目次

  1. サイロ化とは
    1. 「データのサイロ化」など3種類のサイロ化
    2. サイロ化が進む原因
  2. サイロ化の問題点・デメリット
    1. 効率性・生産性の低下
    2. 人的リソースや金銭面のコスト増加
    3. データの利活用・DXの推進困難
    4. 経営の意思決定の遅延
    5. 顧客ロイヤリティの低下
  3. サイロ化を改善する3つの方法
    1. 部門同士の相互理解を促進する
    2. システムの集約と個別システムとの連携
    3. 全社での利活用を意識したデータ設計
  4. サイロ化を改善するメリット
    1. 効率性・生産性の向上、コスト削減につながる
    2. 企業活動のスピード感が上がる
    3. DXを実現する土台ができる
  5. サイロ化を解消し、企業価値を高める

 サイロ化とは、企業などの組織において、各部門や情報、システムなどが分断され、孤立している状態のことです。それぞれが孤立してしまうことにより、本来必要な連携がとれず、組織として高いパフォーマンスを発揮できなかったり、無駄なコストを発生させてしまったりします。

 変化の激しい昨今の経済環境においては、全社のデータを活用したDXの実現や部門間の壁を取り払った密な連携が企業経営を大きく左右します。そのため、あらゆるサイロ化を解消し、発生させないことが非常に重要です。

 企業などの組織におけるサイロ化には「組織のサイロ化」「システムのサイロ化」「データのサイロ化」が存在します。

サイロ化の種類
組織のサイロ化 さまざまな要因により部門間のコミュニケーションや連携がうまく行われず、孤立した部門がそれぞれ別の動きをしてしまいます
システムのサイロ化 各部門がそれぞれの利益や使い勝手を優先してシステムの導入や運用を行うことにより、システムが連携できなくなります
データのサイロ化 部門別の各システムにデータが格納されることにより、データを共有できなくなります

 一般的には、組織のサイロ化が最初に発生し、サイロ化した組織ごとに個別最適を目指した結果としてシステムのサイロ化が発生、サイロ化したシステムに格納されたデータは共有や連携することが困難な状態となり、データのサイロ化が発生します。

 サイロ化が発生する原因は複数ありますが、主たる原因は組織の構造上の問題です。特に、縦割り組織によってもたらされます。

 また、無意識のうちに組織間の壁が発生する企業規模の拡大やリモートワークの増加も、サイロ化が起こりやすくなる一因です。

①縦割り組織の弊害

 縦割り組織とは、職務別に部門を細分化し、それぞれが独立して業務を行う組織形態のことです。各組織のミッションが明確になるため、部門内の業務がクリアになり、専門性が高められたり、組織内でのコミュニケーションがしやすくなったりするメリットがあります。

 反面、他部門とのコミュニケーションを取る機会が減ったり、自部門のミッションや利益を重視したりしてしまう点はデメリットでしょう。デメリットの結果、他部門に対して無関心になったり、批判的・反発的な対応を取ったりしてしまうことで、組織のサイロ化が発生します。

②企業規模の拡大

 縦割り組織によるサイロ化は、企業規模が大きくなっていく過程で自然発生的に起こる可能性が高いものです。例えば、従業員が10人の会社であれば、全員が見える場所で仕事をするケースが多いでしょう。この場合、ちょっとしたコミュニケーションも簡単にとることが可能であり、サイロ化は起きにくい状態といえます。

 企業規模が大きくなり、従業員数が100人、1000人となってくると、物理的にも全員が見える場所で働くことが困難になり、自然とコミュニケーションを取る人が限定されるようになります。

 また、効率化、専門性を高めることを目指し、職能別組織や事業部制組織の形態を取ることで、他部門との仕事上での関わり合いが減少し、徐々に自部門に閉じたコミュニケーションが増加するのも、サイロ化を促す原因の一つです。

③リモートワークの増加

 ここ数年で一般化したリモートワークも、サイロ化の原因になる場合があります。リモートワークは、時間や場所にとらわれない働き方が可能になるなどのメリットがあるものの、業務におけるコミュニケーション量が減少するという側面もあります。

 特に、オフィス勤務であれば発生していた、廊下でたまたま顔を合わせることなどによる偶発的なコミュニケーションはまず発生しません。これにより、部門間だけでなく、部門内においてもサイロ化が発生する恐れがあります。

 サイロ化により、企業の成長や競争力強化を妨げる複数の問題が発生します。

サイロ化の問題点・デメリット
・効率性・生産性の低下
・人的リソースや金銭面のコスト増加
・データの利活用・DXの推進困難
・経営の意思決定の遅延
・顧客ロイヤリティの低下

 サイロ化している状態では、各部門がそれぞれのシステムやデータを個別最適化し、運用しています。部門内では効率性・生産性が高く見えますが、部門間でシステムを連携したり、データのやり取りをしたりするのに手間がかかります。

 結果として、全社的には効率性、生産性が低くなってしまいます。

 部門間での調整が必要になった場合にサイロ化していると、本来不要な調整やコミュニケーションが必要になったり、データの受け渡しにも手間や時間がかかったりします。

 そのため、人的リソース面でも金銭面でもコストが増加することになります。

 システム、データがサイロ化されている状態で横断的なデータの利活用を行うには、システムの改修やデータ加工などの追加の処理が必要になり、時間と手間がかかります。また、組織がサイロ化していると、部門内のデータを他部門に渡すことを拒否する場合なども出てきます。

 DXを実現するには、全社的なデータの利活用やイノベーティブな発想が必要です。各部門間でのコミュニケーションが乏しく、システムやデータがサイロ化している状態では、発想のタネが部門内に閉じてしまい、新しい発想を生み出すことは困難になります。

 経営層が意思決定を行うには、各部門から上がってくる情報を集約し、全体を俯瞰して判断する必要があります。サイロ化している状態だと、そもそも情報を集約しにくい状態であるうえに、部門間のデータの整合性を取らなければならず、余計に時間とコストがかかります。

 その結果、昨今の経済情勢を踏まえた意思決定を、正確な情報に基づいてスピーディに行うことが困難になり、競合他社に後れを取ることになります。

 最近では顧客向けの施策として、受動的なカスタマーサポートだけでなく、より積極的なカスタマーサクセスの重要性が高まってきています。顧客ロイヤリティを高めることが、企業の成功に直結するといっても過言ではないでしょう。

 積極的な顧客支援においては、一部の部門内にあるデータだけでなく、全社のデータを活用して顧客とのあらゆる接点における体験の価値を高める必要があります。また、各部門が全社的な方針のもとに、一貫性のある対応をすることが不可欠です。

 サイロ化されている状態だと、部門間の顧客に関する情報がうまく受け渡しできず、場合によっては顧客ロイヤリティを低下させてしまうことになります。

 サイロ化を解消するにはいくつかの方法がありますが、組織規模が大きい場合はサイロ化を完全になくすということは現実的ではありません。各部門の特徴や個性を生かし、サイロ化させずに個別最適な部分を残しつつ、いかに全体最適を考慮しながら改善を進めるかが重要になります。

 組織のサイロ化を解消するには、部門同士の相互理解が進み、お互いが協調・協働しやすい状態になる必要があります。そのためには、意識的に部門間で交流できるような場を作ることが有効です。

 交流できる場は必ずしもリアルである必要はなく、社内のグループウェアやチャット上でも実現可能です。そのような場を作り、それぞれの部門の考え方や意見を発信することで、相互理解が進みます。

 そのときに大切なのは、相手の部門の立場を理解し、その考え方、意見をまずは否定せずに受け入れる姿勢です。自部門の利益のみだけでなく、各部門の考え方を理解することで、全社的にどうすべき、どうあるべきかという視点に立った議論をより建設的に進めることが可能になり、サイロ化の解消につながります。

 組織規模が大きくなるにつれて、あらゆるシステムを全社で統一するのは非常に困難になってきます。各事業や職能独自の機能が必要になってきますし、それらを全社のシステムに搭載することが必ずしも効率化や生産性の向上につながるとは限りません。全社的に集約すべきシステムと各事業部、職能別の部門で個別導入すべきシステムを定義し、それぞれ運用を進めることが現実的です。

 このときに重要なのは、部門ごとの個別システムが本当に必要なものであるかをしっかりと見極めることと、個別システムの存在を全社的にも把握しておき、必要に応じて他のシステムとスムーズに連携や統合ができるようにしておくことです。

 データについても、全社規模で管理するデータと部門別で管理するデータを定義したうえで運用する必要があります。例えば、商品情報や顧客情報などは全社で統一したデータを管理し、部門別のシステムがそれらのデータを利用したい場合は、全社のマスタデータを参照、またはコピーして利用することが望ましいでしょう。

 部門別で管理・運用しているデータ(営業部門であれば売上情報、カスタマーサポート部門であれば問合せ情報といったものが該当します)についても、どこかのタイミングで全社的な利用が必要になる可能性があるため、データの定義については全社的に一貫性を持たせておくこと、必要に応じて連携可能な状態にしておくことが望ましいです。

 サイロ化を解消することによって組織にさまざまなメリットをもたらします。直接的なメリットとしては、以下のものが考えられます。

サイロ化を改善するメリット
・効率性・生産性の向上、コスト削減につながる
・企業活動のスピード感が上がる
・DXを実現する土台ができる

 組織のサイロ化が解消することで部門間の連携がしやすくなり、コミュニケーションコストが改善します。また、部門ごとの不要な個別システムをなくし、全社的に統合を図っていく中でシステム開発・保守費やライセンス費の削減につながります。

 システムの統合により、システム間のデータ連携にかかるコストや手間が不要になるのもメリットです。結果として、企業全体で見たときの効率性や生産性が向上します。

 サイロ化が解消することで、企業内の多くの活動においてコミュニケーションや連携がしやすくなり、無駄な時間がかからなくなります。

 これにより、経営層による意思決定がしやすくなったり、顧客に対してタイムリーで適切なサポートをできたりして、スピード感をもって企業活動を推進できます。

 経済産業省は、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」こととしています(引用:デジタルガバナンス・コード2.0 p.1|経済産業省)。

 システムのサイロ化、データのサイロ化を解消するだけでなく、組織のサイロ化も解消し、企業文化・風土を変革することで、急速に変化するビジネスに迅速に対応できる「DX」を実現する土台ができるといえます。

 サイロ化には複数の種類があり、その原因もさまざまです。組織風土の改善や全社的なシステム統合などを実施するにはステークホルダーの意見を踏まえ、中長期的な視野に立って推進しなければならず、成果が出るまでには時間がかかります。

 ですが、サイロ化の解消は製品、サービスの向上や顧客満足の向上につながるものであり、最終的には企業価値を高めることにつながります。まずは自社内にサイロ化が発生していないかを確認し、サイロ化が発生している場合は解消に向けて少しずつでも行動するところから始めてはいかがでしょうか?