目次

  1. 帰属意識とは 
    1. 帰属意識が重要視されている背景
    2. 帰属意識は「いらない」「気持ち悪い」と言われてしまう理由
    3. 帰属意識とエンゲージメントの違い
  2. 帰属意識が低くなる3つの原因
    1. コミュニケーションの不足
    2. 期待役割の不明確化
    3. 評価や待遇などへの不満
  3. 帰属意識の低下によって起こり得る問題 
    1. モチベーションの低下
    2. 心身の健康への悪影響
    3. 離職率の増加
  4. 帰属意識を高めるメリット
    1. モチベーションの向上
    2. 採用や教育コストの削減
    3. 組織力の向上
    4. 定着率の増加
  5. 帰属意識を高める3つの方法
    1. ビジョンや価値観の共有
    2. オープンなコミュニケーション環境の整備
    3. 成果の共有と評価の透明性
  6. 帰属意識を組織の力に

 帰属意識とは、「特定の集団に所属しているという意識」のことです。もともとは、精神分析学や社会心理学の用語として使用されていました。帰属意識は、家族やコミュニティ、国籍など幅広い範囲で用いられます。

 帰属意識が高い状態とは、所属している組織や集団に対して愛着を感じたり、一体感を抱いたりしている状態を表します。一方で、帰属意識が低い状態とは、組織や集団の中に居場所がないと感じており、組織や集団への愛着や興味、関心が薄れている状態を表します。

 帰属意識は前述のように幅広い単位で用いられるものですが、ビジネスシーンで使われる機会も増えています。例えば、自分が勤めている会社を「うちの会社」と表現をすることは、「無意識に職場を自分の一部として見ている」という点で企業に対する帰属意識の高さの表れであると考えられます。

 近年は、ビジネスの分野でも「帰属意識」という考え方に改めて注目が集まっています。その背景には、従業員と企業を取り巻く環境変化が加速するなか、これまで帰属意識の高い人材を長期的な観点で育成してきた終身雇用制度が実質的に崩壊しているという問題が存在します。

 例えば、リモートワークや時短勤務(短時間勤務)、フレックスタイムといった各種制度の整備に加え、副業が活性化するなど働き方の多様化が進むなか、従業員の企業への物理的距離・心理的距離が拡大しています。

 また、働き方の多様化にともない、やりがいや成長できる環境、キャリアパスの実現などを求めて転職や独立を選ぶ従業員が増加しているのも一因です。

 さらに、多様な価値観を尊重するミレニアル世代やZ世代に対しては、従来のように「うちの会社ではこうだから、従いなさい」と、一つの価値観を押し付けるアプローチで、会社への帰属意識を高めるのが困難になってきています。

 その結果、企業への帰属意識が低下することで優秀な人材が流出しやすくなり、企業の弱体化につながる可能性が高まります。

 前述のように帰属意識が注目される一方で、個人の自律性や多様性を尊重する風潮の高まりから、「帰属意識は不要」「気持ち悪い」という意見も存在します。

 帰属意識が強すぎると、従業員は「会社の方針は絶対だ!間違いはない!」などの固定観念に縛られ、考えることを放棄して上司からの命令に従うようになります。このような行動が続くと、従業員一人ひとりの思考能力が低下し、ひいては企業全体の競争力も低下するでしょう。

 また、帰属意識が強すぎて企業以外にコミュニティが無くなることで、企業が倒産したり、リストラされたりした場合の従業員への反動も大きくなります。さらに、従業員の「会社には現状のままで存在してほしい」という気持ちが強くなりすぎることで、変化することを拒絶して排他的な思考が強くなるという副作用もあります。

 このような行動や思考は組織の硬直化や変革の妨げにつながり、企業を取り巻く事業環境が悪化した場合に企業の衰退に直結してしまいます。

 従業員と企業のつながりを表す言葉としては、帰属意識の他に「エンゲージメント」があります。

 帰属意識が「企業に所属しているという意識や自覚」という点で従業員の企業に対する一方的な関係を意味しているのに対し、エンゲージメントは「従業員と企業双方の肯定的なつながりの強さ」という双方向の関係を意味しています。

 即ち、従業員にとって帰属意識が「組織に所属していたい気持ち」を表現しているのに対し、エンゲージメントは「組織に貢献したい気持ちの度合い」を表現しているという違いがあります。

 高いエンゲージメントを維持できている状態であれば、従業員と企業それぞれが同じ方向性を目指して互いに貢献しあう姿勢につながります。

 従業員の帰属意識が低くなる主な要因として、以下の3つの要素が挙げられます。

帰属意識が低くなる3つの原因
・コミュニケーションの不足
・期待役割の不明確化
・評価や待遇などへの不満

  経営層と現場、部門間や職場内などのコミュニケーションが不足すると、認識のズレが生じやすくなり、帰属意識の低下を招く可能性が高まります。特に、最近はリモートワークの増加やチャットなどのITツール導入にともない「対面での会話」が少なくなっており、コミュニケーション不足に拍車をかけている状況です。

 また、生産性や業務効率を重視するあまり、同僚やチーム内でのコミュニケーションが不足しているケースも少なくありません。

 従業員の帰属意識は、「組織内に自分の役割があり、活躍できている」という認識によって高まります。「組織の中で自分がどのような役割を期待されているのか」や「その役割にどのような意味があるのか」が曖昧なままでは、充実感や達成感を味わうことができません。

 従業員本人が企業や組織の中での自分の役割を理解していないと、モチベーションや帰属意識が低下してしまいます。

 従業員は、努力や成果に対する適切な評価や承認がないと感じると「必要とされていない」「認められていない」といった思考に陥ります。その結果、帰属意識の低下を招きます。

 具体的には、仕事の評価基準が明確でない場合や仕事内容に見合う報酬が不適切な場合、上司からのポジティブなフィードバックが欠けている場合などが当てはまります。

 帰属意識が低下すると、以下のような問題が発生します。

帰属意識の低下によって起こり得る問題
・モチベーションの低下
・心身の健康への悪影響
・離職率の増加

 帰属意識が低い従業員は、業務に対して興味を持たなくなり、モチベーションを低下させてしまいます。

 モチベーションが低下すると、従業員は企業のために働こうという貢献意欲がない状態で働くこととなります。その結果、仕事のやりがいを感じられなくなり、業務に対する取り組みや改善に対しても消極的になってしまうでしょう。

 また、成長やキャリアアップに対しても興味を失い、積極的に他の従業員に関わろうとする意識が低くなります。その結果、情報共有が不足することで生産性の低下につながります。

 そもそも帰属意識が低い状態では、十分なコミュニケーションを取れていない可能性が高いものです。コミュニケーション不足は対人において誤解を生じやすく、業務上の不祥事や人間関係の悪化を招く恐れがあります。

 トラブルに巻き込まれた従業員は、帰属意識がさらに低下し「企業にとって必要のない存在だ」と感じやすくなります。精神的に追い込まれてしまい、休職や退職せざるを得なくなるかもしれません。

 帰属意識が低いと、従業員は所属している企業で働く価値を見いだせなくなるため、離職率が高まります。「環境を変えたほうがよいのではないか」と考え、転職活動を活発化させる従業員や、早期退職を希望する従業員が出てくる可能性が高まります。

  離職しないとしても、業務へのモチベーションが低い状態で働くことで、他の従業員のモチベーションにもマイナス影響を及ぼします。その結果、連鎖的に他の従業員のモチベーションを下げたり、帰属意識が高い従業員との間でトラブルを起こしたりと、企業全体にマイナス影響を及ぼすことも懸念されます。

 一方、従業員の帰属意識を高めることで、以下のようなメリットを得られます。

帰属意識を高めるメリット
・モチベーションの向上
・採用や教育コストの削減
・組織力の向上
・定着率の増加

 帰属意識が高いと、従業員は「自分は会社に必要とされている」と認識でき、企業に積極的に貢献しようとします。その結果、一人ひとりの仕事に対する意識が高まり、組織全体の生産性向上につながり、企業の業績向上にプラス影響を及ぼします。

 定着率が高まると、頻繁に採用を行う必要がなくなり、新たな人材を教育するコストを削減できます。また、欠員補充のための早急な人員補充も必要なくなるため、必要な人材を慎重に見極めることが可能となり、採用の質も向上します。さらに、リファラル採用も活発になりやすく、自社に適した人材獲得や採用コストの抑制にもつながります。

 帰属意識が高まると社内のコミュニケーションも活発になり、良好な人間関係が構築しやすくなります。それにより、心理的安全性が高まり、アイデアや意見が組織に反映されやすくなります。結果として、個々が持つパフォーマンスが最大限発揮できるようになるでしょう。

 帰属意識の高さは「この企業に長く勤め続けたい」という意識の向上につながり、従業員の定着率が増加します。定着率が増加することで慢性的な人手不足に陥るリスクも減少し、育成した従業員が長期的に企業に利益をもたらしてくれる効果も期待できます。

 帰属意識を高めるためには、組織としての一体感を促進し、社員が自らの役割や存在意義を感じられる環境を整えることが重要です。帰属意識を高める3つの方法について説明します。

帰属意識を高める3つの方法
ビジョンや価値観の共有 社員は組織の方向性に共感し、自身の役割を理解できる
オープンなコミュニケーション環境の整備 社員は自分の考えが組織に影響を与えられると実感できる
成果の共有と評価の透明性 社員は自身の努力が組織の成功に結びついていると実感できる

 組織全体で共通のビジョンや価値観を明確にし、それを全社員と共有しましょう。ビジョンや価値観が共有されることで、社員は組織の方向性に共感し、自分自身の役割を理解できるようになります。

 また、定期的にこのビジョンを振り返る場を設け、全員がその実現に向けてどう貢献できるかを考える機会を提供することで、帰属意識をさらに強化します。

 社員が意見やアイデアを自由に共有できる、オープンなコミュニケーション環境を整えることが大切です。意見交換やフィードバックがスムーズに行える場の設置により、社員は自分の考えが組織に影響を与えられると実感でき、組織への貢献意識が高まります。

 また、リーダーが積極的にフィードバックを受け入れ、対応する姿勢を示すことで、社員の帰属意識がさらに強まります。

 組織全体の成果や進捗状況を定期的に共有し、各社員の貢献を正当に評価する仕組みを整えることも重要です。透明性のある評価制度は、社員が「自身の努力が組織の成功に結びついている」と実感できるため、帰属意識の強化を促進します。

 また、評価の際には個人だけでなく、チームとしての成果も評価することで、組織全体の一体感を促進し、帰属意識を向上させます。

 働き方も価値観も多様化し、組織の課題も多様化する時代になりました。しかし、多様化した考え方によって組織がバラバラになったり、ギスギスしたりしては意味がありません。

 帰属意識を持ち、ひとつの方向性へ向かう力を高めることは、組織の目的を達成するためにも大変重要といえます。