【動画】あの会社はなぜ取材が相次ぐのか 後継ぎが意識する「切り口」
中小企業でもメディアから取材が続く企業があります。こうした企業は広報活動や情報発信でどのようなことを意識しているのでしょうか。それぞれ異なるルートでメディアに多く取り上げられている、側島製罐(愛知県大治町)の石川貴也さんと堀商店(名古屋市)の堀新太郎さんに話を聞きました。記事中にインタビュー動画も掲載しています。(聞き手・杉本崇)
中小企業でもメディアから取材が続く企業があります。こうした企業は広報活動や情報発信でどのようなことを意識しているのでしょうか。それぞれ異なるルートでメディアに多く取り上げられている、側島製罐(愛知県大治町)の石川貴也さんと堀商店(名古屋市)の堀新太郎さんに話を聞きました。記事中にインタビュー動画も掲載しています。(聞き手・杉本崇)
目次
――石川さんは、自社商品が売れていないことを2020年11月にツイッターで嘆いたところ、ツイートが拡散して注目が集まり、その動きをメディアが連鎖的に取り上げたことで、側島製罐のニュースが大きくバズる結果となりました。どんな反響があったんでしょうか。
石川:情報がリーチする範囲がすごい伸びるから、思いもよらぬ人が連絡してくれたり、会社のホームページのアクセスも増えたりしました。あとは一般の方からのすごいいろんな意見をいただくことができるっていうのが、まずバズった直後の1本目の反響でした。
――側島製罐はこれまでずっとBtoBの仕事をずっと続けられてきた企業です。そこに消費者の声が届くようになったのが面白いなと思うんですけど、例えばどんな声が寄せられましたか。
石川:このツイートについては、「何でこんな売れなかったの?」「こんなかわいいのに?」みたいな話はすごくたくさん頂きました。ツイートに対する引用リツイートでもお褒めの言葉をたくさんいただいた。それを見た社員もすごい喜んでくれました。
BtoBの仕事って、例えば1万缶作っても1缶不良品があったら、昔は取引先に菓子折りを持って謝りに行くみたいな世界。良いものを作って当たり前というか、褒められることもあんまりないんですけど、こうやって消費者の方から直接「これって価値あるよね」っていう声をもらえるのは社員としてもとてもうれしいところが多かったんじゃないかなと思います。
――石川さんは反響のあったツイートを、会社の入り口の壁とかに貼ってますよね。あれがなんとなく社員さんのモチベーションを上げるのに結構役立っているんじゃないのかなと思うのですが。(※ツギノジダイ会員は、後段で公開インタビューの動画も視聴いただけます)
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石川:おっしゃる通りですね。リツイートのうれしい声とか、実際に最近初めて商品を買ってくださった方が写真をアップしてくださったりするんですけど、そういった写真をA3で拡大コピーして入り口にたくさん貼ったり、っていうのを継続してやっています。
――側島製罐はまず新聞の地方版で大きく取り上げられて、その後テレビなどいくつかニュースが続きました。なぜ取材が連鎖的に続いたのか、振り返ってどう思われますか。
石川:メディアの方たちってネタを日々探されてると思うんですけど、「これいいな」と思って取材行ってみたけどダメだった、っていうのはすごい嫌だと思うんですよね。そういうときに、すでに他のメディアに取り上げられてるっていう実績があると取材しやすいのかなと思いました。就活の時に、他で内定もらってる就活生がすごいよく見えるような現象と同じで、メディアの方から見て一定の安心感があるんじゃないかと。
――堀さんは外から見ていて、この取材の連鎖がなぜ起きたと思いますか。
堀: 取材したら色んな角度で掘れるだろうなって予測できるのがポイントかなと思いました。すでに世に出ている記事でそのネタを知って、同じ取材したら意味がないわけで。違う切り口が必要なところで、石川さんはツイッターで人柄をずっと発信していて切り口いっぱいありそうって取材側が思うから、取材が続くんじゃないでしょうか。
――石川さんの取材の起点はツイッターがほとんどですが、対照的に堀商店さんは、プレスリリースで紹介したおもちゃなどがニュースで多く取り上げられていると思います。しかも、それぞれ違う商品がとりあげられていて、バリエーションが多い。そのあたり、どういった工夫をされているのでしょうか。
堀:僕らは卸問屋で、常に1万種類以上の商品を扱っているので、そもそもネタ・材料が多いんですね。そこを組み合わせて新しい商品を作ったり、使いかたを発信したりとか、考えられる手数がまず多いというのはあります。
じゃあそれを使って何をするかっていうところでは、ちゃんと世の中の時勢にあったコトやモノを作るようにしています。コロナ禍だったらこう、夏が来たからこう、ハロウィーンの時はこうっていう軸を1本通して面白いことを考えて、それをひとつひとつメディアに向けて丁寧に発信するっていうのが、プレスリリース起点の取材につながっているっていうのではないかと。
僕らとしても、もちろん1個のネタでできる限り連鎖的な取材をしていただけるように発信はしていくんですけど、どうしても単一商品とか単一コンテンツだと切り口が多くないので、連鎖はそこまで続かない。そうするとじゃあ次のコンテンツ、次のコンテンツ、季節が変わったら次のコンテンツっていうのを考えて発信して、継続的に注目していただくことで、本業を知っていただいて、本業のビジネスにつなげるっていうのことを広報としてやっています。
――実際にうまくいったプレスリリースの例など、教えていただけますか。
堀:ポイポイバトラーという商品です。これは水鉄砲で対戦型のスポーツをしていただこうと思って、金魚すくいのポイを頭につけてそれを水鉄砲で撃ち抜くというもので、2021年の夏に発表しました。
どういう点でメディアに取り上げてもらえると思ったのかというと、メーカーじゃなくて問屋が自社でオリジナル商品を作って発表しますっていうのが一つ。さらにその商品を扱っている問屋が新しいスポーツを作り、スポーツとして広めようとしているっていうアクションですね。そこにニュース性があるかなと思ってプレスリリースを書きました。
――実際の取り上げ方は狙い通りだったんでしょうか。
堀:狙い通りではありました。ただ、卸問屋が作ったというところではなく、スポーツとしての面白さで取り上げられました。さらに誰もやったことないスポーツだから、「面白いかもポイポイバトラー」みたいなタイトルをつけてもらいました。やってみたいって誘いになるような記事だったと思います。
杉本:今までの話を振り返って、この2社がなぜ取り上げられるのか、メディア側の視点で少しお話したいと思います。企業を取り上げるときにどうしてメディアが気にするのが、宣伝にならないかというところです。メディアは広告記事を書いているのではなく、あくまで社会現象や、いまこんな面白いことが起きているんですという、社会の流れみたいなことを伝えたいという部分が大きいと思います。
じゃあお2人がなぜ取り上げられたのかというと、たとえば石川さんのバズったツイッターは、企業の宣伝ではなく、悩みを打ち明けたつぶやきがバズったものです。それが社会現象として面白いよね、っていう風に受け取られたのかなと。堀商店を紹介するニュースだったら、こんな面白い商品を取り扱ってる、しかもこの季節に合わせたニュースとしてこう取り上げられるんだっていう、取材した時のイメージが湧くわけです。そうなると、なんとなく取材してみようかなっていう風にメディアも考えたのではないでしょうか。
また取材する時は、細部は取材しながら調整しますがテーマを必ず立てて取材をするわけですが、堀さんはプレスリリースでもそういったストーリーをちゃんと描かれていて、なんとなく取材の方向性が見えやすいところがあったのかなと思います。石川さんの場合はたくさんツイートがあるので、それをたどっていけば、だいたいこの人が何考えてるのかというところと、テーマがつかめるっていうところが強いなと思います。
――実際にメディアに出ると、大騒ぎになったりとか、商品がすごい出て欠品になっちゃったりとか、マイナス部分もあるんじゃないかと思いますがいかがですか。
石川:マイナスはなくはないですけど、基本はポジティブな要素が多いと思ってます。やっぱり社内向けにとってもよい。自分がどんな思いで仕事をしているかっていうのを、メディアを通して社員に伝えるっていうのは、ものすごくクリティカルに響くものだなと。情報が整理されて体系的にまとめられたものが公に出ることで、社員にも読んでもらえるので。
堀:おっしゃる通りです。子どもたちに楽しんでほしいといった思いや企業としての姿勢を僕がテレビでしゃべると、従業員も「企業としてこう言ってるんだから俺たちもそういう姿勢でやらなきゃなあ」と思ってくれているんじゃないでしょうか。社会へのお約束をしているような形で、約束に従ってみんな前向きに、お客様のために取り組んでくれていると思ってます。
――ニュースがバズるかどうか予想がつかないところではありますが、石川さんのところでは注文が多く入って現場は大変だったんじゃないでしょうか。
石川:通販に注文が殺到しました。一日200件とか300件とかの数です。普通の5、6人しかいない事務所で300件の梱包作業をやるから全然終わらない。みんなでがんばって発送しようとしても、やってるそばから追加注文が入るような感じでした。
とは言え大事だなと思うのは、誠意をもって対応する心構えをちゃんと持っておくっていうことです。ニュースとかバズったのを見て問い合わせをくださった方たちに対しては、やっぱり全件、1件も逃すことなく、ちゃんとお返事をするっていうのは当然だと思います。ものすごい忙殺されるので言葉が抜けたりすることがありがちなんですけど、絶対に許されるものではない。本当に誠心誠意というところだとが大事かなと。
――そうですよね。会社から見たらたくさんいるお客さんの中の一人かもしれないけども、逆にそのお客さんからしたら、初めてコンタクトした会社の最初の対応がすごい大事じゃないですか。
石川:「なんか問い合わせたらめちゃくちゃな対応された」とかって言われちゃったら目も当てられないですからね。
――堀さんのほうは、取材前に気をつけていることはありますか。
堀:たとえばテレビでの放送がもう予定されている場合にはその日に向けて、しっかりと棚をそろえて、ちょっと人数も増やして待つというような準備は、基本的なところとしてやってます。あとはテクニカルなところですが、カメラに入ってもらう時には、写してもらいたいものをその辺に置いておいたりします。この場所で喋るなら、後ろにこの商品を置いておこうとか。
――最後にお二人から視聴者に向けて伝えたいことは
堀:もう本当に情報を発信するっていうことに尽きるかなと思います。情報を発信していれば、記者の方々も「取材していい会社なんだな」と取材に来やすくなると思いますし。「自分たちを見つけてください」ではなくて、もう自分たちからちゃんと情報を発信していくっていうのが第一歩かなと僭越ながら思います。
石川:僕は経営にあたって「オープン」と「挑戦」っていう二つのキーワードを心掛けています。やっぱりいいところも悪いところも、とにかく全部見せる。例えば、うちの会社の中こんなに汚いぜみたいなこともツイッターで出して、それでもこれだけがんばって今みんなできれいにしました、とかですね。オープンにして自分の悪い所も全部みせて、それでも挑戦して変えていくっていうストーリーを発信していくっていうのはすごく心掛けているところです。メディアやフォロワーさんなど、実際にそれを見て拾ってくださる方もすごく多い。
ちょっと妄想ですけど、「みんなで一緒に側島製罐を育てていこう」みたいな一体感ができているのはすごく楽しくて、そういうのを通じて情報発信して、たまにメディアの方に取り上げていただけているっていうのは、すごくいいサイクルだと思ってます。
※インタビュー動画では、記事で紹介しきれなかったやりとりや、視聴者からの質問の回答などをご覧いたただけます。
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