目次

  1. なぜ東京で早めに緊急事態宣言が出されたのか
  2. 「指数関数的に増える」とはどういうことか?
  3. 直感的にわかりやすくする「70の法則」
  4. さまざまなものでみられる「指数関数的な増え方」
  5. 毎日1%成長したら、1年後には何倍になっている?

4月25日から5月11日まで、東京、京都、大阪、兵庫に3度目の緊急事態宣言が発出された。さらに政府は5月7日、宣言を5月31日まで延長し、愛知と福岡も宣言対象に加えた。

3度目の緊急事態宣言が出される直前、大阪では新型コロナウイルスの新規感染者数が1日1000人を超えて、医療提供体制の逼迫(ひっぱく)が深刻になっていた。そのため、人々の行動が変わると考えられた。

一方の東京では、緊急事態宣言が出される前は、まだ新規感染者数が大阪ほどは多くなかった。また、医療提供体制の逼迫もそれほど深刻ではない状況で、宣言が出されたこともあり、人々の行動の変化量は大阪と比べて小さいと言われていた。

ではなぜ、東京でも緊急事態宣言が出されたのか。

それは大阪の経験からコロナ変異ウイルスの感染力が強いことを危惧したためだ。

新型コロナの感染者数は「指数関数的」に増える。

「指数関数的」とはなにか。

耳慣れない方からすれば違和感を覚える考え方だろう。私たちは、比例的に増えていくものは理解しやすい。

速さと距離の関係は比例関係だ。時速4キロで2時間歩けば、4×2=8キロ歩くことになる。

例えば、ある日のコロナの新規感染者が100人で前日よりも5人ずつ増えていくなら、10日経つと新規感染者数は100+5×10=150人になる。

これは、新規感染者数が日数と比例的に増えていくということなので、私たちは直感的に理解できる。

一方で感染者数の増え方が「指数関数的」というのは、新規感染者数が前日の5%ずつ毎日増えていくということだ。

最初の日の新規感染者数が100人だとすれば、つぎの日の感染者数は、100✕1.05=105。

2日後の感染者数は、105×1.05=100×1.05×1.05=110.025。

10日後には、100✕(1.05)^10≒162.889となる。

比例的な増え方と比べると、最初の1日目は同じだが、10日経つと指数関数的な増え方の方が少し多くなっている。

最初が100人で毎日10人ずつ新規感染者数が増えていく場合は、10日後に200人になる。

一方、毎日前日の10%ずつ増えていく場合は、最初の1日目の新規感染者は110人だが、10日には約260人に増える。

5%か10%の増加率の違いが、10日間で100人になるのだ。

毎日5人か10人かの違いだと、10日間で人数の差は50人だが、指数関数的に増えると5%では最初は5人、10%では最初が10人だが、その後は日にちが経つとあっという間に増えていく。

だからこそ、指数関数的に感染者が増えていく場合には、ウイルスの感染力がわずかに高まっただけでも、その影響が大きい。

しかし、私たちは直感的には「指数関数的な増加」を理解できない。

感染力が高まったウイルスでも、今はまだ大丈夫だと思って、感染リスクの高い行動を人々がすると、その影響は日にちが経過すればするほど大きくなり、感染者は雪だるま式に増えてしまう。

気がついたときには、多くの感染者で医療提供体制が逼迫してしまうのだ。

こうした「指数関数的な増加」はどのように理解すればいいのか。

「複利」という計算方法がある。元本から生じた利息を、さらに元本に組み入れて、増えた元本に対してさらに利息を計算する方法である。

例えば、10万円を年利5%で投資する場合、1年後には5000円の利息が生まれ、元本は10万5000円になる。

そして、2年後には元本10万5000円に対して5%の利息がつき、利息は5250円になる。投資1年目は5000円だった利息が、2年目には5250円に増える。これが、利息が利息を生む「複利」の状態である。

では、投資する10万円を複利で増やし続けたとき、2倍の20万円になるのはおよそ何年かかるだろうか。

このとき、「70の法則」を使うと、どのくらいの期間で2倍になるかがわかりやすくなる。

計算式は

「70÷a(金利)=b(元の金額が2倍になる期間)」

である。

つまり、70を年利のパーセンテージ(上記の例では5)で割るのだ。

70を5で割ると14になる。

14の単位は「年」であるため、上記の例でいえば、投資する10万円が年利5%の複利で増えていくとき、2倍の20万円になるのは、およそ14年後と直感的に考えられる。(厳密には14年後には19万7993円)

これをコロナの感染者数の増加に転用して考えてみよう。

例えば、毎週の感染者数が10%ずつ増えているのであれば、70÷10=7ということになり、7週間で感染者数は倍になる。

これが20%の増加であれば3.5週間なので、約1ヶ月で倍になるということだ。

もし、そのスピードが続けば、2ヶ月で4倍になる。

「10%程度の増加率」と聞くと、私たちは比較的小さな増加率だと気にしないが、気がついたときには非常に大きな数字になってしまう。それが指数関数の特徴だ。

「指数関数的な増加」が直感的に理解できないために、ウイルス感染拡大に気がつくのも遅くなり、とるべき行動が遅れてしまうのだ。

「指数関数的な増加」という特性は、様々なものにある。

金融商品であれば、非常に低い金利であっても、指数関数的に増加するので気がついたときには大きなものになる。

借入金であれば、わずかな借金だと思っていても、気がついたときには大きな債務になってしまう。

逆に貯蓄であれば、僅かな金利だと思って貯蓄をしていないと、数十年後には資産が足りなくなるということになる。

この示唆は、金融資産だけではない。自分自身の成長も指数関数的だと考えると、日々の努力の重要性を理解できるはずだ。

私たちは仕事や勉強をすることで、毎日人的資本を増やして生産性を高めることができる。

では毎日、前の日よりも1%だけ成長できれば1年後にどのくらい成長できるかを考えてみよう。

さきほどの「70の法則」にあてはめれば、70÷1=70なので、毎日1%ずつ成長できると70日後にあなたの実力は今の2倍になる。

140日後には4倍、210日後には8倍、280日後には16倍、350日後には32倍になる。

つまり、毎日たった1%ずつ成長を続けるだけで、実力は1年で今の32倍になる。一方で、1日に0%の成長だと1年たってもあなたの実力は今のままだ。

ということは、毎日1%成長の努力をした人と努力をしないあなたの実力は、1年後には32倍も差がつくことになる。毎日1%は無理だという場合でも、年間2%の成長目標なら無理ではないかもしれない。

たった2%であっても、70÷2=35年で2倍になる。仕事を35年続けて、毎年2%技能が高まり続ければ、生産性は35年後には今の倍になるのだ。

指数関数的な増加は、私たちには理解しにくい。

だからこそ、その性質をうまく生かすことも難しいし、そうした性質をもつ問題への対策もどうしても遅くなってしまう。

そこでぜひ「70の法則」を使って、直感的に理解がしやすい形に置き換えてもらいたい。そうすれば、問題への対処も早くできるようになるのではないだろうか。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年5月11日に公開した記事を転載しました)