一律の賃上げはモチベーションにつながるか 明確な評価制度が成長に
昨今の物価高騰を受け、社員全員の給与を一律に引き上げた経営者がいるかもしれません。しかし、一律の賃上げが必ずしも社員のモチベーションアップにつながるとは限りません。組織コンサルティング会社識学の上席コンサルタント・渡邉健太さんは、「成果を残した分、給料が上がっていく評価制度を構築するべきです」と説きます。
昨今の物価高騰を受け、社員全員の給与を一律に引き上げた経営者がいるかもしれません。しかし、一律の賃上げが必ずしも社員のモチベーションアップにつながるとは限りません。組織コンサルティング会社識学の上席コンサルタント・渡邉健太さんは、「成果を残した分、給料が上がっていく評価制度を構築するべきです」と説きます。
物価高騰を背景に賃上げを実施しようとする経営者は、「従業員の生活を守りたい」とか「賃上げをしなければ社員が離職してしまうのではないか」と考えているでしょう。しかし、そうした理由で一律の賃上げをするのには疑問があります。その理由は、労働と対価の関係を考えてみれば分かりやすいはずです。
例えば、マンモスを狩って生活していたころ、人間は狩りという労働をするからこそマンモスの肉という対価を手に入れることができました。この逆、つまり肉を先に食べさせてもらうから狩りにいくわけではないはずです。
会社経営の理想は、社員一人ひとりの意識が「物価が高騰しているのだから今まで以上に頑張らなければ」という方向に向いている状態です。物価の高騰はつまるところ貨幣価値の低下であるため、マンモスの例に当てはめると、1頭当たりから食べられる肉量の減少を意味します。これまでと同じ量の肉を食べたいなら、努力してより大きな獲物を狩るか、仕留める獲物の数を増やさないといけないでしょう。
皆さんの会社には、成果を残した分給与が増えていく仕組み、すなわち評価制度は整っているでしょうか。評価制度がない、あっても基準があいまいなら、賃上げより先に明確な評価制度の構築を急いでください。
成果に応じて給料が増えず、ポジションが上がっていかない会社の社員が「これまで以上に頑張らなければ」というモチベーションを持つのは無理です。当然、社員の離職も発生しやすくなります。
我々はモチベーションを「内発的動機」と定義しています。内発的動機は、「内質的動機」と「物質的動機」に分けられます。
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前者は「できなかったことができるようになること」です。例えば「ずっと開かなかったワインのコルクが開いた」ということになります。それによって「ワインが飲めること」が後者の物質的動機になります。この二つがそろっていなければ、モチベーションの維持は難しいと伝えています。
それこそ、せっかくワインを買ったのにふたが開かない、ふたは開いたけれども腐っていて飲めないのであれば、二度とそのワインを買いませんよね。
仕事で成果を残しているのに給料も増えず、役職も上がらない会社はこれと同じです。評価制度を設けることで、社員が中長期的な成長のイメージを描き、モチベーションを上げられるようになります。
「賃金を一律に上げたら社員のモチベーションを喚起できるだろう」と考える経営者がいるかもしれませんが、本当にそうでしょうか。
「ベースアップを実施します」と宣言してしばらくの間は社員のモチベーションが一時的に上がるとしても、それがすぐに当たり前になれば、社員は「もっと上げてほしい」と思うようになります。これには終わりがありません。
物価高が収束したとき、給与を以前の水準に戻せるでしょうか。もし戻したとして、社員は納得するでしょうか。社員からすれば、元に戻ったのではなく単に会社が給与を下げたと受け取り、離職を検討するようになるでしょう。
物価の高騰を理由に賃上げをすべきではないと説明しましたが、競合他社と比べて劣っているのであれば、採用優位性を確保するために賃上げの検討が必要です。
会社と社員は有益性でつながっています。社員にとって給与は、その会社で手に入る大きな有益性の一つです。業界の給与水準は相対的に決まるので、競合他社に比べて給与が劣っていると採用に苦戦し、既存の社員も転出を検討するようになります。
経営者は競合他社の給与水準について把握しておいてください。競合より高い給与水準を保っていれば、優秀な人材の確保に成功し、それによって業績を伸ばすという好循環も起こせるでしょう。
したがって、やろうと思えばいつでも賃上げができる経営状態が望ましいと言えます。そのために経営者はもうかる仕組みを立てたうえで評価制度を作り、競合より優位になる給与水準にして、社員には給与分の労働をしっかり求める体制を整備しましょう。
例えば、ある携帯販売会社A社が時給1500円、B社は同2千円であれば、当然給与総額が多いB社の方が、採用市場で人材を獲得しやすいはずです。その分、自社(B社)の社員には、A社の社員が10件のアポイントを取るのと同じ時間で、15件のアポイントの取得を課すという具合です。
「賃上げによって従業員の生活を守りたい」という経営者の思いは素晴らしいもので、否定されるべきではありません。労働人口の減少が社会問題として顕在化しつつあるなか、社員を大切にしない会社は存続が危ぶまれるでしょう。
一方で、会社はあくまで外部に価値を提供し続けねばならない存在であることを忘れないでください。社員のためだけを考えているようでは、経営が立ち行かなくなります。
本当に社員のためを思うのであれば、賃上げではなく自社を離れたとしても通用する能力を身に付けさせてあげればよいのではないでしょうか。会社は永遠に続くわけではないですし、経営者もいずれ引退を迫られるときが来るからです。
それでも「自分が経営者でいるうちは、成果を残せない社員であろうと守ってあげたい」と思い、賃上げに踏み切るのか。こうした判断に、唯一絶対の正解はありません。経営者の考え方次第です。
識学上席コンサルタント
大学を卒業後、金融機関でバックヤード領域を担当。その後、メディアソリューション事業会社に転職し広告営業としてのキャリアを積み、識学に入社。以来、約120社500人のトレーニングに携わる。
(※構成・平沢元嗣)
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