歩留まりとは 製造業で歩留まり率が低下する原因・改善方法を解説
歩留まりは製造業で主に使われる用語で、収益性の判断や生産課題の抽出と改善で使用される指標です。歩留まりの改善は、製造業において永遠の課題でもあります。本記事では、歩留まりの意味や重要性、歩留まり率の計算方法や低下する理由と改善方法などについて、製造業界の専門家が解説します。
歩留まりは製造業で主に使われる用語で、収益性の判断や生産課題の抽出と改善で使用される指標です。歩留まりの改善は、製造業において永遠の課題でもあります。本記事では、歩留まりの意味や重要性、歩留まり率の計算方法や低下する理由と改善方法などについて、製造業界の専門家が解説します。
目次
歩留まり(ぶどまり)とは、投入した原材料数(インプット)に対する完成した生産数(アウトプット)の割合であり、製造業でよく用いられる用語です。原材料に対して多くの製品が製造できている場合は「歩留まりが高い」、あまり製造できていない場合は「歩留まりが低い」といった使われ方をします。
英語では”yield rate”と表現します。
製造業では、生産した製品を一般消費者や後加工メーカーなどに販売することで収益を上げています。収益性を高めるには、製品を生産する際に使用する原材料のロスを抑えて、効率的に生産することが欠かせません。
例えば、10万円で売れる製品に1万円の原材料が必要とします。
一つの製品に対して使用する原料が一つで済めば、利益は9万円(=10万円−1万円)になります。しかし、歩留まりが低下して、一つの製品を製造するのに原料が五つ必要になれば、利益は5万円(=10万円−1万円×5)まで減ってしまいます。
単純な計算事例ですが、歩留まりは収益に直結する重要な指標であることがわかります。
歩留まりの考え方は、製造現場以外の場面でも使用されています。
人材採用ならば、応募者数に対する内定者数など、採用の各フェーズにおける歩留まりを計算することがあります。
例えば、「二次面接の歩留まりが低すぎるので、選考日程をもう少し短くして辞退者数を減らそう」などのように、選考試験の工程ごとに歩留まりを算出することで、課題を明らかにできます。
また、新規顧客獲得を目指している営業ならば、アプローチ数に対する契約者数を歩留まりと表現することがあります。
例えば、「テレアポの歩留まりが低いので、メール営業を増やしてアプローチ数を増やそう」などの使い方をします。
製造業では、歩留まりに関連したさまざまな用語があります。
歩留まりは原料投入量に対する生産量を指しますが、完成品の中で市場に出荷できるレベルの品質が保証されたものを「良品」と呼び、生産量に占める良品の割合を「良品率」と呼びます。
逆に、品質基準を満たさずに市場に出荷できないものを「不良品」と呼び、生産量に占める不良品の割合を「不良率」と呼びます。
「直行率」とは、製造工程の一連の流れで、作業の手直しや手戻りなく生産できた割合を示す用語です。
手直しとは、製造工程で発生した不具合を修正して良品レベルまで改善することで、手戻りとは、不具合が発覚した段階で前の工程に差し戻してやり直すことを指します。
製造現場で歩留まりを重要視する理由はさまざまです。ここでは、三つの理由を紹介します。
製品の歩留まりは、収益に直接影響します。具体的に、収益性の見積もりは製品の販売価格と製造原価をもとにおこないますが、その製造原価に歩留まりは直接関わっているのです。
歩留まりが事前予測よりも低くなれば、目標数量を生産するために製造期間を延長したり、原材料を予定以上に消費したりするため、製造コストの上昇によって予算を圧迫して収益性が悪化します。
さらに、製造の遅れによって売り逃しなどにつながり、収益機会まで損ねる要因になってしまいます。
製造工程のなかで明らかに歩留まりが低い工程があれば、何らかの問題が潜んでいる可能性があります。
各工程の歩留まりを確認することでボトルネックとなっている工程を抽出でき、優先的に対策に取り組めます。
開発して間もない製品などは、最初から目標とする歩留まりを達成できるとは限らず、トラブルが続いて歩留まりが大きく低下することもあります。
製造する側には供給責任があるため、原料切れによって生産中止となればサプライチェーンに大きな影響を与えます。過去数回の歩留まりを把握し、次回の生産では原材料の発注量に、ある程度のマージンを持たせるといった対応も欠かせません。
また、供給責任があるとはいえ、歩留まりが低い製品を作り続ければ収益を圧迫し続けます。収益性を少しでも高められるように、歩留まりを基準に収益性を判断し、トラブルなどで歩留まり改善が難しければ生産の継続を中止したり、タイミングをコントロールしたりすることもあります。
歩留まり率とは、歩留まりの数値を百分率(パーセンテージ)で表現したもので、以下の計算式を用いて算出します。
歩留まり率(%)=(生産数÷製造工程に投入した原材料数)×100 |
ただし、製造現場では生産数ではなく、出荷可能な「良品数」をもとに計算する方法が一般的なので、実際には以下の計算式を使います。
歩留まり率(%)=(良品数÷製造工程に投入した原材料数)×100 |
いくつかの事例に分けて、歩留まり率を計算してみましょう。
製造工程が一つだけの場合ならば、歩留まり率は単純に、投入した原材料に対する良品数だけで算出できます。
原材料数100に対して良品数が90ならば、以下のように計算します。
歩留まり率=90÷100×100=90% |
最終製品の完成に複数工程を経る場合は、最初の工程に投入した原材料数と最終工程で完成した良品数から全体の歩留まり率を計算します。
例えば、A工程、B工程、C工程の三つの工程があると仮定しましょう。A工程に原材料を100投入し、C工程での最終生産量が45ならば、工程全体の歩留まり率は以下の通りです。
歩留まり率(全工程)=45÷100×100=45% |
工程改善をする際には、各工程別に歩留まりを算出する場合もあります。
良品率は、生産数に占める良品数の割合なので、以下の計算式を用います。
良品率(%)=良品数÷生産数×100 |
歩留まり率を計算する際には、生産数を良品数として考えることが少なくないため、「歩留まり率=良品率」と捉えられる場合があります。
ただし、厳密には異なるものなので、自社で使う場合には部署間などで認識の違いがないように注意は必要です。
歩留まりが高い状況は、原材料のロスを抑えて効率的に製品が生産できているという意味なので、収益性が高いと判断できます。
逆に歩留まりが低いと、投入した原材料に対して完成品の数が少ないためロスが多いという意味であり、生産性が悪いため収益を悪化する要因になります。
では、歩留まり率が低下してしまう原因は何なのでしょうか。生産品の製造内容の違いでも低下の原因は異なるため、ここでは一般的な低下原因を三つ紹介します。
まず挙げられるのが、製品開発段階での設計見積もりの甘さです。
開発部署による製品の設計段階では、原材料や製造ラインの性能、作業性など全体を考慮して歩留まりの見積もりをおこないます。
しかし、開発試作段階で歩留まりが高くても、量産フェーズに移行して設計上の課題が露見し、結果的に歩留まりが想定以上に低くなることもあります。
開発フェーズから量産フェーズに移行するためには、設定した歩留まりを超えることが大前提です。しかし、実際の現場では製造が遅れて売り逃しを避けるために、歩留まりが低い状態でも条件付きで量産フェーズに移行することもあります。
完璧な設計は不可能に近いですが、開発段階でいかに現場の実状を把握しておくかが大切です。
製品設計上は問題がなくても、生産中にマシントラブルが発生すれば歩留まりは低下してしまいます。
製造マシンのトラブルは、定期的な保全活動やメンテナンスなどである程度防ぐことはできます。しかし、マシンにも寿命があるため、使用期間が長くなるほど想定外のトラブルが発生しやすくなります。
製品によっては特定のマシンの使用が欠かせないこともあり、マシン自体の販売停止などで機種の切り替えができなくなれば、歩留まりのコントロール難度は飛躍的に高まります。
また、製造条件がこれまでの製品に比べて著しく変更された場合は、想定以上の負荷がマシンにかかり、寿命を縮めてしまう恐れもあるため、設計段階でのリスクマネジメントも欠かせません。
製造マシンや設計上の作業手順などに問題がなくても、ヒューマンエラーが発生すれば歩留まりが低下する恐れがあります。
ヒューマンエラーが起こる原因は、作業の難易度が高すぎる、マニュアル(作業標準書)が整っていない、ポカミスの発生などさまざまです。
歩留まりが悪いとき、改善するにはどのような取り組みが大切なのでしょうか。
改善手法は製造する製品や工程によって変わるため、意識しておくべき重要なポイントを三つ紹介します。
歩留まりを改善するためには、低下している原因の究明が欠かせません。ただし、経験や憶測だけで判断するのではなく、4Mの視点から調査を深掘りしていくことが大切です。
4Mとは、「Man(人)」「Machine(機械)」「Material(材料)」「Method(方法)」のことで、製造にかかわる最も基本的な要素です。
例えば、歩留まりの低下の原因が、工程内で発生した異物欠点による不良品の増加だとすれば、現物の採取・分析をしたうえで以下のような調査をおこないます。
まずは4Mの視点から幅広く低下原因の見立てをおこない、可能性の高いポイントをさらに深掘りして調査します。
歩留まり改善に取り組む際は、改善率を漠然とした数値ではなく、達成しなければならない具体的な数値で定めることが大切です。
歩留まり改善には限界があり、理想値があっても製品設計や製造工程の仕組みから達成不可能なことは少なくありません。
歩留まりが低いとしても、損益分岐点のポイントまで改善できれば赤字にはなりません。まずは予算と現状の乖離状況から逆算して、目指すべき歩留まりの改善率を設定しましょう。
極端な改善目標は現場のモチベーション低下にもつながるので、短期目標ばかりではなく、中長期目線で目標値を段階的に設定する配慮も大切です。
製造にかかわる全ての人が歩留まりについて理解し、改善する重要性を認識することも欠かせません。
歩留まり改善の取り組みをトップダウンでおこなっても、現場の作業員レベルまで重要性を理解できていなければ改善活動はうまく進まないものです。また、指示に対して部下が不満を持つことも少なくありません。
理想は、ロスゼロを目指す「TPM(Total Productive Maintenance)活動」のような、全員参加型の生産活動体制を構築することです。しかし、これまでTPM活動に取り組んでいない企業がいきなり体制を整えるのは難しく、自社にマッチした体制を模索しながら構築を進めなければいけません。
まずは、以下のような教育や情報共有の仕組みづくりによって、製販一体で取り組む意識を高め、TPM活動につなげるための基盤を作りましょう。
歩留まりは、原材料の投入量に対する生産量の割合を指し、製品の収益性確認や工程の課題抽出などに欠かせない指標です。
大手メーカーは、トライアンドエラーのデータが蓄積されており、TPM活動に取り組んでいる企業がほとんどです。生産状況の管理システムなども充実しているため、歩留まり改善に製販一体となって取り組める環境がすでに整っています。
一方、中小メーカーでは資金面の制限からシステム面の整備などは遅れがちで、現場レベルでの歩留まりへの意識が低いと、収益が急速に悪化するリスクもあります。
中小メーカーはコンパクトな組織だからこそ組織力の向上が鍵となります。生産活動の基本的な教育で、情報共有や積極的な生産活動への参加を促すなど、できることから始めて、歩留まり改善に全社員一丸となって取り組みましょう。
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