目次

  1. アップセル・クロスセルとは
    1. アップセルとは
    2. クロスセルとは
    3. アップセルとクロスセルの違い
    4. アップセルとダウンセルの違い
  2. アップセル・クロスセルが重要な理由
    1. 顧客獲得コストの高さ
    2. 既存顧客からの収益増加
    3. 顧客満足度の向上
  3. アップセル・クロスセルの成功事例
    1. Amazon
    2. Apple Store
    3. マクドナルド
  4. アップセル・クロスセルを成功させるためのポイント
    1. 購買体験の効率化を図る
    2. 製品バンドルやセット品を作成する
    3. 顧客理解を深める
    4. 自然な提案を心がける
  5. アップセル・クロスセルを行うときの注意点
  6. アップセル・クロスセルを活用しよう

 ファーストフード店で買い物したときのことを思い出してみてください。「ポテトも一緒にいかがですか?」や「プラス50円でドリンクをLサイズにできますよ」なんて言われたことはありませんか?

 実はこれ、お店の売上アップの作戦です。これらは「アップセル」「クロスセル」と呼ばれる販売テクニックなのです。

 アップセルとは、顧客に「もっといいものにしませんか?」と勧め、顧客がもともと予定していたものより高価で高機能な商品を、その付加価値を伝えながら販売する手法です。

 例えば、普通のコーヒーを頼んだら「大きいサイズにしませんか?」や「特別なコーヒー豆を使ったプレミアムコーヒーはいかがですか?」と提案するようなことを指しています。

 アップセルの施策例には、以下のようなものがあります。

アップセルの施策例
ソフトウェアの購入時に、より高機能なバージョンへの移行を提案する 例:「現在月額5,000円の標準版から、月額8,000円のエンタープライズ版にアップグレードすると、より多くの機能が使えるようになります」
スポーツジム会員に、通常会員からプレミアム会員へのアップグレードを勧める 例:「月額に1,000円追加するプレミアム会員なら、24時間365日いつでも利用可能になります」
パソコン購入時に、より高性能なCPUやグラフィックカードを提案する 例:「プラス20,000円で、より処理速度の速いCPUにアップグレードできます」
映画館で、通常のチケットではなく、3Dや4DXなどのプランを提案する 例:「追加2,000円で4DX版が楽しめます。迫力が全然違いますよ」

 クロスセルとは、顧客に「これも一緒にどうですか?」と勧めることで、顧客がもともと購入を予定していた商品やサービスに加えて、関連する別の商品やサービスを追加で購入してもらう手法です。

 例えば、ハンバーガーを注文したときに「ポテトも一緒にどうですか?」と提案するようなことを指しています。

 クロスセルの施策例には、以下のようなものがあります。

クロスセルの施策例
スマートフォン購入時に、ケースや画面保護フィルムを提案する 例:「スマートフォンと一緒に画面保護フィルムはいかがですか?」
パソコン購入時に、マウスやキーボードを提案する 例:「使いやすい外付けマウスはいかがですか?」
旅行のチケットを予約する際に、オプショナルツアーや旅行保険を提案する 例:「旅行をより楽しむために、オプショナルツアーはいかがですか?」
コンビニでおにぎりを買う時に、お茶やみそ汁を提案する 例:「おにぎりとセットでお茶を買うと20円引きです」

 アップセルとクロスセルはどちらも追加の商品やサービスを販売する方法ですが、アプローチが異なります。

 アップセルは「グレードアップ」と考えるとわかりやすいでしょう。顧客が選んだ商品やサービスより、もっと良いものや高機能なものを勧める方法です。アップセルのポイントは、顧客に「より良いものを選ぶとお得」という気持ちになってもらうことです。

 クロスセルは、いわゆる「セット販売」のようなものです。顧客が買おうとしている商品に関連する別の商品やサービスを勧めます。クロスセルのポイントは、顧客に「関連商品を一緒に買うともっと便利」という気持ちになってもらうことです。

 両方とも、顧客の購買単価引き上げが狙いですが、適切に説明することで、同時に顧客の満足度も高められます。

①【具体例】アップセルとクロスセルの違い

 寿司店を例に、アップセルとクロスセルの違いを理解してみましょう。

アップセルとクロスセルの違い
アップセルとクロスセルの違い(デザイン:中村里歩)

 まず、アップセルの例です。顧客が【並にぎり】(1,500円)を注文した際に、「プラス500円で旬のネタが入った、【上にぎり】にできますよ」と提案します。顧客にお得だなぁと感じてもらえれば、旬のネタを楽しんでいただくと共に、顧客の購入金額が1,500円から2,000円へと増加します。

 次に、クロスセルの例です。同じように、顧客が並にぎり(1,500円)を注文した後、「ネタに合う地酒(800円)はいかがですか?」や「プラス200円で味噌汁をつけることができますよ」と提案します。これにより、寿司だけでなく、ネタと相性の良い日本酒や味噌汁も一緒に購入してもらい、顧客の総購入金額を増やすことができます。

 ダウンセルとは「顧客が最初に興味を示した商品より安い代替品を提案することで、購入を促す販売戦略」です。わかりやすくいうと「この商品は高すぎますか?では、こちらの似た商品はいかがでしょうか」と提案する方法をいいます。

 ダウンセルの主な目的は、価格が障害となって購入を躊躇している顧客に対し、予算内で購入可能な選択肢を提供することです。「購入を完了しない顧客に対して、どうやって販売するか」という問題への解決策の一つが、ダウンセルです。

 ダウンセルのメリットは、①高額商品を購入できない顧客でも、より安価な商品なら購入する可能性が高まり売上増加が期待できる②新規顧客の獲得や既存顧客の維持に役立つ、などが挙げられます。

 ダウンセルの施策例としては、以下のようなものがあります。

ダウンセルの施策例
・テレビなど家電の最新モデルが高すぎる場合、同様の特徴を持ち価格が安くなっている少し前のモデルを提案します
・AmazonなどのE-コマースにおいて、商品ページの下部に、類似した低価格の商品をオススメとして表示し、支払い余力の少ない顧客の獲得を目指します

 現代のマーケティング・販売活動において、アップセル・クロスセルは極めて重要な施策であるといえます。ではなぜこれらが重要なのでしょうか。

 WEBやSNS、口コミサイトなどの発達で人々の選択肢が増え、企業間の競争も激しくなった現代では、新しい顧客を獲得するのはとても大変になっています。そのため、新規顧客を獲得するには、既存顧客を維持するよりもはるかに多くのコストがかかります。

 マーケティングの世界に「1:5の法則」と呼ばれるものがあります。これは、新規顧客に販売する費用は、既存顧客に販売する費用の5倍かかるという法則のことです。

 完全に新規の顧客を獲得するよりも、商品を購入を検討してくれている顕在顧客やリピーターなどの既存顧客との関係を深め、LTV(Life Time Value、顧客生涯価値)を高めていくことが、より効率的となっています。

 既存顧客はすでに企業や製品への信頼を築いているため、新規顧客よりも購買意欲が高く、アップセル・クロスセルを受け入れやすい傾向にあります。

 適切なタイミングで顧客のニーズに合った商品やサービスを提案することで、平均購買単価を向上させ、収益を大幅に増加させることができます。

 アップセル・クロスセルは、単に売上を伸ばすためだけのものではなくなっています。顧客のニーズを深く理解し、より良い解決策や付加価値を提供することで、顧客体験を向上できます。

 結果として、顧客満足度が高まり、長期的な関係構築に繋がり、LTVの向上に貢献します。

 ここでは、アップセル・クロスセルの成功事例をご紹介します。

 Amazonで買い物をしていると、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」というおすすめが表示されるのを見たことがあるでしょう。これはクロスセルの典型例です。

 Amazonは膨大な購買データを分析して、顧客が興味を持ちそうな関連商品を提案します。例えば、カメラを買おうとしている人に、メモリーカードや三脚を勧めるといった具合です。

 また、関連商品として類似する価格の高い商品や安い商品を提案し、アップセル・ダウンセルのニーズにも答えられる設計になっています。この戦略のポイントは、顧客のニーズを先回りして提案することで、顧客の利便性を高めると同時に、企業の売上も増やせるところにあります。

クロスセルの例
クロスセルの例(出典:Amazon商品サイト)

 iPhoneを買おうとしたとき、「容量が大きいモデルはいかがですか?」と勧められた経験はありませんか?これがアップセルです。

 Appleは単に高い商品を勧めるのではなく、顧客にとってのメリット(写真をたくさん保存できる、アプリをもっと入れられるなど)を強調します。さらに、関連商品としてイヤホン(AirPods)や保険(AppleCare+)を勧めるクロスセルも行っています。

 この戦略のポイントは、顧客の潜在的なニーズを掘り起こし、より満足度の高い製品やサービスを提供することで、顧客と企業の双方にメリットをもたらすところです。

アップセルの例
アップセルの例(出典:Apple商品サイト)

 マクドナルドの「Sサイズ」と「Mサイズ」の価格差はわずかですが、量は結構違います。これがアップセルの一例です。

 また、単品で買うよりもセットで買った方が安くなる「レギュラーセット」や「夜マック」などのセットはクロスセルの好例です。ハンバーガーだけでなく、ポテトや飲み物もセットで買ってもらうことで、顧客の満足度と企業の売上の両方を高めています。

 この戦略のポイントは、顧客に「お得感」を感じてもらうことで、より多くの商品を購入してもらうことです。

アップセルの例
アップセルの例(出典:マクドナルド商品サイト)

 アップセルとクロスセルは効果的な販売戦略ですが、その実施には慎重なアプローチが必要です。これらの手法を分別なく適用してしまうと、顧客との信頼関係を損なう恐れがあります。例えば、以下のような点には注意が必要です。

アップセル・クロスセルを失敗させる原因
過度な販売促進をしてしまう 過度な販売促進は顧客に押し付けがましさを感じさせ、結果として顧客満足度の低下やイメージの悪化を招く可能性があります
顧客のニーズや予算を考慮しない 顧客のニーズや予算を考慮せずに高額商品を勧めることは、不満や購買意欲の減退につながりかねません
多すぎる選択肢を提示してしまう 多すぎる選択肢を提示することで顧客を混乱させ、かえって購入を躊躇させてしまうこともあります

 踏まえて、アップセル・クロスセルを効果的に実践するためのポイントには以下のようなものがあります。

 アップセル・クロスセルを効果的に進めるには、購買体験の効率化を図ることが重要です。小売業であれば、関連商品を適切に配置し、顧客の導線を最適化することで、自然な形で追加購入を促せます。

 また、WEBサイトにチャットボットを配置したり、Webサイトのポップアップなども活用したりして、顧客の行動に基づいた適切なタイミングで関連商品を提案することも効果的です。

 マクドナルドの例で見たように、製品バンドル(製品やサービスを抱き合わせで販売すること)やセット品は、顧客に価値を提供しながら売上を増加させる優れた方法です。

 関連製品をパッケージ化し、適度な割引を適用することで、顧客満足度を向上させつつ、一回の取引あたりの販売額を増やせます。ただし、バンドルの内容は顧客のニーズに合わせて柔軟に調整できるようにすることが重要です。

 顧客アンケートの実施や、IT投資ができる場合には顧客データベースやCRMの適切な活用などにより顧客のニーズや課題についての理解を深めていくことが、アップセルやクロスセルの効果を向上させます。

 顧客の購買履歴やプロフィールを分析することで、顧客属性に合わせた個別の提案が可能になります。

 最後に、最も重要なのは自然な提案を心がけることです。押し付けがましさを避け、顧客目線での商品提案を心がけましょう。

 対面販売やビデオ会議での説明など可能な限り双方向でのコミュニケーションを心がけ、顧客の興味やニーズに基づいて適切なタイミングで商品を紹介することで、より効果的な提案が可能になります。

 アップセル・クロスセルを行ううえで「電話勧誘販売」については注意が必要です。2023年6月1日から、通信販売における電話でのアップセル・クロスセル販売に関する規制が強化されました。主なポイントは以下の通りです。

電話によるアップセル・クロスセルの注意点
対象 新聞、雑誌、TV、ネットショップなどの広告を見て注文した消費者
規制内容 電話で注文を受ける際に、広告に掲載していない商品の購入を勧めると「電話勧誘販売」として扱われます
「電話勧誘販売」となることの影響 ・クーリング・オフ(無条件解約)が適用される
・契約書面の交付が義務付けられる(電子化も可能) など
注意点 広告に「電話で他の商品を案内する」と記載しても、その商品の詳細(価格、支払方法など)を明記していなければ規制対象となる

電話によるアップセル・クロスセルは違法ではないものの、クーリングオフや契約書面交付が義務付けられることになるため、慎重な運用が必要となります(参照:電話勧誘販売|消費者庁)。

 これまで見てきたように、アップセルとクロスセルは、企業の売上を効果的に増やすための重要な販売戦略です。これらの手法を適切に活用することで、顧客満足度を高めながら収益を向上させることができます。ぜひ積極的に活用してみてください。