セブン‐イレブンは「7NOW」を次世代の成長戦略として店舗への導入を進めています。2024年7月時点で約1万2000店舗に推奨しており、2024年度中の全国展開を目指します。
お届けサービスの導入は、フランチャイズ加盟店の意思に委ねますが、配送は外部の業者が受け持ち、店舗はピッキング作業で済むため、特殊な立地(駅ナカ)を除いて、ほとんどの加盟店が参加するものと見られます。
サービスの始まりは2017年に北海道の一部エリアでスタートした「セブン-イレブンネットコンビニ」です。当初は最短のお届け時間が注文から2時間以降で、配達時間を1時間ごとに指定できる枠を設けていました。
そこで明らかになったのは、お客のほとんどが最短時間のお届けを希望したということです。ネットスーパーが計画購入なのに対して、7NOWにお客が期待したのはQコマースであることが鮮明になったのです。
2022年2月にはサービス名称を「7NOW」に変更。これまで7NOWでは、リアルタイム在庫連携を活用した約3000アイテムの品揃えや、最短20分での配送、ドローンやロボットといった配送手段の実証実験などを経て進化してきました。
セブン、宅配ピザ市場に参入 「焼きたて」を訴求
全国展開を前に、現在一部店舗でテスト販売中の「お店で焼いたシリーズ」の配送を進めています。そのメインとなる商材「お店で焼いたピザ」の店頭販売とお届けを首都圏30店舗でテストしてきました。2024年8月には扱い店舗を首都圏と九州、北海道エリアを合わせて200店舗に広げています。
焼きたてのメイン商材を「ピザ」にしたところに野心的な姿勢が見て取れます。
日本の外食産業において近代的なデリバリーサービスは、1985年9月に米国ドミノ・ピザ社とエリアフランチャイズ契約を締結した日本法人(ワイ・ヒガコーポレーション)が始めたピザの宅配です。当時は、そば店や中華料理店、寿司店による「出前」はありましたが、デリバリーを「専門」とする近代的なお届けサービスはありませんでした。
それまでは店内の食事提供が基本にあり、出前はその「ついで」に位置付けられていました。日本のドミノ・ピザは業界常識を打ち破り、デリバリーサービスを基本にした商品とサービス、システムを構築しました。その後、ドミノ・ピザの成功を契機に、さまざまな業種で近代的なデリバリーサービスが生まれました。
そのデリバリーサービスの歴史をつくった象徴的な商品「ピザ」にセブン-イレブンは挑戦します。現在、ピザ宅配の上位3チェーン(ドミノ・ピザ、ピザーラ、ピザハット)を合わせると店舗数は約2000です。
拠点数から見るとセブン-イレブンの10分の1以下です。セブン-イレブンが仮に全店規模で「焼きたてのピザ」を提供し、定着していくと、他のコンビニチェーンにも波及していきます。「コンビニコーヒー」の普及と同様に「コンビニピザ」の登場です。
商品は「マルゲリータ」780円(税込み)と「照り焼きチキン」880円(同)の2種類。サイズは宅配ピザチェーンのSとMの間を想定、量目当たりの価格はスーパーマーケットより上、宅配ピザチェーンより下のイメージです。
ピザの供給はセブンプレミアムゴールド「金のマルゲリータ」(冷凍)と同じメーカーが担っています。「焼きたて」とはいえ、家庭でレンジアップする商品と異なり、焼成してから時間の経過があるため、生地はもっちりとした感覚を残しています。顧客がどのような環境で口に運ぶのかを注視しながら改良を加えていくといいます。
7NOWがピザに取り組む上で強みになるのが、店舗で品揃えしている約3000アイテムの中の商品を一緒にお届けできることです。人によってはピザ欠かせないワインやビール、食後のスイーツ、アイスクリームも加えた総合力で勝負していきます。ピザは冷凍生地なので廃棄ロスは出ません。お届けは外部の業者が担うので、加盟店の余計なコストも発生しません。
ドーナツにも再び参入 今回は「揚げたて」を訴求
さらにセブン-イレブンは、カウンター内で販売する「お店で揚げたドーナツ」の3品を9月3日より東京都、千葉県、埼玉県の店舗にて発売しています。こちらも冷凍で納品されたドーナツを店内で揚げて「出来たて」を訴求します。
実はセブン-イレブンはドーナツで1度失敗しています。2014年にカウンターに什器を入れて、コンビニコーヒー(セブンカフェ)との併売を図ったのですが、ミスタードーナツが持つマーケットを拡大するに至らなかったのです。
しかし今回は店内で「揚げたて」を訴求し、競合チェーンと差別化します。そこに7NOWで注文を受ければ、お店で揚げたドーナツを(最短)20分で提供できます。(ただし、ピザと異なり作り置きが店内にあるため、必ずしも揚げたてで提供するとは限りません)
7NOWは高い? それでも買われる特徴
7NOWで提供する商品の単価は店頭と同じではありません。1~2割、高めに設定しています。1物2価になるのです。店頭より単価は割高で、加えて配送料(110~550円)も必要、最低注文金額は1000円(税抜き)以上に設定しています。
店頭に出向くよりも割高になるのは当然としても、飲食店と同じように、出来たてを届けてもらえるのなら、多少のコストもやむを得ないと考える人たちも一定層いるでしょう。
実際に7NOWの売れ筋単品トップ20を見ると、揚げ物が多く含まれています。アメリカンドッグ、コロッケ、ななチキ、からあげ棒、揚げ鶏といった商品が上位にあり、店内で揚げた、いわゆる“アツアツ”の商品への要望が高いことが理解できます。
店内の商品を商圏の世帯にどうやってお届けするのか、その点を解決した今、次に狙うのはお届けしてもらいたい商品とは何か、それが店内になければ、どうやって開発するのかを追いかけているようです。
7NOWの買われ方の特徴として、客単価が店頭の平均752円に対して7NOWが約3倍の2234円。買上点数が店頭の平均3.22点に対して、7NOWは約2.7倍の8.57点となり、まとめ買いの傾向をつかんでいます。今後は7NOWの「客数」 (注文件数)の拡大がテーマになるでしょう。
「できたて」生かし、外食産業に切り込む
ここまで、焼きたてのピザ、揚げたてのドーナツに言及しました。セブン-イレブンは現在、この「〇〇たて」を追求しています。「淹れたて」の「セブンカフェ」(2013年9月~)、専用マシンで提供するフレッシュな「混ぜたて」の「セブンカフェスムージー」(2023年3月~本格展開)、前述の「焼きたて」の「お店で焼いたピザ」、そして「揚げたてのドーナツ」は、2007年10月より使用している揚げ物の調理機器で作っています。
これら「4たて」のうち、淹れたて、混ぜたては、お客が自分でマシンにセットして作ります。焼きたて、揚げたては従業員の手によるものですが、調理機器に正しくセットすれば、誰が作っても同じ味のものが出来あがります。「揚げ物名人」の出る余地はありません。
淹れたてのコーヒー、混ぜたてのスムージーは、7NOWの対象外ですが、これからも出来たての開発は強化していくといいます。「5たて、6たてでも、どんどん挑戦していきます」(セブン-イレブン関係者)と、7NOWを契機に外食産業の分野に「〇〇たて」により切り込んでいくようです。
7NOWの配達員にギグワーカー
もう一つ、注目すべきポイントはギグワーカーの存在です。インターネットを通じて単発の仕事を請け負って働く人たちです。特にコロナ禍で収入が減少した人たちが、夜間にデリバリーサービスの配達員に従事する姿が報じられています。
セブン-イレブンは2023年10月よりウーバーイーツの配達員が7NOWのアプリから注文を得た商品を届ける「Uber Direct(ウーバーダイレクト)」の活用を始めました。ウーバーダイレクトは、取引先企業の自社サイトやアプリで販売する商品を、ウーバーイーツの配達ネットワークを活用することで配達できるサービスです。
セブン-イレブンは、これを7NOWに試験的に導入して、ウーバーダイレクトの対応店舗を増加させてきました。こうしたウーバーイーツのような配達プラットフォームを複数活用することで、配送エリアを拡大。需要が高まったときのマッチングを、ほぼ100%にすることに成功しています。
このウーバーダイレクトの活用については、もう一歩発展させた取り組みが「まいばすけっと」(1119店舗、2024年2月末)が実施しています。「まいばすけっと」は、イオングループが首都圏で展開するミニスーパーですが、2024年6月から新たなサービス「ピック・パック・ペイ」(PPP)を導入しています。
ピック・パック・ペイとは、ウーバーイーツの配達員が、店舗従業員に代わって売場を回り、ピッキング作業から袋へのパック詰め、会計まで行うサービスです。既存の配達員は、指定された店舗に行き、あらかじめ袋詰めされた商品を受け取り、依頼主に配達するサービスを実施してきました。
配達員が売場の従業員を介さずに、ピッキングから会計まで済ませるので、「まいばすけっと」としては人時コスト(人件費)への影響はゼロに抑えられます(その分、手数料は高いと推察しますが――)。
このPPPサービスを導入するに当たりウーバーイーツは、配達者による店内作業がスムーズに行われるように、5つの機能を追加しました。
第1に、配達員が約3000品目ある中から、ピッキングを誤って類似商品をスキャンした場合、間違いを指摘する機能を搭載しています。
第2に、商品欠品の際、代替商品を注文者とアプリ上で確認できるチャット機能です。注文者がオーダーをする際に、Aが欠品の際は代替商品Bでよいかを事前に登録する機能も備えており、注文者と配達員の互いのストレスを緩和させています。
第3に、配達員が会計時に使用する、PPP支払い専用のデジタルカードをアプリ上に搭載しています。配達員はセルフレジ(セルフ優先で、それがなければ有人レジ)で、商品バーコードをかざし専用のデジタルカードで精算します。
第4に、PPPの開始をサポートする配達員に向けたオペレーションの案内機能です。
第5に、店内の商品位置をアプリ上で確認できる商品棚情報連携機能も搭載しています。
それでも一連の作業が面倒と感じる配達員は、「まいばすけっと」を拒否することも可能です。
ギグワーカーは、コロナ禍によって拡大した(良し悪しは別にして)新しい働き方です。この労働力が7NOWの配達の多くを担っており、セブン-イレブンは時代の波に上手に乗ったといえるでしょう。