目次

  1. 1. 売上計上基準とは
    1. (1)売上計上基準の重要性
    2. (2)売上計上基準の原則は「実現主義」
  2. 2. 売上計上基準の種類
    1. (1)引渡基準
    2. (2)検収基準
    3. (3)出荷基準
    4. (4)船積基準
    5. (5)通関基準
    6. (6)工事完成基準
    7. (7)工事進行基準
  3. 3. シーン別 売上計上基準の決め方
    1. シーン1. ECサイトの場合
    2. シーン2. 短期のコンサルティング業務の場合
    3. シーン3. 予約販売で予約金をもらう場合
    4. シーン4. 1年間にわたり清掃サービス業務を受託した場合
    5. シーン5. 回数券を販売した場合
  4. 4. 2021年4月開始の収益認識に関する会計基準とは
  5. 5. 売上計上基準は非常に重要

 売上計上基準とは、会計処理をするうえで、どのタイミングで売上高を計上するかの基準です。

 通常の物品の販売であれば、注文を受けてから発送し、納品確認を受けてから請求をかけ、入金という流れがあります。この流れの中で、どのタイミングで売上高を計上するか、それが売上計上基準になります。

売上計上基準の概要
売上計上基準の概要(デザイン:吉田咲雪)

 売上高は会社の損益計算をするうえで、非常に重要な勘定科目です。そのため、いつの時点で売上高を計上するかを決める売上計上基準は、非常に重要です。

 また、企業会計には「継続性の原則」という基本原則があります。これは、一度決めた基準を、合理的な理由なしに変更してはいけないというものです。そのため、売上計上基準は一度定めたら、簡単に変更することができません。

 もし、簡単に変更できてしまうと「今期は営業成績が不調だから、早めに売上高を計上する」ことや「今期は好調で税金を払いたくないから、後で売上高を計上する」ことができるようになってしまいます。

 売上計上基準の原則は、「実現主義」です。企業会計原則の中で「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」と規定されています。

 実現主義における実現とは、物品の販売では納品をした時、サービスの提供ではサービスが完了した時を指します。この状況になれば、売手側は相手に請求することができるようになり、仕入側は簡単に取り消すことができなくなります。

 なお、類似の言葉として、「現金主義」と「発生主義」があります。

 「現金主義」とは、現金の取引が発生した時点で会計処理することです。ただし、これは売上高を計上する上では、原則ではありません。そのため、実際に適用する際には、条件を満たしたうえで税務署に届け出をして使うことができます。また、この手続きは個人の所得税のみで法人では利用できません。

 「発生主義」とは、取引において実際に行為が発生した際に認識をする基準です。発生主義は費用に対して使う原則です。売上高には基本的に使うことはできません。

 実現主義はあくまで大枠であり、実現主義の考えに則って、実際の細かな売上計上基準が複数設定されています。

 日本税理士会連合会など複数の団体で共同で作成している「中小企業の会計に関する指針」で記載されている、一般的な基準を紹介します。

 引渡基準とは、商品・製品などの物品を販売した際に、売上先に引渡ししたタイミングで、売上高を計上する基準です。

 この場合、納品書など引渡日が分かる資料を取引先から受け取ることで、日付を把握し、計上します。

 検収基準とは、売上先が製品やサービスを検収し終えたタイミングで、売上高を計上する基準です。

 売上先のオーダーに応じて製造した製品やサービスは、売上先の要求水準に達していないと、差し戻されることがあります。しかし、一般的に検収が終われば、売上高を簡単に取り消すことはありません。

 この場合は検収書を売上先と取り交わすことが一般的です。

 出荷基準とは、商品・製品などを倉庫や工場から出荷したタイミングで売上高を計上する基準です。

 出荷基準は、一般消費者向けなど、大量に出荷している場合に採用されます。この基準では運送会社の引受書など、出荷した事実がわかる書類を保管するのが一般的です。

 ただし、気を付けなければいけないのは、売上先が受け取りを拒否して返品になる可能性があることです。そのため、出荷基準は厳密には実現主義に則っているとはいい難いのですが、返品されることがほとんどなく、また出荷日と納品日が数日であるような場合は、採用されることがあります。

 船積基準とは、輸出を伴う売上に関して、船や飛行機に積まれた時点で売上高を計上する基準です。

 輸出は貿易条件がさまざまになります。その条件によって、どのタイミングで輸送費に関する経費の負担が取引先に移るか、事故が発生した場合にどちらが損害を被るかが決まります。損害を被るのが取引先に移った日を売上計上日にすることが一般的です。

 基本的な輸出条件下では、船や飛行機に商品が積まれた時点で、損害の負担が取引先に移ります。

 そのため、船積基準では、船荷証券等の書類が作成された日が売上高の計上日になります。

 通関基準とは、輸出を伴う売上に関して、通関を通過した時点で売上高を計上する基準です。通関基準では、輸出許可通知書の許可年月日を売上の計上日とします。

 工事完成基準とは、建設工事をはじめとしたさまざまな工事やソフトウェア開発などのように、長期間に渡って業務を行うものに対して適用する基準で、完成時点で売上高を計上します。

 計上基準としては非常にシンプルで、使いやすいです。この場合は、工事完成検査書などを取り交わすことが一般的です。

 工事進行基準とは、工事の進捗に応じて売上高を計上する基準です。そのため、工事完成基準と対になります。

 例えば、建設工事では、駅の大規模再開発など何年にも渡るような大規模工事があります。そういった長期間にわたる工事を、完成時点で売上に計上すると、その年だけ売上高が多額に計上され、それまでの数年間は売上高がないことになります。そのため、比較的長めの工事では、この基準を採用することが多くあります。

 なお、法人税法の定義では長期大規模工事に該当するものは、工事進行基準によって収益の額及び費用の額を計上すると定められています。(法人税法64条)長期大規模工事の定義は、法人税法施行令129①、②で以下のように規定されています。

  1. 工事の着手の日からその工事に係る契約において定められている目的物の引渡しの期日までの期間が1年以上であること
  2. 請負の対価の額が10億円以上であること

 この基準に該当する場合は、法人税では強制的に工事進行基準が適用されます。一方、後述する「収益認識に関する会計基準」を適用している場合は、工事進行基準を適用する基準が設けられており、それに従わないといけません。適用しない企業であれば、法人税と同じ基準を採用することが考えられます。

 工事の進行率は、見積もった総原価から発生した原価で割り出す方法が一般的です。

 世の中にはさまざまな物やサービスの売り方があります。そこで、ここではよく相談を受けるシーンごとに解説します。

 ECサイトの場合は、実際に物がユーザーの手に渡ったときに売上高を計上するのが一般的です。配送業者が配送の受領書をもらうため、いつユーザーの手に渡ったかがわかります。そのタイミングで売上高を計上しましょう。

 なお、前述した出荷基準を採用することもできます。出荷量が多くユーザーの手に渡った時期を把握することが困難な場合は、出荷基準を使うことも視野に入れてもよいでしょう。

 3カ月で終了するような短期のコンサルティング業務の場合は、工事完成基準を採用するのが一般的です。3カ月を超えるような場合で、かつ四半期の業績把握をしたいと考えるなら、工事進行基準に切り替えるとよいときもあります。

 ゲームや家電など、発売前に予約を受け付けて販売する際、予約金を受け付けることも多いでしょう。この場合、売上が計上できるのは、予約された物を引渡したときです。予約金を受け取った時点では売上にはなりませんので、注意しましょう。予約金は前受金などで計上しておく必要があります。

 業務委託契約などで期間と金額が定められ、サービスを提供することがあります。この場合は、契約金額総額を契約期間で割り算し、毎月売上高を計上していくことが一般的です。

 例えば、清掃会社がビルオーナーから120万円で1年間の契約を締結した場合、清掃会社は120万円を12カ月で割り、1カ月10万円と算定して、毎月10万円を売上高に計上することが一般的です。この場合、請求のタイミング(例えば3カ月ごとの請求など)とズレていても、業務を終了した月に関して請求する権利を獲得していれば、売上高を計上して問題ありません。

 英会話教室やジムなどで、授業や施設を利用できる回数券を販売することがあります。この場合は、実際にユーザーがその回数券を使ったタイミングで売上高を計上します。

 1回あたりに提供されるサービスが同じ性質のものであれば、回数券の販売額総額を枚数で割り、1回あたりの金額を算定するとよいでしょう。例えば、10枚で5万円の回数券であれば、1回あたりは5,000円になりますので、回数券が使われる度に5,000円を計上しましょう。また、回数券に有効期限がある場合は、有効期限が終わったタイミングで使われていない回数券分も売上高を計上することができます。

 よく間違いが生じるのは、回数券を販売した時点で全額売上高を計上することです。注意しましょう。

 2021年4月より開始する事業年度から、一部の法人において「収益認識に関する会計基準」(以下、新収益認識基準といいます)が適用になっています。

 一部の法人とは、有価証券報告書を作成する必要のある金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社、会計監査人を設置する会社及びその子会社をいいます。

 新収益認識基準では、売上高を計上するタイミングを「履行義務が充足されたとき」としています。履行義務とは取引の当事者同士で決めた約束です。根本にある考えは実現主義と大きく変わりませんが、売り手が負う履行義務を捉えて、その義務を果たしたと言えるときをしっかり説明できるようにしないといけません。

 一方、一部の法人以外は、2022年12月現在、新収益認識基準を適用する必要はありません。理由としては、会計を行う際に「中小企業の会計に関する指針」に基づくことが推奨されていますが、この指針では、まだ新収益認識基準を取り入れていないからです。

 しかしながら、中小企業の会計に関する指針を作成している団体が、新収益認識基準が実務に適用された後に、実態を確認して取り入れるかどうかを検討するという発表していますので、今後、適用される可能性はあります(参照:改正「中小企業の会計に関する指針」の公表について丨日本税理士会連合会)。

 売上高の計上基準は会社の業績に与える影響が大きく、一度決めたら変更するには合理的な理由が必要です。そのため、新しい取引が始まった際には、慎重に検討しましょう。

 迷ったり、悩んだりした際には、必要に応じて税理士などの専門家に相談をするのも大切です。