目次

  1. 退職証明書とは?
  2. なぜ退職証明書が必要なのか?
    1. 国民年金・国民健康保険に加入するため
    2. 転職先に提出するため
    3. 扶養者の健康保険に加入するため
  3. 退職証明書を求められたら?対応の流れを解説
    1. 退職者に記載事項を確認する
    2. 離職票と記載内容をあわせる
    3. 退職日に渡せるよう作成する
    4. 発行した退職証明書のコピーを保管しておく
  4. 退職証明書の様式は?Word形式のテンプレートも
  5. 退職証明書の書き方と記載事項【記入例付き】
    1. 退職証明書の必須項目
    2. 退職証明書の任意記載項目
  6. 退職理由証明書を発行する際の注意点
    1. 希望しない項目は記載しない
    2. 遅滞なく発行すること
  7. 退職証明書は退職者にとって必要な書類

 退職証明書とは、退職した事実と在職中の契約内容などについて記載した書類です。従業員が退職する際に、退職者から退職証明書の発行を請求された場合には、企業は遅滞なく交付しなければならないことが労働基準法第22条第1項により定められています。

(退職時等の証明) 第二十二条 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

労働基準法第22条

 退職者に渡す書類として離職票もありますが、離職票は退職者が59歳未満かつ離職票の発行を希望しない場合を除き、全ての退職者について手続きをしなければなりません。

退職証明書 離職票
対象者 発行を希望する退職者 原則、全ての退職者(59歳未満の希望しない場合を除く)
記載内容 退職した(する)事実
在職中の契約内容など
退職者の雇用保険番号
退職者の住所
勤続期間
離職理由など
発行手順 企業→退職者 企業→ハローワーク→企業→退職者
位置づけ 私的書類 公的書類
根拠法 労働基準法第22条第1項 雇用保険法第76条第3項

 退職証明書は従業員が請求した場合に発行しなければなりませんが、発行した退職証明書はどのような場面で使用されるのかを説明します。

 退職後に転職先の社会保険に加入しない場合、市区町村の役所に行き、国民年金と国民健康保険に加入します。

 このとき、退職日がわかる書類が必要になり、多くの場合退職証明書や離職票を求められます。離職票は公的機関のハローワークから発行され、発行までに時間がかかる場合があります。そのため退職者の多くは、退職証明書を役所に提示しています。

 転職先が退職証明書を求める理由は大きく2つ考えられます。1つ目は経歴を確認するためです。履歴書や職務経歴書に書かれた内容について不一致が無いかを退職証明書で確認します。

 2つ目は、副業・兼業に係るトラブル回避のためです。どちらが本業・副業かに関係なく、2社と雇用契約を結んでいる場合は2社ともの労働時間を正確に把握する必要があります。1日の労働時間が8時間を超えた部分については、後から雇用契約を結んだ企業が割増手当を支払わなければなりません。隠れ副業・兼業をされると、適切な労働時間の管理や割増手当の支払いができないため、退職したことを証明書で確認することがあります。

 退職者が扶養に入り、扶養者の健康保険に加入する際も必要となる場合があります。重複して加入しないように、退職して健康保険から脱退したことを確認してから新たな健康保険に加入します。

退職証明書の概要と発行の流れ・書き方
退職証明書の概要と発行の流れ・書き方(デザイン:吉澤風香)

 実際に退職証明書の発行を請求された場合の対応手順を見ていきましょう。なお、労働基準法に発行期限は定められていませんが、「遅滞なく」とされているので請求があった場合は速やかに作成しましょう。

 退職証明書には、退職日など記載が必須の事項と、退職者が希望しない場合は書いてはならない任意の事項があります。

 退職者の意向を確認し、任意の記載事項を確認しておきましょう。なお、先述した退職証明書が必要な場面においては、必須事項のみの退職証明書で問題ありません。

 離職票では、退職日・使用期間・賃金・退職の事由について記載します。これらの項目は退職証明書と重複するので、記載内容に矛盾がないようにしましょう。

 退職証明書の発行は、請求されてから何日以内という期限は定められていません。ただし「遅滞なく」交付することとされています。退職日前に請求された場合には退職日当日に渡せるように作成しておくとよいでしょう。

 発行した退職証明書はコピーを企業でも保管しておきましょう。退職証明書再発行の際や、後々のトラブル防止に役立ちます。

 労働関係に関する重要な書類の保存期間は5年※とされているので、退職日後、5年は保管しておくとよいでしょう。※2020年4月1日の労基法改正により、保存期間が3年から5年に延長されましたが、当分の間経過措置として3年とされています(参照:改正労働基準法等に関するQ&A p.6|厚生労働省労働基準局)。

 退職証明書の様式は定められておらず、必須事項の記載があれば任意のもので問題ありません。

退職証明書の例
退職証明書の例・筆者作成

 なお、労働局が作成しているテンプレートもあり、こちらを使用しても問題ありません。

 ここでは、退職証明書の必須項目と任意の記載項目について、説明したのちに、任意の記載項目について記入例を交えて紹介します。

 任意の項目については退職者が希望しない場合は記載してはなりません。

 記載が必須である項目としては、以下の6点があります。

①書類の名称(退職証明書)

 書類が「退職証明書」であることを示します。

②証明年月日

 企業が退職証明書を発行した年月日を記載します。退職日以前に発行する場合は、退職日以降の年月日を記載しましょう。

③発行先の退職した従業員の名前

 退職者の名前をフルネームで記載します。

④退職年月日

 退職者の退職年月日を記載します。証明内容に含めた場合は省略が可能です。

⑤証明内容

 退職した事実を記載します。具体的には「(退職者氏名)が退職したことを証明します」や「貴殿は〇年〇月〇日に当社を退職したことを証明します」など、簡潔な記載で問題ありません。

⑥発行元の事業所名・事業所住所・事業主名

 雇用契約を結んでいた事業所名などを記載します。本社で採用となり支社で勤務していた場合は、雇用契約を交わした本社住所を記載しますが、支社で直接採用された場合は支社住所を記載します。

 基本的には先述した必須項目の記載で足りますが、退職証明書には次の事項も記載が可能です。

  • 使用期間
  • 業務の種類
  • 当該事業における地位
  • 賃金
  • 退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)

 繰り返しになりますが、退職者が希望しない事項については記載してはいけません。各項目について記入例を交えて解説していきます。

①使用期間

 「使用期間」とは、退職者が企業に在籍していた期間、つまり雇い入れられた日から退職日までの期間を記載します。

退職者の状況 記入例
2015年4月1日から2023年5月31日まで在籍 2015年4月1日~2023年5月31日
2015年4月1日から2023年5月31日まで在籍
うち、2018年4月1日から2020年4月30日まで休職
①2015年4月1日~2023年5月31日
②2015年4月1日~2023年5月31日(うち2018年4月1日から2020年4月30日は休職期間)
2015年4月1日から2023年5月31日まで在籍
うち、2015年4月1日から2015年6月30日まで試用期間
①2015年4月1日~2023年5月31日
②2015年4月1日~2023年5月31日(うち2015年4月1日から2015年6月30日は試用期間)

 休職期間中や試用期間の書き方は、企業側に裁量があります。退職者側の有利とならない情報については、記載しない①の書き方がおすすめです。

②業務の種類

 「業務の種類」には、退職者が従事していた職種や業務について記載します。

退職者の状況 記入例
使用期間中、全て事務職だった場合 事務職
2015年4月1日から2019年12月31日まで営業職
2020年1月1日から2023年5月31日まで事務職
営業職(4年9カ月)
事務職(3年5カ月)
2015年4月1日から2016年3月31日まで〇〇職
2016年4月1日から2017年3月31日まで〇〇職
2017年4月1日から2018年3月31日まで〇〇職
・・・
2020年4月1日から2021年3月31日まで販売職
2021年4月1日から2022年3月31日まで営業職
2022年4月1日から2023年5月31日まで企画職
退職日以前3年間の業務の種類
販売職(2020年4月1日から2021年3月31日)
営業職(2021年4月1日から2022年3月31日)
企画職(2022年4月1日から2023年3月31日)

 異動が多い場合には、退職日以前の3年間に従事した業務のみ記載するなどでも問題ありません。

③当該事業における地位

 「当該事業における地位」では、退職日時点での地位や、ある場合は役職名を記載します。記載するのは最終日時点での地位・役職名のみで問題ありません。

退職者の状況 記入例
管理職だった場合 「課長」「部長」など役職名を記載
管理職ではない場合 「一般社員」「一般職」など
有期期間雇用だった場合 「契約社員」
アルバイト・パートの場合 「アルバイト・パート」

④賃金

 「賃金」では、退職日時点での月給を記載するのが一般的です。アルバイト・パートなど時給者の場合は直近1カ月から3カ月程度の総支給額を記載するとよいでしょう。

退職者の状況 記入例
月給者で総支給額40万円(基本給35万円・主任手当3万円・通勤手当2万円) 総支給額40万円(基本給35万円・主任手当3万円・通勤手当2万円)
アルバイトで直近3カ月分の総支給額が3月分8万円、4月分10万円、5月分9万円 3月分8万円、4月分10万円、5月分9万円

⑤退職の理由

 「退職の理由」では、退職理由を簡潔に記載します。

退職者の状況 記入例
自己都合(依願退職)による退職 自己都合による退職
契約社員で期間満了に伴う退職 契約期間満了による退職
企業が定めた定年による退職 定年による退職
事業規模縮小に伴う整理解雇 整理解雇(当社が事業規模縮小せざるを得ない状況におかれたこと)による退職

 解雇の場合は解雇の理由も書くこととされていますが、これも退職者が希望しない場合は退職の理由項目自体を記載しません。

 多くの場合、解雇は転職の場面でよい印象を与えないので記載を希望されないことが多いでしょう。整理解雇であれば、労働者側に責が無いことの証明にもなります。

 退職証明書は、退職者が退職した事実を企業が証明する書類です。様式も任意なので企業に裁量がありますが、徹底したいのは「希望しない事項は記載しない」ことです。

 基本的には必須項目のみ記載しますが、休職期間がある場合の使用期間や退職の理由を記載する場合には、退職者の意向をよく確認しておきましょう。

 発行を請求した退職者に対し退職証明書を発行することは企業の義務です。発行義務は退職後2年間とされており、発行について拒否した場合には30万円以下の罰金が科される可能性があります(参照:労働基準法第115条、120条)。

 また、退職後2年間であれば複数回請求されても企業は発行しなければなりません。退職後の発行については実費分の郵送代を請求するなど、ルールを定めておくのもよいでしょう。

 退職証明書は退職者が健康保険に加入したり、職場に入社したりと、新たな生活を送るために必要な書類です。

 様式が任意であったり、退職者ごとに記載内容が異なったりするので、多くの人が退職証明書の記載に迷います。

 企業を離れる・離れた従業員に対して書類を調製するのは手間に思うかもしれませんが、発行は企業の義務です。発行を請求された場合にはテンプレートを使用してなるべく早期に作成するようにしましょう。