若手社員が管理職になりたがらない理由はさまざまあるでしょう。代表的なものを挙げると「プレーヤーでいた方が稼げるから」です。管理職になり、責任が大きくなっても、それに見合う収入が十分に得られないと感じる若手は少なくありません。
プレーヤーであれば現場に出る時間も多く、残業代が出て、顧客を獲得した分、インセンティブがもらえて給料が増えます。一方で、管理職はマネジメントに時間が費やさねばならず、インセンティブを得にくくなる上、残業代が出なくなってプレーヤー時代よりも給料が下がる、といった具合です。会社によって違いはあるでしょうが、こういうゆがんだ制度を放置しているケースは少なからず存在します。
あるいは、管理職としての責任を果たすための予算や権限が全く足りていないという状況もよく見かけます。例えるなら、RPG(ロールプレイングゲーム)で「ラストダンジョンにいるボスモンスターを倒しなさい」と命じられたのに、「装備は最初の村で売っている武器と防具しか認めない」と言われている状況です。それを、自分1人で何とかしようとすると、莫大な時間と労力が必要になります。
とはいえ、これらの問題は昔もありました。しかし、ここ最近、管理職になりたくない若者が増えているのは、転職が当たり前になったためです。苦しい管理職の道をわざわざ選ばずとも、よい条件の会社を見つけ、転職してしまった方が得だと若手は考えているわけです。
もちろん、若手の成長意欲が乏しくなっている面もあるでしょうが、それを理由に、中小企業の経営者が何の施策も講じないままではいけません。管理職人材を育てなければ企業の成長は止まる一方で、時代の変化に合わせて社内の体制を見直すべきです。経営者はどんな行動を取ればいいのでしょうか。次章から詳しく解説します。
役職と収入を連動させる
管理職を志す若手社員を増やすために、まず取り組むべきは評価制度の見直しです。もし、プレーヤーでいた方が収入が上がるような仕組みになっているとしたら、すぐに是正してください。本来、役職が上がるにつれて責任も重くなり、その分、収入が増える形にするべきです。
そして、残業代を「稼げる」ような制度は絶対にやめてください。長時間働くほど得をするようになっていると、仕事を早く片付けようとしなくなります。
1週間で100万円を売り上げる人と、同じ売り上げを達成するのに3週間かかる人では前者の方が明らかに優秀なのに、後者の方がより多くの収入を得てしまう。そんな会社で業績が伸びるわけがありません。
負けを糧にする考えを大切に
加えて、目標に達しなかった社員の給料や役職が下がるマイナス評価を導入しましょう。結果を残せない時期が続いても、給与や役職がそのままの環境では、社員に危機感が芽生えてきません。給与や役職が下がるという「恐怖」を正しく感じるからこそ、それを避けようとして社員は懸命に努力するのです。
ただし、たった一度の失敗ですぐに減給や降職になる仕組みは厳し過ぎます。失敗が許されない環境だと、社員の間に不正行為が蔓延し、離職が止まらなくなる恐れもあります。
もちろん、結果は非常に重要です。社員の目標未達が何度も続けば業績が傾く一因になるでしょう。それでも、勝利至上主義ではなく、次に結果を残すために負けを糧にするという考えを大切にしてください。
必要な権限を要求できる仕組みを
評価制度の構築に加え、自分の責任を果たすために必要な権限があれば、躊躇なく直属の上司に求めてよいというルールを設けることが大事です。こうすれば、管理職は大いに働きやすくなります。
もちろん、それを承認するかどうかは別問題です。しかし、いつでも上司に相談できるという環境になっていれば、「責任が重くなったのに権限が足りない」と苦しむ管理職は減るはずです。
評価制度と権限の上申ルールの整備。この二つはまさに、経営者にしかできない役目なのです。
「管理職になりたくない」は拒否
では、若手社員が「管理職になりたくない」と訴えてきたとき、あなたはどんな反応をしますか。最近はそれを受け入れる経営者も多いのではないでしょうか。
しかし、これはお勧めできません。管理職になりたくないという部下に寄り添っていると、経営者は最適な判断を最速で下せなくなります。
それに、部下は自分が特別扱いされていると勘違いし、自分より上の階層にいる社員に対して無礼な振る舞いをし始めるかもしれません。結果として、組織全体の生産性が低下する恐れがあります。
「管理職になりたくない」という社員の声には耳を貸さず、経営者は適切な人材を適切なタイミングで引き上げればいいだけです。
「君を課長にしようと思っているが、どうだ?」といった打診も不要です。有無を言わさず抜擢し、責任を与えましょう。もちろん、昇進条件は事前にはっきりと示すべきです。
時々、「私は成長したくありません」、「ルーチンワークだけをやり続けたい」と願うビジネスパーソンがいますが、その主張には大きな誤りがあります。世の中は常に変化を続けているため、現状維持などできません。
例えば、個人間の通信手段は、ポケットベルからPHS、フィーチャーフォン、スマートフォンへと進化しました。現状維持のままでよいという考えは、ポケベルを使い続けるようなものです。いずれ取り残され、誰からも相手にしてもらえなくなります。社員がそうならないように成長できる環境を用意してあげることこそ、経営者の役割だと肝に銘じておきましょう。
出世意欲を高めて業績もアップ
ここで、管理職になるインセンティブが乏しかった評価制度を見直した結果、業績を大きく伸ばした会社の例を紹介します。
その会社には、一応の評価制度こそありましたが、顧客との契約を獲得した社員にインセンティブが与えられる一方、管理職となった社員の収入が増える仕組みはなく、プレーヤーの方が管理職よりも稼げる状態でした。そのため、大半の社員が管理職を目指そうとしませんでした。
そこで、管理職になれば責任が重くなる分、収入も増えるような評価制度に変えたのです。
制度を変えて間もないころはまだ、自分から「管理職になりたい」と手を挙げた若手社員はいませんでした。しかし、明確な評価を整えたからこそ、経営者も社員の意思を気にせず、思い切って管理職を指名できるようになりました。
管理職に登用された社員が結果を残し、収入が増えていく様子を見た周囲の社員たちがこぞって出世を望むようになるまで、それほど時間はかかりませんでした。組織力が強化された結果、5年の間に売上高は4倍に膨らんだのです。
長期的成長のための組織改革を
管理職になりたくない若者ばかりが集まった会社は、いずれ管理職の不足によって効率的な経営ができなくなります。極端な話、経営者が部長や課長を兼任し、メンバー層のマネジメントまで担当しないといけないわけです。
そうなると、経営者が本来するべき仕事のために時間を使えず、長期的な成長は期待できません。
例えるなら、船長が船内の倉庫で末端の船員と一緒に作業するようなものです。船長は目の前に氷山が近づいても、それに気付くことができず、会社が座礁するリスクが高まります。
経営者の皆さんはそうなる前に、本記事を参考に組織改革に乗り出してください。
浦野宏司さん
識学上席コンサルタント コンサルティング部
2000年4月、帝国データバンクに入社し、全国から寄せられる法人向けアンケートなどの案件に8年間従事。その後、中小企業・中堅企業を主体とした信用調査業務を11年間にわたって手掛け、2019年10月にマネージャーへ昇進し、10名強のマネジメントに従事。メンバーにモチベーションを与えようとする自身のマネジメントが機能せずチームの成績低迷とともに離職者が相次ぐ中、識学のロジックに出会う。識学を通じて自身と同じようにマネジメントに悩むリーダーの一助となるべく、2022年6月から識学に身を移し、現在、コンサルタントとして活動中。
(※構成・平沢元嗣)
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