実や事例から導き出される共通点をまとめ、共通点からわかる根拠をもとに結論を導き出す方法)」を活用できるようになることが重要です。

 また、「④これから起こる変化を予測し、備えられる」ようになるためには、ロジカルシンキングのなかの「演繹法(すでに知られている法則〈一般論・ルール〉や前提から論理を積み重ねて結論を出す方法)」の活用が必要になります。

 思考技術を学ぶことの次に重要なのは、世の中のあらゆることに興味を持ち、学んだり調べたりすることです。例えば、世の中の仕組み・今後のトレンド・科学技術の進歩などについて、幅広く学ぶことが大切です。思考技術は自分の知識や経験を生かすスキルのため、考える基盤となる知識のストックを増やすことが重要になります。

 セミナー・講習会・書籍のほか、その道の専門家や趣味として打ち込んでいる人などから学んだり、先輩経営者や同年代の経営者仲間と一緒に勉強会を実施したりすることが有効です。

 発言の発言の裏にある価値観や意図をくみ取り、相手の立場を理解したうえで提案をおこなうには、人に対する理解を深めることが重要です。

 人に対する理解を深めるためには、タイプ分け診断を利用してみましょう。以下は、タイプ分け診断の例です。

  • コーチングで用いられる四つのタイプ分け
  • 交流診断
  • エニアグラム
  • ストレングスファインダー
  • ハーマンモデルによる効き脳診断

 タイプ分け診断の目的は、相手のタイプを把握し、タイプに応じた働きかけやコミュニケーションのポイントを理解することです。タイプ分け診断を利用することで、相手の表面的な言動だけではわからない欲求や価値観に気付ける可能性が高まります。また、タイプ分け診断によって、「人それぞれに違いがある」ことへの理解も深まるため、物事をあらゆる立場に立って考えられるようになります。

 洞察力を高めるには、多様な考え方や立場を理解し、それぞれの立場で考えられるようになることが必要になります。多様な立場で考えるスキルの向上にはディベートが有効です。ディベートとは、二つの異なる意見(基本的にはある事柄に対する賛成意見と反対意見)を戦わせ、その主張内容によって優劣を決める手法です。

 ディベートでは、自分の意見や主義主張とは無関係に意見を述べることになるので、思考技術の一つであるゼロベース思考を用いて意見の妥当性を吟味し、ロジカルに考えを組み立てていきます。ときには、審査員の価値観やバックグラウンドに訴えかけながら議論を構築することもあるでしょう。経営者の仲間同士や、一人でおこなう思考のトレーニングとして取り組んでみてください。

 なお、現日本サッカー協会会長の田嶋幸三氏は、著書「『言語技術』が日本のサッカーを変える(光文社新書)」のなかで、世界との差を埋めるためのトレーニングとして、ディベートを取り入れたことについて言及しています。

 学んだ知識やスキルを実務に適用する経験を積むためには、お手本となる先行事例を集め、個別事例や目の前で起きている事象にどのような原理原則を適用したのかを参考にすることが有効です。

 ビジネス書やビジネススクールで事例を探したり、他社のさまざまな取り組みでの成功事例を集めたりしてみてください。「ツギノジダイ」でも取り組み事例を紹介する記事が多数あるため、洞察力という切り口で読んでみることをおすすめします。

 大前研一氏は、著書「洞察力の原点|日経BP社」のなかで「ビジネスインパクトのある人材として、論理的な思考をもって世の中の事象を腑分けし、本質的な問題を見つけ出す。その上で本質的な問題を解く解決策を立案し、責任を持って実行する人材である」と述べています。本質的な課題を見つけ出すカギとなるのが「洞察力」です。

 洞察力を身に付けることは難しいと感じるかもしれませんが、洞察力はいくつかのスキルや知識を組み合わせて、効果的に活用することで高められます。この記事で紹介した洞察力の高め方を実践し、ビジネスインパクトのある人材として自社をリードしていきましょう。