有給休暇の付与日数は?計算方法や繰越日数、罰則をわかりやすく解説
働く人にとって関心が高い有給休暇。国も有給休暇の取得率アップに取り組み、2019年には年5日の取得義務を企業に課すなど改正も多く行われてきました。度重なる法改正によりトラブルも多いため、社会保険労務士が、有給休暇の付与日数や付与要件など制度の内容を一から解説します。
働く人にとって関心が高い有給休暇。国も有給休暇の取得率アップに取り組み、2019年には年5日の取得義務を企業に課すなど改正も多く行われてきました。度重なる法改正によりトラブルも多いため、社会保険労務士が、有給休暇の付与日数や付与要件など制度の内容を一から解説します。
目次
有給休暇は、業種や仕事内容、正社員やアルバイトなどに関係なく、すべての労働者に付与しなければいけません。ただし、有給休暇の付与日数は、勤務時間や勤務日数によって異なります。ここではフルタイム勤務の人の場合と、アルバイトやパートタイム労働の人の場合に分けてご説明します。
フルタイム(週5日)で働く通常労働者の場合、6カ月継続勤務後に10日付与、1.5年継続勤務後に11日付与されます。その後も継続して働くことで付与される日数も増えていき、最高で20日の有給休暇が付与されます。
勤続年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
フルタイム以外(週5日)の社員は、働く日数と時間に応じて、フルタイムに比例した有給休暇日数(以下、比例付与)が付与されます。
比例付与の対象者は、週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満のアルバイト社員やパート社員で以下の表の日数(太字の部分)が付与されます。
週所定労働日数 | 1年間労働日数 | 勤続年数0.5年 | 勤続年数1.5年 | 勤続年数2.5年 | 勤続年数3.5年 | 勤続年数4.5年 | 勤続年数5.5年 | 勤続年数6.5年 |
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
有給休暇が付与される要件は、次の2つです。
入社から6カ月経過後、2つの要件を満たした労働者は、フルタイム勤務者は有給休暇が10日付与されます。また、最初に有給休暇が付与された日から1年を経過した日に、2の「その期間の全労働日の8割以上出勤したこと」を満たせば、付与される有給休暇は11日になります。
アルバイトやパートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者は、労働条件によって比例的に付与されます。
有給休暇が付与される2つの要件には、それぞれ注意点があります。
1年契約の有期雇用で働く人も、勤務期間が6カ月を経過していれば有給休暇は発生します。そのため、次回契約更新時に有給休暇が付与されるのではなく、契約中であっても勤務期間が6カ月を超えたタイミングで付与されます。
「その期間の全労働日」に対して、実際にどれくらい出勤したのかを示す割合を出勤率といい、これが8割以上の場合は有給休暇が付与されます。
この 出勤率の計算において、労働基準法第39条10項では、以下の1〜4に該当する場合には、「出勤した」とみなして計算するよう定めています。
また、以下4つに関しては、全労働日から除外する必要があります。
有給休暇は、入社日から6カ月間継続勤務すると発生し、以降1年ごとに付与する必要がありますが、法律に抵触しない範囲であれば企業側で付与するタイミングを変更することができます。
「誰にいつ・どれくらいの有給休暇を付与すればいいのか」「誰の有給休暇がいつ・どれくらい消えるのか」などの有給休暇の管理は、入社日を4月1日のみとしている会社は問題ありませんが、毎月社員を入社している会社にとっては煩雑な業務です。
付与するタイミングを代表的なものを2つ紹介しましょう。
入社年度は6カ月経過後に有給休暇を付与し、翌年度からは付与日を4月1日に統一する方法を、「一斉付与」といいます。
有給休暇を一斉付与すると消滅日も統一できるため、有給休暇を管理する手間を大幅に削減できます。導入の際の注意点として、付与日を統一した場合に法定の付与日数を下回らないように気をつけましょう。
月の途中に入社する社員が多い場合、有給休暇の起算日を入社月の1日に統一するのが有効です。その結果、その結果、有給休暇付与日が月内にバラバラと発生することを回避でき、管理する負担を大幅に軽減できます。
なお、注意点は毎月1日に統一することです。例えば、給与の計算期間が11日から翌月10日の会社の場合、付与日を11日にすると、10日以前に入社した社員の付与日が法定の継続雇用期間6カ月を超過します。
付与されてから1年以内に取得できなかった有給休暇は、次の年に繰り越され、最終的に2年間取得されなかった有給休暇は消滅します。
例えば、6年半継続して働いた場合、20日の有給休暇が付与されます。20日付与された有給休暇から、1年間で10日取得すると、残りの10日が翌年に繰り越され、新しく発生した20日とあわせて取得できる有給休暇が30日となります。
政府が有給休暇の取得率UPを目標としたことで、2021年の1年間に会社が付与した有給休暇日数が17.6日/人に対し、「取得した日数は10.3日」、「取得率58.3%」と1984年以降過去最高となりました(参照:令和4年就労条件総合調査の概況〈(4)年次有給休暇〉|厚生労働省)。
そこで、有給休暇の取得率を向上させることで、会社にはどのようなメリットがあるのでしょうか?代表的なメリットを3つご紹介します。
20代、30代の世代のなかで、有給休暇を自由に100%取得できる会社で働きたいと考える人が増加しています。「土日休み、残業なし、有給休暇100%取得」を指標として、就職活動している学生向けに、新卒学生向けの就職説明会では、社員の残業時間の平均や有給休暇の取得率などを開示する会社も増えてきました。
そのため、良い人材を採用し、そして定着させるためには有給休暇の取得率アップが重要になります。ワークライフバランスや社員の働きやすさといった観点からも、取得率の向上は求められています。
有給休暇の取得日数が少ない社員は残業時間が多く、長時間労働をしている傾向があります。長時間労働が常態化することで、メンタル不調や過労死する可能性が高くなり、以前社会問題となりました。
もし、過労死や過労自殺が起きた場合には、会社は多額の損害賠償責任を負う可能性もあります。
有給休暇の取得率が低い社員には、取得を促し、心身ともにリフレッシュした状態で働けるように配慮しましょう。
有給休暇の取得率向上は、業務の効率や生産性の向上につながります。十分な休息を取ることで疲労が軽減され、リフレッシュされた状態になるため、集中力や創造性が高まり、新たなアイデアや視点が生まれやすくなります。
また、有給休暇を楽しみにして働くことで、仕事への意欲や責任感が高まり、モチベーションを維持できるでしょう。
有給休暇の付与や管理とあわせて、知っておきたいことは次の5つです。
順にご紹介します。
有給休暇が10日以上付与される社員に対して、年5日間の有給休暇を必ず取得させることが2019年4月から会社の義務となりました。年5日の取得義務違反は、会社に対して該当社員1人当たり30万円以下の罰金が科せられます。
なお、アルバイトやパートで、有給休暇の付与日数が10日未満の社員は適用対象外です。
会社は有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければいけません。有給休暇を取得した時季、日数および基準日を社員ごとに管理し、有給休暇を与えた期間と期間満了後3年間の保存が義務付けられています。
勤怠と合わせて有給休暇を管理できるシステムが多く出ていますので、これらのシステムを活用しながら、有給休暇の管理を行いましょう。
有給休暇に関する、主な罰則は次の3つです。
労働基準監督署の調査が入った場合、有給休暇関係は調査対象となる可能性が高いため、有給休暇の管理簿などとあわせて、適切に運用しましょう。
有給休暇の計画的付与は、年5日取得義務により、有給休暇を計画的に取得させる仕組みを導入したい会社におすすめです。
計画的付与とは、有給休暇を取得する日を会社が指定して取得させる仕組みであり、労使協定を締結すれば、5日間を超える有給休暇に関して、会社が強制的に取得させる日を設定できる制度です。
筆者の会社でも、12月28日や1月4日が平日の場合には、計画的付与で全員に有給休暇を取得していただき、休みにしています。
ただし、有給休暇を取得する日を自分で決めたい社員は、この仕組みをよく思わない場合もあります。そのため、理解の得やすい2〜3日を計画的付与とし、取得率アップにつなげましょう。
有給休暇を取得した日の賃金は、労働基準法で定める平均賃金か、所定労働時間の労働をした際に支払う通常の賃金を支払う必要があります。
また、労使協定を締結することで、健康保険法上の標準報酬月額の30分の1に相当する額を支払うことも可能です。
働き会改革は、「生産性向上」を一番の目的としています。働き方改革の一環として、2019年から適用された労働時間の上限規制については、猶予されていた「医師」「建設業」「運送業」も2024年から始まるため、より高い生産性が求められます。
長時間働いても、生産性が上がらず、賃金が上がらなかったのが、今までの日本です。「仕事のやり方や進め方を見直し、時間内に効率良く働いてもらう」「休息を十分とって、労働生産性を向上させる」という、社員が生き生きと働ける環境を作ることが、労働力人口が減っていく時代に生き残っていける重要なポイントだと考えます。
そしてそのためには、まず会社が有給休暇を社員に正しく理解したうえで付与するとともに、社員が自分の好きなタイミングで自由に有休休暇を使えるようにすることが、大切といえるでしょう。
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